■都市のコード論:NYC編  vol.06
テーマ:HOTEL
レポート
2018.03.08
カルチャー|CULTURE

■都市のコード論:NYC編 vol.06
テーマ:HOTEL

在NYC17年の日本人ビジネスコンサルタント、Yoshiさんによるまち・ひと・ものとビジネスの考察を「都市のコード論:NYC編」と題し、不定期連載しています。

1年半ぶりの起稿。テーマは“HOTELと都市“です。日本でも異業種からの参入が増え、新しい展開をみせていますが、NYでは? データとともに解析します。


ニューヨーク市内で新しいホテルのオープンが相次いでいる。


2015年時点で市内には696件のホテル (107,000室) が営業していたとされているが、その後新規オープンが続き、2017年10月時点では、ホテル数はおよそ785件、 部屋数は115,000室に達したと考えられている。

ニューヨーク市のマーケティングを担うニューヨーク・シティ・アンド・カンパニーが2017年に発表したレポートによると、2017年末から2019年までに、おおよそ40-50件の新しいホテルのオープンがさらに予定されていて、27,000室が追加されることになり、その結果2019年末には900件近くのホテルが市内に存在することになる。

新しいホテルの業態はさまざまで、部屋数をみても14室のみの小規模なものから600室を超える大型のものまでそのバラエティは幅広く、ターゲットとする市場のセグメントもさまざまだ。とはいうものの、そこには共通する傾向もあり、そして新しい試みも散見される。

ということで、今回はNYマンハッタンのホテルの変化についてデータとともに解析してみることにした。



2015年以降オープンした (そして今後予定されている) ホテルの数を、ボロウ (区) ごとにみてみよう。

ニューヨーク市の中心であるマンハッタンでは、1年に20−30件のホテルが継続してオープンしていることがわかる。少し前に話題になったブルックリンも毎年5-10件ほどオープンしているもののすでにピークアウトしている。

一方、クイーンズでは2017年と2018年にそれぞれ10件前後、2019年には15件のホテルのオープンが予定されており、そのペースはブルックリンを上回っている。


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ボロウ別でなにより注目すべきことは、2017年からブロンクスにもホテルがオープンしていることだ

1980年代の犯罪のイメージから観光とは縁遠かったブロンクスが、いよいよ市内のホテル戦線に参入したことになる。確かに地下鉄に乗ればブロンクスからマンハッタンの中心部まで30分ほどで着くことができるし、近年はブロンクスの南端に位置するサウス・ブロンクスの開発も進んでいて、2017年に市内で家賃の大きな上昇率を示した地区の上位はブロンクスが占めていると報告されている。

ビジネスやエンターテイメントが圧倒的にマンハッタンに集中していた状態から、近年その重心は少しずつ隣接する他のボロウへと分散傾向にある。ブルックリンからクイーンズ、さらにはブロンクスへと、オープンするホテルのロケーションの移動は、人々の注目の移り変わりをも反映しているといえる。

ホテルの新規オープン (2015-2019年)を、マップにしたのが下のリンクである。
バブルの大きさはそれぞれのホテルの部屋数を示し、それぞれのホテル名と部屋数をインタラクティヴにみることができる。

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2017年11月に東京は錦糸町、大阪は本町にオープンしたマリオット・インターナショナルが20〜30代のミレニアル世代を対象とした家具や内装にこだわったデザイナーズホテルブランド「モクシー・ホテル」。ウエブサイトもポップで従来のホテルのイメージとは異なる。

マンハッタンをみてみると、伝統的に観光客とホテルが多いミッドタウンにひき続き新しいホテルが多くオープンしていることがわかる。

たとえば、マリオットが手がける、612室のモキシーNYCタイムズ・スクエア (http://moxy-hotels.marriott.com/en) が2017年にオープンした。

やはりミッドタウンのハドソン川近く、ハイラインの北端に位置するハドソン・ヤーズでは大規模な開発が進んでいる。最新のインフラを備えた大型オフィス・スペースが建設中で、完成と共に多くの企業がミッドタウンからハドソン・ヤーズへと移転することが予想されている。企業が移転する先にホテルができるのは当然なのだろう。ハドソン・ヤーズの隣には巨大なコンヴェンション・センターであるジャヴィッツ・センターもある。部屋数の多い大型ホテルが多いのもミッドタウンの特徴といえる。

マンハッタンの南端に近いファイナンシャル・ディストリクト (旧金融街) からバッテリー・パークにかけても新しいホテルが増えている。グラウンド・ゼロ1ワールド・トレード・センターが完成したことで、コンデナストやデイリー・ニュースなど、多くのメデイア企業がタイムズ・スクエアからダウンタウンへと移転している。そうしたビジネス向けの需要はもちろんのこと、ロウワー・マンハッタンはかつての金融街から比較的若年層の人たちが住む地区へと急速に変化している。伝統的な観光地のミッドタウンを敬遠してロウワー・マンハッタンに宿泊することを選ぶ観光客も増えているということなのだろう。


 
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ハドソンヤードの開発のようす(2018年1月撮影)


ブルックリン
はというと、ダウンタウンウィリアムズバーグからグリーンポイントにかけて、そしてクイーンズではロング・アイランド・シティのほかにジャマイカでもホテルがオープンしている。

ロング・アイランド・シティは、マンハッタンのミッドタウンまでイースト・リバーを超えてすぐの場所にあり、マンハッタンよりも手頃な宿泊料金に設定されている。さらには部屋から川の向こうにマンハッタンの眺めを楽しむことができる。マンハッタンに滞在していたら目にすることができない贅沢だ。JFK空港行きのエアトレインが発着するジャマイカは、空港と市街地との両方へのアクセスの良さからホテルができているようだ。

ホテル数が急速に増えていることから、ニューヨークのホテル需給は緩和すると予想されている。激化する競争に生き残るためのカギは、差別化にあるようだ。

ニューヨーク市シティ・プランニングのレポート
によると、市内のホテルの部屋数のおよそ38%は独立系のホテルだという。チェルシーにあるハイライン・ホテル (http://thehighlinehotel.com/)、ミッドタウンのルーズヴェルト・ホテ (http://www.theroosevelthotel.com/)ロジャー・スミ (https://www.rogersmith.com)、ブルックリンのウィリアムズバーグのウィリアム・ヴェイル (https://www.thewilliamvale.com/) などが独立系に相当する。

これらのホテルは全国展開する大手ブランドとは提携していない。戦略的な選択だ。

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市内に43,600室あるとされる独立系ホテルの部屋のうち、49%は広義のハイエンドに属し、エコノミーのセグメントに相当する部屋数はその28%にすぎない。独立系のホテルがハイエンドをターゲットとしていて、独立系
であること (大手ブランドの一部ではないこと) を高付加価値化に利用していることがわかる。実際に、大手を避けて、独立系のホテルでの宿泊を選ぶ人は増えている。


独立系のホテルは、マンハッタンではダウンタウンブルックリンの一部クイーンズのロング・アイランド・シティなどでオープンしている。典型的な観光地ではない場所の選定がその価値の欠かせない一部であり、ハイエンドのイメージとロケーションが分かちがたく結びついていることがわかる。ロケーションはそのブランドの一部といってもいい。

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トリップ・アドバイザーが買収した現地ツアーの予約ができるプラットフォーム「ヴィアター(www.viator.com)」。

興味深いのは、大手ブランドもニューヨークでは独立系のアプローチを模索していることだ。

テキサスを拠点とするあるデベロッパーは、通常マリオットやヒルトンと提携してホテルを展開するものの、ニューヨーク市内では大手ブランドと提携せずに運営している。

なかには大手ブランドの傘下であることを隠して、独立系にみせて運営する覆面独立系ホテルもあるという。そのため、市内のホテルを独立系と非独立系にホテルに分けることは容易ではない。少なくともニューヨークに関する限り、ハイエンド市場は、独立系としての独自性を提供することが条件となっているようだ。

同時にヒルトンマリオットも、別名を用いたソフト・ブランドのホテルをオープンし、より小規模で、標準化されていない部屋を提供しようとしている。

日本でも2018年の春に軽井沢にオープンする予定のキュリオ・コレクション・バイ・ヒルトン
(http://curiocollection3.hilton.com/en/index.html) や、タイムズ・スクエアとミッドタウンの2カ所にあるマリオットのオートグラフ・コレクション (https://autograph-hotels.marriott.com/) などがその例であり、既存のブランドとは距離を置く位置づけになっている。

ソフト・ブランドはブティック・ホテルとして運営しつつ、同時に大手ブランドの一部として、予約やリウォードのシステムにアクセスできる利点もある。

 
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2017年、マンハッタン31丁目にオープンしたライフ・ホテルは、かつて雑誌『ライフ・マガジン』の本社だった建物を改修したものだ。

ホスピタリティのビジネスにもテクノロジーとデータは欠かせない。
ニューヨークのホテルでは、自分でチェックインを済ませるところが増えているiPadに接続された端末を利用してチェックインする。わからなければ、必要に応じてスタッフが助けてくれる。テクノロジーの利用でコストを抑えるホテルは多い。


ホテル各社はゲストに関する大量の情報を有している。そのデータをもとに、それぞれのゲストにどんなサービスを提案するのかがビジネスを左右することから、ホテル・テクノロジーのスタートアップ企業の買収も活発になっている。

現地ツアーを予約するサイトのヴィアター (https://www.viator.com) を買収したことで、ホテルやレストランの予約サービスを提供するトリップ・アドバイザー (https://www.tripadvisor.com/) では、ホテル以外の売上が31%増加した。マリオットは、データに基づいて、それぞれのゲストが気に入りそうな体験を個別に提案している。


ローカルな体験を提案するホテルは多い。マリオットが最近買収したアロフト・ホテル (https://aloft-hotels.starwoodhotels.com/) は、ローカルのアーチストによる音楽の演奏をスポンサーしている。ホステル感覚のブティック・ホテルを謳うモキシーは、部屋は狭くそれ自体がニューヨークの経験だという。

こうした動向の背景には、ホテルの競合はairbnbだという認識がある。airbnbがマーケットする、これまでのような観光客ではないローカルとしての体験をとりこむべく、宿泊に付随するローカル性をホテルが重視し始めていることが、現地ツアーやアクティビティの予約サイトの買収を後押ししている。ホテル周りのビジネスをいかにして取り込むのかは、これからも大きな課題だ。

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アーチ状の構造を多く手がけた建築家、エーロ・サーリネンによって1962年にTWA航空のターミナル4をホテルに改修したTWAホテル。
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TWAホテルのHPより。独特のレトロモダンな内装はある層にとっては宿泊することが目的となりそう。


新しいホテルを見て回ることで気づくことのひとつは、かつてのように、入口を入ると目の前に巨大なレセプションが広がっているという光景を目にすることはないということだ。ハイエンドのホテルにその傾向が強く、大きなデスクの背後に何人ものスタッフが立って待ち構えているという光景は過去のものになりつつある。

自分でチェックインするためのiPadが並んでいる以外には、入口のフロアにはソファが並ぶくつろぐ場所があったり、レストランがあったりする。2017年にマンハッタンの31丁目にオープンしたライフ・ホテル (https://lifehotel.com/
) のように、入口を入ってもどこにレセプションがあるのかすぐにはわからない、むしろレセプションをできるだけ見せないようしているようにさえ思えるところもある。

ライフ・ホテルはかつての雑誌の『ライフ・マガジン』本社だった建物をホテルに改修している。商品をマーケットする際に、それにまつわる物語を付加する物語マーケティングが一般化しつつあるが、ライフ・ホテルは既にそこにあるライフ・マガジンのレガシーの周りにホテルというビジネスを構築したのが興味深いところだ。

他の場所で再現不可能なプロジェクトには、他にはない固有性がある。オーセンティックなトーンを前面に出している内装にもそれは見てとれる。新しいコンセプトやデザインを考えたところで、ひとたび注目されたらそれはすぐに模倣され、あっという間に世界中でコピーされる。模倣されることを避けるためには、他にないユニークな場所を開発するしかないということなのかもしれない。

他にはないホテルといえば、JFK空港内で工事が進んでいるTWAホテル (https://www.twahotel.com) は、かつてのTWA航空のターミナル4をホテルに改修するものだ。 エーロ・サーリネンの手によって1962年にオープンしたターミナルで、トランス・ワールド航空 (TWA) はもちろんもう存在しないが、
その歴史とアイコニックなターミナルを利用したホテルとして復活する。
 
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1980年代にブティック・ホテルのコンセプトを導入したイアン・シュレージャーが手がけるPUBLIC HOTEL。冒頭のソファーの部屋の写真もここ。日本だと結婚式の会場としてのニーズは必須だが、NYの場合はアートイベントや音楽イベントが開催できるようなスペースを設けるところが多いよう。(https://www.publichotels.com/)
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日本における近年のデザインホテル、ブティックホテルのトレンドは、2012年にブルックリンに暮らす3人のオーナーの手によって開業したこのWHYTHE HOTELが有名だ。1901年に建てられた、精糖所に納める木樽を製造する工場をリノベートしたインダストリアルな意匠は、その後の日本における“ブルックリン・ブーム”や“ポートランド・ブーム”を後押ししたが、そういった表面的なことに留まらず、小資本(インディペンデント)であることをはじめ、レストランのメニュー、バー、パブリックスペース、ジムなど、従来の都市のホテルユーザーとは異なる“新しいラグジュアリー”なライフスタイルを提案していた点こそが新しい(写真は2013年8月に撮影したもの)。
 
ホテル・ビジネスの競争の中心は、部屋よりも宿泊の周辺へと移動している。

昨今の宿泊客の半分はレストランでホテルを選ぶというデータもある。ライフ・ホテルのロビーはレストランをフィーチャーしていて、近所の人たちが立ち寄るような場所を目指しているという。同レストランは、レストラン起業家のステファン・ハンソンが所有・経営している。

ホテルの中のレストランの多くは第三者の業者が経営し、ホテルとのシナジーが欠けていることが多い。ライフ・ホテルではハンソン自身が同ホテルに投資をしており、レストランの売上の一定の率を家賃としてホテルに払う仕組みになっている。

一般的に、レストランをオープンした後、その周辺が人気の地区になったら、家賃が上がり今度は追い出されることになりかねない。不動産価格の高騰に終わりの見えないニューヨークでは頻繁に耳にする話だ。ビジネス面での新しい取り組みは、その防止策でもある。

2017年にロウワー・イースト・サイドにオープンしたパブリック (https://www.publichotels.com/) は、1980年代にブティック・ホテルのコンセプトを導入したイアン・シュレージャーが手がけるホテルだ。

その名が示す通り、誰もが立ち寄ることができるように、コワーキング・スペースパブリックの場所があり、仕事をしたり、打ち合わせをしたりしている人たちが多い。上層階にはフード・ホールバーがあり、地下にはコンサート・ホールもある。エンターテイメントは利益が出せるものの、ホテル産業にノウハウがない部分でもある。その開発の意図がある。

こうしてみると、新しいホテルにはいくつかの傾向がある。宿泊周りの体験をとりこむこと。他にない固有性を求めるところもある。そしてテクノロジーとデータがホテル産業の未来に欠かせないコアであることも間違いのだろう。

[取材・データ/文:Yoshi(在NY・コンサルタント)]

 

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遠くの親戚より近くの他人

つながりは足下にあることに意味がある。遠方よりも近所の人や場所との関係を人はあらためて見直しているらしい。 ICEの移民取締活動に対してミネソタの住民が組織化したことについて以前ポストした。二人の米国市民の命を奪った蛮行に反対して、住民たちが酷寒のなかを日夜近所の通りや学校周辺を自発的にパトロールしたり、不審車を見かけた場合には近隣住人と情報を共有し、またエージェントの活動を撮影して記録した。普通の住民の活動である。拘留をおそれて外出できない近隣の人たちのために食料や日用品を手分けして集めては届け、家賃を払えない人たちのために資金も集めた。 それを「ネイバーイズム」と評した雑誌があった。住民が互いに支え助け合う隣人主義である。ミネソタで組織化を支援した人は「この状況下でこれまでのところ最も有効な安全策は、近所の人たちを知ることだ」と強調した。いつ助けを要することになるかわからない。連絡をとり安否を確認し合うことが人を安全にする。災害時に近隣の重要性が前景化するのはよくあることである。 ミネソタ がいかにも非常時の特殊例だというなら、ありふれた日常にも隣人主義は現れているらしい。予期しない事情で急遽家を一時間空けなければならなくなった親が近所の人に子どもをみてもらうなど、物理的に近くに住む人たちの間でちょっとしたことを助け合うものである。大きな家具を動かすのに手を借りたり、なにかあったときのために家の鍵を隣人に預ける人もある。隣人間のインフォーマルな手配で対処できることは少なくなく、いざというときには遠方の親類友人よりも隣人のドアをノックする方が間違いがなく頼りになるというわけだ。 日本なら「醤油を借りる」というべき関係だが、英語には「砂糖を借りる」という言い方がある。隣人に砂糖や小麦粉それに卵を借りることがかつて当たり前だったのは米国も同じようである。どちらの国でも隣人を仲介するのが食べ物であるのは偶然というべきだろうか。よく知られる「パンを裂く」は共食を通じて関係を深めることである。日本には多少古めかしいが「同じ釜の飯を食う」という表現がある。生活の食べ物の匂いと隣人はどこかで分かちがたく結びついているのかもしれない。 いつも近くにいて会うともせず会い、他愛のない言葉を交わす昔ながらのご近所さんの再発見というわけだが、そこに今日的な機微があるとすれば、誰もが時間に追われ、懐事情もいよいよ厳しくなる世の中が、生活の自衛策として近隣の人たちに向かわせているところだろうか。公式のいわゆる仕組みが破綻していることの裏返しでもある。必要に迫られた苦肉の近所づきあいに聞こえなくもないが、それでもそこから、騒音などの「隣人とのありがちなトラブルのなによりの解決策は隣人と友人になることだ」といった箴言的な隣人理解に至る人もあるというから、入り口にこだわる必要はないのかもしれない。問題を解決しない警察やアプリに手がのびるよりはずっといいはずだ。 近隣志向は意外なところにもみられる。レストランの世界である。 フリン・マクギャリーが昨秋オープンしたレストラン「コーヴ」が注目を集めている。12歳でロサンゼルスの自宅で食事を一般客に出し始め、16歳のときにニューヨークに移りポップアップ店にとりかかり、19歳で開業した店が成功を収めた料理界の寵児の次の店とくれば当然である。店はマンハッタンのダウンタウン、ハドソン・スクエアにある。トライベッカとウェスト・ヴィレッジに挟まれていて、そのどちらにも近接するが、そのどちらでもない。話題店にはいささか疑問の余地のある場所はあえて選んだものだという。 マクギャリー自身の言葉によると、その店は「ネイバーフッドのレストラン」である。近隣の人たちがやってくる気取りのない近所の店のことだ。面白いのは彼がその店のアプローチをメディアとの関係にみているところである。 レストランの流行り廃りの背後にはニューヨーク・タイムズのようなメディアが長らく存在していた。同紙の評者が激賞すれば一夜にして予約がとれない大人気店になり、酷評すると店がやっていけない状態にさえ追い込まれた。店に現れたときに身元が割れないように、いわゆるレストラン・クリティックは名前は出しても顔は秘匿するのが長年の慣しだった。その発言に多大な力があった証である。 そうした世界はもう存在しない。メディア環境があらゆる意味で壊れたことはいまさら繰り返す必要はないだろう。大メディアのレストラン評はその影響力を失い、今日タイムズ紙は顔を公表している女性評者二人をクリティックとして任命しているが、その試行錯誤の有様はちょっとしたアイデンティティ・クライシスにみえなくもない。 他方にはソーシャル・メディアがある。オンラインでバズればたちまち人は殺到するが、店にとってありがたいかどうかはまた別のようである。写真を撮るためだけに群がる人たちも多く、ニューヨークの賢い飲食店オーナーたちは、店がダメになってしまわないようにとソーシャルで話題にならないように入念に手を尽くしていると聞く。 マクギャリーに言わせると、レガシーであれソーシャルであれ、メディアは彼にコントロールできるものではない。ゲートキーパーが立ちはだかっていた頃には、多くの店が権威ある評者に向けて店をやっていたようなところがあった。一片の記事があらゆる労力を台無しにもしてしまうわけだから当然ではある。かたやソーシャルの移り気の速さは手のつけようがない。そうしたものと関係のないところで店を営むのがマクギャリーの考えであり、それが近所の店である。 ゲートキーパーの失墜は流行を追いかける店には北極星を見失うようなものだが、自分のやり方を探索する者には解放である。オープン直後に人が殺到するバジーな店よりも、時の経過とともに常連客が醸成されて、客が徐々に増えていく方が好ましいというのがマクギャリーの考えらしい。オーディエンスは自分で築くものであり、客との信頼関係を築くにはなにより時間を要する。どの店も近所の店になるべきだと主張するそのシェフは27歳にしては落ち着いた考えの持ち主にみえるが、実は今日の若い人たちはこうした考えを広く共有しているのかもしれない。 近所の店のあり方は、ロンドンやドバイへの拡張を志向する従来の話題店のプレイブックとは異なってみえる。たとえば近年VCがベーグルに熱心に投資しているという。ベーグルはニューヨークなどの少数の都市の名物として知られる、場所に強く結びついたフードである。高品質のベーグルをつくるには多くの手間と時間を要し、文字通り手づくりの過程も欠かせないため大量生産が難しく、利益が少ないことでも知られる。多くのベーグル店が家族経営で小さな近所の店である理由でもある。それをマネーとテクノロジーでスケールしようというのがVCの目論みのようだ。 ついでに最近のフード周りのメディアについて雑記を残しておこう。読者が大メディアを離れるのをよそに、新たなメディアが立ち上がり、オンラインを中心に数多くの新進メディアが共存する風景が現れつつある。外部の投資家を入れずにジャーナリストが共同所有するコレクティヴとして運営しているところが多いことも、昨今のメディア一般と傾向を共有している。 こうした雑誌がとりあげるのはレストランに限らない。従来考えられなかったような風変わりものをとりこみ、フード雑誌の領域を書き換えようと挑むようなところがある。2017年に始まったTASTEは最近の記事でコストコを米国食文化の柱として称賛した。 焦点をハイパローカルに絞りこみ、可笑しくも率直な意見を展開するのが新進雑誌の特徴でもある。政治性のアングルは欠かせず、飲食店の悪評高い労働慣行をはじめ、政治抜きにフードを語ることはナンセンスというのが共通認識のようだ。見あたらないのはライフスタイル記事の類である。 高所から説教するような高級紙とは対照的に、生活に根差した視点でフードを新たなアングルから問い直そうとするものが多いなかでも、Civil Eatsは商品としてのフードではなくその生産—特に住民自身の手による生産—の様々な実践のありようを果敢に探り続けている。最近では他人の庭を農地として無料で利用するかわりに収穫した作物を家主に与えるミネソタの実験的CSA (地域支援型農業) に取り組む二人組の話が印象的だった。そのCivil Eatsがフード界のアカデミー賞といわれるジェイムズ・ビアードのメディア賞に今回ノミネートされたことは、この世界の風向きの徴といえるのかもしれない。受賞者の発表は6月半ばに予定されている。 この春にローンチしたばかりのRavenousを読んでいると、共同創業者のジャーナリストの一人が、フードのことをするにはやはりニューヨークに引越すべきかと考えていたが、思い直してテキサスにとどまり、地元のおかしな飲食店やチェーン店など自分がしたいことをしようと思ったと記しているのが目をひいた。一種の「ハブ離れ」である。 自分が住む場所に根づき、近隣の人たちとの関係を強める近隣志向は場所の復権でもある。ルーツとなる場所を離れ、はるか遠くを浮遊することが成功のモノサシとされたこの数十年に終わりを告げて、物理的な場所が再び重力をとり戻りつつあるのかもしれない。そこにシフトしつつある都市をめぐるナラティヴと遠くで共鳴するのが聞こえる。 2020年以前には世界の諸都市をグローバルな競合関係と捉える見方が支配していた。一部のアーバニストやエコノミストによると、競争力とはほかの場所から人やマネーを集める力のことであり、人材、大企業、外国人投資家、観光客—その都市に住んでいない人たち—に訴えかけることが市長の仕事であり、それが都市の魅力だと枠付けされた。そこにいる住民ではなく、遠くにいる人や企業に向けたガヴァナンスは「お客様アーバニズム」とでもいうべきものをもたらした。 その見方にようやく切り返しがみられる。この都市に住む人たち、ここにいる人たちの方を向いて、住民が必要とすることを支援しようとする取り組みが一部の識者や市長から出てきている。ほかのところから人を集めるよりもここにいる人たちを新たな職種に向けてトレーニングし直したり、インフラに投資したり、地元の既存ビジネス支援を優先すべきだとするかつて異端扱いされた主張が主流のなかに見られるようになってきた。ニューヨーク市長ゾーラン・マムダニのアプローチにその傾向を見てとるのは難しくないはずである。北米の諸都市が、南米ボゴタの前市長クラウディア・ロペスが残したレガシーや後任のエンリケ・ペニャロサから学ぼうとしているのも興味深いところだ。 2000年代にニューヨークはラグジュアリー製品だと当時の市長が発言したことで物議を醸したことがある。誰もが憧れる手の届かない場所ということかもしれないが、昨今ではラグジュアリー・ブランドの不振が伝えられている。経済的な状況のためだろうか。アフォーダビリティはたしかに大きな問題ではあるけれど、大都市を離れている人はそこに住む余裕がないためなのだと片づけると、大きなものを見失ってしまうことになるように思う。 (おわり)

yoshiさん


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