co-lab日本橋横山町:re-clothing
レポート
2017.01.10
ファッション|FASHION

co-lab日本橋横山町:re-clothing

日本橋横山町の老舗問屋がファッションのシェアオフィスとしてリニューアル!
ファッションの私塾「ここのがっこう」と協力し、ショップ/セールス/アカデミー兼ファクトリー機能を兼ね備えたオフィスに

江戸時代から続く衣料品の問屋街として知られる日本橋横山町。その横山町に2016年9月、ファッションクリエイターを中心としたシェアオフィス「co-lab日本橋横山町:re-clothing」がオープンした。同時に、編集部だけでなく、弊社もお世話になっている「writtenafterwards(リトゥンアフターワーズ)」のデザイナー・山縣良和さんが主宰するファッションの私塾「ここのがっこう」も拠点をここに移した。

「ここのがっこう」といえば、数多くの修了生たちが世界的なファッションコンテスト「ITS」で各賞を受賞したり、東京コレクションで活躍する「東京ニューエイジ」を輩出したりと、年々その注目度が高まっているファッションスクールであることは、弊サイトでもしばしば紹介してきた。

そんな「ここのがっこう」も入居するシェアオフィスとは、いったいどのようなものなのだろうか。運営元であるログズ株式会社代表・武田悠太さんに話を伺った。
武田さんの実家は横山町でも有数の現金卸問屋だ。大学卒業後、コンサルティング系の企業に7年間勤めていたが、30歳になった時、実家に戻って来るように言われたという。

「ただ戻って今の事業をやるのは嫌だよ、というような話をしました。そうしたら、たまたま「ニューカネノ」という現金卸問屋の買収を検討している、その立て直しをやらないか、言われたんです。それなら面白そうだなと思って戻りました」(武田さん)。
 
ログズ株式会社の武田悠太さん
これをきっかけに武田さんはファッション業界に身を投じ、1年をかけて現金問屋事業の立て直しを行った。そして、会社経営が安定した段階で、卸売業だけでなく、将来につながる事業をと考え、「クリエイティブが集まる場所」として、シェアオフィスを作ることを思いついたそうだ。

シェアオフィスを始めるにあたって、武田さんがパートナーに選んだのが、クリエイター向けのシェアオフィス開発を手がけるco-lab(コーラボ)社だった。これまでヘルスケア系のコンサルティングに携わっていた武田さんもco-labの田中さんも、ファッション業界については何もわからない、という状態だったという。

「co-labさんにもぼくにもファッションの人脈が全くありませんでした。誰かキーになる人がいないとシェアオフィスにも人が集まらないよねという話になり、とりあえず、「東京」「ファション」「アワード」という単語で検索したところ、「TOKYO FASHION AWARD」に出会ったんです。。『こんなのあるんだ』と思って、その中でいちばん若い人を探してみたら、山縣良和さんが出てきた。そこで突然メールをしてみたところ、たまたま山縣さんも「ここのがっこう」の教室の場所を探しているところだったんです」(武田さん)。

こうして山縣さんと初めて会うことになった武田さんは、山縣さんと話し、感銘を受けたという。

「ファッションが正当性や大義を失っている時代の中で、山縣さんはファッションの可能性を真剣に信じているんです。その可能性を信じたうえで、自分でも作品を作り続けてこれだけ評価されながら、さらに20代後半の頃から学校をやっている。本来その時期って自分のために作品を発表して、自分をアピールする時期ですよ。そんな時期に学校をやっている。素晴らしいと思いました」(武田さん)。

シェアオフィスに「ここのがっこう」を誘致し、その教室が完成したのが2016年の8月のこと。同時に会社名をニューカネノから今のログズ株式会社に改めた。武田さんが初めて山縣さんと出会ってから、わずかに3~4ヶ月足らずであった。「8月1日には、イギリスのセントマーチンズのサマースクールを開催することが決まっていて、当日の朝7時まで徹夜で現場指示をして、なんとかシェアオフィスを完成させることができました」と武田さんは話す。
 
もともとニューカネノの会社だったビルをリニューアルして誕生したビル
オフィス全体のフロア構成は、1階から3階がニューカネノの卸売店舗、4階がシェアオフィス、そして5階が週末に「ここのがっこう」に解放されるスペースとなっている。このオフィスには主に3つの機能が期待されているという。
 
 
1つめは、「アカデミー」の機能だ。5階部分では週末に「ここのがっこう」が利用する他にも、「ステップボーンカット」という小顔に見せるカット技術の特許を持つ牛尾小百合さんの学校も入居。今後もいろんな学びの場とシェアしていく予定だ。
 

「ここのがっこう」などが入居する5階のスペース。
2つめは、「ファクトリー」の機能だ。数種類のミシンをはじめ、いくつかの機材が置かれており、今後は珍しい素材などもメーカーと協賛し集めていく予定で、概念的なファクトリーとして機能することを目指しているという。
 
 
そして3つめは、シェアオフィスに入居する企業のネットワークや、ログズの店舗部門・営業部門と連携することで、新たなビジネスの可能性が広げられることだ。たとえば、お客さんの目に触れるように、店舗で何らかの展示を行ったり、お客さんたちに提案しにいくことなども考えているそうだ。
 
4階のシェアオフィスにはミーティングルームも
 
ショップ機能、セールス機能、アカデミー兼ファクトリー機能を併せ持つこのシェアオフィスについて、武田さんは「幼虫を育てるフェーズ」という比喩で説明してくれた。

「『ここのがっこう』はクリエイターの卵を輩出する学校としては、ある程度の成功を収めている。でも、卵、幼虫、成虫って考えたとき、ほとんどの卒業生は幼虫で死に絶えてしまう。海外と違って、卵から成虫になるための社会システムが日本にはないんです。日本企業に求められるデザイナーは極端にマーケットインで、企業デザイナーにはクリエイションが求められていないから。だからぼくは、幼虫を育てる段階を学校として作りたいと決心しました」(武田さん)。

このようなクリエイターを養成する場を、ファッションの中心地である原宿や渋谷といった、既に先代の人たちが築いてきた「かっこいい場所」ではなく、元来江戸の中心であり、台所であり、そしてその後は繊維問屋として栄えたという歴史背景がありながら、いまやメインストリームから取り残されてしまった日本橋横山町という場所に作ることに意味があると武田さんは話す。

「“歴史背景がなくてかっこいいもの”は心を動かさないし、“歴史背景があってなおかつかっこいいもの”はすでにできあがってしまっている。でも、“歴史背景があってダサい”はこれから変わる余地がある。まちとして可能性があるということです(笑)」(武田さん)。
 
 
この「かっこいい」は、「イースト・トーキョー」や「サードウェーブ」のような言葉に代表されるようなムーブメントとは異なると話す。

「もしこの場所が、渋谷や表参道と同じように、おしゃれなカフェとか、サードウェーブコーヒーとか、流行を追いかけだしたら終わりです(笑)。このダサいまちでダサいものを見ることで、かっこいいものを生み出したくて仕方なくなる。この画一化された情報社会から取り残されているまちだからこそ、かっこいいものを見飽きている人にとっては新鮮なものがある。時代遅れだからこそ、10%くらいはなにかヒントになるものがあるんです」(武田さん)。

同シェアオフィスにはいわゆる「まちおこし」的な側面は、今のところない。ここ横山町に何か影響を与えるというよりは、まずは、ここでどれだけクリエイティブなものを生み出せるかということにフォーカスしているそうだ。

「本当にかっこいいまちとは、誰かが音頭をとって「こうやってかっこよくしていきましょう」というのではなく、なんとなくかっこいい人たちがパラパラと集まってきて、できるものだから」と武田さんや山縣さんは話す。

 
 
ここ数年、東京の東側エリアにスポットライトが当てられるようになって久しい。たとえば弊サイトでも、(株)エトワール海渡によるショップ「MONOTIAM」や、キャンプ家具のセレクトショップ「INOUT」、糸の専門店「Keito」、輸入ペンキのショールム「パレットビル」など、CET(Central East Tokyo)エリアを繰り返し取材してきたが、古くは、今から10数年ほど前、建築家の馬場正尊さんらによる「CET(Central East Tokyo)エリア」の活動についても取材しており、そういった動きが少しずつ、長い年月をかけて今の動きへと繋がっていることは確かだ。

とはいえ、過去に“東京の西側”が発展してきたときのような、何の土壌もないところに“西洋的なもの”を輸入する方が簡単に大衆には響く、マーケットのトレンドになるのも事実。その双方の動きが相まって、まちは発展していく。

武田さんたちの「co-lab日本橋横山町:re-clothing」はまさに、問屋街として栄えたまちの歴史を引き継ぎ、そこに現代的な要素をミックスしようとする新しい動きのひとつといえそうだ。

表面的な「かっこいい」ではなく、何かしらの歴史的背景に支えられたものを「かっこいい」ものへと昇華させていく動きが、「サードウェーブ」ブーム以降の新しいシーンをつくっていきそうだ。

取材/文:宮英理子(立教大学大学院文学研究科比較文明学科1年・『ACROSS』編集部)+大西智裕(『ACROSS』編集部)


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