新宿と新大久保の狭間に浮上する、新たなファッションエリア
レポート
2025.11.28
ファッション|FASHION

新宿と新大久保の狭間に浮上する、新たなファッションエリア

新たなファッションのオルタナティブゾーンとして新宿の“外れ"が浮上する事象を調査。
「見た目!」「CHICKS」「bluesis」、3つの個性際立つ独立系ショップにインタビュー!

新宿の周縁、正確には新大久保/大久保と新宿の隙間のようなエリアに、なにやらインディーでユニークなショップが増えている——そんな共通認識がACROSS編集部に生まれはじめたのは、定点観測のインタビューで「CHICKS(チックス)」が浮上した今春頃だった。

もちろん新宿エリアにおいては、1994年に靖国通り沿いにオープンした「JACKPOT(ジャックポット)」、2006年オープンした新宿2丁目の「candy(キャンディ)」(現在は閉店)、2016年オープンした歌舞伎町の「THE FOUR-EYED(ザフォーアイド)」と、東京のストリートファッションを語る上でもエポックなショップが定期的に誕生してきた歴史はある。とはいえ、世界最多の乗降者数を誇る巨大ターミナルにもかかわらず、渋谷や原宿、あるいは下北沢や高円寺のように、後続のショップが乱立しエリアとして拡大・定着していく動きは近年ほとんど見られなかったと言っていいだろう。


なぜいま新宿なのか?今回は2020年以降にオープンした「見た目!」「CHICKS(チックス)」「bluesis(ブルーシス)」の3ショップにその理由を尋ねてみた。

見た目!

2020年オープン。オーナーの渡辺未来さん自身もデザイナーとして活動しており、当初はファッションの” オルタナティブスペース”としてオープンしたが、現在はAlexis(アレクシス)やBLURRINESS(ブラリネス)、comez.and.goes(カムズアンドゴーズ)、Felix Idle(フェリックスアイドル)など、約30ブランドを取り扱うセレクトショップの一面も持つ。

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オーナーの渡辺未来さん。
Q:見た目!をオープンした経緯についてお聞かせください

A:実は2020年にオープンしたときはお店じゃなかったんです。自分がファッションをやっていくうえで仲間が欲しくて、ファッションのオルタナティブスペースとしてポップアップなどイベントをやっていました。でもそれじゃあ持続性がないと思って、ひとまずお店にしようと。それが2年半くらい前です。
参考にしたのはK/A/T/O MASSACRE(幡ヶ谷Forestlimitにて毎週水曜日に開催されるパーティー)などを中心としたオルタナティブな音楽のコミュニティでした。ファッションのコミュニティに比べて、もっと自然に、服だけでなく音楽でもなんでもいわゆる商品然としていないものを楽しんだり、作り手と鑑賞者の境が曖昧になってお互いに影響を受け合っている感じがして。そしてそのコミュニティを守る意思を持っている人たちがいることの大事さも思い知りました。いろんなことに寛容というか、長い目で物事を見る感じで場を守っていくというか。ファッションも小さいブランドが小さいまま続けられるような環境を作れないかなという考えに至ったんです。

Q:なぜ新宿エリアを選んだのですか?

A:わたし自身がすごく街の影響を受けるから、どこでやるかは大事でした。ファッションといえば原宿だ、みたいに、例えば原宿でやっていたら、原宿で期待されるなにかをしなきゃということをなんとなく感じちゃいそうで、既存のファッションのイメージがあまりない場所にしたかったんです。でもあんまり人が来なさそうなところだと自分も元気がなくなっちゃいそうなので、新宿がいいのではと。多国籍な文化が集まっている大久保や新大久保が近いし、2丁目にはクィアのコミュニティがあるし、政治的なミニコミ紙などを多く扱う独立系書店も周辺にいくつかあって、新宿はさまざまなマイノリティのコミュニティがある場所なんだと物件を探しているときに改めて感じたんです。色んな人の居場所になってるからごちゃごちゃしていて、ごちゃごちゃしていることはいいことだと思いました。そのうえでこの場所は、新大久保とも新宿ともちょっとずつ距離があってなんとも言えない感じが私にはちょうどよかった。

Q:新宿以外に出店を検討したエリアはありましたか?

A:世田谷の私鉄のほうも見に行きましたが、落ち着いた住宅街がメインのところはちょっと緊張しちゃうと思いました。あとは池袋もいいなと思ってかなり探していました。東口はアニメショップが立ち並ぶみたいな、ちょっと秋葉原っぽい感じだから、そうじゃない西口側の方がよかったけど、駅から離れるとあまりにも人が来ないかなと思って。
逆にまず候補地にはならないと思ったのは下北沢と高円寺。なんというか、新宿の方がオープンなイメージというか、いろんな人に開かれた感じでやりたかったので。と言いつつも、もしここが路面だったらフラッと入ってきてくれるお客さんには対応しきれなかったと思います。それがそもそも自分が店に向いていないデカい理由なんですが(笑)。今後もお店として継続できるかは、いま考え中なんです。

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予備校やレコードショップなどが点在する西新宿エリアの雑居ビルに店舗を構える。
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建築家 河原伸彦さんが手がけた、可変性のある内装。

CHICKS

ディレクター/バイヤーの大久保美南さんが文化服装学院に在学中の2019年、リテールプランニングコースの授業の一環として立ち上げたショップ。2024年、現在の場所に実店舗をオープンした。Ans Dotsloevner(アンスドッツローヴナー)やHAPPY99(ハッピーナインティナイン)、No Problemo(ノープロブレモ)など、さまざまなブランドを取り扱う。

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ディレクター/バイヤーの大久保美南さん。トップスはAns Dotsloevener。
Q:CHICKSをオープンした経緯について聞かせてください

A:文化服装学院のリテールプランニングコースに通っていた当時、授業の一環として作ったオンラインショップがCHICKSです。といっても取り扱っていたのはまだ古着だけでした。卒業後も続けていたんですが、2022年からはとあるオフィスの一角でアポイント制で営業になり、古着だけでなくブランドのセレクトも始めました。でもさすがに表現の幅に壁があったので、実店舗をオープンすることにしたんです。

Q:なぜ新宿エリアを選んだのですか?

A:「THE FOUR-EYED」は文化を卒業してからよく通っていて。もちろん、学生時代から新宿には馴染みがあったし、自然と新宿が選択肢にあがりました。ちょっと近くにbluesisさんがあったり、いろいろなものの間(あいだ)だな、というのもよくて。ちょうどいいタイミングで、ちょうどいい物件が空いたという感じでした。bluesisからうちに回遊してくれるお客さんも多くて、それもいいなと。

Q:新宿以外に出店を検討したエリアはありましたか?

A:個人的なことですが、いちばん東京を感じるのが新宿で。特に用事がなくても通ってしまうので、やっぱり新宿が好きなんだなと思います。地元の岩手から東京に来ていたときも、絶対に1回は新宿に寄っていました。 たとえば地元が東京で、学生の頃からずっと原宿で遊んでいたとかだったら原宿に、ということもあったのかもしれないんですが、そういうことでもないですし。
あとはやっぱり物件のよさもありました。古くて個性的な雰囲気がいいなと思って、たとえばすりガラスが独特な柄だったり、おもしろいところに惹かれちゃいますね。
実は最近この辺は立ち退きが多いみたいで、もしかすると移転することになるかもしれないのですが、新宿だとしても違うエリアでもいいと考えています。中心からは外れた辺りが好きです。人や店が集まっていないところに行きたい。わざわざ選ぶなら自分にとっての新しい環境を選びたいですね。

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レトロ調のファサードと尖ったセレクトのギャップがおもしろい。
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内装はDIY。什器はジオラマとシルバニアのお家。

bluesis

オーナーの小笠原静さんが、新型コロナウイルス流行に伴う自粛期間中の2019年に原宿でオープンしたショップ。一旦のクローズを経て、2022年に新宿に移転オープンした。国内外から買い付けた古着を中心に取り扱う。

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オーナーの小笠原静さん。店内の至るところにぬいぐるみが置かれていた。
Q:bluesisをオープンした経緯についてお聞かせください

A:地元が青森県で、高校生のときから古着屋さんになりたかったんです。『Zipper』や『FRUiTS』の影響でファッションが好きになって、モバゲーのファッションサークルでつながった同世代と交流したりするなかでお店を持ちたいという考えが芽生えて。お店を始めるにあたって経理が大事だと思って札幌の大学で経営学を学び、会計士事務所への就職で上京しました。そこで2年働いて、その後お金を貯めるために2年ほど派遣で働いて原宿にお店を出しました。昔から「The Virgin Mary」に憧れていたので、とにかく原宿エリアにお店を出したくて。ちょうどコロナの自粛期間とオープンの時期が重なってしまったんですが、計画したら実行する性格なのでとりあえず神宮前6丁目、キャットストリートから1本奥に入ったところにオープンしました。でも知名度がないうえに当時は人も出歩いておらず、このままだとうまくいかないと思っていったん閉めました。その後アルバイトでまたお金を貯めて、新宿にオープンしたんです。

Q:なぜ新宿エリアを選んだのですか?

A:新宿に絶対出したかったわけではなくて、安い物件を探していたらここが見つかって。建物がかなり古くて周辺が再開発でいつ取り壊されるかわからないという理由もあって、結構お得に借りられました。ここに決めるきっかけは、やっぱり「THE FOUR-EYED」があることですね。伊勢丹もあるし、どっちも徒歩圏内だからいいかもと。この物件は1階だし、格子など外観がボロボロでかわいいのも魅力でした。
仮に移転になってもこんな感じがいい。変なところにぽつんとっていうのは特別感ありますよね。「THE FOUR-EYED」から離れたくないですね。原宿のときに比べてモデルさんなどの業界人や芸能関係の方がよく来たり、お金を持っている方がぷらっと入ってきたり、影響は大きくて。逆に新宿に移転してきて変わったと思うのは、古着が好きなお客さんが減ったこと。「ヴィンテージとか古着が好き」というよりは「ファッションが好き」という子のほうが多いのかなと。うちのお客さんが「THE FOUR-EYED」や「CHICKS」、「見た目!」をまわるなど、服好きの新宿の買い物ルートになるような構造を維持していければうれしいですね。

Q:新宿以外に出店を検討したエリアはありましたか?

A:池袋です。いろいろ探しましたが、いい物件は駅から離れてしまうのでちょっとイメージどおりのところがなくって。新宿なら離れても他の大きな駅に行けるけど、池袋だと離れているとなにもないから。
新宿はわちゃわちゃしていてなんでもありなイメージがありますが、東横線などの世田谷の方はかしこまったようなイメージがあって、これまでのお客さんを考えると違うなと思いました。下北沢や高円寺でもいいかなという気はしていたけど、埋もれちゃう気がするし、比較されちゃうというか。特別感を出したいというのもありました。でもいまはまた、原宿や渋谷もいいと思います。やっぱりファッションの最先端かなと。

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「ボロボロでかわいい」という窓格子が店舗の正面に構える。
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内装も青い。セレクトされた古着もどことなく青系が多い印象。

まとめと考察

オルタナティブなショップが集積するエリアといえば真っ先に思い浮かぶ下北沢や高円寺だが、イメージの固定化や再開発など、さまざまな要因によって街自体が表舞台化し、そこからも距離を置くようなムードが新たな世代の間で醸成されつつあるのだろうか?しかしそのムードは、たとえば2015年の「Blue Bottle Coffee」上陸を契機に一気に洗練された清澄白河などの東東京エリアや、「uneclef(ユヌクレ)」が起点となって盛り上がりを見せた豪徳寺などのローカルエリアとは異なっているように思える。


大久保さんや小笠原さんも口にするとおり、「THE FOUR-EYED」の存在が磁場となっていることに疑いようはないが、そもそも新宿という街は大勢の人間と多彩な文化が複雑に交差する地点であり、あらゆる意味において上記のどのエリアとも比較にならないメガターミナルであって、その射程がいよいよ西新宿/東新宿のあたりまで広がり始めているということが今回のインタビューでは感じられた。特に東新宿周辺は再開発を予定していることもあり、物件の経年劣化などで賃料が安いということ、そして近年のレトロブームにマッチする年季の入った物件がギャップを活かした個性的な空間づくりに適していることも後押しとなっていそうだ。
それぞれ強い個性を持つショップでありながら、雑多な街であるからこそ程よく紛れられ、固定観念がつきにくいというのは新宿の大きな魅力。「間(=隙間)」としての余白を含みつつ、新宿という巨大な都市空間、あるいはKカルチャーの浸透によって急速にトレンドスポット化した新大久保やトー横と地続きの大久保公園といった、アンコントローラブルなユースのエネルギー渦巻くエリアが近接していることもユニークさに拍車をかけている。

今回お伺いしたなかでもう1点興味深かったのは、出店の候補地として池袋がチョイスされ始めているということ。
新宿と同様のターミナル駅であり、駅周辺に巨大な歓楽街を擁しながらも中心地から10分も歩けば住宅街が広がる池袋は、新宿以上にファッションのイメージが皆無。しかし2024年に原宿の人気ショップ「PAT MARKET(パットマーケット)」の2号店がトキワ通り沿いのレトロな居抜き物件に出店しており、今後新宿と似たような動きが見られる可能性はある。
オルタナティブなファッションエリアは、絶え間ないジェントリフィケーションの間隙を縫うようにして、渋谷・原宿から新宿、そして池袋へと、副都心を北上していくのかもしれない。

【取材・文・撮影:相原流星+大西智裕(『ACROSS』編集室)】


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