「飲まない」という選択のススメ
レポート
2024.02.02
カルチャー|CULTURE

「飲まない」という選択のススメ

ノンアル(ローアル)が大人の遊びのひとつに?~トークイベント開催~

海外発の「ノンアル(ローアル)」のムーブメントはコロナ渦を経て日本でも"よりよい生き方"の選択しとして拡がりつつある。大手を始めオルタナティブな作り手が続々登場するなか、2月10日に人気のノンアル・ローアルを体験できるイベント「ノンアル・ローアル ボトルショップ&バー 飲まない渋谷 @渋谷PARCO」の開催が決定。そのトークショーに登壇し、かねてよりあえて"飲まないという選択"をしてきた評論家・批評誌〈PLANETS〉編集長 宇野常寛さんに寄稿いただくことにした。
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「飲みニケーション」と人間関係至上主義はもういらない

突然だけれど、僕はお酒を飲まない。僕が以前よく仕事をしていた批評や思想の世界では昭和的「飲みニケーション」が支配的で、いまだに派閥のボスに若手中堅が飲み席でボスの敵を中傷してご機嫌を取る、みたいな陰湿なコミュニケーションが繰り返されている。僕は10年ほど前に、そんな陰湿な世界が嫌で手を切ったのだけど、これはこの業界の話だけじゃない。ここまで陰湿な例はあまりないかもしれないけれど、多かれ少なかれ「飲みニケーション」による人間関係の「文脈」づくり(メンバーシップの確認)を中心に回っている職場や業界は多いはずだ。

いま世界的に現役世代のアルコール離れが指摘されているけれど、ことこの国に関してはこうした昭和的な男性会社員文化を「見直す」ために、一回「飲み」というものと少し距離をおいてとらえてみるのもいいかもしれない。

「お酒」は素晴らしい。でも……

誤解しないでほしいのだけれど、僕は飲料としてのお酒やその文化について全く否定したいと思わない。ただ、「大人(の特に男性)」は「飲む」のが「当たり前だ」という思考停止を解除したほうが、これからの暮らしかたや働き方が見えやすくなるのではと「提案」しているのだ。副業やワークシェアなど新しい働き方は、メンバーシップ型からジョブ型へのシフトが前提になっているのだけれど、どれだけ制度が新しくてもそれを迎え入れる団体の「体質」が「昭和」のままでは骨抜きになってしまう(結局部署ごとに固まって座るフリーアドレスや、誰も取らない男性育休など)。そのためにはまず、こうした昭和体質を体現する「飲み会」をやめてみるところから始めることを、僕は提案したい。


大人の遊び=「飲み」の等式を破壊する

そもそも僕は大人の遊び=「飲み」を半ば前提にするこの国の都市文化は、ちょっと貧しいのではないかと思う。アルコールを前提にしない、つまり「素面」だから楽しめるものってたくさんある(たとえばスポーツやゲームなど、心身をもう少しアクティブに使うもの)。みんなで集まってとりあえず一杯、という手軽さはもちろん素晴らしいけれど「そうではない」遊びの可能性をもっと貪欲に探ってみてもいいと思うのだ。そうすることできっと、世界はもっと楽しくなる。


CIRAFFITI/シラフィティのノンアル・ローアルコールクラフトビール 。鳥取発、特殊な酵母と独自の製造方法でホップの香りや苦味をしっかり感じるノンアル・ローアルコールビール。

ノンアル(ローアル)で広がる「食」の可能性

あと「飲まない」人間として声を大にして言いたいのだけれど、世界には「お酒ではない大人の飲み物」が圧倒的に不足している。「お茶」や「コーヒー」があるじゃないかと言う人もいるかもしれないけれど、逆に言えばそれは「喫茶」という確立された文化が既にあって、それはとても素晴らしいのだけれどそこでカバーできないものはとても貧しいことを意味してはいないだろうか。たとえば、僕は蕎麦が好きなのだけれど、蕎麦屋で日本酒以外の飲み物を選択しようと思うと結構、困る。とりあえず烏龍茶か炭酸水を「消去法」で頼むことになる。蕎麦茶があればまだいいほうで、僕はいつも思う。お酒にはこれだけ種類があるのに、なぜお酒「ではない」ドリンクはこんなに選択肢がないのか、と……。

そしてこれが重要なのだけれど「飲む」ことで食べることとお酒のハーモニーが楽しめるのと同じくらい、「酔わない」状態で、アルコールを「入れない」ことでよりはっきりと、純粋に味と香りを楽しめるアドバンテージも確実にある。アルコールが入っていない、つまり「酔う」という要素に頼らないより純粋に味と香を追求する飲み物には、無限の可能性があるはずなのだ。人間が「飲む」ことはアルコールという前提を外すことでもっともっと広がるはずなのだ。


「飲まない暮らし」のすすめ

どうだろう。「お酒を飲む」という選択を自明のものではなく、可能性の一つとして「ゆるく」とらえるだけで、こんなに世界は違って見える……そう、思わないだろうか。僕は10年ほど前に「飲み会」に行くのをやめて、お酒自体もやめた。人の悪口や噂話で盛り上がる時間をアンインストールした結果、人間関係のストレスも大きく減ったし、夜の時間で好きなことをやれるようになって趣味も増えた。そもそも「人間関係」のことを考える時間が減った。なんでもいいから一杯、みたいな感じで居酒屋に入らなくなったので、その分食に対してこだれるようになった。もちろん、飲酒の豊かさを僕は否定しない。しかし「酒」はとくにこの国の働く人の世界で幅を利かせすぎている。まるで電車の中で大股を広げで座る「おじさん」のように……。

僕たちは無理に飲まなくていいし、嫌な飲み会なんて行かなくていい。「尺」なんて明確に拒否していい。そうして生まれた余白に、僕たちはたくさんの「飲む」「食べる」可能性を、そして「遊ぶ」「働く」あたらしいかたちを発見できると思うのだ。



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「ノンアル・ローアル ボトルショップ&バー 飲まない渋谷 @渋谷PARCO」

人気のノンアル・ローアルを体験する1日限りのカフェイベントが開催される。新進気鋭10ブランドのノンアル・ローアルがオンメニュー、試飲や購入も可能。会場では入場無料のトークイベントも。

■日時:2024年2月10日(土) 11時~18時
■会場:渋谷PARCO 10F ComMunE

<参加ブランド>
(50音順)オッドバード、シップ コンブチャ、ジファール、シラフィティ、トムソン&スコット ナウシー、ノンアルケミスト、モーメント、リーフロー
 
スペシャルトーク #1「飲まない渋谷、大人のノンアル」
お酒を飲まずに東京の夜を楽しむプロジェクト「飲まない東京」を主宰する評論家宇野常寛氏と、料理上手で丁寧な生き方が人気のモデル・女優高山都氏が、会場で販売しているノンアル・ローアルドリンクをレビュー!飲まない時に楽しむ大人の飲み物について語ります。

宇野常寛(うの つねひろ)

1978年生。評論家。批評誌〈PLANETS〉編集長。 著書に『ゼロ年代の想像力』(早川書房)、『リトル・ピープルの時代』(幻冬舎)、『日本文化の論点』(筑摩書房)、『母性のディストピア』(集英社)、『若い読者のためのサブカルチャー論講義録』(朝日新聞出版)。 石破茂との対談『こんな日本をつくりたい』(太田出版)、『遅いインターネット』(幻冬舎)、『砂漠と異人たち』(朝日新聞出版)、『ひとりあそびの教科書』(河出書房新社)など。立教大学社会学部兼任講師も務める。


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