キルシェ・ブリューテ
レポート
2022.07.29
カルチャー|CULTURE

キルシェ・ブリューテ

“無人店舗”の多様化が進む!?
顧客視点とスタッフの安全を考えて生まれた新しい非接触店舗

今やテレビなどでも紹介されて注目される「無人店舗」。2021年11月に「ACROSS」でも古着店「ムジンのフクヤ」の記事を掲載したが、なんと “受験グッズ”を専門に扱う「キルシェ・ブリューテ」という無人店舗がオープンしていたので紹介したい。

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受験グッズ専門店が無人店舗を出すきっかけは、お客様とスタッフの安全を考えた結果



ガラス張りのため店内の様子がわかりやすく、気軽に立ち寄れる

場所は恵比寿駅東口から徒歩7分。広尾や白金高輪へと抜ける恵比寿通りに面したビルの1Fにある。店内には自販機が3台設置されており、中には光沢のあるネイビー素材で小さなおリボンが可愛らしいスリッパやシンプルなハンカチなどの小物などが販売されている。

運営するのは、神奈川県厚木市に本社を構える「お受験用品専門通販」のキルシェ・ブリューテ。「受験専門ショップ」という事業を始めたきっかけは、お子さんの中学受験がきっかけだったと代表の曽我智美さんは話す。創業は2005年4月。今ではそごう横浜店や同大宮店、広島店のほか、西武池袋本店などでもいくつかの商品を取り扱っており、2016年5月に実店舗をオープン。2020年7月には、お受験の情報収集とお受験グッズと問題集の購入がひとつのサイトで完結する総合お受験活動サイト「お受験Walker」を立ち上げている。

そして、今回2021年12月に無人店舗をはじめたのはやはり新型コロナウィルスが関係していた。

「コロナ禍が始まってすぐに、お客様とスタッフの安全を考え、店舗を完全予約制にしたんです。そのときから、接触なしでお買い物を楽しんでいただける無人店舗を作りたいという構想はありました」と曽我さん。

また、サイズや色、質感などはネットではわからないので実店舗で商品を見てから購入するお客さんも一定数いたが、実店舗が予約制となると来店のハードルも上がるため、だったら無人店舗にして、商品は見てもらえる機会を設けようということになったのだという。

「無印良品が店舗内に自販機を置き始めたり、青山フラワーマーケットからお花の自販機が登場したというニュースを聞きまして、出店することを決めたんです」(曽我さん)。

店舗は既存店から徒歩10分弱で、商品の補充などもしやすい場所に物件を見つけることができた。まずは自販機を3台設置して、無人店舗はスタート。どの程度の集客が見込めるか、そしてセキュリティ面での心配もあったことからそこまで大きく告知はせずに、テストを兼ねてのオープンだったという。

「場所が天現寺・広尾・高輪のほうに抜けられる道にあるので、クルマで移動される方や、自転車で通る方をターゲットにしています。忙しいお母様の時間を有効活用できるように24時間営業にしました。やはり、デパートやショップで買い物するときって、お化粧や準備が必要だと思うんです。でも、無人であれば気を遣わなくてもいいし、小さいお子さんを連れても入りやすい。気軽に行けるのがメリットだと思っています」(曽我さん)。

自動販売機にはキルシェ・ブリューテのモチーフである“桜”が描かれている。スタッフの手作りの装飾が親しみやすさを感じる(2022年3月時点)。
広尾や白金高輪方面へと繋がっている恵比寿通りに面した場所にある

30足のスリッパからスタート。経験者だからこそのこだわりが反映された商品や店舗作り


無人店舗での売れ筋商品はスリッパだという。実は、曽我さんが起業したきっかけとなったのもスリッパだったそうだ。

「2005年当時は、親の立場で子どものお受験の対応に必要なスリッパやカバンなどの持ち物があまりにも少なかったんです。スリッパも薄くてペタペタのものしかなく…。そこでヒールがついたきれいなカタチのスリッパを自分で作ってみようと思ったんです。そこで、スリッパ業者に片っ端から電話をかけたんですが、断られ続けて…。やっと1社だけ30足を作ってくれる業者が見つかって。それで5cmの特注のヒールスリッパを作りました」と曽我さんは当時を振り返る。

さっそくヤフオクに出品したところ、すぐに完売。世間の需要が高いことに改めて気づき、受験ショップを立ち上げることを決意。以来、客の要望を聞きながら、少しずつ商品数が増えていったという。

「スリッパは、学校の説明会や習い事など、使う機会が多いので売れています。必要なときにないと困るものなので、自販機で手軽に購入しているお客様が多いですね。お子さん用の小物も置いていますが、これからお母様用のカバンや子ども用のワンピースも無人店舗に置く予定です」(曽我さん)。

お客さまが利用されるシーンとしては、早朝や昼間にサクッと利用される方が多いという。

「お子さんを駅で降ろしてその足で寄って頂いたりオープンしてから約3か月ですが、お客様からも『スリッパや小物がなくて困ったときに、無人店舗に駆けこませて頂いています!』という声も多く寄せられていますね」(曽我さん)。

スリッパやバッグ、スカートといった雑貨やウェアだけでなく、ハンカチ、マフラー、手袋などの小物類なども販売されている。アイテムのバリエーションはかなり豊富

「小さいお子さんがいる家庭では、お母様は子育てをしながら家事をしたりして本当に忙しくて大変です。お子さんを学校に送ったり、習い事に送り迎えしたりして、忙しい。自分で買い物をする時にも、お子さんにも気を配る必要もあります。ですが無人店舗だと、気を使わないで好きなだけ商品を見ることができます。自分の都合の良いタイムスケジュールの中で、好きな買い物ができるというのも無人販売のメリットと言えます」(曽我さん)。

また、接客が苦手で「コミュニケーションなしで買いたい」という客も一定数いる。無人店舗はそういった顧客でも、気軽に買い物を楽しむことができるだろう。逆に接客が必要という客には有人店舗を予約してもらう。この住み分けができるというのも、実店舗だけでなく、インターネットショップや無人店舗があるからこその強みだ。

ネットショップでカバーしきれない部分を無人店舗で補う


創業時からの人気商品のスリッパは、無人店舗でも売れ筋商品だという。ヒールがあることと、生地にドレスによく使われるシャンタンを使っているため、上品な印象だ。
無人店舗にセルフレジを導入した後は、大きめのバッグやアパレルなども販売予定だ。

さらに、自販機だと入れられるアイテムにサイズの制限があるため、4月からはセルフレジを導入。

「たとえば、小さい巾着やサブバッグ、お母様用のバッグ、子ども用のワンピース、通学用のスクールスカートなどインターネットショップでよく売れている商品を棚やラックに並べて販売しています」(曽我さん)。

実店舗は恵比寿駅東口すぐに位置している。現在は完全予約制になっているので、予約フォームから受付している。代表の娘である、店長の曽我朱里さんやスタッフが丁寧な接客をしてくれる
店内の内装はすべてスタッフの手作り。無人店舗は簡素な見た目になりがちだが、温かみのある印象に。
ガラス張りの店舗のため、店内の様子は外からも見えるが、防犯カメラも複数台設置されているため防犯面でもより安心だ

無人店舗は便利な反面、セキュリティ面での課題もある。

「入口や店頭など合計4台の防犯カメラを設置したり、キャッシュレスにして現金を置かないなど、セキュリティ面はケアしています。それに加えて“恵比寿”という場所の治安の良さはありますし、基本的にお客様の良心を信用しています。オープンしてから3か月ほど経ちますが、店舗を荒らされた形跡もありません。これまではテスト期間のような形で運営していましたが、セルフレジを導入して商品数を増やしたら広く告知していきたいと思っています」(曽我さん)。

無人店舗でも“お客様目線”を忘れずに


受験業界においてコロナ禍による影響は少なくないと曽我さん。

「学校説明会がオンラインに変わったので、スーツで参加しなくても良くなり、それによる打撃は正直ありました。ただ受験自体はなくならないので、必要としている人にうまく訴求できれば、商品は売れていきます。お客様の欲しい物がきちんと手に入ることが重要なので、ご相談いただいた内容によっては、弊社ではあえて競合他社のアイテムを紹介することもあります。他社さんそれぞれにも個性があるはずなので、それを選択肢に入れたうえで、お客様に選んでいただきたいと考えています」(曽我さん)。

同社が一番大切にしていることは、“お客様に寄り添うこと”なのだそう。その一環として、新しくセミオーダーをスタートするという。上身頃、袖、襟などのパーツごとに選ぶことで、自分だけの1着ができる仕組みだ。

「自分がお客様だったらという視点を忘れないことが大切だと思います。無人店舗も、お客様がいつでも気軽に、欲しいモノを揃えられるようにと考えたものです」(曽我さん)。

無人店舗という新しい“試み”を行うことで社内の絆が深まった


無人店舗を出店したことで、意外なメリットもあったという。それは社内のコミュニケーションがより強化されたことだ。

「新しい業態の店舗を出すということで、社内一丸となって取り組めたので、スタッフの絆が強まりました。無人店舗の内装はスタッフが率先して行ってくれて、自販機に絵や壁面のシールなども飾りつけてもらいました。普段はミシンを静かに踏んでいるスタッフが、アクティブに壁にのぼって釘を打ってくれていたり…。コロナ禍で疲弊していた雰囲気もあったので、この無人店舗のおかげで再度社内がひとつになれた気がしています」(曽我さん)。

近年盛り上がりを見せている“無人店舗”ビジネス。接触なしで買い物ができるのでコロナ禍で需要が高まっており、人件費も削減できるとメリットが大きく、急激に広まっている。先駆けとしては、2018年の米国でスタートした「Amazon GO」が挙げられる。無人コンビニで、レジに人がおらずともスムーズに商品を購入できる仕組みだ。日本でも2020年に「TOUCH TO GO」という高輪ゲートウェイ駅にある無人決済コンビニがオープンし、話題になった。

コンビニだけでなく飲食店や小売業でもその流れは加速しており、東京都国分寺市の「餃子の雪松」では冷凍餃子を購入できるし、東京都渋谷区の「naizoo(ナイゾー)」ではホルモンを無人販売するなど、バラエティーに富んだキャラクターの濃い無人店舗が登場してきているが、その多くは、最先端の技術を駆使した“DX化”に焦点が当たっている。

今回取材させていただいたキルシェ・ブリューテは、コロナ禍によってネット販売・店舗の2つでカバーしきれなくなった顧客のニーズを、“お客様に寄り添った目線”で考えた結果が無人店舗になったというケースで、ユーザーが利用するシーンを無理なくイメージできる。

行動制限は無くなったものの、コロナ禍で培われた私たちの日常生活の変化のいくつかは定着していくだろう。当たり前だが、テクノロジー先行ではなく、顧客視点の「デザイン」が求められている。

セルフレジ導入後は体操着やスカートに加え、サブバッグやレッスンバッグなど商品ラインナップを増やしている(写真提供:キルシェ・ブリューテ)
7月には既存店舗のセールに合わせて、無人店舗でも初めての期間限定セールを実施。今後も受験本番シーズンに向けて、随時商品の入れ替えや追加を行うという(写真提供:キルシェ・ブリューテ)
【取材・文=フリーライター・エディター/佐々木隆宣+『ACROSS』編集室】



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