渋谷〇〇書店
レポート
2021.12.27
ライフスタイル|LIFESTYLE

渋谷〇〇書店

誰でも本屋さんになれる!シェア型書店が渋谷ヒカリエに登場
“偏愛エコノミー”で作る新たなコミュニティのかたち

少し前の本誌のレポート記事(ビジュアルブック専門書店「flotsambooks(フロットサムブックス)」)でも伝えたが、出版不況を受け、日本全国の「リアル書店」は年々減少傾向にある。一方、新型コロナの影響で、「本回帰」「まちの書店回帰」の声も囁かれてはいるものの、都心店は相変わらず売り上げ縮小。さらにネット書店や電子書籍へのシフト、書籍の内容を朗読する音声サービス・オーディオブックの台頭など、書店をめぐる状況はなかなか厳しい。
 
その裏で、地道に店舗数を伸ばしているのが、個人や少人数で運営する個性溢れる「独立系書店」だ。2021年1月にオープンしたフェミニズムに関する本を手がける出版社の実店舗「エトセトラブックス」(新代田)、元書店員とミュージシャン2人組が店主を務める「百年の二度寝」(江古田)のほか、批評家や編集者など本のプロが選書する「双子のライオン堂」(赤坂)、棚貸し式の書店「BOOKSHOP TRAVELLER(ブックショップトラベラー)」(下北沢)など、旧来の流通システムに頼らない、店主のこだわりがつまった書店が存在感を増している。
 
店舗には次々と客が訪れ、平日の昼間でも賑わっていた。130の棚主の“偏愛”で満たされたこの書店には、既存の書店やネット書店にはないような本との出合いがあるのも魅力。

本屋の閉店が相次ぐ渋谷に誕生した、シェア型書店

巨大ターミナル渋谷駅のランドマークである「渋谷ヒカリエ」内に10月にオープンしたばかりのシェア型書店「渋谷◯◯書店(シブヤ マルマルショテン)」もその1つ。ひとり1人異なる”棚主”が好きな本を持ち寄り店番をして“共同で運営する”のが特徴で、既存の書店やネット書店にはないキュレーション力が最大の魅力だ。

場所はヒカリエ8階の「クリエイティブスペース8/」で、「Tomio Koyama Gallery(小山登美夫ギャラリー)」の跡地。さまざまなイベントが開催できる多目的スペース、ギャラリースペースのほか、ナガオカケンメイさんが手がける「D&DEPARTMENT」のミュージアムや食堂、メンバー制ワークラウンジ「MOV」などがある、カルチャーフロアだ。

白壁を活かした30坪弱の店内には、大きな金属フレームに約130の本棚(高さ37×37×32cm)を配置。どこでも出張可能な屋台自転車を使った企画棚、著名人などを招いたゲスト棚、本棚の裏側に隠れ家のような読書ブースを設置するなど、遊び心ある空間が広がっている。
 
BTSに沼落ちした会社員が運営する「ARMY」書店。ポップには「推し(BTS)が今日も生きている幸せ」の文字。関連書籍やメンバーの愛読書を紹介している。
本棚を見渡すと、BTS好きの会社員がBTS関連の書籍を集めた書店シリーズ本の1巻のみを集める書店上階の劇場「東急シアターオーブ」のファンによる上演関連書籍を扱う書店作家が自著やジンを集めた書店など、テーマやジャンルも多彩。小さくとも熱の込もった書店が集結する。棚主は主婦から会社員、ヨガ講師、元書店主や書店販売員など様々で、最年少はなんと5歳の女の子。哲学書の隣に絵本が並ぶラインナップは、同書店ならではと言えるだろう。

同店のテーマは「偏愛」。店名に“◯◯”を入れたのは、誰でも、どんな偏愛のジャンルでも対応できるような可変的な書店でありたいという想いから。「棚主さんに値付けしてもらうのですが、偏愛の思い入れによって元の2~3倍の価格のものもあります(笑)」と、同店の管理人で&Co.(アンドコー)代表取締役の横石崇さん。横石さんは2012年からヒカリエで国内最大規模の”働き方の祭典”「Tokyo Work Design Week(TWDW)」を主宰するなど、新しい働き方、コミュニティづくりをテーマにしたイベントや企画を数多く手がけてきた
棚主最年少!5歳の“あおちゃん”が運営する「あおちゃん書店」には、愛用していた絵本などが並ぶ。
「読む音楽書店」には、ミュージシャン関連の書籍がずらり。個人の偏愛を落とし込んだ本棚からは、それぞれのこだわりや頭の中身が見て取れておもしろい。

渋谷の競合はインターネットであり、ゲーム
Amazonとは対極にある、リアルな書店への思い

同店オープンの背景については、「渋谷の再開発に伴い本屋が減り、渋谷のカルチャーが細っていく感覚があった。ずっと渋谷駅前に本屋が欲しいと考えていた」(横石さん)。長年、渋谷に仕事の拠点を起き、学生時代から本や音楽をはじめ渋谷のカルチャーに影響を受けてきた横石さんにとって、若い人の”渋谷離れ”を感じていたこともオープンの動機になった。

渋谷の競合はインターネットであり、ゲーム。大学で兼任講師をしているのですが、昨今のコロナ禍もあって『渋谷に来たことがない』『渋谷は怖い』という学生も少なくありません若い人は渋谷に行くかわりに、MinecraftやFortniteをはじめとするメタバースの世界でカルチャーを作っている。だからこそAmazonとは対局にある、リアルに本と出会える場所を作りたいと考えました」(横石さん)。

常々、「渋谷に書店が欲しい」と周囲に話していたところ、今年頭にヒカリエの担当者から「それなら、横石さんやってみませんか?」と誘いがあったことが開店のきっかけになった。「やるなら一般的な本屋ではなく、みんなで作る新しい形の本屋を作りたい、新たなカルチャーを創るコミュニティの場にしたい」という考えのもと、シェア型の本屋に舵を切った。早速、全国の棚貸し書店をリサーチしてみたところ、すでに20店舗ほどあることを知ったという。
 
しゃがみこんでじっくり本を眺める人の姿も。棚の間にある小さな入り口の先には、まるでアジトのような小さな個室がある。
「書店という業態は薄利多売で、続けるのは簡単ではありません。けれど棚や運営をシェアすれば、各人にかかる金銭・時間などのコストが分散できる。例えばシャッター商店街の10万円の物件を借りて、棚主20人が毎月5000円出し合えば家賃が払える。初期費用はかかりますが、棚主が交代で店番をするので、人件費はいらないし、在庫も抱えない。利益を追求するのには向きませんが、サステナブルなしくみと言えます」(横石さん)。

その日の店番が自由にキュレーションできる企画棚や、店側がテーマに合わせて各棚から選書した本を並べるコーナーも用意。

月4,950円で本屋になれる!
棚主同士や、店に立って顧客と交流できる楽しみも

中でも店づくりのヒントになったのが、吉祥寺で2019年から続くシェア型書店「ブックマンション」だ。管理人は、元IT企業出身で無人古本屋「BOOK ROAD」(三鷹)を作った中西功さん中西さんは「日本列島、本屋さん増大計画」を掲げ、誰でも開店・運営しやすいしくみを作るためにシェア型書店をオープンした人物だ。実際に中西さんに話を聞きに行った横石さんは、その取り組みに共感してこのしくみを導入。中西さんには同店のアドバイザリーとして参画してほしいと依頼したという。

同店のシステムはというと、棚主は入会金(4,950円)と毎月の利用料(一棚4,950円/月)を支払い、1冊本が売れる毎に手数料として100円を店側に入れる。店番は3ヶ月に1度回ってくる。取り扱いは新本や古本、自費出版物などの書籍のみで、基本は店主と客の個人間取引。在庫の補充は棚主が行い、定期的に店側が棚の写真を共有して各自が補充する。棚主は店番としてお店に立ったり補充に訪れる際に、顧客と直接交流できる楽しみもある
 
取材時、長崎の自転車屋に依頼したという屋台自転車には、オープン記念企画としてD&DEPARTMENTのナガオカケンメイさんの選んだ書籍を展示。
オープンにあたっては、8月からクラウドファンディングで開業資金を集め、約1カ月間で74人から目標額を超える約114万円の支援を受けた。130の本棚はクラウドファンディングの支援者で半分以上が埋まったが、それ以降も多くの応募があったため、現在は新規受付を一時休止中という人気ぶりだ。

こうした”利益度外視”のプロジェクトに多数の応募が集まる理由について、「自分で選んだ本が売れること、偏愛が誰かに共感されることは他にない体験。実際に偏愛をテーマに書店名を作り、本を選ぶことは、自分の人生や働き方に密接にリンクしていると思います。棚主同士やお客さんとの交流を楽しみにしている方も多いですね」と横石さん。

支払いを現金のみにしていることにも理由があり、リアル店舗とインターネットとの差別化を図りたいという意図から。効率化が重視される現代において、”不便さ”や”めんどくさいこと”は貴重であり、会話やコミュニケーションが生まれるきっかけにもなる。実際に若い人からは「その体験が面白い」という声も聞かれるという。
 
「物語は、1巻からはじまる」と、シリーズ本の1巻を揃えた書店も。

個人の『偏愛』こそが社会を前に進める原動力に
偏愛の聖地・渋谷から、偏愛が循環する”偏愛エコノミー”を発信

 中西さんから影響を受けたのは、棚主に任せること。棚主が自ら考えながら”個(小)商い”をしていくこと、それぞれの棚にファンがついて、スモールコミュニティが生まれていくのが理想です。コミュニティマネージャーの視点でいくと毎日その場に行ったり、主催イベントを打ったりしがちですが、自分は裏方に徹して店には行かないようにしています」(横石さん)。

テーマを「偏愛」にした理由は、組織や企業から個(個性)の時代に変わるなかで、「個人の『偏愛』こそが社会を前に進める原動力になる」という考えから。他人から見たら少しいびつに見える偏愛も、書店であれば多様な偏愛を共存させることが可能だという。

「偏愛は普段閉ざしがちですが、世の中に発信することで、誰かを助けたり社会の役に立つこともある。だからこそ、偏愛の聖地である渋谷から、偏愛が循環する”偏愛エコノミー”を発信していきたい。『渋谷◯◯書店』が、偏愛を世の中に開くきっかけになれば嬉しいですね」(横石さん)。
 
棚は箱ごとに入れ替えることができ、その他の什器もこちらのようなリヤカー型や自転車型で移動が可能。
鉄のフレームと温かみのある木箱のコントラストが印象的な空間の設計は、スキーマ建築計画出身の建築家・デザイナーの林昂平さん。130の本棚は出し入れや入れ替えができ、中央の企画棚も移動が可能。レイアウトを変えることで様々なイベントや展示に対応できる。「イメージはかつて渋谷にあった”闇市”。若い人が個性を生かしてチャレンジできるような令和の闇市、”個(小)商い”のコレクティブを増やしていきたい」と横石さん。

客層は10代の学生から60代まで幅広く、電車の中吊り広告やテレビ番組、新聞などを見て訪れる人も多い。学校帰りの高校生や大学生のほか、ヒカリエに訪れる会社員勤めの女性、シアターでの観劇帰りの客、同フロアにある区民サービスセンター帰りのお年寄りの姿もあり、「渋谷なのに長居しやすい」という好反応も多数ある。
 
同店の管理人で&Co.(アンドコー)代表取締役の横石崇さん。「マニュアルのような『形式知』ではなく、偏愛のような『暗黙知』(言語化されていない主観的な経験値)からイノベーションが生まれる」という考えのもと、企業等に不定期で「偏愛」にまつわるワークショップも行なっている。一人ひとりの偏愛を見つめ直す作業を通して、個性を生かして自分らしい働き方・生き方ができる社会を目指しているとのだという。

消費者は、消費の次のステップに進んでいる

「おかげさまで、予想を上回る売れ行きです。書店として常に魅力的な本を提供していくことも今後の課題ですね」(横石さん)。コロナの感染拡大が広がる中、大型商業施設でシェア型書店を展開するという初の試みに当初は不安もあったが、顧客や棚主からの予想以上の反応に、手応えを感じているという。

商品であると同時に、本が個を表現し、他者と共有するためのコミュニティツールとして機能する「渋谷○○書店」。全国各地でリアルな場所やコミュニティが縮小する中で、商業施設における新しい店づくりのあり方に挑戦し、地域活性やコミュニティ形成の視点からも注目される。今後はコロナの状況を見ながら、オンライン配信ライブやイベントなど、スモールコミュニティを醸成する催しも開催予定。他エリアの商業施設などにも展開し、全国に『偏愛ネットワーク』を作っていきたいという。

「消費社会が進むなかで、消費者が消費の次の段階に行こうとしているように感じます。孤業化や孤独化に伴って、孤独を解消するコミュニティのような、消費から見たら”無用なもの”が街には必要なのかもしれません」(横石さん)。
 

【取材・文=フリーライター・エディター/渡辺満樹子】 


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