強みを束ねた“現代の3本の矢”
レポート
2014.07.29
ファッション|FASHION

強みを束ねた“現代の3本の矢”

“ライト感覚の古着“の時代へ 〜古着ビジネスにも世代交代の波

原宿とんちゃん通りは、いわずと知れた東京を代表する「古着ストリート」のひとつである。しかし、ここ数年、“古着に関する世代交代”の波が押し寄せているようだ。

きっかけは、“ヴィンテージ”と呼ばれる1980年代後半の渋カジ以降に定着した“絶対的な古着の価値観”に変わり、80〜90年代の“レギュラー古着”を、“感覚で買うライトな価値観”が一般化してきていることへの気づきからだった。
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左から、山上達生さん、鈴木恵太さん、米田年範さん

その主な担い手は90年代生まれの「新人類ジュニア世代」だ。彼・彼女らがよく利用している古着ショップは、「OTOE(オトエ)」「KINCELLA(キンセラ)」のほか、弊誌でも、「10-9(トーク)」「Sullen Tokyo(サレン トウキョウ)」「PINNAP(ピンナップ)」などで、弊サイトでもたびたび取材してきた。

 

“ライト感覚の古着屋”の台頭は、従来型の中庸な古着屋の閉店やMDの変更を牽引する。原宿の古着文化を長らく牽引してきた老舗古着店「VOICE(ヴォイス)原宿」が3月で閉店したのはその象徴ともいえるだろう。

 

そんなとんちゃん通りの真ん中付近に、3月末、古着と新品服や雑貨をミックスしたショップ、「stand(スタンド)」がオープンした。運営するのは、2008年にオープンした古着屋「KINCELLA」山上達生さん、アパレルブランド「ATENOY(アテノイ)」「ワンピースとタイツ」を手掛ける米田年範さん、靴下ブランド「poem by rabbit(ボエムバイラビット)」のデザイナー、鈴木恵太さんの3人だ。 

 

早くから80’s古着に目を付け、“ライト感覚の古着屋”黎明期からシーンを牽引してきた「KINCELLA」が2013年12月末、地下1階から1階に移転することになり、その空いた地下1階に、“何か新しい店”を始めてみよう、ということになったのだという。

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近年、地方のセレクトショップのほうが積極的に取り扱っている日本人デザイナーのアパレルやアクセサリーと古着が共存する店内はワクワク感がいっぱい。
事の始まりは2013年末のこと。米田さんが「ワンピースとタイツ」の期間限定店をラフォーレ原宿に出店したことが、運命を引き寄せる引き金となった。同ブランドに加え、新進ブランドのインキュベーション的な目的もあったので、以前から親交のあった鈴木さん「poem by rabittもセレクト。お店も終盤に差し掛かった頃、キンセラの山上さんと知り合いだった鈴木さんがボソッと「お店の話があるんだけど…」と米田さんに相談したところ、鈴木さんが仲を取り持つ形で山下さん米田さんを引き合わせ、2人は意気投合。2月中旬に話がまとまり、そのわずか1カ月後の3月21日に「Stand」をオープンすることとなったという。

知り合って1カ月で一緒にお店を始めるなど、少し上の世代では考えられないことともいえる。
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70sのものも、80sのものも、90s、00sのものも自由に組み合わせて新しいスタイルを提案するのが『KINCELLA』流。
商品は「ワンピースとタイツ」「poem by rabitt」を中心に、ラフォーレの限定ショップでも展開した若手のファッションブランド、例えば「Design Complicity(デザインコンプリシティ)」「bodysong.(ボディソング)」「POTTENBURN TOHKII(ポッテンバン トーキー)「somnium(ソムニウム)」などを展開。そこに「KINCELLA(キンセラ)」がセレクトしたデッドストックやユーズドの雑貨が加わり、新旧様々なテイストが渾然一体となった独特の品揃えになっている。

現在の売れ筋は、「somnium」のアクセサリーと、宇都宮のセレクトショップ「SONAR(ソナー)」のオリジナルブランド「shuttle(シャトル)」のパンツだ。

「ワンピースとタイツ」のタイツは、熱心なファンの“買い足し需要”の他、全体の1割を占める海外のお客さんにも人気で、「ジャケ買いならぬ“パケ買い”をしていくお客さんが多い」(米田さん)という。店長としてお店に立つ鈴木さんは「最初は在庫管理とか店員のシフト管理とかの慣れない作業でてんやわんやだったけれど、オープンして数カ月経って少しずつ慣れてきました」と話す。
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ソックスブランド『poem by rabbit』はパッケージもかわいい。外国人観光客がお土産にと複数買いも少なくないそう。
ここで3人のこれまでの経歴を紹介しよう。
武蔵野美術大学造形学部建築学科、文化ファッション大学院大学で学んだ米田さんは、自身のブランド「ATENOY」を2011春夏シーズンにスタート。「ワンピースとタイツ」は、「ATENOY」の中でアーティストのクラーク詩織さんと“遊び”でタイツを1本作ったのが始まりだ。それが好評だったのでバリエーションを6種類に広げ、2012年9月に神田のアーツ千代田3331で行われた「食にまつわるグループ展」で展示。翌10月に合同展示会「PLUG INN(プラグイン)」に出展したところ、パルコからポップアップショップの声がかかり、「勝負どころだと思い、初めて銀行からお金を借りてタイツの在庫を作り、バリエーションも一気に30種類まで増やしました」(米田さん)。ポップアップショップは大好評で、その後はブランドも軌道に乗り、現在では卸先が50軒まで増えているという。

「poem by rabitt」の鈴木さんの経歴は非常にユニークだ。大学卒業後、タリーズコーヒーに就職。グラフィックデザインの部署で、メニューやフリーペーパーのデザインを担当していた。その後、グラフィック事務所を経てアパレル会社に転職。「洋服の作り方は知らないけれど、以前から好きだった靴下を作りたいという思いが強くなり、ならば作っちゃえということで何も考えず会社を作った」(鈴木さん)。ポップな色柄でメッセージ性の強いソックスは、個性的な地方のセレクトショップを媒介に少しずつ浸透してきている。

山上さんは、2008年に「KINCELLA(キンセラ)」をオープン。当時は誰も目もくれなかった80’s、90’sの“レギュラー古着”にいち早く目をつけ、古着業界に新風を吹き込んだ。昨年末には、下北沢に“オルナタナティブ”をテーマにした2号店「FRANK BRACK(フランクブラック)」を開業(幣誌でも取材している)。

「原宿は10代後半〜20代前半をターゲットとしたトレンド全開の品揃えですが、下北沢は30代を見据えたシンプルでシルエットにこだわった品揃えが特徴。自分のルーツである音楽を感じられる店にしたかった」と山上さん。新世代の古着文化の牽引者であり37歳ですでに3店舗を運営するやり手の経営者でもある。

「今後は、この店に合った商品のセレクトをゆっくり考えて、時間とともにお店を成熟させていきたい」と話す米田さん。また、「自分たち以降の世代は、既存の売り場に入っていくのが難しいので、同世代や若い世代のデザイナーをインキュベーション的な役割も果たしていきたい」と話す。

山上さんは「今はまだお客様の行き来が少ないので、1階のKINCELLAと地下のStandを繋ぐようなリメイク物を提案してみたい」と、鈴木さんは「少しずつ顧客を増やしてお店を盛り上げていきたい」と意欲を燃やす。
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古着の買い付けといっしょに集まってしまった雑貨も豊富。近ごろはちょっと珍しい雑多な感じがかえって楽しい。
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「ワンピースとタイツ」で小売りの面白さにも目覚めてしまった「ATENOY」のデザイナーの米田さん。「そろそろ本業に集中したい(笑)」とも。
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原宿のストリートファッションの歴史にインディペンデントマガジンの『FRUITS』あり。とんちゃん通り界隈のショップではバックナンバーを扱うところも少なくない。
ここで注目したいのは、米田さんの「既存の売場に入っていくのが難しい世代」という見解だ。振り返ると、1980年代半ば〜後半、DCブランドが席巻していた時代のデザイナーズビジネスは、丸井パルコという受け皿があったから、自ら在庫を持つ直営店戦略が中心だった。

その次の90年代のウラ原系ブランドは、直営店と卸を併用するビジネスモデルが志向された。そして、現在の“ドメスティックブランド”ともいえる、日本人デザイナーのブランドの源流は、おそらく1994年に立ち上がった「PPCM(ピーピーシーエム)」(現kolorデザイナーの阿部潤一が在籍した)「MANDO(マンド)」「TOKITO(トキト)」などにあると思われるが、
成功と失敗が表裏一体だったDCブランドやウラ原系ブランドとは違う、展示会で注文を受けた分だけ作る、リスクの少ない“スモール&コミュニティ型のビジネスモデル”を選択している。

しかし、その盤石に見えたビジネスモデルも、15年の時が経ち、ブランドの飛躍的な増加と、大手セレクトショップの実質的な業態の変容、地方を含むセレクトショップの衰退などの影響で、狭いパイを取り合うような状況になり、いま、見直す時期に差し掛かっているといえる。つまり、新しいブランドが、国内の卸だけでビジネスを成立させるのは困難な時代なのである。

一方、知名度がまだあまりないブランドが直営店をオープンしても、大きな売上げが望める時代でもないのは言うまでもない。となると、シェアアトリエ兼ショップ、またはシェア事務所兼ショールーム/ショップというような、複数の人たちで、それぞれの強みを生かして、物販に限らず、展覧会や展示会、トークイベントなども行うなど、いろいろな用途を兼ねた“複合型のショップ”が近年増えているのは当然のことともいえる。

っdこの3人の強みを束ねたという名の“現代の3本の矢(!)”は、ひょっとしたら、日本人デザイナーのブランドビジネスの新しいモデルなのかもしれない。


文・写真:増田海治郎(ファッションジャーナリスト)+「ACROSS」編集部
 


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