文化ファッション大学院大学 終了ジョイントショー             『BFGU 1st』

文化ファッション大学院大学 終了ジョイントショー 『BFGU 1st』

レポート
2007.03.09
ファッション|FASHION

88年の歴史ある文化服装学院に
新たに「文化ファッション大学院大学」が開学

勢いを感じる第1期生の終了ショー

ショーの翌日には、ショー作品のほか、
ファッションデザインコースの全作品が
展示された。
ファッションテクノロジーコースの
展示も同日に行われ、技術の高さが
目立つものとなった。
左/ショー委員長の内野剛秀さん(25歳)
右/同校の小杉早苗教授
ショーのチッケトと封筒は生徒が作成。
図書券をモチーフにしたデザインは
ユーモアを織り交ぜたデザイン。
さまざまな業界でグローバリゼーションやボーダーレス化が進む昨今、ファッション、特に日本のファッション業界は他と比べると遅れていると言わざるを得ない。そこに風穴を開けるべく開学したのが「文化ファション大学院大学」だ。88年の伝統ある文化服装学院の上に設けられたこの「専門職大学院」という研究機関の、記念すべき第1期生1年次終了制作ファッションショーおよび展示会を取材した。

ショーは11時、13時30分、15時の計3回。会場となった遠藤記念館大ホールには文化服装学院・文化女子大学の学生をはじめ、マスコミ・アパレル関係や百貨店バイヤーなど合計約2,500名が来場し、毎回立ち見が出るほどの大盛況となっていた。

ショーを行ったのは「ファッションクリエイション専攻ファッションデザインコース」の学生だが、総勢30名のうち、作品を発表することができたのは半分の15名と現実は厳しい。そんな優秀な学生ひとり1人が、半年かけて作り上げた作品の中から6体〜10体の作品をモデルが着用しランウェイを歩く本格的なファッションショーで、ヘアメイクやモデルは文化服装学院、文化女子大学の学生なども協力していたようだ。スクリーンには、OHPを用いてデザイナー名とテーマを手で書いているさまをライブで映し出すという洒落た演出で幕を開けた。

翌日は、ショーへの参加がかなわなかった学生も加わり、全員がそれぞれのブースを作って終了制作作品の世界観を表現するインスタレーションを同じ遠藤記念館大ホールで開催。そこで今回のイベントの実行委員長である内野剛秀さんと、ファッションクリエイション専攻・専攻長の小杉早苗教授に話を伺うことができた。

「海外では東京がすごい、東京の若者のセンスはすごいと評価は大変高いのに、適切な教育機関がなかったのです」と小杉教授。

「海外ではファッションがひとつの産業であり、学問分野として確立しているため、工科大学やファッション学科を備えた大学や大学院が多くありますが、日本では長い間、ファッション=服飾(服や小物をつくること)として捉えられてきたため、専門の教育機関としては専門学校しかありませんでした。しかし、近年、欧米のデザイナーの多くが高学歴化していることもあり、日本人の優秀な若者は海外の大学に進学して、そのまま活動の場を見いだしてしまうケースが少なくありません。そういった人材や才能の流出に危機感を感じ、ファッションにおける高学歴の人材育成を目指そうと、文部科学省が平成15年度から始めた専門職大学院制度を利用して開学の申請をしました」。

同学は2年間で54単位を取得するシステム。デザインとそれにまつわる技術やビジネスを学ぶ『ファッションクリエイション専攻』とファッションに関するマネジメントや経営理論を学ぶ『ファッションマネジメント専攻』の2つの専攻に分かれており、前者は「ファッションデザインコース」と「ファッションテクノロジーコース」、後者は「ファッション経営管理コース」と「ファッション技術経営コース」のそれぞれ2コースがある。

カリキュラムは、今回ショーを行ったファッションクリエイション専攻を例に取ると、1年次の前期は自分の研究の方向性やジャンル、コンセプトを明確にし、研究課題を選定。夏期休暇期間はデザイナーのアトリエなどプロの現場でインターンシップを行い、後期は自分の研究課題に基づいて作品を完成させ、今回、1年次の制作発表会を行なったというわけだ。

「今回の発表会のコンセプトを考えるのにあたり、先ず自分たちが第1期生という意味で“1st”、大学院、学問にちなみ、“本”というアイデアが出てきました。そこで、某ブックストアをもじって、“BFGU 1st””としました」と話してくれたのは実行委員長の内野剛秀さん。

会場に掲げられた某ブックストアのロゴをパロディ化したサインや図書券からヒントを得たデザインなどは、大学でグラフィックを学んだ学生が率先して作成するなど、コンセプトからショーの構成までのすべてを、大学でのバックグラウンドが異なる学生たちがじっくり話し合いながら作り上げたのだそうだ。

「1年次の間はいろいろなコンテストへの応募も積極的にさせています。最初はダメでも、何度も挑戦することが大切であり、実際の仕事をする時に役立つのです」(小杉教授)。

確かに実際のファッションビジネスの現場は厳しい競争の連続だ。が、その厳しさに慣れると同時に、勝ち抜いたものには「報酬」も与えられる。今回の終了制作展示会で首席・次席を取った学生には「BFGUスカラシップ制度」が付与され、その学生は次年度の授業料を免除される制度があるそうだ。

「文化学園が培った博物館、図書館、ファッションリソースセンターをはじめ、コンピュータニット編機、コンピュータプリントなど海外からの来校者も羨むほどの財産がここにはあります。学生にはこれらを思う存分使って一流の人材になってもらいたい。クリエイションは技術に裏打ちされてのものなのです。'自分なりに'ではなく'世界で'一番の人材になって欲しいと願っています」(小杉教授)。

また、もともと文化服装学院と協力関係にある東京都中央区の、3月12日から始まるジャパンファッションウィークで、日本橋・横山町問屋街活性化委員会によるスペシャル企画や、スイス国立ジュネーブ芸術大学とのコラボレーション参加など、国内外の企業や産学協同の企画も今後さらに積極的に手がけていく予定だそうだ。なかには、すでに2年生の学費を援助したいという企業からのオファーもあるという。

「2年次になるとプレゼンテーション用にヴィジュアルブックを作りますが、今回のショーも情報誌としてまとめます。」と内野さんは話す。

さらに、今回発表された作品は、文化出版局が発行する『装苑』に記事として掲載される他、他社のヘアショーへの衣装として有償で貸し出すなど、さまざまなところでも活用される予定になっている。

「真のクリエイターが育ちにくいといわれている日本のアパレル業界において、伝統ある同学が先陣を切って今の流れを変え、世界に通用する“ディレクションのできるクリエイター”を育成し、活動の場を拡げていけるよう働きかけていきます。彼ら、彼女らの背中を押していくのが本来の私たちの役目ですから」(小杉教授)。

[取材・文/武藤孝子(ファッションライター)+『WEBアクロス』編集室]

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