パンとエスプレッソと
レポート
2009.09.28
フード|FOOD

パンとエスプレッソと

おいしいパンとコーヒーを日常に。毎日のちょっとした贅沢を提案するカフェが表参道にオープン。

カール・ハンセン特注の家具や、
ジャスパー・モリソンの照明など
スタイリッシュな店内。
店内併設のパン工房で、毎日手作り
されている。
一番人気のムー(280円)はバターを
ふんだんに使ったデニッシュ風の食パン。
何層にもなっている軽い食感のデニッシュ
生地のミルヒ(210円)。手頃な値段設定も
人気の理由。
手頃な価格とサイズが女性に人気。
数個まとめて購入する人がほとんど
だそうだ。
パン以外にもサンドイッチやサラダ
などの総菜や、同店がセレクトした
調味料や食材も販売している。
「週に一度の豪華なディナーよりも、毎日の暮らしの中にあるパンとエスプレッソの素材や質にこだわりたい」。そんなコンセプトから、今年の4月に誕生したバール&ベーカリー「パンとエスプレッソと」。場所は表参道駅から徒歩7分、大通りから一本入った路地沿いにある。

我々を笑顔で迎えてくれたのは、同店のプロデューサー、マネージャーを勤めるバリスタの國友栄一さん(35)。イタリアで修行を積んだ有名バリスタでもある彼は、もともと大阪をベースに6年間、数々のバールやカフェ、ワインバーをはじめとする飲食店の企画・コンサルティングを行ってきた人物。同時に、東京コレクションでメンズブランド「FACTOTUM(ファクトタム)」のケータリングを行うなど、東京での仕事も多数手がけてきた。

同店オープンの背景について、「08年の9月ごろに日本橋三越のベーカリー『ミディ ア ミディ』が撤退、移転をして、新たなコンセプトの店舗をオープンすることになり、運営会社から新店の企画・プロデュースの依頼を受けたことがきっかけです」という國友さん。以前から東京への進出も視野に入れていたという國友さんは、そのタイミングで東京に拠点を移したのだという。

白を基調としたスタイリッシュな雰囲気の店舗は、右手がガラス張りのパン工房と、焼きたてのパンを販売するスペース、左手がバールに分かれている。パン工房の脇にあるイートインスペースをイメージしたという約20坪の店内は、カール・ハンセン社に特注して革を張り替えたというハンス・ウェグナーのエルボーチェア、ジャスパー・モリソンの照明グローボール、テラス部分にスタンド式カウンター(8〜10人用)を配置するなど、座り心地や居心地の良さにもこだわった。

「店づくりで心がけているのは、食とクリエイションを両立すること。料理人では手が回らないクリエイションの幅を、私たちスタッフで広げていければと思います」と國友さんが話すように、同店の魅力は表参道エリアに馴染む洗練されたデザインにある。空間デザインは、以前弊誌でも取材した「インコ」「NEW PORT(ニューポート)」の運営、横浜トリエンナーレ2008のアートディレクショを手掛けた株式会社Bluemark(ブルーマーク)の菊池敦巳氏が担当。同店のロゴや看板、レジ袋も菊池氏の手によるものだ。また、グレーのベストとパンツが軽やかな印象のユニフォームは、先述の「FACTOTUM(ファクトタム)」がデザインを担当している。

「空間デザイナーではなく、あえてグラフィックデザイナーの菊池さんにお願いすることで、色のバランスや配色などにこだわりつつも、統一感のある空間になったと思います」(國友さん)。

ベーカリーは元「ミディ ア ミディ」のシェフの櫻井正二氏が担当。「ミディ ア ミディ」といえば、吉祥寺の「DanS Dix ans(ダンディゾン)」、丸ビルの「POINTET LIGNE(ポワンエリーニュ)」、青山の「d’une rarete(デュヌラルテ)」などの人気ベーカリーをプロデュースした浅野正已氏が手がけたことでも有名な店舗。櫻井シェフが作るのは、フランスのクラシックなスタイルを踏襲しつつも、薄めの皮としっとりもちもちとした食感、ふわりと広がる香りにこだわる“日本人好みのパン”だ。日本のパンと日本のバールという取り合わせた國友さんのイメージに櫻井シェフも共鳴し、二人はすぐに意気投合したのだそうだ。

「目指すところは、 “日本人に合った日本のバール”。おいしいパンと本格的なエスプレッソを一緒にすることで、お客さまの間口も広がるのでは、と考えたんです。日本でバールは”立ち飲み屋”のイメージが強いですが、イタリアでは文化そのもの。イタリアには“その地域を知りたかったらバリスタに聞け”という言葉があるように、毎日何度も立ち寄るもので、生活のルーティンの中に入る存在。そんなバールのように、毎日行きたくなるような店を作りたかったんです」(國友さん)。

パンは約30種類を用意しており、価格帯は90円〜280円のものが中心。一番人気は、仏語で“柔らかい”を意味する「ムー」(1斤280円)。手で割ると甘いバターの香りが広がり、ふんわりとした食感が楽しめる一品だ。また、小豆、胡麻、粟などの雑穀・種子を練り込んだ「グレーヌ」(260円)、玄米粉のパンに粒あんを入れた「ロココ」(100円)、ひき肉とひよこ豆を使った焼きカレーパン「カリル」(180円)など、思わずいろいろと試したくなる小ぶりのパンが揃う。またバールで手作りされるという、厳選した食材を挟んだ大きめサイズのパニーニ(常時6〜7種類・500円)も好評で、すぐ売り切れてしまうほど。

さらに國友さんは、お客さんとのコミュニケーションを大切にしているという。「日本ではコーヒーと同様にエスプレッソも無糖でオーダーされる方も多いですが、エスプレッソは砂糖を入れることで、酸味と甘みのバランスが調和してより美味しくなる。新しい魅力を発見してもらうためにも、事前に“砂糖を入れるかどうか”を尋ねて、その人に合った飲み方を提案するようにしています」と國友さん。実際に、彼の提案した飲み方のリピーターになるお客さんがほとんどだという。

価格はエスプレッソ(300円)、エスプレッソコンパンナ(350円)、エスプレッソにフォームミルクを注いだマキアート(350円)、カプチーノ(500円)。立ち飲み(テイクアウト)の場合は100円引きのため、1杯だけ立ち飲みをしにくる客もいるという。

時間を問わず幅広い楽しみ方ができるのも同店の魅力。モーニング(8:00〜10:00)は、「トーストセット」(サラダつき450円)と「パンプリンセット」(500円)、「パニーニセット」(600円)の3種類。ランチタイム(11:30〜15:00)はおかわり自由の焼きたてパンがついた「日替わり 週替わりランチ」(950円)、「10種の野菜のサラダランチ」(950円)のほか、「パニーニランチ」(サラダ付き700円)を用意する。23時の閉店時間までのディナータイムは20種類近く揃うワイン(グラス500円〜、ボトル2,500円〜)に、ハム(800円〜)、スプレッド(450円〜)のほか、サラダ、チーズ、ココットなどワインにあう食事を提供。ソムリエの資格を持ったスタッフも在籍している。

客層は、平日の朝やランチには近所の住人や近隣のアパレル系会社、ヘアサロンに勤める常連客が多数。さらにその顧客が紹介されて来店するなど、お客さん同士が繋がることも多く、外国人の来店も目立つという。一方で、週末にはいわゆる「パン好き」の30代前後の女性が、雑誌などで情報を得て足を運ぶのも特徴。そのためか、平日は比較的ベーシックな「ムー」などベーカリーが人気だが、週末は「グレーヌ」や「ロココ」といった創作ベーカリーが売れるという。8:00〜11:00の焼き上がりの時間には混雑することもあり、人気のパンはすぐ売り切れてしまうことも珍しくないそうだ。

東京に拠点を移して約半年。大阪との違いを尋ねると、「大阪はやはり価格にシビア。店員とお客さまとの距離が近いのも特徴ですね」と國友さん。同店には、そんな大阪ならではの価値観も反映されているようだ。

「今後、特に増店する予定はありませんが、新業態の飲食店を渋谷に出店する予定です」(國友さん)

外食産業が不況の煽りを受ける昨今、同店が支持される理由は、優れた“クオリティ”“価格”“サービス”はもちろん、感度の高い表参道にマッチするクリエイション、コミュニケーションが同居している点にあるといえる。日常生活のあらゆるシーンに寄り添いながら、「パンとエスプレッソ」だけではない、プラスアルファの楽しみを提供する同店に、今後の飲食業界を活性化するヒントがありそうだ。


[取材・文/渡辺満樹子(フリーライター/エディター)+『ACROSS』編集]
パンとエスプレッソと
住所:東京都渋谷区神宮前3-4-9
電話:03-5410-2040
営業時間:8:00〜19:00(ベーカリー)
     8:00〜23:00(バール)
定休日:無休



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