ACROSS海外レポート:「NYCオープン・レストランツ」
レポート
2020.07.07
ワールド|WORLD

ACROSS海外レポート:「NYCオープン・レストランツ」

ロックダウンと、ジョージ・フロイド事件とマンハッタン

経済再開の「フェーズ2」で注目される、飲食店と路上の新しいかたち

この数ヶ月の間にニューヨークでは本当に多くのことが起きた。時系列に振り返りつつ、経済再開の「フェーズ2」について、NY在住20年以上のコンサルタントYoshiさんからのレポートしてもらった。


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“BLM(Black Lives Matter)“NYCマンハッタン、ダウンタウンのブロードウェイ。
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略奪後にマンハッタンのダウンタウンからゴミ入れが一時的に消えた。
火をつけて火災が起こらないようにするためだそう。

“PAUSE(一時停止)”の後に起こった、
“BLACK LIVES MATTER”。


新型コロナウィルスの感染抑制を目的として、ニューヨーク州知事が
「PAUSE (一時停止)」を発令したのは3月22日のこと。食料品店など生活に必要不可欠なビジネス以外の営業を停止し、住民には不可欠でない限り外出を控えることを厳しく求めた。その結果、日常生活が制約されることや感染を恐れたニューヨーク市内の裕福な地区に住む人たちが郊外や別の州へと避難したことで(注1)、マンハッタンの中心部ではひと気のない静けさが続いた。

5月なって徐々にレストランがテイクアウトでの再オープンを始め、少しずつ人が通りに戻り始めたところに、5月25日に警官によるジョージ・フロイド殺害事件が勃発。市内で抗議デモが爆発的に広がり、静寂を破った市内の通りは一転して数万人が昼となく夜となく埋め尽くすことになった。

その週末には抗議運動に便乗してソーホーやミッドタウンの小売店を襲撃する略奪が相次ぎ、ニューヨーク市は戦後初の夜間外出禁止令を発令(注2)。大幅に増員した警官による厳重な取締りの下、通りから人の姿が再び消えて重い静けさが支配したことで、営業を再開しつつあったレストランはドアをまた閉じてしまった。

ストリートの空気感が刻々と変わり続ける一方、市内での感染者数は着実に減少傾向に。6月8日には正式な再開の最初の段階となる「フェイズ1」に入ることが発表され、一部の小売店(店内に入ることはできない)や建設業が仕事に戻った。

そして6月22日には再開の「フェイズ2」に移行。伸びた髪をようやく切ることができるようになり、また、店内に入る顧客数を制限しながらも小売の営業が本格的に再開し、一部の人がオフィスに戻ることになった(注3)。

かつて午後7時にあちこちのアパートの窓から聞こえてきた、医療従事者に感謝と称賛の意を伝える拍手はもうあまり聞くことはない。感染者が減り、医療従事者の負担も軽減されたということなのか、それとも、仕事に戻り始めた人たちはもうそれどころではないというわけなのか。あるいはまた、地下鉄など通勤手段の十分な対処を待たずに経済の再開に踏み切ったことで、「フェイズ1」の再開初日にパンデミック以前の水準を超える自動車が通りに溢れることになったことでの騒音が拍手の音を上書きしてしまった、のかもしれない。

いずれにせよ、3月に一時停止したニューヨークが6月、ようやく動き始めたことになる。

*注:

1. ソーホー、アッパー・イースト・サイド、アッパー・ウェスト・サイドなどのネイバーフッドでは、住民の40%が避難していると推計されている。 


2. ニューヨーク市が最後に夜間外出禁止令を発令したのは1943年。ハーレムで白人の警官が黒人兵士を撃ったことに端を発する住民の反乱や略奪に対応したものだった。


3. 調査によると、マンハッタンにオフィスを構える企業のうち、8月半ばまでにオフィスに戻す従業員は10%相当とされている。



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車道に席を設置したレストラン。

経済再開の「フェイズ2」は、
NYC Open Restaurantes(オープン・レストランツ) から。


再開の「フェイズ2」で注目されているのはレストランとバーの本格的なオープンだ。なにしろ飲食業は3ヶ月近く営業を停止していたわけで、すでに再開ではなく店を畳むことを選んだところも少なくない。クレジット・カードの支払さえ受けつけないオールド・スクールぶりがそのビジネスのアイデンティティでもあったブルックリンの老舗ステーキハウス、「ピーター・ルーガー(Peter Luger)」でさえデリバリーを始めて多くの人を驚かせたことは、どんな店も手段を選ばず生き残りを懸けざるを得ない、その台所事情をあからさまに伝えることになった。

「フェイズ2」への移行の直前に、市は「NYCオープン・レストランツ(NYC Open Restaurantes)」のプログラムを発表した。店舗前の屋外の歩道と車道の駐車レーンに飲食の席を設置することを許可するもので、テーブルの間は6フィートの距離をとり、席についていない時には客はマスクなどで顔を覆うことが求められる。

店内での飲食は7月6日に導入される「フェイズ3」で解禁になる予定だったものの、フロリダ州など米国各地で感染者数が急増している背景に、レストランの店内での営業再開が早すぎたとの見方があることから、ニューヨーク市内での屋内の飲食は再開直前に一転。無期延期となった。
 
屋内での飲食が不可能になったいま、“屋外での飲食“は飲食業に唯一残された生き残り策として期待されている。屋外のスペースを利用することで社会的距離をとることが可能になり、屋内よりも感染リスクが小さい効果もある。

食事することが即ち屋外に座ることを意味することになるわけだから、「フェイズ2」の導入と同時に、いやその数日前から、待ちきれないとばかりに市内あちこちの歩道と車道に即席の“レストラン・スペース“が立ち上がり始めた。市の運輸局によると、7月6日の時点で、飲食スペースの設置に必要なオンライン登録の件数は7,400件を超えている。

「フェイズ2」に移行した6月22日の時点では、安全上の要件以外に、プログラムの運営に関する具体的なルールを市は示していなかった。十分なガイドラインがないまま勇み足で導入されたとの不満も聞かれたが、なにしろ大急ぎで飲食業のルールに手を入れるわけだから、市も試行錯誤というのが実情なのだろう。今後も走りながら調整を重ねてゆくことが予想される。屋外での席の設置を従来の申請許可制ではなく、オンラインで即時に自己認証可能な申告制にしたのもそのためだろう(注4)。

「NYCオープン・レストランツ」の何よりの利点は、大規模なインフラを必要とせず、すぐに取り掛かることができるところだ。レストラン側に多少の建設コストと手間は伴うものの、やり方によってはすでにあるイスとテーブルで対応することも不可能ではない。スペースの利用方法はそれぞれのバーやレストランが模索すべきことで、市が決めることではない。

パンデミックに陥ったことで、市とレストランが「タクティカル・アーバニズム」に救いを見出したことは興味深いところだ(注5)。

*注:

 

4. パンデミック以前からニューヨーク市内の一部のレストランは歩道に席を設置していたが、申請後に審査を受ける許可制で、フィーを支払う必要があった。NYCオープン・レストランツはその制度を一時的に上書きして、オンラインでの自己認証によって登録し、フィーを支払う必要がない。

5. タクティカル・アーバニズムは、既存スペースをコストをかけずにリパーパスするボトムアップのアプローチ手法。駐車スペースを人が座るパークレットに転換するなどの例があり、短期的なプロジェクトとして導入し、結果的に永続化することも多い。

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車道をクローズし、飲食店らに解放するプロジェクト“オープン・レストランツ”。
バイク(自転車)道路の整備も一緒に検討されている。

レストランをオープン(再開)させたが、通りはオープン(開放)しない。
今後は公園をカフェや書店に開放しよう、という動きも。


さらに、ニューヨーク市は「オープン・ストリーツ」のプログラムを同時に進めている。歩行者や自転車が十分な距離をとって歩くことができるように、市内100マイル(160km)相当の通りを閉鎖し、自動車の通行を禁止するものだ。このプログラムの下で、
7月からはレストランが閉鎖した車道全体に席を設置することができるようになった。今後段階的に、自動車の通行を禁止する通りが増えてゆく予定だ。バイク・レーンの設置も予定されている。

屋外での飲食をめぐる争点の1つとなっていたのは、市はレストランをオープン(再開)させたが、通りはオープン(開放)していないというものだった。より多くの通りを閉鎖して、歩行者と自転車の安全を確保することは、パンデミックの環境下では何より重要なことであり、そこにレストランやバーが合流することになる。公園などのパブリック・スペースをカフェや書店に開放することを求める声もあるというから、東京の昨今の公園の商業利用の流れとは異なるようだ。

パンデミック対策として導入された「NYCオープン・レストランツ」のプログラムは9月8日までの期間限定の条件付きとされているものの、今後の成り行き次第ではその後も継続する可能性があるという。

これまで自動車に与えてきた場所に、人が座り、食事することになる。夏の陽が勢いを失い始める夕べに外に座るのは気分がいい。そしてそれは、誰が、どのように通りを利用すべきなのかをあらためて問うことにもなる。よく言われるように、大昔から疫病は都市を形成してきた。それは今回も同じなのだ。
[文責:Yoshi(NY在住コンサルタント)]

*「フェイズ2」「2.5」についてなど、この後も継続的にレポートします。


日本でも“オープン・レストランツ”が許可されることに!
ウィズコロナに欠かせない、タクティカル・アーバニズムへの意識

 
 
*     *     *

本記事を企画・執筆依頼をしていた最中、日本でも国土交通省が、新型コロナウイルス感染症の影響を受ける飲食店等を支援する緊急措置として、「沿道飲食店等の路上利用の占用許可基準を緩和する」というニュースが飛び込んできた。

詳細は、こちらのリンクからどうぞ。

国土交通省道路局 路政課 道路利用調整室
https://www.mlit.go.jp/report/press/road01_hh_001324.html?fbclid=IwAR0wed2y138SpBSBWpUEYh8Ug_8cPu3bxfZ_a8j5X5CPMlYepFf20j-vGds


また、社会におけるパブリックスペース活用のための実践・定着を前提とした研究・提言活動を行なっている一般社団法人ソトノバさんも、noteにまとめていらっしゃいました。
https://sotonoba.place/20200605streetnews


ということで、ふだん「ACROSS」では、“街は使う人たちのものである(La ciudad es la gente en la calle)”と、スペインの建築家(Jordi Borja)の言葉を借りて、そこにいる人びとや表徴されるカルチャー、路上、風景とファッションを観察しているのですが、本政策が進行することで、近年のゴリゴリした開発ラッシュが目立つ東京・地方都市のシーンを少し変えてくれるのでは!と期待しています。(高野)



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