ヨロッコビール
2013.08.27
その他|OTHERS

ヨロッコビール

日本各地でマイクロブリュワリーが急増中。逗子発クラフトビール

オーナーの吉瀬明生さん。仕込みから発酵、熟成、詰め口までの工程すべてを手造りで行う。
ビールの原料は、水と麦芽(モルト)、ホップ、酵母(イースト)。麦芽の種類によって、甘さや苦さが決まる。
作業場には原料を仕込む大きな寸胴鍋が並ぶ。
ヨロッコビールは無濾過、非熱処理の酵母が生きたビールで、工業的な炭酸ガスを注入せず樽内で二次発酵させて自然発泡させている。

ここ数年、日本各地で「クラフトビール」を製造するマイクロブリュワリー(小規模なビール醸造所)が増えている。ビール職人が手づくりすることから、「手工芸品=craft」に準えて「クラフトビール」と呼ばれ、愛好家を中心にじわじわと人気が高まっている。

 
神奈川県逗子市に工房を構える「ヨロッコビール」は、2012年秋に開業した新進気鋭のマイクロブリュワリーだ。以前はこんにゃく工場だった物件を改装し、鎌倉の人気のパン屋「PARADISE ALLEY BREAD & CO.(パラダイスアレイブレッドアンドカンパニー)」とシェアして、ビールとパンの工房兼ショップ「B&B(ブレッド&ビア)」をオープン。およそ12坪の工房には、ビールの原料となる麦とホップ、水を使って仕込みをするための大きな寸胴鍋が3つ並ぶガスコンロが置かれ、そこで出来た麦汁を発酵させる発酵庫、完成したビールを保管する冷蔵庫がある。冷蔵庫は吉瀬さん自らが組み立て、発酵庫は断熱材を入れ大工さんに作ってもらったという。

オーナーは、合同会社ヨロッコビール代表の吉瀬明生さん。横浜市出身で、長く鎌倉に暮らしていた吉瀬さんは2007年にビール職人を目指して独学でビールの研究をはじめた。

「長く飲食店で働いていたのですが、店を辞める時に『次に就く仕事は一生続けられる仕事をしたい』と考えました。元々ものづくりが好きだったので、自分が一番好きなものを作ろうと思い、ビール職人の道を選んだんです」(吉瀬さん)。

最初は、ビール職人として醸造所などに勤めようと考えていたそうだが、インターネットなどでビール作りの情報を集めるうちに、海外では家庭でビールを作る「ホームブリューイング」が根付いていること、さらにそれが発展して手づくりのビールを販売するビジネスが定着していることを知り、小規模でブリュワリーを始めることができると分かり、吉瀬さんは起業を決断したのだそうだ。

「ビールは日常的に飲むものですが、日本では一般的に大手メーカーの缶ビールしか飲まれていません。でも勉強していくうちに、ビールにはさまざまな種類があって、土地や季節に応じていろんな楽しみ方があることを知りました。日本では『とりあえずビール』というフレーズが象徴するように、喉の乾きをいやすものという感じでしか捉えられていない。もっと日常の食卓や飲食店にさまざまなビールが並べばいいのにという思いがありました」(吉瀬さん)
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ビールに独特な芳香と爽快な苦味を与えるのが、ホップ。吉瀬さんは葉山にある畑でホップの栽培も行っている。

ボトルのラベルとロゴ、看板は発酵をイメージ。クリエイティブ・ デザインユニット生意気のデイヴィットさんによるものだ。
以前はこんにゃく工場だった物件をリノベーション。
吉瀬さんに大きな影響を与えたのが、3年程前に訪れたアメリカ・オレゴン州ポートランドで体験した、クラフトビールカルチャーだ。

アメリカではこの20年間でクラフトビール革命が起きています。世界一多くのクラフトビールの醸造所があり、文化としても成熟している。町にいくつもブリュワリーがあり、それらのほとんどは大手資本とは無縁の、独立した個人やローカルな企業が運営しています。特にポートランドはクラフトビールのメッカで、カルチャーとしても盛り上がっているし、町ぐるみで地元のブリュワリーを応援し、地域と密接に関わりながらいい形でビジネスとして成立している。『ビールに旅をさせるな』ということわざがあるくらい、ビールは移動させればさせるほど味が落ちてしまう飲み物。地域に根ざしたブリュワリーが作るクラフトビールをその場所で消費するというのはとても利にかなっている。そうしたカルチャーを目の当たりにしたことで、単にビールを作って販売するだけでなく、そういった背景も紹介していきたいと思うようになりました」(吉瀬さん)

アメリカでのクラフトビールをとりまく環境と消費される状況を含めて魅了された吉瀬さんは、そうしたカルチャーを日本でも根付かせたいと考えた。土地勘もあり、馴染みもある逗子に工房を構えることになったという。主要なターゲットは地元の住民だ。 
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右側のカラフルな壁画は湘南を拠点に、世界で活躍するアーティストのNaomi Kazamaさんによるもの。
取材中も、近隣住民が車やバイクで訪れ、パンとビールを買って行く様子が見られた。
隣は人気ベーカリー「パラダイスアレイ」のパン工房。
ここで作られたパンは同店で販売するほか、鎌倉の連売内にある「パラダイスアレイ」のベーカリーカフェにも届けられる。
現在、ヨロッコビールでは、ホップを効かせた柑橘系の香りが強い「I.P.A」、ロースト麦芽を使用した香ばしさが特徴の「PORTER」などの定番のクラフトビール4種類(各450円)と、季節のフルーツなどを使った限定商品1~2種類を製造し、販売している。

また、店頭販売の他に、近隣の飲食店4店舗に生ビールを、瓶ビールを10店舗ほどに卸している。地元のイベントにも積極的に参加し、5月のゴールデンウィークに逗子海岸で開催された「逗子海岸映画祭」をはじめ、地元の市民祭りや小さなコミュニティによるマルシェやオーガニックマーケットなどにも出店。現在、1年間に製造するのはおよそ15,000リットルで、一度に仕込める量は100リットル程度。大量生産ができない分、丁寧に作ったビールが地元で消費されることを吉瀬さんは望んでいる。

「ヨロッコビールの名前の由来は”喜び”から。だじゃれですが、日々の喜びを増やしてくれたり、喜びそのものになってほしいという願いを込めています。そして、また”Your local Brewery~あなたの街の醸造所”というスローガンを掲げていますが、地元の人達の口コミで逗子のマイクロブリュワリーとして認知してもらい、クラフトビールを知る入り口になってもらえればいいですね」(吉瀬さん)

逗子~鎌倉エリアの住民は食に対する意識が高く、「クラフトビール」に興味を示してリピーターになる人も多いという。取材当日も、住民が車を店に横付けして、店主と雑談を楽しみながらパンとビールを買っていく光景が見られ、街に浸透している様子が窺えた。
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ビールタップ(ビールの注ぎ口)やホップ、麦芽(モルト)など、ビールの原料や道具などがディスプレイされている。
日本地ビール協会が設立したのは1994年。当時、『月刊アクロス』でもその設立イベントを取材したが、その背景にあるのは酒税法の改正で、最低製造量が格段に緩和されたことによって、小規模の会社でもビール製造の免許を取れるようになったことが関係している。それまでは実質的に大手以外には門が閉ざされていた。当時、第一次地ビールブームとなったが、未熟な製造技術によって文化は根付かず多くの醸造所は淘汰され、若干低迷。しかし、2004年頃から日本でも少しずつマイクロブリュワリーが登場し、本格的な味わいの「クラフトビール」を味わえるようになってきた。インターネットで情報を集めやすくなり、製法や海外の事情が紹介されたり、商品も購入できるようになった。街中にはビアパブと呼ばれるクラフトビールの専門店も増え、マイクロブリュワリーどうしの繋がりも強くなり、愛好家も増え、そして、その中から吉瀬さんのように自らブリュワリーを設立する動きもみられるようになったのだ。

日本では『ビール=缶に詰められた工業製品』というイメージが定着しており、本来の『ビール=農産加工品』というイメージが湧きづらい。また国内の4大メーカーが市場を独占しているため、『クラフトビール』の存在自体が一般に認知されていません。日本と海外のブリュワリーにおける決定的な差は税金。アメリカではビールにかかる酒税が日本の10分の1ほどなので、ビジネスとしても文化としても定着しやすいんです。日本はクラフトビール不遇国。小さな醸造所はみんな酒税に苦労しながら運営しています。規制緩和や税率の引き下げ、小規模生産者への緩和処置等があれば、もっともっとクラフトビールを楽しむ文化や習慣が根付いていくはずです」(吉瀬さん)

ここ数年、大手コーヒーチェーンとは異なる、豆本来の味わいを楽しむスローコーヒーがブームになっているが、グローバリゼーションが叫ばれる風潮の一方で、作り手と買い手が直接コミュニケーションを取れる小さなマーケットへの関心も高まっている。特に食に於いては、作り手の顔が見えることが消費者の安心感につながっており、マイクロブリュワリーの台頭は、多様性を求める生産者と消費者心理が合致した結果といえるだろう。吉瀬さんは、今後、神奈川県内の農家が作るキウイを使ったビールや、自家栽培するホップを使用したビール作りに挑戦する予定だという。地域の食材にも目を向けながら、地域に根ざしたローカルブリュワリーを目指す。
 

取材・文 阿部博子(フリーライター)+ACROSS編集部
ヨロッコビール
神奈川県逗子市久木3丁目7−2
営業時間:11:00〜19:00
月曜定休


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