渋谷COP
レポート
2021.11.10
ワールド|WORLD

渋谷COP

若者たちによって開催され、日本の環境省も公認の、
地球温暖化対策を考えるイベント

COP26(国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議)が、10月31日から11月12日まで、イギリスのグラスゴーを会場にはじまった。今回の参加国は現在195。米国のバイデン大統領や、日本の岸田首相を始め、約120カ国から首脳陣が集まり、世界の気温上昇幅を、産業革命から1.5℃未満に抑えるための方策についての話し合いが行われている。
今年はCOPに先立ち8月に、IPCC(国連の気候変動に関する政府間パネル)という、世界195か国・地域の科学者らが参加する機関が、温暖化の原因が人間活動であることは「疑う余地がない」と初めて断定したため、注目が高まっている。
COP26(国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議)ロゴ

COP26が延期となった昨年、世界中の若者たちによって Mock COPが開催された

COPという言葉に耳馴染みは無くても、「京都議定書」(COP3で採択)とか「パリ協定」(COP21で採択)という言葉は、聞いたことのある人が多いのではないだろうか。COPは1995年を第1回として、基本的に毎年開催されているが、昨年開催されるはずだったCOP26については、世界的な新型コロナウィルス感染拡大の影響で今年に順延になったため、今回は2年振りの開催となっている。

そんな中、「温暖化の危機が待ったなしなのに、COP26が開催されないなんて!」と、世界中の若者たちによる問題提起が起こり、オンライン上で開催され、注目されたのが、模擬会議「Mock COP」
だった。
Mock COP(若者たちの疑似的な国連気候変動枠組み条約締約国会議)ロゴ
Mock COPは本家に迫る140か国330名の若者が参加。気候変動の影響を直接受けている南半球の人の声を積極的に拾うために、国の代表も北半球は1国あたり3名まで、南半球は同5名までとし、投票ポイントもそれに準じた上で、「気候変動教育を義務付けること」や「INDC(気候変動移管する目標づくり)の決議の場に若者を入れること」等の18の政策を策定し、COP26と各国首相に提言したのである。
その様子は250もの取材記事になり、「#MockCOP26」へのアクセス数は240万を超えたそうだ。

マナさんと渋谷COP

このMock COPには8人のグローバルコーディネーターがおり、そのうちの1人、アジア担当が、佐座マナさんだ。

マナさんは、カナダのブリティッシュコロンビア大学(UBC)を卒業後、ロンドン大学大学院 サステナブル・ディベロプメントコースに進学。在学中だった昨年7月、新型コロナのため一時帰国したが、イギリスの、持続可能性に焦点をあてた学生主導の教育慈善団体「SOS-UK」に、「Mock(模擬) COPが開催されるので、アジア代表にならないか?」と誘われて、引き受けることになったそうだ。
COP26の渡英前に取材に応じてくれた佐座マナさん。「Mock COPメンバーとオンラインではなく、初めてリアルで会えるので楽しみ!」と語ってくれた。
近年、大学と学生団体の連携による国際協力事業等の分野での実践型学習プログラムが世界各国で盛んになっているが、まだ日本ではなじみが薄い。マナさんは、「Mock COP」の活動を通して、「日本には気候変動の情報が少ないこと(専門家向けのものしかない)」「未来を決める場に若者が入れていないこと」「世界に出ていける(見渡せる)人が少ない」と思い、国内への啓蒙や改善の働きかけの必要性を感じたため、一般社団法人SWiTCHを立ち上げた。

今回のCOP26には、マナさんは日本ユース代表6名のうちの1人として渡英し、日本パビリオンでのシンポジウム(11/5「東京大学の“Race to Zero”への参加:学生との対話」等)に登壇したり、取材活動をするなどしているが、同時に日本では、SWiTCHの活動に賛同したコアメンバーらにより、「渋谷COP」というイベントがスタートした。

渋谷COPのオフィシャルサイトを見ると、「渋谷COPと繋がる若者団体たち」として、「Climate Youth Japan」「Fridays For Future Japan」
を始めとする、日本で活動する16の若者団体が名前を連ねている。この16団体の会員数+フォロワー数の合計は、10月4日現在で52,097人になるという。
渋谷COP開催に先立ってオンライン行われた記者会見。左から、一般社団法人SWiTCH代表理事の佐座マナさん、サステナブルアーティストのLEMIE.さん、渋谷区の長谷部区長、東京大学農学生命科学研究科の鳥井要佑さん、微生物多様性を高める事業を行う株式会社BIOTA代表取締役の伊藤光平さん、株式会社パルコの泉水常務。
また、後援には環境省、東京大学One Earth Guardians育成プログラム、東京大学大学院農学生命科学研究科・農学部の名前が並び、協力にはパルコ、GAKUソーシャルイノベーションウィーク(SIW2021)等が名を連ねており、現在も協賛企業や団体を募集している。

10月27日に開かれた記者会見では、文部科学大臣(撮影当時)の荻生田光一氏、メディアアーチストの落合陽一氏、環境省事務次官の中井徳太郎氏もビデオメッセージを寄せた。
「準備期間約2か月」(マナさん談)でスタートした渋谷COPだが、色々な形での賛同の輪が広がっている。

オンラインで体験できる、アートと学びの渋谷COP

渋谷COPの企画は主にオンライン上で行われ、オフィシャルサイトでは日替わりで、サステナビリティをテーマにした作品を発表しているアーティストが紹介されている。
ヘイデン・ウィリアムズさんの、気候変動によって水没する未来を描いた「World Underwater」という作品
ハナ・ミノワさんの、縄文式土器をテーマに自然の素材を使って、保存のプロセスをコンセプトにした「Né (根)」という作品
また、11月1日、7日、13日にはトークセッションの生配信が行われる(アーカイブもアップされる)。行政の方や大学の先生、サステナブル活動をされている方など、若者から大人まで、様々な登壇者が対等な立場で語り合う。
11月1日は4部構成で、「都市における生態系の構築と定量的評価」「若者だからできるサステナブル&イノベーション」「服のリサイクルから見える、資源の循環のみらい」「学生と環境省事務次官で考える地球環境のおはなし」のテーマで話し合われた。
11月7日は3部構成で、「次世代サステナブルファッションとは」「アパレルのサーキュラリティとレスポンシビリティを考える」「洋服を『ゴミ』から『資源』に繊維の廃棄物から紙を作り活用するプロジェクト」がテーマとなった。
11/13は2部構成で、「教えて!サステナブル先生」と「アニメーションでつなげる。『リニア』から『サーキュラー』な未来へ」がテーマ。
そして、12月上旬には、「SFプロトタイピング」という手法を使ったワークショップを行い、それをもとにした「2050年の未来像」を渋谷区長へ提言することも予定されている。
(それに先立ち渋谷COPの特設ページでは、「来て欲しい未来のビジョン」を一般から募集している)。

なお、10月27日の記者会見では、一見穏やかな海で朗読する水着姿の女性の映像も上映された。そしてマナさんは、次のように語った。
「彼女はソロモン諸島出身者でMock COPの私の仲間です。彼女が立っているのは海の中ですが、実は彼女はソロモンのケール島の上に立っているのです。ケール島は彼女の出身地ですが、気候変動の影響を受けて海面が上昇し、島がなくなってしまい、帰る家が無くなってしまいました」
マナさんのMock COPの同僚でもある女性が立っているのは、かつて自分が育った土地。動画の最後には、 海面からちらっと小さな物体が映る。それが島で唯一、今でも海面上にある木の幹なのだそう。

リアルで触れる渋谷COP

マナさんが代表を務めるSWiTCHには、ロンドン芸術大学でサステナブルアートを学んだメンバーによる、SWiTCHデザインチームもあるそうだ。

「渋谷COP」期間中は、このデザインチームが手掛けた作品などが、渋谷パルコの4階に設置される。トルソーに着せられているのは、古着をアップサイクルしたもので、オンラインストア「ACT 1.5℃ STORE」で実際に購入することも可能だそうだ。
渋谷パルコ4階のエスカレータ横に設置された、渋谷COPのディスプレイ。
古着をアップサイクルしたファッションのコーディネイトを手掛けたのは、アーティストの小林ななこさん。登壇された、渋谷COP 11/1第3部のトークセッション「服のリサイクルから見える資源の循環のみらい」会場のGAKUにて。押し花やレース、糸などを型染めという技法でプリントし、アップサイクルした商品は、まさに一点物。
「このワンピースは、友人のユウショウ コバヤシ君とコラボしたもの。布地を送ってもらって私が染めました。最近は友人がデザインした服を買って大事に着るか、あとは古着ばかりです。ロンドンに留学してから古着を着る習慣がつきました。チャリティーショップという寄付とボランティアで運営されている店があちこちにあって、安くて可愛いんです。」

なぜ「渋谷」COPなのか

マナさんが日本で拠点としているのは実は吉祥寺PARCO内のコワーキングスペースSKiiMAだ。渡英直前のマナさんに話を伺った。

今回、なぜ「渋谷」COPなのか? 「世界中の人が日本で知っている街の名前が渋谷です。日本国内でも若者の街として知られています。そしてダイナミックに変化していて、新しい価値観、新しいファッション、新しい時代を作る、とってもシンボリックな街だと思います。未来を担う都市として、渋谷を拠点と位置づけることにしました。」(マナさん)
「コロナが無ければ日本に帰ってくることは無かったと思います。国際機関に入ってサステナブル開発の仕事をするつもりでした」と言うマナさん。「でも色んな人と関わる中で、自分が奇しくも日本に戻ってきたことを活かさないといけないと感じました」
「渋谷COPには、サステナブルという言葉を知らなかった人や、活動し始めた人、SDGsも環境配慮も30年以上やっている人など、色んな人が集まってくれています。日本人は完璧主義なので、自分のやれることなんて無いと思いがちな気がします。でも本当はやれることはたくさんあります。日本人の完璧主義をマインドセットできればと思っています。
世界の人をどうにかしようと力むより、自分はどうあるべきかだと思います。自分のことを大切にすることが、相手のことを大切にすることに繋がっていくのだと思います。」(マナさん)

【取材・文:船津佳子(『ACROSS』編集部)】


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