代々木VILLAGE by kurukku
レポート
2011.11.25
カルチャー|CULTURE

代々木VILLAGE by kurukku

クリエイターの試みは、代々木の街を返るか
〜“都市型小規模商業施設”のあたらしいかたち。

写真中ほどでは、小林武史氏や大沢伸一氏、片山正通氏、笹島保弘氏、西畠清順氏らが篠山紀信氏により記念撮影中の風景。奥に仁王立ちになっているのは、なんとchim↑Pom!

「<突然変異>した柱サボテン。植物がなんらかの理由で成長点がその個体のいたるところもしくは部分的に異常に分岐し平べったくなることを“石化”という。よく見てみるとこの大きなサボテンにもその石化現象が見られる。...」と、敷地内には世界中から集められた珍しい植物が植えられていて、ひとつひとつに解説が施されている。
本物件は、代々木ゼミナールの本校跡地を再利用したプロジェクト。細長い敷地に白いコンテナが連なる「CONTAINER ZONE(コンテナゾーン)」。
敷地に入ってすぐのところにあるベーカリー「pour-labo」は連日大人気。
プレオーガニックコットンを用いたシリーズを扱うアーバンリサーチの新業態「ワンマイル・ウェア」も人気だ。
京都の人気イタリアンのオーナー・シェフの笹島保弘さんによる「code kurukku」は、夏はオープンテラスにもなる1Fと半オープンなVIPルームも配備。
壁面には本物のグリーンによる天井までの壁が圧巻。植物のエネルギーがレストランいっぱいに広がっていた。
小林武史氏と大沢伸一氏が手がけたミュージックバー。毎日27時まで営業しているそう。内覧会時には雑誌のインタンビューと撮影が入っていた。
陽が落ちてからのランドスケープも魅力のひとつ。
エントランスは「緩やかな仕切り」が配され、さながら高級レジデンスといった雰囲気。

代々木駅から徒歩1分という立地に、「代々木VILLAGE by kurkku」という小規模商業施設がオープンし、話題をよんでいる。

総面積634坪とこじんまりしている敷地にレストランやカフェ、ギャラリーなど11軒のテナントが出店。エントランスを入ると、まず貨物コンテナに回遊路を立体的に配したデザインの「CONTAINER ZONE」が配備され、ウッドデッキと珍しい植物たちが、ベーカリーやカフェ、ギャラリーといったショップ群を繋ぎ、敷地のいちばん奥には、レストラン&バーの「VILLAGE ZONE」が配置されている。

建物は2階までで、庭に大きく面積を割いており、都心部の商業施設ながら空の広さが実感できる、開放感あるデザインとなっている。ヴィレッジ=村というコンセプトを都心部で具現化しょうとすると、上質なリゾートのようになる、というのが<今>なのだろう。

同施設全体のコンセプトをプロデュースしたのは、音楽プロデューサーとして知られる小林武史さんを中心とした株式会社クルックである。共同プロデュースとして大沢伸一さんが加わったことで、音楽畑の2人による都市型の商業施設となった。

デザインディレクションにはワンダーウォールの片山正通さんランドスケープ・ディレクターに花・植物生産卸業”花宇”五代目の西畠清順さん。メインレストラン「code kukuru(コード・クルック)」のフード・プロデュースには、人気イタリアン「イル・ギオットーネ」のオーナーシェフ・笹島保弘さんが担当。各ジャンルで活躍するトップ・クリエイターたちが、それぞれの才能を持ち寄って作り出したという趣が新鮮だ。

出店しているテナントも、それぞれ独自のスタイルを持つショップをプロデュース。自家製酵母と石釜ピザのベーカリー「POURQUI?(プルクワ)」(藤沢市辻堂)の姉妹店「pour・kur(プルクル)」をはじめ、世界各地のサステナブル農法で栽培された厳選の豆を世界最高級のエスプレッソ・マシーンで提供する「Roots & Beat Coffee(ルーツ&ビート・コーヒー)」など、現代の都市生活者の食の文化にしっかり向き合った新業態を提案していて興味深い。

また、恵比寿「LimArt(リムアート)」の姉妹店「POST(ポスト)」は、日本であまり紹介されていないようなアート・デザイン系の洋書を多く取り扱うブックショップを出店。定期的に海外の出版社1社にスポットを当て、その度に店頭に並ぶ本が全て入れ替わるという新しいスタイルにも注目したい。

ギャラリースペース「blind gallery(ブラインド・ギャラリー)」は、「ファッションや音楽などを含め、多岐にわたるジャンルの"目に見えない"魅力を引き出す芸術ラボラトリー」がコンセプト。アートブックのショップやこの規模のギャラリーはこれまで新宿/代々木エリアには少なかったジャンルでもあり、近隣のアート好きや、アートにまだそれほど馴染みのない人たちにとっても嬉しいスポットになりそうだ。

2階には、地球にやさしい旅の提案など“新しい旅の創造”を打ち出した、コンシェルジュ機能を打ち出した旅行代理店「Love Peace Travel by H.I.S.」が出店。カフェのような空間でコンシェルジュといっしょにプランニングされる旅は、それまでのツアーとはひと味違った楽しいものになるかもしれない。

また、セレクトショップの大手のアーバンリサーチは、同社が推進するプレ・オーガニックコットンを中心に扱った大人のリラックス/ラグジュアリースタイルを提案するone mile wear by urban research 代々木VILLAGE」をオープン。

さらに注目されるのは、施設全体のグリーンを担当した「そら植物園」が、世界中の植物に関する相談や、グリーンプロジェクトのコンサルティングデスクを出店していることだろう。

いずれの店舗もこの代々木VILLAGEの施設コンセプトに合わせた、新しい業態での出店となっているのが特徴である。

そして、施設の中心となるのが、メインレストラン「code kurkku(コード・クルック)」。京都発のイタリアンとしていまや全国的にも屈指の人気のシェフ・笹島保弘さんがプロデュースする新しいオーガニックイタリアン料理のレストランだ。食材に対する安全性・信頼性をメニューやサービスを通じて提供する。オープン早々、すでに平日のランチでも長時間のウェイティングがかかるほどの人気を集めている。

2FはVIPルーム。1Fに併設する「music bar」は、小林さんと大沢さん、2人のプロデューサーがセレクトする音楽ライブラリーから選ばれた名盤を、天井の高いゆったりとした空間で、高音質で楽しむことができる大人の空間となっている。27:00クローズという時間も含めて、従来の代々木にはなかった“夜っぽさ”が新鮮だ。

この代々木VILLAGEの構想のベースには、これまで小林さんが手がけてきたプロジェクト「kukuru(クルック)」の取り組みがある。同社は、“快適で環境にもよい未来へシフトしていくための消費や暮らしのあり方を実践する場”として、これまで渋谷区神宮前でカフェ/レストランを運営してきた実績がある。さらに近年は、素材や食感へのこだわりから食材の安全性の追求へと視野と活動範囲を広げ、オーガニックコットンを広めるプロジェクト「プレオーガニックコットンプログラム」へと拡大してきたのは、先日の「東北コットンプロジェクト」で取材した通りである。

さらに遡れば、小林さんは2003年に櫻井和寿さんと一般社団法人「ap bank(APバンク)」を立ち上げ、サステナブルな社会を実現するための活動に取り組んできた。2010年には農業事業を実践する法人として「株式会社耕す」を設立している。

こうしたサステナブルな社会への指向やエコロジーへの取り組みを、都市のライフスタイルの中で、楽しみとともに実現していく一つの形が、この「代々木VILLAGE by kurukku」なのだろう。

新宿と原宿の狭間であり、また予備校や専門学校のイメージが強い代々木駅周辺だが、周辺にはオフィスもあり、また、実はクリエイターらによる小規模オフィスも少なくない。代々木というまちがイメージする自由度の高さが、むしろプラスに働きそうだ。

「代々木VILLAGE by kurukku」のリーフレットに収録されたインタビューで、小林さんもこのように語っている。

「例えば青山のどこかに穴場を開拓したというより、代々木という街が変わる方が絶対にインパクトが高いと思ったんです」。

この代々木という場所の“手つかず感”と、「代々木VILLAGE by kurukku」が放つ独特なディベロッパー臭が希薄な個性は大きな魅力として消費者/生活者に受け入れられそうだ。直前の駅ナカおよび山手線の中吊りで展開された広告効果か、23日の祝日には商圏分析的には想定外のエリアからの来場者で大賑わいとなっていた。ここから代々木の人の流れがどう変化していくのかまた、同商業施設の誕生をきっかけに、「コンパクトな商業施設の時代」へシフトしていくのではないか、など、今後も楽しみに見守っていきたい。

[取材/文:本橋康治(コントリビューティング・エディター)+「ACROSS」編集部]

代々木VILLAGE(代々木ヴィレッジ)

〒151-0053
渋谷区代々木1-28-9
03-5302-2073

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