ユスフさん:「ロンドンには映像作家がたくさん集まりますが、みんな生活することに必死なので、自分から で働きかけて仲間を作るのが難しい。だからTINASにはニーズがありました。それにロンドンには人々がちゃんとイベントに足を運ぶ文化があります。詩の朗読や音楽のためのオープンマイクというスタイルが根付いている理由です。みんな新しいイベントを開拓するのが大好きだからこそTINASにも最初から人が集まったんだと思います。」
一方、TINAS共同主催者でビデオエディターのShaun Best(ショーン・ベスト)さんは「アメリカは巨大な国なのでTVや映画産業の仕事の機会が多いが、イギリスはそこまで多くなく、クリエイティブに関わりたい人の参入ハードルが高いのが問題」と市場競争の激しさを指摘する。
会場の参加者にも感想を聞いた。
映画制作プロダクション勤務で、『Mission: Impossible(ミッション・イン・ポッシブル)』などの制作に携わったことがあるという人は、「ひとりぼっちで向き合っていた編集中の作品のどこにみんなが反応するのか、しないのかを確かめたかった。制作途中ならではの不完全さを大切にしてくれる場所は、ロンドンの映画界隈の中でも珍しく、特別な場所だと思う。映画に熱心な人と映画を通じて繋がれることを思い出させてくれた」と感想を寄せた。
同じく初参加で自分の作品を上映した人は、「自分の作品を見せることは緊張するけれど、先着順で選考なしという平等さがハードルを下げている」とTINASのスタンスに賛同。「みんな同じように悩みながら制作していることを認識して自分が1人じゃないと思えたし、ここにコミュニティがあるという感覚が励みになった」と話した。
また、観客として参加した人は「この場にいるみんなが、どうしたらその映画が良くなるのかのみを考えていて、そこには成功や勝敗といった利害はない、コミュニティとしての純粋な連帯があったのがよかった」と、ディスカッションの雰囲気を振り返った。
今回が2回目の参加という3D(VFX)デザイナーのカップルは、「最初に来たとき、アーティストが迷いや疑問を抱えながら作品に向き合っている姿に刺激を受けて、自分も個人的なプロジェクトを続けていく自信がもらえた。それに全然嗜好が違うクリエイティブな人たちに会うのが好きなのでまた来たいと思った。今回は前回とは違ってもっと抽象的でシュールな作品が多く、TINASは上映作品を選ばないので毎回どんな作品が見られるのか全く予想できない意外性もいい」と上映会としてのユニークな魅力にも触れた。
会場を提供するリオ・シネマは、1909年から続くイギリスで最も古い映画館のひと 1つと言われ、現在は地元の人のための非営利のコミュニティ映画館として機能している。LGBTQIA+コミュニティのハブでもあり、クイア映画のセレクションが豊富だ。ローカルコミュニティ支援の一環で、地下のワークショップルームを様々な団体やイベントに提供しており、TINASも無償で使うことができている。
リオ・シネマのエグゼキュティブディレクターRosie Greatorex(ロージー・グレートレックス)さんは、「ロンドンの映画カルチャーはとても豊かで実に多様だ。個人的にはもっと女性、クイア、世界中の映像作家、労働者階級の人たちによる作品があった方がいいと思っている。当館ではインクルーシブ(包括性)を意識しており、TINASが実践している映画産業にアクセスできていない映像作家の支援もそのひと 1つ。 地域のクリエイティブコミュニティとして活動し、低予算で活動する本団体をできるだけ支えていきたい」と映画や制作側の多様性の重要さを強調した。