『タイツくん良縁祈願まつり』

『タイツくん良縁祈願まつり』

レポート
2007.06.15
カルチャー|CULTURE

黄色の全身タイツのコミカルなキャラクターと
コピーで人気の「タイツくん」の初展覧会。

テンポのいい文とユーモアなイラスト
の組み合わせが、かるたを思わせる
デザインの「励行カード」。
客層はカップルや女性2人連れが中心。
談笑しながら観覧している。
文と構成デザインを担当している、
ディレクターの松岡宏行さん。
オリジナルグッズのほか、本展覧会のため
に製作された限定Tシャツも販売している。
当事者同士はそうでもないのだが、端から見ればちょっと可笑しい。実は、毎日ってそんなことの繰り返しなのでは。そんな日常のヒトコマを切り取った、秀逸なコピーとイラストでおなじみの人気キャラクター「タイツくん」。その初の本格的な展覧会「タイツくん良縁祈願まつり」が、パルコミュージアムで開催されている。コピーライターでキャラクターの生みの親でもある松岡宏行氏は、「意中の彼や彼女と来て欲しい。お互いの距離が縮まるかも」という。本人曰く「タイツくん」の人気の秘密は、コミュニケーションを触発する"笑い"の中にあるようだ。

「タイツくん」の人気コンテンツ「励行のこと」カード(通称:励行カード)は、様々な角度から日常のふとした瞬間を切り取ったもの。松岡さんのコピーの妙とイラストレーターの高橋潤さんのドライなイラストの組み合わせが、日常に潜む笑いや男女の心の襞(ひだ)を掬い取る。02年にこの「セクハラ有料」が登場して以来、総数は360枚に達し、今回の展覧会ではこの"励行カード"を100枚以上展示した。これだけの数を一堂に集めたのは、今回が初めてだという。励行カードを見て回るだけでも楽しいが、この展示には隠された仕掛けもある。

「当初は意図していなかったが、励行カードはコミュニケーションを触発する力を持っていた。見る人によって解釈やリアクションは様々だが、他人のセンスをはかるリトマス紙のような役割もある。励行カードが間に入ると、全然知らない他人とすぐに仲良くなれる」。実際、ファンの集うオフ会を開催するとファン同士で大変盛り上がり、「その中だと僕はあまり面白くない方になってしまいますね(笑)」(松岡さん)。見知らぬ来場者同士が作品を見て、自然に交流が発生することもあるようだ。ユーザーの参加を重視する姿勢は、「タイツくん」HP「タイツくん・大人ブログ」にも見て取れる。「大人ブログ」は、ブログを活用したコミュニティサイトで、日記を通して趣味やライフスタイルで繋がるファン同士の交流も活発に行われている。

"タイツくん"は元々、松岡さんが代表を務めるスイスイ株式会社がライセンスビジネスを視野に入れ、02年に作り上げたオリジナルキャラクターだ。松岡さんは北海道大学を卒業後、銀行に入社したが業務になじめず、25才で退社した後、様々な仕事を経験したがなかなか自分にあった理想的な仕事が見つからない日々が5年間続いた。その後、マッキントシュに出会ったことで、93年にDTPなどで広告制作を手がける同社を札幌で設立、全く未知の分野だった企業広告の制作を請け負い、実績を上げていった。00年には東京に進出したこと広告制作だけでは飽きたらず、オリジナルの企画のビジネスを展開したかった。そこでキャラクターに行き着いた」という。

タイツくんを構成する、自由奔放な"ピエール"とメガネを掛けた"ジョナサン"の2人は全身タイツ姿。「この2人のキャラクター設定は笑いのセンスやオリジナリティを重視していたため、マスを狙わず最初からマーケット全体の30%がターゲット」。だが5周年目を迎える現在は、単行本2冊を始め、雑誌連載3つ、フィギュア、そして今年はDSソフト「上司が怒りにくい さわやかマナー」をリリースするまでに成長した。この秘密は、コアターゲットを絞り込む一方で、多彩な生活シーンを切り口としていることにある。

励行カードのコピーは、「部長シフト」や「多数決で/良案をつぶす」「2人いればできる」といったビジネスシーンを想起させるものから、「借りたら/返せ」といった教訓めいたものまで様々。だが、イラストではコピーとあえてズラしたものが多い。自転車で脇を颯爽と走り抜ける若い女性を冴えない中年男性が見つめる「毎年/初恋」や、力強いガッツポーズの"タイツくん"に「ほんじつ/独身」、ピエールと女性のディナーを描いた「やらせないなら/タダめしは/2回まで。1万円まで。」など、イラストで描かれる生活のシーンは実に多彩だ。

そのため、誰にでもわかりやすいものもあれば、"あれ?"と考えてしまうものも。男性サラリーマンには馴染みやすいものでも、女性にはよくわからなかったり、その逆もある。松岡さんは「作り手と見る側で違う解釈があっても良い。むしろ私としては、その違いや見る側のリアクションが一番面白い」。コピーを考える際に、想定しているのは意外にも「20〜30の働く女性」という。やや突き放したような視点は、むしろ男性社会の中の女性には優しい。

コアターゲットは絞り込みながら、多彩な切り口で日常を切り取ることで、社会人や学生、男性、女性と幅広い層を取りこむことに成功した「タイツくん」。次の展開としてはアニメ=動画を考えているという。

**〈解説〉
「タイツくん」とは・・・02年に誕生。全身タイツの"ピエール"とメガネを掛けた"ジョナサン"の男2人組。タイツ姿の理由は「笑いを言葉ではなく体で表すために最適な衣装だから」だという。現在、『週刊SPA』『日経ビジネスアソシエ』『FRaU』で連載中。もともとは、北海道工業大学の広告用キャラクターだった。

[取材・文/横山 泰明(ファッションライター)+『WEBアクロス』編集室]

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