世界から見た<東京のファッション> ②
レポート
2025.06.30
カルチャー|CULTURE

世界から見た<東京のファッション> ②

日本のブランドにいま必要なのは”グローバルな視点”とアクション!

ベルリン編:「アンドレアス・ムルクディス」氏の視点

パリやニューヨークとは異なるリズムで進化を続けてきた東京のファッション。コム デ ギャルソンやヨウジヤマモトといったレジェンドから、サカイやアンダーカバー、そして00年代以降に台頭した新世代のブランドまで——いま、東京は「現在進行形のファッション都市」として、世界から再び熱い視線を集めている。

そこで、来日したファッション業界のプロフェッショナルたちの眼を通して、東京ファッションの「いま」をあらためて見つめ直そうと、前回の仏パリに拠点を置くmixed magazine』のエディターSidonie Boironさんに続き、楽天ファッションウィーク2025/26AWに、海外バイヤーとして招聘されたベルリンのセレクトショップ「アンドレアス・ムルクディス」のオーナー兼バイヤーのアンドレアス氏に話を伺った。

ミュージアムのようなショップ——アンドレアス・ムルクディス

アンドレアス・ムルクディス(Andreas Murkudis)は、ベルリンにある“ミュージアムのような空間”として知られるコンセプトストアだ。旧新聞印刷所をリノベーションした店舗(Potsdamer Straße 81)は、天井高約10メートル、1000㎡もの広さを誇り、自然光が差し込むギャラリーのような空間が広がり、その空間に、世界中からセレクトされた300以上のファッションブランド、家具、雑貨が展示・販売されている。

場所は、かつて冷戦時代には西ベルリンの周縁部としてあまり注目されていなかったエリアで、2000年代以降、Contemporary Fine Arts(CFA)やEsther Schipperなど、国際的に評価の高い現代美術ギャラリーが集まりはじめ、街の表情が一変。ムルクディス氏がこの地に拠点を移したことも、エリア全体のカルチャー的価値を押し上げているといえそうだ。

筆者が初めて同ショップを訪れたのは、まだミッテ地区にあった2000年代前半だ。当時も広い空間に無名・有名を問わず世界中のブランドの服やバッグ、靴、そして家具やアート作品などがミュージアムの展示のように配され、よく見るとその中に日本のデザイナーズブランドやカリモクの家具などもあり、とにかくセレクションの幅広さに驚かされた記憶がある。

現在の店舗は1階だけでなく、2階のギャラリースペースや隣接する「77」「98」の店舗にもショールームも展開。家具やインテリアに特化したスペースもあり、アートの展覧会なども定期的に開催されるなど、その詩的かつ贅沢な空間と品揃えによるアプローチは、かつて日本の一部の百貨店が目指していたコンセプトとも近しいようで類をみない、まさにミュージアムのようなショップといえそうだ。

そんな30年以上にわたり、ヨーロッパの感性とグローバルな視野でキュレーションを続けてきた彼の目に、いまの東京のファッションはどのように映っているのだろうか。
 
Andreas Murcdisさん(千代田区にて撮影)

セレクトの原点は「直感」!

「取り扱いブランドの数はおよそ200。セレクトする共通項は特になくて、直感で“いい”と思えるかどうかです」とアンドレアスさん。

たとえば今回、PILLINGS(ピリングス)のショーを見て、すぐショールームを訪問。見た瞬間にピンときたのでかなりオーダーしたと話す。

「ニットウエアにクチュール的な要素を取り入れたり、ジッパーなど異素材とのミックスに挑戦しているデザインに感銘を受けました」(アンドレアスさん)。

他にも今回の楽天ファッションウィークでは、Chika Kisada(チカキサダ)のショーも実際に見てセレクトすることを決めたそうだが、一方、最近デジタルでの発表が続いているDRESEDUNDRESED(ドレスドアンドレスド)は東京のまちを歩いていて見つけてコンタクト。以来継続して買い付けているのだそうだ。

すでに同ショップで取り扱っているブランドには、Ujoh(ウジョー)、Stein(シュタイン)、AURALEE(オーラリー)、ATON(エートン)など日本のブランドだけでも20〜30と多い。なかでもATONとは、2023年にベルリンの同店でのスペシャルインスタレーションを、東京では「エイトン アンドレアス ムルクディス サテライトショップ イン トーキョー」と題したポップアップストア企画を同時で開催。今後も企画展示など積極的に行っていきたいとアンドレアスさんは話す。
 

ターゲットはグローバルなクリエイティブネットワーク

都市文化とファッションの関係を考えると、ヴィンテージや古着、DIY、そして流行よりも個性を重視する「ベルリナー(Berliner)」と、ディオール、グッチ、ジルサンダー、バレンシアガ、プラダなどのラグジュアリーブランドを扱う同ショップの顧客層とは、一見、相容れないようにも思える。ターゲットをどのように捉えているのか、率直にたずねてみた。

「おっしゃる通りです。私もいつもはこんな感じのカジュアルな装いです(笑)。顧客の半数以上がドイツ国外からで、ヨーロッパの他国やアメリカ、そしてアジア、特に日本や韓国からの来訪者が多いですね。およそ4,000〜5,000人の顧客を登録していますが、そのうち50人ほどとはとても親しい関係で、皆さんクリエイターやデザイナー、いわゆるセレブリティやアーティストの方々です。アート・バーゼルやデザイン・ウィーク、ブックフェアなどのイベントが開催される時期には、必ずといっていいほど訪れてくれます」(アンドレアスさん)。

同店は、服や小物といったファッションアイテムに加えて、アートブックやヴィンテージのマガジンにも力を入れている。店内には約3,000冊のアート関連書籍が並び、1980〜90年代のファッションショーの招待状や、サイン入りの写真集なども揃う。4月末から9月にかけて開催される各種アートイベントには、世界中からクリエイティブ業界の関係者がベルリンに集まる。それにあわせ、同ショップへの来場者も8,000〜1万人に達することもあるという。もはや単なるセレクトショップというより、都市型のミュージアムショップとしての側面すら感じさせる。他にこのような店は見当たらず、まさに「都市の交差点」としての役割を担っているのかもしれない。
 
ANDREAS MURCDISファサード(HPより)

いま世界が注目する、日本のファッションブランド

東京のストリートでは、いまだ韓国ファッションの人気が根強いが、アンドレアスさんのショップではあまり扱っていないという。

「少し前まではいくつかの韓国のコレクションブランドを取り扱っていましたが、現在はあまり扱っていません。それよりも、日本のブランドの種類の豊富さに改めて注目しています。テキスタイルや縫製のクオリティの高さ、独特のクリエーションセンスなどが魅力です。今回も都内のさまざまな場所を巡り、多くのブランドやデザイナー、ディレクターとの出会いがありました」(アンドレアスさん)。

一般的にバイヤーが商品を仕入れる際には、仕入れ価格や納期、販売戦略、将来的なトレンド予測、そして顧客のニーズとのバランスを考慮するのが常だが、アンドレアスさんはそうした「条件面」にはこだわらない。

「あくまでも直感です。多少高額であっても『欲しい!』と私と同じように感じてくれる顧客は必ずいますから」(アンドレアスさん)。

今回の来日を通じて、改めて東京という都市のエネルギー、そして人びとのファッションにかける熱量を強く感じたという。とりわけ、ストリートにいる若者たちの装いからは力強いファッションのエネルギーが感じられた一方で、小売店の店頭にはややおとなしい印象を受けたそうだ。

「もっとデザイナーは積極的に海外へ発信すべきだし、日本のショップも、もっといろいろなブランドをPRしていくべきだと思います」(アンドレアスさん)。

最後に「ドーバー ストリート マーケット銀座には昨日行きました。他におすすめのセレクトショップはありますか?」と尋ねられた筆者は、「渋谷パルコでしょう!」と即答。「現在(取材当時)は大きなテナント入れ替えのため改装中ですが、次回の楽天ファッションウィークのタイミングでご案内します」と伝えると、「ぜひお願いします」とアンドレアスさんは笑顔で答えた。
(インタビュー・文責:高野公三子)
 


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