「モールの想像力 〜 ショッピングモールはユートピアだ」展
レポート
2023.05.11
カルチャー|CULTURE

「モールの想像力 〜 ショッピングモールはユートピアだ」展

髙島屋史料館TOKYO
ショッピングモールの文化的意義を考察する

2023年3月4日(土)~8月27日(日)、日本橋の髙島屋史料館 TOKYOにて開催中!


きっかけは、「モールの創造力—ショッピングモールはユートピアだ」という展覧会の告知がtwitterで流れてきたことからだった。
 
本展の主催は、前回話題となった展覧会百貨店展—夢と憧れの建築史」を企画・開催した髙島屋史料館TOKYO。百貨店の次は(やはり)モール!「これは取材しなければ!」と思わずつぶやいたところ、同館のアカウントからDMで「ぜひ!」とメッセージをいただいたことからだった。DMをくださった、同館学芸員の海老名熱実さんにお話を伺った。
(取材・文:高野公三子)
 
(写真提供:髙島屋史料館TOKYO)

ショッピングモールとは、都市であり、宇宙である。
そして、想像力の源泉である。


そうステートメントを掲げて企画された本展覧会は、「団地団」というグループ活動も主宰し、団地マニア、団地研究者としても有名な写真家・ライターで批評家の大山顕さんが監修・総監督。協力として、ライター・編集者で批評家の速水健朗さん、建築家/アーティストの座二郎さん、天本みのりさんというインテリアデザイナー、いわゆる在野の批評家という点も注目される。
 
「1年ちょっと前くらいからでしょうか。百貨店展の続編としてのショッピングモールにまつわる展覧会を企画したいな、ということで大山さんにお声がけしたのが始まりです」と海老名さん。
 
以前より大山さんの写真集や書籍などを読み、ぜひ大山さんにお願いしたいとオファーをしたのが2022年1月のことだったという。もともと哲学者の東浩紀さんが主宰するゲンロンカフェにて開催されたトークイベント「ショッピングモールから考える」をまとめた書籍『ショッピングモールから考える~ユートピア バックヤード・未来都市』の共著者でもある大山さん。モールの展覧会を百貨店で開催する、ということ自体も面白い!と賛同。さっそく打ち合わせが始まった。
 
「モールというと、これまで文化批評的・社会学的な文脈では、社会を均質化し、古くからある商店街を虐げる存在として批判の対象とされてきたことが多かったと思うんですね。でも、私たちは、今日のモールとは、むしろカルチャーを育む土壌であり、文化的な象徴ともいえるのではないか、とポジティブに捉えることにしました」(海老名さん)。
 
ちなみに、先述したトークイベント「ショッピングモールから考える」にはランドスケープアーキテクトの石川初さんや建築家の三井祐介さんも参加しており、本展覧会には彼らの「創造力」も盛り込まれているという。
 
実際にモールのバックヤードで働く人たちからの「材料」をもとにつくられた作品。
髙島屋史料館TOKYO学芸員の海老名熱実さん。

「催事」とは別の百貨店文化の発信をめざしたい

今回の企画展も大好評の髙島屋史料館TOKYO。訪れたことのある方なら分かると思うのだが、史料“館”とはいうものの、約50平方メートルのなかなかささやかな展示空間で、場所も本館4Fのいわゆるミセス系の婦人服売り場の隅っこ、階段の横にある。前回の模型の展示もものすごい存在感があったが、今回も企画のエネルギーは、スピンオフ展示として5Fと玉川髙島屋S・C本館4Fにも溢れ出し、訪れた人たちがフライヤーを片手に百貨店の中を移動するしくみもユニークだ。
 
そんなヒット企画をいくつも手がけている髙島屋史料館TOKYO。実は、学芸員は海老名さんたった1人というから驚かされる。
 
「そうなんです(笑)。本当に、何から何までやってます。最近は年2本なのですが、以前は年間5本企画しなければならず、本当に大変でした」と海老名さん。百貨店の催事というと、2週間で転換(入れ替え)するというのが長年の慣習となっていたが、ようやく、近年になり、会期が長期化する傾向にある。
 
実は、社会人のスタートは銀行員だったという海老名さん。その後、関心のあったアートの業界に進むべく学芸員の資格を取得。文化庁でアーカイブのお仕事などを手がけていたのだそうだ。
 
「もともと企業とミュージアムに関心があって、日本橋界隈の大規模再開発の流れもあり、文化的な施設を設けようという動きが髙島屋にあって、そのタイミングで入社しました」(海老名さん)。
 
大阪には1970年開館の創業以来の資料を所蔵・活用するタカシマヤアーカイブス活動の拠点としての立派な史料館が既にあるため、東京は髙島屋百貨店とは直接関係のないテーマも射程に入れ、幅広い企画展を開催することにしよう、などコンセプトが固まっていき、2019年3月にオープン。残念ながらその直後に、COVID19禍にみまわれた。
 
現在の路線に繋がる最初のヒット企画となったのは、建築史家の橋爪紳也さん監修の「大阪万博 カレイドスコープ—アストロラマを覗く—」(2020年1月15日~4月19日)だった。1970年の大阪万博の中から「みどり館だけにスポットをあてたというなかなかマニアックな展覧会。その後、パンデミックを経て建築史家の五十嵐太郎さんと菅野裕子さん監修による「装飾をひもとく~日本橋の建築・再発見~」(2020年9月2日~2021年2月21日)と、カルチャー好きにはツボの企画が満載だ。
 
「基本的には、自分が面白いと思うものを企画しています(笑)。テーマに加え、監修をお願いする方もそうですが、公立の美術館やギャラリーではできない試みを意識しています。百貨店を単に商業・ビジネスとして捉えるのではなく、いろんな文脈で、見せていくことで、かつての百貨店が文化装置として機能していたように、ここから新たな文化発信をしていきたい、と思っています」(海老名さん)。
 
髙島屋といえば、歴代バイヤーが各地を訪ね歩いて、探し当てた老舗や銘店の味を厳選した独自の催し「味百選」が有名だが、「商品」として提供するのが売り場だとすると、同史料館は、それらが生まれてきた背景に紡がれた「文化を伝える場所」といえそうだ。
 
会期は8月27日まで。監修の大山さんをはじめ、ギャラリートークなども企画されているというから、楽しみだ。

開催概要

展覧会名称:「モールの想像力-ショッピングモールはユートピアだ」
監修     :大山 顕(写真家・ライター)
協力     :速水健朗・座二郎・天本みのり
主催     :高島屋史料館 TOKYO
展示期間:2023年3月4日(土)~8月27日(日)
開館時間:11:00~19:00
休館     :月・火曜日(祝日の場合は開館)
展示場所:髙島屋史料館 TOKYO 4F 展示室
(日本橋髙島屋S.C.本館 東京都中央区日本橋2-4-1)


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