東京・祐天寺にあったギャラリー&ワークショップスペース「はちどり」が、2011年6月25日に移転・リニューアルオープンした。場所は、京王線・千歳烏山駅から歩いて15分ほどの緑豊かな住宅街。そこには公園や保育所と並んで20棟以上の団地が建ち並び、その団地の一室に「はちどり」がある。
オーナーの矢取徳美さん(34歳)は、広島で学生時代に油絵を専攻し、卒業後はアパレル販売を経験。退職した2000年に上京すると、憧れていたイラストレーター中川清美さんがアートスクールのセツ・モードセミナー(以下、セツ)出身だったことから、同校の美術科に通ったそうだ。
卒業後には、友人と自分の展覧会を開いたり、中野の「カルマ」や「una camera livera(ウナ カメラ リーベラ)」といったギャラリーカフェなどでのアルバイトを経て「はちどり」がオープンしたのは、2010年9月のこと。ギャラリーの名前の由来は、オーナー矢取さんの名字を「8とり」ともじったことや、世界最小の鳥「はちどり」という意味も気に入り名づけたのだそう。
ギャラリーを作ったきっかけには、イラストレーター小池アイミゴさんの大人と子どもが一緒に絵を描くワークショップに参加した際に、知らない人同士でも「絵」を描く行為を通して繋がることが出来るんだと、身を持って経験したことも大きく影響したという。そんなアートを通して集まった人たちが繋がることの出来る“場”を目指した。「はちどり」での初展示は、セツ時代の同級生でイラストレーターとして活躍する、前田ひさえさんの個展だったという。
「作家を選ぶ際には、作品はもちろんのこと作家さんが魅力的な方かどうか?というのもありますね」(オーナー/矢取徳美さん)
通常ギャラリーはアクセスの良い商業地に構えられることが多いなか、逆にこの場所へ訪問するには、不便な住宅地であること自体が魅力になると思い出店を決めたという。「思わず深呼吸をしたくなるような緑のたくさんある団地」というのが、矢取さんが初めて団地を訪れた時の印象だそう。物件は矢取さんの自宅も兼ねており、ギャラリーとして活用している広さは約13畳。これまでの住人が壁にペンキを塗り重ねたり、襖を木戸に換えていたところも気に入り、そのままの内装を活かしながら、畳をはがして木製板を敷くなど最小限の改装をしたという。
来客層のメインは30代だが、大学生や専門学生の20歳前後の若者も訪れるそう。作家のファンだけでなく、同ギャラリーのリピーターも多く、多い日で1日約20人が訪れるという。現在はイラストレーションの展示が中心で、ギャラリーの出展費用は、展示した作品の売り上げの30%となっている。
取材当日は、衣服と記憶をテーマに作品づくりをしている作家で、縫う&編むレーベル「homam(ほまむ)」主宰の伊藤さちさん(27歳)の個展期間中だった。6月17日〜30日まで行われた個展「森のとなり商店」は、「はちどり」での展示の他、中野の無国籍料理店「カルマ」と阿佐ヶ谷のカフェ&ギャラリー「petite fille inelle(ペティトウ フィーユ イネル)」や中目黒のギャラリー「sakumotto(サクモット)」での展示、中野のカフェ「una camera livera(ウナ カメラ リーベラ)」を拠点に中野駅周辺で歩きながら行われたブローチやチャームをつくるワークショップと5拠点での移動展示形式が話題を呼んだ。
作家の伊藤さんは「移動して完成させていく個展は初めてですが、道路や飲食店、団地という場所から作品のアイデアが広がりました」と話す。
以前弊誌で紹介した「FORESTLIMIT(フォレストリミット)」などのように、(30代が)自分たちの求める“場“を自ら創っていく動きが増えている。共通しているのは、規模は小さくても自分たちで”場“を作ることや、同じ価値観を持つ人が集まり繋がっていくという、これもまた“community of practice”の1つの現象と言えそうだ。
[取材・文/緒方麻希子+『ACROSS』編集部]