パルコが手掛ける女性向けウェルネスモール「Welpa」に込められた思いとは
レポート
2022.02.28
ライフスタイル|LIFESTYLE

パルコが手掛ける女性向けウェルネスモール「Welpa」に込められた思いとは

日本でも関心が高まるフェムテック。
表面化しづらい女性の健康問題に向き合ってきた、立ち上げメンバーに聞いた

2021年の「ユーキャン新語・流行語大賞2021」では、コロナやオリンピック関連の言葉が多く並ぶなか、「フェムテック」がノミネート。欧米ではすでに幅広い商品の開発が進んでいるが、日本においては2020年が「フェムテック元年」と言われる。女性の健康への関心が高まると共に、ビジネスチャンスとしてもとらえられ、多くの国内企業の参入が始まっている(フェムテック関連商品の販売やコンサルティングを行うfermata株式会社によると、2020年4月時点で51社サービスであったフェムテック関連のサービスが2020年12月には97に)。

2019年に大丸梅田店が“女性のリズムに寄り添う”売り場「michi kake」をオープンさせたことは記憶に新しいが、その後も2021年春に新宿伊勢丹、銀座三越、JR名古屋高島屋、西武渋谷など百貨店でのフェムテックフェアや関連商品の販売などが続き、10月には「Femtech Fes!(主催:fermata株式会社)※2019年初開催」や「Femtech Japan 2021(主催:Femtech Japan)」などのイベントが開催されるまでに至った。また、2021年4月6日のNHK『クローズアップ現代』ではコロナ禍で浮き彫りになった「生理の貧困」について特集が組まれ、2021年11月27日放送の『マツコの会議』でもフェムテック関連商品を取り上げるなど、メディアでもタブー視されがちであった女性の体について、社会全体で向き合うという流れが見られる

そんななか、2021年11月に1周年を迎えた心斎橋パルコに新しくオープンしたのは、「じぶんを、愛そう」とキャッチコピーを掲げる女性向けの医療モール「Welpa(ウェルパ)」だ。同事業は株式会社パルコが、既存の出店企業やスタートアップ企業と提携して開発を行ったオープンイノベーション型のウェルネス事業で、パートナーには、スマートメディカル株式会社とドリコス株式会社、また協業パートナーとして、開業時のブランディングディレクターに辻愛沙子さん、ラウンジ運営パートナーにfermata(フェルマータ)株式会社を迎えている。

エスカレーターで10階のフロアへ上がるとすぐ、辻愛沙子さんディレクションのフォトスポットが登場。開けた明るい雰囲気が入りやすい。

「ウェルネス(wellness)の公園(=PARCO)」から名付けられた本施設には、「病気になった時に行く場所」だけではなく「自分をケアする場所」として日常使いできるような、検診・検査が可能な婦人科や美容系のクリニック、フェムテック関連の物販、KAMPOカフェなどを集積。フロアへのエスカレーターを上がってすぐのショッピングカートのオブジェ/フォトスポットは辻愛沙子さんディレクションによるもので、パルコでのショッピングを楽しむのと同じように、自分の体をケアすることを楽しんで欲しいという思いが込められている。

今回、同事業の立ち上げから関わり、表面化しづらい女性の健康問題に対するリサーチから企画、リーシングに至るまで全体の業務を担当してきたパルコ・ウェルネス事業部の江尻裕子さんと近江晴圭さんに、パルコの中で医療モール、特に女性に特化した施設を作るに至った経緯や思いを聞いた。

「自分を知る。女性を知る。社会を知る。」を掲げる「Ladyknows」初の常設ギャラリーも。
 
なぜパルコがWelpaを作ることになったのか?

(江尻さん※以下、江)2019年3月に、新規事業を検討する部署が立ち上がり、そのなかのひとつとして検討を始めたのが2019年5月でした。同時期に、錦糸町PARCOにいわゆる「医療モール」といわれているクリニックの集積フロアがPARCOでは初めてでき、予想以上にお客様にご利用いただいていたんです。パルコが主体となって医療モール事業を開発できないだろうか、ということになり、具体的に「Welpa(ウエルパ)」のようなコンセプトを作り上げていきました。

通常医療モールというと、調剤薬局の会社が取り纏めているところが多く、処方箋が出やすい診療科がどうしても多く選ばれる、という事情が見えてきたり。ユーザー目線の医療モールをつくるのがなかなか難しいという状況がわかりました。さらに、複数のクリニックが集積しているだけの医療モールだとなかなかそれ以上のことが生まれにくい。そこで、パルコが医療モール事業者として入ることで、他のフロアやクリニック以外のMDとシームレスな環境をつくり、お客様にご利用いただくことができるのでは、というのがひとつのテーマとしてありました。


オープンしてみての手ごたえ、外部やお客様の反応は?
(江)クリニックが全て揃ったのが12月なので、クリニックの利用者に関してはまだ詳細を把握できていませんが、フェムテック専門店やKAMPOカフェが入り口となって、お客さまが利用しやすい環境としてスタートできているのではないかと感じています。


フェムテック専門店では、月経カップや吸水ショーツはもちろん、幅広い商品が並ぶ。スタッフに相談しながら購入できるので安心だ。
漢方のライフスタイルブランドDAYLILY初のカフェも。


メインターゲットを女性に絞ったのは?
(江)事業検討の中で調べていくと、健康・医療に対しての課題を多く抱えているのは女性、というのがわかってきました。女性特有の疾患や症状に対応する選択肢がまだ少ないので、フェムテック のような潮流が出てきているのだと思います。そういう意味でも、主要顧客でもあり、実際にまだ解決されていない課題がたくさんあるのであれば、それをパルコなりに解決していくというのが、今回果たせる役割なのかなと考えました。


辻さんとのエピソードについて。どうやって一緒に作っていったのか?
(江)事業としてのコンセプト、社会的意義というのは、事業部として持っていました。それを実際にお客様向けにどう表現していくかというのを辻さんたちに一緒に作っていただきました。こういうお客さんにこういう価値を届けたいというのをお話しして、表現方法などをご提案いただき、すり合わせていくというステップでした。 ビジュアル表現は、今回POOLさんにご依頼しました。そのひとつの理由としては、あまりターゲット層を狭めたくないというのがあったんです。明確にモデルさんの顔があったり、年齢などなんらかのイメージができるものにしてしまうと、どうしてもそこがターゲットなんだという印象になってしまいます。でもウェルネスというテーマの場合、人を出さないとなると無機質な印象になってしまう。それで今回のPOOLさんのビジュアルがしっくりきたんです。柔らかさもありつつ、国籍も年齢も顔も特定しないようなものなので。すごくイメージに合う表現になったと思っています。

本の装丁や企業広告などでも活躍するPOOLさんによるビジュアル

皮膚科での肌チェックも、産後の骨盤ケア、吸水ショーツの購入も、全てワンフロアで


併設のラウンジについて、こだわりは?
(江)女性向けの医療モール、という仮のテーマを決めたときに、社内の女性社員や協業を検討していた外部企業の方々へのアンケートをリアルやウェブでとったんです。そのときに婦人科を利用するときの大きなネックになっているのが待合室、待合時間だということが分かりました。「夕方までしか診療していなくて、忙しいなか仕事を抜けていったけれど、予定の時間に仕事に戻れない」「待っている間にパソコンを開くわけにもいかない」というような声が実際にたくさんあって、それにどういう形で応えていくか、と検討していった末のひとつの形が、ラウンジでした。

いまは他にも待合室がカフェみたいになっていたり、フリーWi-Fiがあったりといろんなクリニックがありますが、まだまだ少ないですし、クリニックのなかでとなると、パソコンを開くにしても、どうしても遠慮がありますよね。極力待合時間を短くするという解決方法もありますが、患者さんのことを無視して「診療は5分で終わります」と言うわけにいかないので、それであれば待合時間をできるだけ快適に過ごしていただくという方向性で、館内へお買い物に出てもらってもいいし、ラウンジでゆったりお茶を飲みながら待っていただけて、電源もWi-Fiもあり、お仕事もしていただけるような環境をご用意することで、少しストレスも緩和できるのではという思いでラウンジを作りました。

(近)個人的には(内装が)めちゃめちゃかわいいと思っていて。こんなにかわいい医療モールって他にないんじゃないかなと。病院ってテンションが下がるじゃないですか。雑居ビルで、本当にここで合ってる?今日やってる?って不安になったり、こそこそ行く感じがあるというか。でも、Welpaはかわいいし、ラウンジでお茶も飲めるし、コンセントがあって充電もできるし。待っている時間が長いときって結構退屈だったりすると思うので、そういう細かい部分まで、こだわりました。見た目や環境って結構大事だと思うので。

オープンな空間のラウンジで、待ち時間も安心して過ごすことができる。
(写真左から)ウェルネス事業部の江尻裕子さんと近江晴圭さん

ターゲットは。どういった方に、どのように利用してほしい?
(江)働いている女性も、現在働いていない女性も、忙しい人ほどクリニックを利用しにくいというのが社会的な意味でも大きな課題になっています。なんらかのご事情で自分のことがどうしても後回しになっている方が、お買い物ついでに立ち寄っていただくことで、クリニックを利用するハードルが少しでも低くなったら、パルコという商業施設がやる大きな意味でもあると思います

(近)特に正社員雇用ではない女性(パート・アルバイト雇用、フリーランス、専業主婦)の婦人科検診受診率が低いという課題があることを知りました。会社に勤めていると健康診断と婦人科検診がセットになっていることも少なくないのですが、会社勤めでなかったり、勤務先の検診に婦人科検診がセットになっていなかったり。なにかと後回しになってしまっている方、優先順位が下がっている方にぜひ利用してほしいです。特に、自覚症状がなく、いまの不調の状態にご自身で気付いていない方(不調なのが当たり前だと感じている方)には、Welpaの存在がどうしても届きにくいと感じています。そういう方には、例えばKAMPOカフェに行ってみたいな、という理由でWelpaに来ていただき、そこで体質別に合う漢方茶に出会う、というような体験もしてもらいたいですね。そのついでに、病院があるということも知ってもらえたら(笑)。

(江)産婦人科ではもちろん、更年期への対応もしています。分からない方にこそ、まず相談しに来ていただきたいです。産婦人科にいきなり行くのに抵抗があれば、調剤薬局では無料で薬剤師さんのカウンセリングを受けることもできるんですよ。KAMPOカフェでも自分の体質にはどのメニューが適しているかというお話もしていただけます。

「3Dボディスキャナー」も、最初は興味本位だったとしても、測定していくなかで体のゆがみや実際の姿勢が可視化されて、確かにいつも右肩にバッグかけているなとか、日頃の習慣や姿勢に目を向けるきっかけになると思います。まずは、ご自分の身体や心に目を向けてもらえる第一歩になったらいいなと思います。

ちなみに、この「3Dボディスキャナー」は男性の方もお使いいただけます。現場のスタッフからも、ご夫婦、ご兄弟でご利用いただいているという話を聞いています。産婦人科では不妊治療も一部やっているんですけれど、男性不妊も対象になっているので、男性もご一緒にという利用の仕方もしていただけたら嬉しいです。男性にも女性と同様に、自分の身体のことや女性の身体のことを知ってもらいたいという思いもあるので。フェムテック専門店でも、まだまだ少ないですが、旦那様が奥様にギフトを購入されるということもあるので、そういった使われ方はすごくいいなと感じています。

3Dボディスキャナーでの計測の様子(実際はカーテンを閉めて計測)。
スマホと連携させ、パーツごとの細かいデータを確認することができる。

ラウンジには、ウェルネスをテーマにした本棚も


女性として、女性のための施設を作る際に苦労した点や特にこだわった部分は?
(近)私自身、すごく詳しくなりました。それまでは知らないことが多過ぎたのかもしれませんが(笑)。いまでこそ、婦人科系の検診は受けたほうがいいと思っていますが、この部署に配属されるまで、実は婦人科検診を受けたことがなかったんです。「きっかけ」をWelpaを通して啓蒙していきたいと思っています。

(江)私個人でいうと、リサーチは楽しくてどんどん広げたくなってしまうので、ユーザー目線を最後まで大事にしながら、それをどういう形にまとめていくかというのが大変でした。正直ラウンジもお金を産むスペースではないので、通常の不動産業の考え方からいえば一番にカットすべき場所です。経営者との会議でも、本プロジェクトはなんのためにやっていて、そのためになぜラウンジが必要なのかみたいなところはずっと伝え続けてきました。

(近)女性向けの施設を作るということで、女性として実際のユーザーでもある私たちだけではなくて、決裁者も知識が必要になります。他社さんでもあると思うんですけれど、決裁者に女性がいないことで話を進めていくことが難しいと感じたときもありました

(江)そういう点では、逆に言うと女性のスタッフとしては、自分の意見をいかに客観的な事実として伝えるかみたいなところが求められたと思っています。私はこうしたい、私だったらこれが嫌という個人的な意見ではなく、アンケートをとって実際の声を集めたり、デプスインタビューよる定性調査を行なった結果を踏まえて、客観的な事実としてお伝えして、だからこれが必要ですというロジックを作ることが必要でした。事業としてどうかという判断をするときには、すごくファクトが求められました

人気のドクターズコスメも多く取り揃える。
10階フロアの化粧室では、専用のアプリを登録することで、生理用ナプキンを無料で利用できるシステム「OiTr(オイテル)」を導入している。

みなさんにとってウェルネスとはどういうものか。
(近)私たちが今回提案するウェルネスは、医療と非医療の両方を提案する形になりましたが、人それぞれウェルネスの概念は違うと思うんです。ヨガを想像する人もいるし健康のことを想像する人もいるし、別に決まっていなくて、なんでもいいというか。

(江)ウェルネスの本来的な概念は心と体がいきいきしている状態ですよね。体のことだけではなく、本当は心の面でもウェルネスという意味でやれることがあると思うんです。今回のWelpaがウェルネス全域を網羅しているとは全然思っていなくて、「場」を持つということに対してのひとつの在り方というご提案なので、まだまだできることってきっとあると思っています。

ラウンジのなかに本棚を作っていて、その本棚のテーマをウェルネスにしたんです。そのときに改めて、ウェルネスってなんだろう、どこまでなんだろうと考えて、ある意味で言えばアートもひとつのウェルネスだと思いました。人の心を癒したり、心が潤うみたいな意味でいうと、ひとつのウェルネスに対するソリューションでもある。なのでパルコ出版のアートブックも置いているし、単純に健康知識本とかだけでなく、漫画とか絵本もあったり。結構「なんでもウェルネスじゃん」くらいの本棚になっています。ラインナップは、基本的にはWelpaの関係者、ご出店者様に選んでいただいている本と、パルコ出版とスタンダードブックストアの中川和彦さんに選んでもらっている本です。それぞれのコメントつきで、手にとって見ることができるんですが、選ぶ人によって全然視点が違うのがおもしろいです。私の個人的な施設の見どころポイントが、この本棚です。

江尻さんの見どころポイントでもある、ラウンジ内に設置された本棚。「ウェルネス」をテーマに選ばれた書籍はアートブック、絵本、漫画など多様だ。

「カルチャーブック」を活用したコンセプトの共有や出店者同士の交流がフロアを盛り上げる要因に


今回の医療モールの特徴のひとつが、インタビューにも既出のとおり、Welpaのコンセプトに共感した出店者が集まり、お互いにコミュニケーションをとりながら共同の企画なども打ち出している点だ。こういった出店者全体でフロアを作り上げることを可能にした要因のひとつが、Welpaに対するパルコの理念や売り場への期待をまとめた「カルチャーブック」WelpaのUX設計を担当したSOMPOホールディングス株式会社の野添真由美さんと共同で作成したのだそう。こちらをもとに、事前に出店者を集めてその思いを共有したという。

「野添真由美さんとは、もともと本プロジェクトのUX設計担当者としてご一緒していたのですが、理想的なUXを実現するためには、お客さまとの大切な接点となる各クリニックや店舗の方々に深くブランドを共感・理解して頂き、一緒にWelpaの文化を醸成していく必要があるだろうとの提案があり、カルチャーブックの制作をご依頼することになりました。また、出店者同士で名刺交換をしてお互いに交流をしてもらいました。やっぱり同じ女性に悩みに関わる者同士で、話したいことがたくさんあるんですよね。例えば漢方のお店の方は婦人科の先生とお話ししてみたかったり、クリニックの先生同士もお互いに情報交換したり。こうやって交流していきましょうと話しています」(ウェルネス事業部 森田幸介部長)。

(写真左から)SOMPOホールディングス株式会社の野添真由美さん、ウェルネス事業部 森田幸介部長。

Welpaのメッセージは、『じぶんを、愛そう。』。忙しい日常を過ごす方が自分を大切にするための時間を過ごせる場所でありたいと思っています。実際にご利用いただいている方の声も聞きながら、常に新しいご提案ができるよう、改善しつづけていきたいと思います」(江尻、近江)。

ちょうどフリーペーパー『metropolitana tokyo』の最新号では、「思いやりの基礎知識」と題して、ジェンダーギャップのある生理について巻頭特集が組まれていた。「フェムテック」はまだまだ始まったばかりだ。Welpaは、病気になったときだけでなく、日々のケアとして気軽に利用してもらうことで、自分の体の変化に興味を持ち、心身ともに心地よい状態でいられることを目指す。今後はギャラリーやラウンジを使っての外部企業とのコラボレーション企画なども検討しているという。


【取材・文:中矢あゆみ、堀坂有紀(『ACROSS』編集室)】 


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