ACROSS THE VINTAGE(アクロス ザ ヴィンテージ)
レポート
2012.12.17
ファッション|FASHION

ACROSS THE VINTAGE(アクロス ザ ヴィンテージ)

団塊ジュニアの「シンプル族」をターゲットに
ロングライフプロダクツを提案

オリジナルのACROSS THE VINTAGEは同じパターンで9サイズの展開。大人や子ども、男女関係なく好みのサイズ感で洋服を選ぶことができる。
シャツとジャケットなどトレンドに関係なく長く着られるベーシックなアイテムを展開。
売れ筋商品のチノパン。時間をかけて体に馴染ませて欲しいという思いから、硬い風合いに仕上げている。
1784年創業のニットブランドジョンスメドレー。
「老舗にはやはり老舗の威厳がありますから、魅力を感じます。私たちも今後そんなブランドになっていければ、という想いもあります」小山さん。
全国一の靴下産地奈良県広綾町で生産される「ORGANIC GARDEN」。オーガニックコットンと天然染めで作られている。
キッズ服も充実。休日にはバギーを押したファミリーが多く来店するそうだ。

 

昨年あたりから30代をターゲットにした「ライフスタイルショップ」の出店が相次いでいる東京・自由が丘。2012年9月15日、自由が丘駅北口にオープンした「アクロス ザ ヴィンテージ」もそのひとつである。運営は(株)コスギ

「弊社は幅広い客層に支持される商品づくりをしてきました。なかには全国700店舗を持つブランドもあり、ファッショントレンドの楽しさを提案するために年間52週、毎週新商品を展開しています。しかし、いまの時代、モノはみんな持っている。そこで『モノよりコト』を重視する団塊ジュニア世代に向け、新しい提案をしたいと立ち上げたのが『アクロス ザ ヴィンテージ』です」(新規事業プロジェクト 小山義之さん)。

2011年2月からショップの構想がスタートし3.11の東日本大震災が起きたことで、「一度手に入れたモノを大切にする」とはどういうことなのかを模索。シンプル族に向け、ロングライフプロダクツを提案するため、「子どもから大人まで、世代や性別を通り越して着られる服を」というコンセプトを構成していったという。

主力商品は、1アイテムにつき9サイズを展開する同社の新ブランド「アクロス ザ ヴィンテージ」である。日本製の素材や国内縫製にこだわったシンプルでベーシックなアイテムを、キッズ1、2(100センチ、120センチ相当)、レディス3〜6(SS〜L相当)、メンズ7〜9(S〜L相当)の9サイズで展開する。現在のラインナップはジャケット、Pコート、トレンチコート、ボタンダウンシャツ、チノパンで、季節に応じてアイテムや素材を随時、追加変更していく。

たとえば細身の男性もいれば、ゆったりしたシルエットが好きという女性もいらっしゃいます。そのような方々にも自由にサイズを選んでいただけるよう、新たな試みとして取り入れました。キッズの1サイズは、だいたい幼稚園くらいまで。小学校にあがってキャラクターものに目覚める前に(笑)、大切な1枚を着るという体験をさせてあげてほしい」(小山さん)

ちなみに、今シーズンの売れ筋はチノパン。現在、市場に出回っているものは、ダメージ加工が施された「今」着やすいパンツ類が主流。買った時が一番いい状態で、くたびれたらまた新しいものを買うというサイクルではなく、履き続けて自分の身体に馴染ませ育てていく感じを楽しんでもらいたい、と語る。

その「アクロス ザ ヴィンテージ」の両輪となるのが、レディースラインの「ハレトケ」。母娘がお揃いで着用できるよう、1デザインにつき6サイズで展開する。「ハレトケ」は柳田國男が民俗学や文化人類学において提唱した、日本人の伝統的な世界観を表現する1つ。「ハレ」は祝い事などの非日常を、「ケ」は普段の日常をそれぞれ意味する。
ラインナップは、ワンピースやブラウスなどのほかにネクタイ工場で残った端切れのパッチワークを胸元にあしらった柄入りコットンシャツチュニック24,150円や、繭に包まれるようなシルエットの7Gコクーンセーター29,400円、ベーシックなクルーネックカーディガン24,150円など。

「日常のなかにある非日常、たとえば娘さんのピアノの発表会や、家族でちょっと食事に行くとき、“女子”がおめかしする。そんなシーンに着たい、ちょっといい服というのがテーマ」(小山さん) 
広々とした店内。床はアメリカのケンタッキーのバーボン工場で使われていた構造材を再利用している。
自由が丘駅から徒歩4分ほどの場所にある築40年のヴィンテージマンション。広々としたエントランスが目印。
インテリアグッズ、雑貨、文具なども販売。
1936年創業のドイツの老舗ブラシメーカーREDECKER(レデッカー)の掃除グッズ。使えば使うほど手になじむ一生モノで、機能性はもちろん、シンプルで美しいデザインも魅力。
そしてセレクトでは、イギリスの伝統的なニットメーカー「ジョンスメドレー」や、ガンジーセーターの老舗「ガンジーウーレンズ」「プチバトー」などに加え、熊本県の帽子「フラミンゴ」や、日本で唯一、手横機でカシミヤを編んでいる宮城県の「白田のカシミヤ」など国内のファクトリーブランドも扱う。また、ドイツのレデッカー社の掃除ブラシやインテリア小物、アクセサリー、文房具などの雑貨も販売している。

約30坪の店内は白と木目を基調としたミニマムな内装。築40年の古い物件の味を活かし、床はアメリカのケンタッキーのバーボン工場で使われていた構造材を再利用した。什器として使用しているテーブルは、日本びいきのスイス人のデザイナー、コリン・シェーリーの作品、地産地消のタタミサイズでネジや釘などを一切使用せず組み立てられるというもの。シンプルで無駄を生まないミニマムな思考に共感し取り入れたという。

ベビーカーが通れる広々とした空間で、週末ともなると親子3代の家族連れで賑わうという。平日には地元住民が多く、目の肥えた男女がお気に入りのブランドを購入していくケースが多いそうだ。

物件探しの段階では、自由が丘のほかに吉祥寺、鎌倉が候補地だったそう。
「路面店というのは譲れない条件でした。商業施設にテナントとして入ってさばくような売り方をするのではなく、地域に根差して、お客様一人ひとりの顔が覚えられるような店にしたかったんです。これまでになかったコスギの新しい文化になれば」(小山さん)。

オープンにあたっての告知は、ウェブサイトの立ち上げのほかに、タブロイド版を作成し、東横線沿線で新聞折り込みを実施したほか、若手スタッフが店頭で風船と一緒に配布した。TwitterやFacebookなどのSNSを使わず、「人から人」「紙の手触り」といったあえてアナログなアプローチをしたことも、「ライフスタイル系」のターゲット層の心をつかむ結果となった。

トレンドのサイクルをあえて降り、大量生産・大量消費型のブランドは、そろそろ「卒業」だと感じている。かといってハイブランドやオーダーメイドとも異なる新定番が欲しい。そんな30代〜のライフスタイル系にとって、老舗による手仕事や国内生産の安心感は何物にも代えがたい付加価値だろう。サイズのみで展開することによって、リピート買いのニーズにも応え、さらにネットでも購入しやすいというメリットにもつながっている。

いま、日本には団塊ジュニア世代と呼ばれる30代後半〜40代の男女が約一千万人いると言われています。彼らは浪費傾向に走らない「シンプル族」。コスギは定番を着実に作り続けてきた自負があります。もう十分モノは持っている、足るを知ると言いますか、余計なものをそぎ落としたなかに、一つひとつ必要なものだけを足していく。そんな時に思い出してもらえる存在を目指しています」(小山さん)

取材・文:皆川友美(フリーライター)
 

ACROSS THE VINTAGE(アクロス ザ ヴィンテージ)

〒152-0035
東京都目黒区自由が丘2-16-22
電話番号:03-6421-4521
営業時間:11:00〜19:00、土曜日:11:00〜20:00
定休日:火曜日


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