渋谷カリガリ(ココナッツカレー)

渋谷カリガリ(ココナッツカレー)

レポート
2005.12.09
フード|FOOD

「カレー屋=飲食店」という枠にとらわれない
“アクティブなカレー専門店”

オクラとナス、ピクルス(各60円)を追加した
ココナッツカレー。ランチセットは+100円
でドリンクをラッシーにすることも可能
女性客がひとりでも来られるよう配慮した
だけあり、女性でも入りやすい雰囲気だ。
オープンテラス含め客席は14席
床材をコラージュした壁面はどこか懐かしさ
漂うノスタルジックな空間を演出している
声優でもありモンゴルの伝統的な
歌唱法「ホーミー」をも操る(!)
オーナーの二木さん(右)と、俳優業も行う
店員FUMITOさん(左)
カレーの大衆性を損なわず文化のニオイを
発したいということでモチーフとして漫画を
採用した。トレーには、ほのぼのとしつつも
シュールな漫画を掲載
2005年9月1日、渋谷東1丁目にココナッツカレーを専門とした「渋谷カリガリ」がオープンした。場所は青山から代官山に抜ける通り、『カプリチョーザ』本店やタイ料理の『サラタイ』などの老舗が軒を連ねるビルの1階。銀座の老舗クラブで約5年間厨房とホールを経験した二木(ふたき)博さん(28)が出店したカレー屋だ。

「お腹を空かせたクラブの顧客に『何かない?』といわれて作ったのが始まりです。作る以上はそれなりのものをというモチベーションはありましたし、こだわって作るうちに、『何かない?』がいつしか『あのカレー出してよ』に変わり、『うちのお店でランチやらない?』と誘われもしました。でも、それなら自分でやろうと思ったんです」(二木さん)と、出店に向けて動き出したという。

メインメニューはココナッツカレーのみという潔さ。テイクアウトも可能で、価格は単品680円、コールスローとジャスミン茶がついたランチは800円と値ごろ感がある設定になっている。従来のスープタイプのタイ風ココナッツカレーのイメージとは全く異なり、具材は判別できないほどにじっくりと煮込まれており、わずかにポーク、チキン、シメジの食感が残る程度。とろみがあるコク重視の味わいながら、後味にしっかりとした辛さが残る。そこに、はちみつが入ったターメリック(ウコン)ライスがマイルドさを与え、さっぱりとしたコールスローサラダは辛味をよくほぐしてくれる。このコールスローのおいしさについては「……ヒミツにしておきますか(笑)」(二木さん)とのこと。

「今や『うまいものを安く』は当たり前。実際においしいものを安く提供できているという自負はあります。ただ、それだけでは面白くないし、限界があると思うんです。『待つ』だけじゃなく、+αで何ができるかを考えたうえで従来の飲食店のスタイルを脱却したい」(二木さん)。

そんな想いのもと、知人でもある現代芸術家の施井泰平さんに内装など出店に関するプロデュースを依頼。一見何の変哲もない店内だが、よく見ると壁面には床用のクッションフロアがコラージュのように使用されていたり、トレーにシュールな漫画が施されていたりと、随所に施井さんの細かいこだわりが伺える。結果、施井さんの造った「作品(店舗)」の中で二木さんの「作品(カレー)」を味わうという、アートと食のコラボレーションが実現したというわけだ。

また、オクラ、チーズ、バター、ピクルス、ポテト、揚げナス、追加パクチー(60〜100円)などをトッピングすることで自らの“オリジナル(作品)”を作ることができるのも特徴。その意味では、“食べる”という単純作業さえもアートになりえるのかもしれない。カレーの辛さとマイルドさ、そしてアートの “概念” というスパイスが入った同店のカレーは、他のどこでも味わうことができない一品といえるだろう。

「カレーは味が移ろいやすく、熟成が命。減ったら足すというように、新しいものを混ぜて味を戻すイメージ。僕にとって料理は“プラス・マイナス”ですしね」(二木さん)。

ちなみに「カリガリ」という店名は、ドイツ映画の『カリガリ博士』に由来しており、その作品の倒錯性と語感は店舗のアートワークとカレーのイメージにピッタリだったとのこと。

今後は、クラブ等イベントスペースへの出張サービス、空き不動産での短期出店など「カレーを媒体とした“アクティブな店”」を目指す。そこには前提として、味に対する「自信」と、面白いと思ったことをやっているという「確信」がある。「カレー屋=飲食店」という枠にとらわれないカリガリカレー。自由な発想と、個人オーナー店だからこそ可能である身軽な展開に今後も期待したい。


[取材・文/青木勇気 +『WEBアクロス』編集室]

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