大きく進化した「心斎橋パルコ」、大阪の地に復活!
レポート
2020.12.30
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大きく進化した「心斎橋パルコ」、大阪の地に復活!

約9年ぶりの復活を遂げた「心斎橋パルコ」
インバウンド需要が消えた街に賑わいを取り戻せるか

心斎橋PARCOのグランドオープンから約1ヶ月が経った。1991年から20年間営業し、2011年に惜しまれつつ閉店した心斎橋PARCOが、約9年ぶりに心斎橋に戻ってきたかたちだ。新たな出店地は大丸心斎橋店北館跡。199月に大丸心斎橋店が建て替えオープンしたのに伴い閉館した北館を全面リノベーションし、1120日に開業した。パルコとしては全国で18店舗、19年にオープンした渋谷PARCO、名古屋PARCOと並ぶ基幹店の位置付けだ。地下2階〜地上14階の16フロアに、ファッションから飲食まで170店舗が出店する。

心斎橋筋商店街側の入り口にできたオープンを待つ行列。「アンダーカバー」や「サカイ」などの限定アイテムを求める20代男性の姿が目立った。
 新型コロナ感染が一向に収束する気配のないなか、オープン後4日間は事前予約制が採用された。オープニングセレモニーも派手な演出は控え、静かな幕開けとなったが、来店客からはパルコに対する期待の大きさが伝わってきた。

大学でファッションを学ぶ男子大学生はプレオープン初日に訪れ、開店前から胸を高鳴らせていた。

「昔の心斎橋PARCOは知らないけど、渋谷PARCOはおしゃれなイメージがあります。ニュースを見て心斎橋PARCOもそんな店なのかなと。ギャルソンやサカイが好きなので、普段は阪急メンズ館や路面店で買っているけど、これからはココも利用しようと思ってます」。

“アーケードのへそ”として地域とともに成長する施設

旧心斎橋PARCOは、現在H&M心斎橋店が入る心斎橋ゼロゲートにあった。11年の閉店前は16階までロフトが入っていたせいか、ファッションビルとしてのパルコのイメージは希薄になっていた。かつて通っていたパルコ世代のなかにも、閉店すら知らなかったという人もいるのではないだろうか。

2017年には滋賀の大津PARCOが閉店。関西にはパルコを知らない世代が増え、同時に、心斎橋は訪日外国人が闊歩する街へと変貌してしまった。

そんななか復活を遂げた「新生心斎橋PARCO」には、心斎橋の新たなランドマークとしての期待が高まっている。コロナ禍でインバウンド消費が消滅し、街から賑わいが失くなった心斎橋に再び、人を呼び戻したい。地元商業者の共通した思いが、心斎橋PARCOの開業を後押しし、当初予定より早いオープンとなった。

9年ぶりの復活を果たし、オープンの挨拶をする(株)パルコ牧山浩三社長。
オープニングセレモニーには広告ビジュアルに出演した俳優の池松壮亮とアーティストのコムアイが登場。コロナ禍での式典は混乱を避けるため館内で行われた。

パルコ業態の空白地区である心斎橋への出店は、J.フロントリテイリンググループが進めるアーバンドミナント戦略においても重点エリアと位置付けられている。オープンにあたってJ.FRの好本達也社長は「持続的成長のためには地域とともに成長していくことが不可欠」といい、パルコの牧山浩三社長も「大阪人が好きなアーケードのへそとして、地元と連携しながら進化していきたい」と、地域とのつながりの重要性を強調した。 

そのためには、地元客がわざわざ足を運びたくなるような魅力的でインパクトのある施設であることが求められる。パルコが得意とする冒険性の表現や刺激の創造をいかにしていくか。そのモデルとなったのが新生渋谷PARCOだ。パルコらしい先鋭的な売り場と仕掛けが満載の渋谷PARCOは、ファッション好きやサブカルオタクの支持も得て、好調なスタートを切った。心斎橋PARCOはその成功モデルを導入。隣接する大丸心斎橋店本館とは地上9フロアで接続され、それぞれの強みを融合することでシナジー効果を狙う

「デジタル時代にリアル店舗の心斎橋パルコにあえて行きたいと思ってもらえる要素をいかに作れるかがポイント。関西ではここにしかないアートとバーチャルを含めた情報提供が心斎橋PARCOの役割」と牧山社長は話す。

ファッションはもちろんアート、カルチャーの発信拠点としても注目される「心斎橋パルコ」。館内に設置された多数のパブリックアートも見どころだ。斬新なタイポグラフィが目を引くスタッフコートのデザインは1階に入るヨウジヤマモトの「グラウンド ワイ」が担当。
地下1階エントランスには、パルコの五十嵐ロゴ「P」とVERDYオリジナルキャラクターが融合した作品も。ぜひ各階に潜む様々なアート/フォトスポットを探してほしい。

ファッションはラグジュアリーからストリートまで。大阪カルチャーの発信も

渋谷PARCOでは、エッジの効いたファッションフロアが印象的だが、心斎橋PARCOではラグジュアリーからモード、ストリート、セレクトまで幅広く展開。高感度ファッションを前面に打ち出しつつ、手頃で着こなしやすいブランドもミックスしたコンパクトな売り場となっている。ファッション好きの男女からOLキャリアまで対応したバランスのいいラインナップだ。  

ラグジュアリーモードを集積する1には、「メゾン マルジェラ」の旗艦店をはじめ、関西初出店の「グラウンドY」「ポーター エクスチェンジ」、心斎橋初の「サカイ」、メンズ、ウィメンズ複合の「バオ バオ イッセイ ミヤケ」などが軒を連ねる。

関西初出店を果たした「カラー」と「ファセッタズム」。鉄骨やケーブルがむき出しになった建設現場のような「カラー」の内装デザインは谷尻誠氏が担当。

ラグジュアリー・ジャパンモードを集積する2階には「カラー」「ファセッタズム」が関西初出店したほか、「エンポリオ アルマーニ」はカフェ業態の2号店を併設。渋谷PARCOで話題となった新形態のスタジオ「2G」も2号店を出店した。店名にパルコを作った増田通二氏へのリスペクトを込めた2Gは、ベアブリックで有名な「メディコム・トイ」とアートギャラリーの「ナンヅカ」、ファッションキュレーターの小木ポギー基史が協業し、物販とアートの提案を行う。126日までは、伝説的アーティスト、空山基氏の作品「セクシーロボット」を展示。空山氏が製作したベアブリックはオープン早々に完売した。

心斎橋PARCO内の「心斎橋大丸」エリアには「心斎橋大丸 グッチショップ」が2フロアで展開。西日本で唯一、インテリア・ライフスタイル雑貨を展開する「グッチ デコール コレクション」を取り扱う。
渋谷PARCOに続く「2G」2店舗目となる「ツージー オオサカ」。輝くロゴは渋谷のシルバーに対して、大阪はゴールドにアレンジ。

2Gの隣りで和室のようなぜいたくな内装がひときわ目を引くのが、大阪・中崎町を拠点にビンテージとモードのセレクショップを展開する「ゴッファ」の新業態「Q。「ここでしか買えないこだわりの服を大人の男性に提案したい」という、西原正博代表のファッションへの思いが凝縮した店だ。

20㎡の店内は、テーラーを主体にビンテージとインポートブランドのセレクトなどで構成。ビスポークテーラーの「サルトリアラファニエロ」やビスポークシャツメーカー「レスレストン」、伊ビスポークシューメーカー「マリーニ」に依頼した同店限定の既製品が注目を集める。神戸北野のビンテージ眼鏡専門店「スピークイージー」もショップインショップで出店。著名ブランドが居並ぶフロアのなか、西原代表は「密度と濃さを提供していきたい」(西原氏)と意気込む。

オーナーのこだわりを凝縮したという大阪発の「Q」は、プレオープンやレセプションパーティーでもひと際顧客を集客し賑わいをみせた。インショップとして神戸のデッドストックビンテージアイウェア専門店「スピークイージー」が入居。壁には今回のために特別に探してもらったというシャルロット・ペリアンの棚が備付けられている。
2003年・中崎町「フェザーズゴッファ」からスタートし、現在大阪に3店舗、東京に2店舗を構える「Q」代表の西原正博さん。自身や顧客の成長に伴い30~40代以上にも対応できるショップをと、テイラードやビスポークの分野に進出したという。

東京発ファッションやカルチャーだけでなく、Q」のような関西初のブランドや企業、クリエーターが各フロアを盛り上げているのも心斎橋PARCOの特徴といえるだろう。

1階のシャッターデザインを大阪のクリエイティブ集団「グラフ」が手掛けたほか、大阪を代表する老舗喫茶店「丸福珈琲店」とコミュニティ創出書店「スタンダードブックストア」によるコラボ店舗の内装は、大阪の「インフィクスデザイン」が担当。9階「東急ハンズ」には、大阪の老舗文具メーカー不易糊工業が販売するどうぶつのりキャラクター「フエキくん」の専門店「フエキショップ」が全国初出店した。9階では道頓堀出身のイラストレーター、黒田征太郎氏が32年前にパルコのイベントのために描いたポスターを見ることができる。

213月開業の地下2階「心斎橋ネオン食堂街」には、マジックバーやアメ村の異次元空間バーなど大阪ならではの強烈な個性を放つ飲食店が並ぶ予定だ。 
昭和9年開業の大阪の老舗珈琲店「丸福珈琲店」の新店舗には「スタンダードブックストア」店主が選書した本が並ぶコラボレーションスペースもあり。
9階「東急ハンズ」内の「フエキショップ」は、どうぶつのりキャラクター「フエキくん」グッズを多数取り揃えたショップ。どうぶつ容器にソフトクリームやアイスクリームを入れてくれるショップ限定スイーツも。

サブカルオタクが注目するアート展とジャパンポップカルチャー

館内随所に配置されたパブリックアートや渋谷PARCOなどで人気を集めたアート展に触れられるのも、アート好きにはうれしいところ。14階の多目的スペースとホールは、渋谷発の演劇や映画、音楽、アート、カルチャーなどパルコの文化的情報の西の発信拠点と位置付けられる。オープニングイベントとして、渋谷の現代アートギャラリー「ナンヅカ」のキュレーションによるグループ展JP POP UNDERGROUND」と「MR.BRAINWASH EXHIBITION LIFE IS BEAUTIFUL”」を開催12日〜27日は、渋谷PARCOで好評を博した展覧会「 SCHOOL OF WACK」が開催される。

さらに、12階吹き抜けの「滝の広場」には、先ほど触れた空山基氏の「セクシーロボット」の展示や、14階と地下1階の吹き抜けには渋谷パルコでも人気のあるARを活用したバーチャルインスタレーションアートの展示も。最新のテクノロジーによるアートを体験できるのも、デジタルに取り組むパルコならではの楽しみ方だ。

14階の特設ステージではオープニング企画「心斎橋クラブクアトロ3DAYS限定復活LIVE」を開催。閉店後の店内でGEZAN、SHINGO★西成のライブパフォーマンスや、オカモトレイジのDJなどで盛り上がりをみせた。
オープン記念として12-14階の吹き抜け「滝の広場」に出現した高さ7mもある空山基氏の作品「セクシーロボット」(2021年1月中旬まで設置予定)。オープン行列には「わざわざこれを見に来た」というアートファンの学生もいたほどファン垂涎の作品だ。

アニメファンはもちろん、小さな子供のいるファミリーには必見のフロアが、ゲームやアニメコンテンツを集積した6階「ポップカルチャーシンサイバシ」。「ゴジラ・ストア オオサカ」や「カプコン ストア オオサカ」「刀剣乱舞万屋本舗」など関西初登場が5店舗もあり、まさにジャパンポップカルチャーの西日本の拠点といえる。当初はインバウンド集客の目玉でもあったが、大丸心斎橋店本館9階「ジャパンポップカルチャー」との連動で、今後は国内アニメファンの取り込みが期待できそう。

大丸心斎橋店との連動により、テナント構成も渋谷パルコとは異なる。ファッション物販の比率を抑えた分、型インテリアや日用雑貨などステイホームに対応したフロアを拡充。渋谷PARCOにはない新たなサービス機能も加わった。

6階はアニメやゲームコンテンツを集積した「ポップカルチャーシンサイバシ」。大阪ならではのオリジナル巨大モデルがもてなす「レゴストア」や、関西初出店となる「カプコンストア」、「ゴジラ・ストア」も。

共創空間めざすパルコ初のワーキングスペース「スキーマ」も登場

 パルコが新規事業として手がける初のコミュニティ型ワーキングスペース「スキーマ」は、ファッション専門店が並ぶ4階に出店。クリエイティブ志向の人を主なターゲットに、ギャラリーやライブコマースが可能な配信スペースを併設している。コンセプトは好きと好きの間にとし、ヒトとモノがあふれる空間のなかで好きなことを磨き、仲間とともに好きを形にできる共創空間をめざすという。
「スキーマ」にはギャラリーを併設。随時、展覧会やポップアップショップを開催しており、クリエイターたちの交流の場にもなりそうだ。利用料はドロップインが1,000円/2h、2,000円/1日、フリーアドレスは25,000円/月など。個室プランや固定席プラン、ミーティングルームの利用もできる。

スキーマを開発した同社ワーキングスペース事業部の松井睦部長は「商業施設の中なのでノイズは多いですが、いろんなインスピレーションが生まれたり、アート空間で美意識が磨かれたりします。ギャラリーで展示会やポップアップショップを開いて情報発信でき、専門SNSでつながると仲間に相談できたり、助言を得られたりする。好きな仲間が集まることでおもしろい化学反応が起きることを期待しています」と話す。

ショップオーナーらの個人的なコレクションを展示する「コレクションブース」は、感性が刺激されるユニークな取り組みだ。

「スキーマ」の「コレクションブース」には雑貨やおもちゃ、アート作品などショップオーナーらのこだわりが詰まったコレクションが並ぶ。一部アイテムはパルコの通販サイトでの販売もあり。
プレオープン時には「スキーマ」から越境ライブコマースのライブ配信が行われ、対中国向けのビジネス支援を行う「LIAN」とのタイアップでインフルエンサーが化粧品やバッグなどを販売。参加数は延べ1万2000人にも上ったという。翌日は「ノースフェイス」や「グラウンド ワイ」などの店頭からもライブ配信を行った。
 心斎橋PARCOの緒方道則店長は、同店の売り場作りの狙いについて「大丸とパルコの2館をひとつの施設として楽しめるようラグジュアリーとコスメ、食もしっかり充実させました。百貨店の既存客はもちろん、これまで心斎橋で取り込めていなかった3040代を集客することで地域の吸引力ができれば」と話す。

 大阪では、梅田を中心とするキタエリアと、難波を中心とするミナミエリアで地域間競争を繰り広げてきた。2000年代以降、「うめきた」を中心とする大型再開発で活気づくキタに対して、ミナミは大阪文化の発信地としてインバウンドの恩恵を受けてきたが、コロナ禍で先の見えない状況はぬぐえない。まさに逆境下でオープンした心斎橋パルコだが、そのチャレンジングな取り組みが街や人を元気にする原動力になることを願っている。

【取材・文=流通ライター/橋長初代】

 

心斎橋PARCOには1981年に五十嵐威暢がデザインしたパルコのネオンサイン「A」と「O」が展示されている。ちなみに「P」「R」「C」は渋谷PARCOにあるのでコンプリートも可能だ。


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