田ノ実(たのみ)自由が丘店
レポート
2020.02.17
フード|FOOD

田ノ実(たのみ)自由が丘店

お仏壇の会社が手掛ける!食のライフスタイルショップが自由が丘にオープン


おしゃれなカフェや雑貨屋さんが立ち並ぶ自由が丘に、日本の食文化をテーマとした食と雑貨のライフスタイルショップ「田ノ実(たのみ)自由が丘店が2019年6月にオープンした。パン屋やインスタ映えするカフェが集まる自由が丘に日本食がテーマのお店は珍しいが、ここはただのご飯屋ではない。運営元の親会社は、少女が手を合わせて「南〜無〜」と呟くCMでおなじみの祈りの老舗はせがわだったのだ!

どうしてお仏壇の会社が食のお店を開いたの!?」このギモンから、これからの食のたのしみ方を考えるべく、運営元の株式会社田ノ実齊藤代表取締役社長渡辺取締役兼店長にお話を伺った。

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コンセプトは「食」と「祈り」

東急東横線自由が丘駅正面口から徒歩3分ほど、自由が丘のサンセットアレイ通りに同店はある。少し足を延ばすと閑静で高級住宅街が集まるエリアだ。お店のコンセプトは「四季折々の行事とともに旬の食材を美味しくいただき、日本の食文化のたのしさを提案する」こと。

コンセプト
美味しい、美しいは人をしあわせにする。一粒から広がるしあわせ。お米から広がる日本のくらし。もっと知りたい、伝えたい、贈りたい。OLD & NEW を織り交ぜ、春夏秋冬に彩りを提供するグローサラント、それが「田ノ実Tanomi 」です。

田ノ実自由が丘店公式HPより)


運営するのは、祈りの老舗はせがわの子会社「株式会社田ノ実」。お店では地域産品・雑貨等の仕入・販売と飲食店の運営を行なっているが、田ノ実1号店をオープンするにあたり、大手アパレル企業である株式会社ワールドのプラットフォーム事業推進室、地域産品の専門バイヤー、飲食店経営のコンサルタントの協力を得て、それぞれのノウハウを掛け合わせて生まれた事業だ

お仏壇の老舗がこのような食のライフスタイルショップをオープンした背景には、供養業界の市場が大きく縮小していることにある。その主な要因は、“お仏壇やお墓の後継者がいない”ということで、単価下落やそもそも購入をしないという人も増えているとのこと。その現状を受けて、はせがわの新しい事業の柱としてなにか新しいことができないかと考えたのがはじまりだ。

「もともと日本人は神様をどこか身近に感じていて、守ってもらっている、恩恵をいただいているという感覚を持っている。その気持ちがお供えや祈りの所作、食事を戴くときの『いただきます』と自然に手を合わせる動作にも表れている。この素晴らしい日本の精神文化を公然と伝えるのではなく、多くの人が関心のある『食』を通じて感じ取って頂くことができれば」と齊藤さんは話す。

齊藤さんと渡辺さんを中心に、はせがわの事業開発部門で2年ほど構想を練り、それから1年後、田ノ実自由が丘店がオープン。現在は兼務出向でほぼ毎日お店に立っているそうだ。

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「和」と「洋」を兼ね備えた空間

お店の1階は、田ノ実オリジナルブレンドのお米をはじめ、日本各地から厳選したお米や東京にはなかなか出回らない味噌、出汁、調味料など幅広く食品を販売している。さらに、身体に優しくて美味しいお菓子や、デイリーにもギフトにもぴったりな食器や雑貨も取り扱っている。

1階の様子
食品以外にも可愛らしい縁起物も取り揃えている
2階は、ダイニング&カフェ。可愛らしい花むすびとお店一押しの「具がたっぷりと入った汁もの」を味わうことができる。
お食事で使われている調味料や味噌、お米は1階で販売しているものなので、お家でも田ノ実の味を再現できるのは嬉しい。

また、3階は取引先のメーカーさんや生産者さんによるワークショップが行えるイベントスペース。食文化や産地の背景を知っているかどうかで心の豊かさも変わる。食の楽しさをいろんな人に体験してもらおうと、これまで全7回開催している(2020年1月末取材時)。


2階ダイニング&カフェ店内はパリのカフェのような雰囲気。よくみるとところどころに神棚や飾り物などさりげなく室礼(しつらい)の文化を醸し出している
鵜野澤啓祐さんがデザイン。神様からいただく恩恵を描いている
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お店のターゲットは「生まれた時から洋風の環境で育っている30代以上の女性」。完全和風の家に住んでいる人が少ないように、洋風の文化で暮らしているのが今の30〜50代の年齢層にあたる。その年齢層をターゲットにしたとき、古い和の文化が異文化のように新鮮に感じられるのではないかという考えから、居心地よく感じられる「和と洋を融合」した内装になっている。
なお、全体のクリエイティブディレクターは、株式会社ヴィーナススプリングの鵜野澤啓祐さんが手掛けた。

「実際に来店されるお客様はなにか目的を持って入られるというよりか、ぷらっと立ち寄って来られる方が多い。和と洋を組み合わせた、やりすぎない空間が今の人たちの生活に溶け込みやすいのだと思います」(齊藤さん)

ロゴマークは、田ノ実の『T』を4つ組み合わせた形になっていて、加えて美しい棚田の風景を模してデザインされた。漢字だけでなく英表記なのも和洋の融合を意味している

本当に良い食材でつくりたい

田ノ実が取り扱っている食材は、食品バイヤーの紹介や実際に齊藤さんが日本各地を回って美味しいのに旬の期間が短かったり、数が少ないために地元で消費され、東京まで出回っていないものを中心に選りすぐって取り揃えている。どの食材も一流のレストランで扱っている食材と同クオリティのもの!普通は原価率が高くて出せない食材でも、「お客さんに美味しいものを出したい」という思いで提供しているとのこと。それらの食材は土日限定の「田ノ実マルシェ」でも販売。お客さんにも大好評だそうだ。

熊本県阿蘇市の農家の方が作られた生柚子こしょう。すべての材料は自宅の畑から採れたものを使用している。大人気商品の1つ
お店のメインである「田ノ実プレート」にもこだわりが!冷めてもモチモチ感と甘さが特徴の「花むすび」や、齊藤さんがメインディッシュだと一押しの「田ノ実のお椀」は、出身地が東と西どちらの人にも合う絶品の具だくさん豚汁だ。

田ノ実のお椀、花むすび2品、季節の小鉢、香の物、一口デザート
ボリューム満点の田ノ実豚汁!
2階の花むすびに使用している田ノ実ブレンド。他取り扱っているお米も種類が豊富だ
お店の客層は30〜50代の女性。主婦の方も働いている方も満遍なく多いとのこと。月に1万人以上の方が来店!その中には初めての方はもちろん、友人を連れてのリピーター客も多く、食事利用だけで週3、4回訪れる常連の方も。この日の取材はオープン前に伺ったが、開店直後2組のお客様が食事で来られていた。

自由が丘の街がお店のレベルを底上げしてくれている

おしゃれな人が多く、所得の高いイメージの自由が丘、やはり「ファッションや食の偏差値が高い」と実感したそうだ。

「ネットの口コミで見たからと来店する人は少ない。しっかり味をわかっているお客様が多いです。だからこそ、いい加減なものはだせないし。料理業界の経験がないからこそ本当に良い食材を使って美味しい料理を提供したいという思いでやっています」(渡辺さん)

1号店を自由が丘にしたのは、街自体は小さくても、外から入ってくる人が少ない自由が丘北口エリアは、地元に密着することで品が保たれると感じたそうだ。

実際にオープンして半年経った現在、地元のお客さんがお店を応援してくれているのを日々感じている。食への「偏差値」が高い自由が丘だからこそ、地元の人が心のどこかで求めているものと田ノ実が伝えたい食の背景やコンセプトがマッチしているのだろう。

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新しい柱になるべく、自由が丘の街でさらなる挑戦

オープンして半年。ゆくゆくは自由が丘に続く2号店以降の出店も考えているが、今はただお店の数を増やすというよりも、コンセプトとその地元のお客さんのニーズに合ったお店を生み出したいため、引き続き自由が丘で挑戦したいとのこと。

物販、食品、雑貨、飲食、ワークショップ。さまざまな方の知恵をお借りして運営しています。それぞれお客さまにどのように受け入れてもらえるか、自由が丘のこのお店で挑戦し、うまく事業化して多方面に展開したい。特有の日本の精神文化を伝える意味でも、これから先海外のお客さまにも利用していただけると思います」と語る。

料理を目で見て、食べて、楽しむだけでなく、その背景を知ってさらに美味しさを噛みしめる。田ノ実が提案する食のスタイルは、現代の人たちにとって新しい刺激になるだろう。


【取材・文:黄うたみ(『ACROSS』編集部)】



ワークショップにちなんだ食品も販売


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