SHOPPE
レポート
2023.07.27
まち・街|COMMUNITY

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都市のスキマに新しい公共空間を設けるプロジェクト

奥神楽坂に食を通してつながる「オルタナティブ・スペース」が誕生!

2023年5月5日、新宿区山吹町のシェアハウス「SHAREyamabukicho」の1Fに、「食べる」「飲む」「買う」をコンセプトとした新しいコンビニエンスストア「SHOPPE(ショップ)」がオープンした

これは、建築家のクマタイチさんが手掛ける「SHARE by TAILAND」の新しいプロジェクト。3月に上梓した書籍『オルタナティブ・パブリック』(ブートレグ)の帯にある「ハードを作らず、建築物に頼らずとも、都市に『パブリック』を生み出せるのではないか?」という思想の実践だ。

場所は江戸川橋駅から徒歩3分、神楽坂駅から徒歩9分で、これまでのプロジェクトと同じく“奥神楽坂”と呼ばれるエリア。住宅や印刷工場が軒を連ねる一角にある木造2階建ての建物には店名のロゴネオンが掲げられている。

“昔ながらのコンビニ”をコンセプトにした店舗は、広さ22平米のフロアに日本各地のグロッサリーや国内外のワインなどが並ぶ。2席ほどのカウンターやテラス席(のようなエントランスの空間)も設けられ、来店者は購入品や時期によって入れ替わるフードメニューなどをその場で楽しむことができる。2階はもちろん、シェアハウス。

今回で6件目の「SHARE by TAILAND」プロジェクト。なぜこのエリアに、そしてなぜ“シェア”にこだわるのか。仕掛け人であるクマタイチさんにお話を伺った。

コンセプトは“昔ながらのコンビニ”

ネオンがなければ見逃してしまいそうなほど、まちに馴染んでいる。手前にはテラス席が用意され、グリーンがちょっとした目隠しにもなっている。
SHOPPEのコンセプト“昔ながらのコンビニ”については、予約をして来店するレストランよりももっと気軽で、地元の人が「ここはなんだろう?」とふらっと立ち寄ることのできるような場を作りたいという思いがあったのだそう。

「去年1年間、この場所でトレーラーでの飲食の提供や、CRAZY PIZZAで月1回のシェアキッチンのイベントをやっていました。そうすると、レストランとは違って、ほんとうにふらっと来てくれる人がたくさんいるんです。そういうのをもうちょっと常態化できないかなと思って。 もともとワインが好きなので、ワインは扱いたかったんですけれど、ワインバーというとワインが前面に立ちすぎてしまうので、それよりも、飲めない人も来ることができて、昔ながらの酒屋さんがコンビニになったような、そしてそこで角打ちもできたり、そういう雰囲気を作れたらいいなと思って、ここに行きつきました」(クマタイチさん)。

All-You-Can-Eat Pressがセレクトする缶詰や、その他日本各地の食材が並ぶ。どれもパッケージが特徴的で、手土産にも喜ばれそうだ。

店内には見ていて楽しくなるようなパッケージの商品が並ぶ。日本各地の食材とビール、フランス、スペイン、ポルトガルなどのワイン、そしてつい手に取ってしまうポップな雑貨も。

グロッサリー類のセレクトや提供する食事類を任されているのは、スタッフの新田悠子さん。実は、2,000年代初頭、オリジナル家具などの製造販売する「Playmoutain」をはじめ、コーヒースタンド「BE A GOOD NEIGHBOR COFFEE KIOSK」などを手掛けていた「ランドスケーププロダクツ」のご出身。本プロジェクトに関してクマさんとの話し合いを進めていくなか、今回の「角打ちができるコンビニのような場所」というコンセプトにたどり着いたという。

グロッサリー関連を担当する新田悠子さんは、「ランドスケーププロダクツ」のご出身。

「セレクトについてこだわったポイントは、強いて言うならば、見た目も含めて、この場所にあると楽しくなるようなもの。必ずしもおしゃれじゃなくてもいいんですけれど、モノも建築の一部のように考えられたらと常々思っています」(クマタイチさん)。

ほかにも、原宿のBLOCK HOUSEの人気メニュー「水曜カレー」を手掛ける高木賢祐さんによるカレー、TESIOのソーセージ、チェスト船堀のパン、『ホットドッグの発想と組み立て』の著者・恩海洋平さんによるヴィーガンホットドッグのイベントなど、店内で楽しめるフードメニューやイベントも充実している。取材中にも、何組かの来店者がカウンターやテラス席で新田さんとの会話と食事を楽しんでいた。

コミュニティのきっかけとなる“場”を作る


「SHARE」プロジェクトは、2016年、新宿区矢来町にオープンしたシェアハウス「SHAREyaraicho」から始まった。ご自身もそこに住まいつつ、1Fの土間的なスペースを活用し、月1回をベースに、建築家の浜田晶則さんと一緒に「scene」というトークイベントを企画・開催。高山明氏や真鍋太一氏、蓮沼執太氏など建築家やデザイナー、演出家、音楽家、学者などを招いて、毎回学生や研究者、会社員など20〜30名が集まり、活発な意見交換が行われた。先に紹介した書籍はその1つの成果物でもある。

シェアハウスを起点にユニークな入居者やイベントで多様な人たちとも出会い、有意義ではあるんですが、やや閉じたコミュニティというか、地元の人たちと繋がる機会へと広がっていかないと感じたんです」とクマさん。

そんななか、ターニングポイントになったのは、ひとつ前のプロジェクトにあたる2021年3月にオープンした「SHAREtenjincho」だ。SHOPPE同様、シェアハウスの1Fに店舗「CRAZY PIZZA at SQUARE」があるが、前史として、同物件がオープンする前、まだビルの隙間の空き地だった時に(おそらく)実験的に運営していた飲食店「
TRAILER」の経験があるという。

「TRAILER」はその名称通り、空き地に移動可能なトレーラーハウスを配した飲食店だった。クマさんが設計・内装デザインを担当し、神楽坂のワインバーで知り合ったというシェフの恩海洋平さんと当時は料理家を目指していたアンナベル聖子さんと2人で、ステーキとホットドックとワインを振る舞う飲食店が評判を呼び、多くの人で賑わった。

交差点という立地もあって、いつも人が集っていたことから、近所の人もふらっと立ち寄り、やがて近所で働く人と出会い、次はその人のお店に行くなど、職住が近接している“奥神楽坂”というエリアならではのコミュニティへと形成されていくところが興味深い。

「お店をやるには、住宅地である矢来町よりもこっちのエリアの方がより楽しいですね。このエリアは、職住がうまく近接している。近所の印刷工場のおじさんとかが来てくれたりして、さっそくコミュニティになりつつあります」(クマタイチさん)。

矢来町〜天神町〜山吹町〜江戸川橋=奥神楽坂という東京のど真ん中エリア


もともと小学生の頃からこのエリアに長く住んでいたというクマさんだが、通っている学校が離れていたこともあり、中高生のときは原宿などに行くことの方が多かったのだそう。そのため、地元に友人がいるわけでもなく、馴染みのコミュニティがあるわけでもなかったが、大人になり、お酒を飲むようになってからは、近所の飲み屋で知り合う人たちや銭湯で顔を合わせる人など、ゆるやかな繋がりが増え、だんだんと地元であるこのエリアのおもしろさに気付いたのだという。

「小さいころ、千葉の東金というところに住んでいたことがありました。そこでは、それぞれの家は大きいんですけれど、祭りがあったり、隣の人とゆるく繋がっている感じがあって。都会でマンションに住んでいたりすると、そういうのがあまりにもないなと感じたんです。そんなときにシェアハウスの運営というのを始めて、このふたつをなにかの形でブリッジできないかなと考えるようになりました。ここに来ることで、このまちがもっと見える、というような場所を作りたかったんです」(クマタイチさん)。

ものを作るという建築でのアプローチはそのままに、いかに効果的にまちと繋がり、変えていけるかという視点で始まった「SHARE」プロジェクト。そこには近年の神楽坂周辺の開発も関わっているだろう。

神楽坂エリアは、2010年に赤城神社が「再生プロジェクト」によって立て替えられて以来、2014年に新潮社の倉庫をリノベーションした(隈研吾建築都市設計事務所)「ラカグ」がオープン(2019年には業態変更し「アコメヤ トウキョウ イン ラカグ」に)。同年、「文鳥堂書店」跡地に「かもめブックス」がオープンした。また、毘沙門天善國寺を始めとする歴史的な建造物や神楽坂通りや石畳に加え、それらの新しいランドマークが登場したことで、話題性も高まり、裏通りにお店が次々オープンしたことで、神楽坂通りから少しずつ外れたエリアへと拡張。“奥神楽坂”と呼ばれるようになり、現在も新しい店が登場している。

クマタイチさん率いる「TAILAND」が「SHARE」プロジェクトを手掛けているのは、まさにこの奥神楽坂エリア。最初の矢来町から始まり、天神町、山吹町(間に沖縄県那覇市壺屋)と少しずつ神田川へ近づき、と現在進行中の新しいプロジェクトではついに神田川を越えるのだそう。住宅地や古い印刷工場、新しい飲食店など、住む人と働く人、古いものと新しいものが入り混じるこのエリアでSHOPPEやSQUARE(1階の「CRAZY PIZZA at SQUARE」は月1~2回イベントを開催するシェアキッチンとしての機能も持つ)など、まさにそれらを繋ぐまちのハブの役目を果たしている。

コミュニティそのものを作るというよりも、そのきっかけとなる“場所”を作れたらと思っています。建築家ではあるんですけれど、その範囲が扉とか窓とかそういうものだけではなくて、ワインとかおつまみまで扱っているような感じですね」(クマタイチさん)。

渋谷は匿名のなかのひとりになる場所


現在は隈研吾建築都市設計事務所にて国内外のあらゆるプロジェクトに携わっているクマさん。開発の続く渋谷について、どのように見ているのか、伺ってみた。

「渋谷は地形がおもしろいので、歩いていてすごく楽しい場所だなと思います。基本的に、平坦だとあまり歩こうという気持ちになれなくて。なので、そういうまち歩きの楽しさに意識的な開発が少ないかなとは思います。あとは、バーチャル空間みたいな感じがありますね。メタバースという意味ではなくて、例えばこの辺り(SHOPPE周辺)を歩いていると、もしかしたら知り合いがいるかもしれないからちょっと行動には気を付けよう、とか、自分が誰であるかある程度意識的に生きていると思うんですけれど、渋谷では、自分も匿名のなかのひとりになるというか。人の量も多いので紛れる、そんな感覚があります」。

渋谷の中心から少し離れた場所に点在していた小規模の店が、“奥渋谷”と名付けられ、記号化されたことで、エリアとしてより注目され互いに認識し繋がっていったように、“奥神楽坂”もそのエリアを拡張しながら、変化しつつある。大きな話題の商業施設でたくさんの人を集客するのとは違い、「SHARE」プロジェクトは横のつながりをゆるやかに広げていくことで、もともとあったその土地のよさと新しいものを繋いでくれる。顔見知りが増え、足を運ぶ場所が増えていくことで、少しずつそのまちが見えてくる。訪れる人それぞれの新しい「馴染みの場所」を作るような感覚だ。

ちなみに、現在、SHOPPEの上の階のシェアハウスは、2023年6月現在では香川から上京したミュージシャンの男性が住んでいるのだそう。

2階シェアハウスの様子(写真提供:TAILAND)

次のプロジェクトは中華料理屋!?


今後も奥神楽坂を飛び出し、沖縄のプロジェクトに次ぐ地方や海外も視野に入れているという「SHARE」プロジェクト。最後に、現在進行中(来年春頃竣工予定)の次回のプロジェクトについて少し教えていただいた。

「ずっとゲストハウスをやりたいと思っていたんです。海外の方から、泊まらせてほしいと言われることが多くて。物件は、4階建ての中華料理屋の居抜きです。チャーハンの器とか、中華料理屋のものが全て丸々残っているので、中華料理屋ならすぐ始められますよ(笑)」(クマタイチさん) 。

SHOPPEでも、月数回の食に関するイベントが開催されており、地元の人を始めメディアで存在を知った外のエリアからも訪れる人が増えているのだそう。 ますます盛り上がる奥神楽坂。近隣に訪れた際には、ぜひSHOPPEで食を楽しみながら、まちとそこにいる人とのつながりを楽しんでほしい。


【取材・文:高野公三子、堀坂有紀(『ACROSS』編集)】

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