TURNTABLE LAB TOKYO(ターンテーブル・ラボ・トーキョー)
レポート
2009.10.15
カルチャー|CULTURE

TURNTABLE LAB TOKYO(ターンテーブル・ラボ・トーキョー)

米国で人気の大型オンラインミュージックストアの国内初店舗

メタル〜ジャズまで、ジャンルに
偏ることなく陳列されている。
夜にはお客で席が埋まることも
あるというバー。音楽談義に花が
咲くという。
天井までの高さの棚に綺麗に陳列されて
ごちゃごちゃ感のない、すきっりとした
内装。
少数だがオリジナルのTシャツや
キャップなどのファッションアイ
テムも並ぶ。
08年にはアナログレコードショップの重鎮CISCOが倒産・閉店、R&B/HIPHOPの人気ショップであるマンハッタン・レコードも店舗を縮小するなど、渋谷を中心としたアナログレコードのマーケットは厳しい環境下にある。CDを含むパッケージ商品としての音楽ソフトの販売額は年々縮小傾向が止まらないという状況だ。そんななか、09年5月、アメリカ最大のオンラインDJストア“TURNTABLE LAB (ターンテーブル・ラボ)”の日本初のオフィシャルショップとなるTURNTABLE LAB TOKYO(ターンテーブル・ラボ・トーキョー)が東京・渋谷区東にオープンした。ニューヨーク、ロサンゼルスに続いて3つめのリアルストアである。

渋谷のレコードショップが多く立ち並ぶエリアといえば宇田川町界隈が思い出されるが、同社がショップを構えたのは並木橋、金王神社の近くという、渋谷駅から少し離れた意外な場所。ショップよりも小規模なオフィスなどが多いエリアだ。大きく取られた窓と白い内装にテーブルやイスなどが配され、一見したらアート系ブックストアのような印象の店構えである。

このタイミングで、ダンスミュージックを取り扱うレコードショップをオープンしたのはなぜなのだろうか。自らもDJとして活動すると同店ディレクターのROGER YAMAHAさんはこう語る。

「00年からNYに渡りDJとして活動後、04年に帰国しました。当時、東京ではレコードショップがどんどんなくなっており、僕自身も年齢的にクラブにも行かなくなっていて、音楽に触れる機会が徐々に減ってきていました。そういった状況のなかで、アメリカのターンテーブル・ラボが提案していたような『自由に音楽について語ったり、楽しめるリアルな場』があればいいなと思ったんです」(ROGERさん)。

TURNTABLE LAB(ターンテーブル・ラボ)の本拠地はニューヨークで、オンラインDJストアとしてスタートして10年が経つ。本国のウェブサイトを見ると、CDやレコードの通信販売以外に、MP3形式などで楽曲データのダウンロード販売も行っており、楽曲ごとに1〜2分間の視聴が可能で、かなりじっくりと曲を聴いてセレクトすることができるところが人気の要因だ。ターゲットは“クラブミュージックは好きだけれど、あまりクラブには行かない”という層。確かに人種も含めて地域やハコごとに客層が全く変わるリアルのクラブシーンから離れて、自由にいい音楽を楽しもうという提案は、ウェブショップであればこそ可能になったといえるだろう。これを日本向けにアレンジしたのが同店というわけだ。

「今は“音楽で商売なんて…”っていう時代ですけれど、リスナーがネットで音楽を楽しむことに慣れている現在だからこそ、実体として、モノに出会えるショップは可能性があるかなと考えています。音楽の楽しさをリアルに体験してもらえる場はこれからも必要とされるでしょうから、それを作っていきたいですね」(ROGERさん)。

全体の商品構成はアナログレコード:CD:アクセサリーと雑貨が、7:2:1という比率。独自の視点でセレクトされたアナログレコードやCDが並び、普通のアナログレコードショップにあるような細かいジャンルの分類はなく、ソウルとへヴィ・メタルのレコードが同列で並んでいる。ほとんどは本国の“TURNTABLE LAB (ターンテーブル・ラボ)”から輸入したもので、日本で入手しづらいものを中心にセレクトされているという。店内にはテーブルと椅子も置かれているので、座って商品をじっくり見ることも可能。客層は圧倒的に男性だが、年齢層は20代が中心で、当初の予想よりも若い層が来店しているそうだ。

また、同店の特徴として注目したいのが商品レビューだ。アナログレコードショップにありがちな、「○○派のDJはマスト」「このキーボードがヤバい!」という類のおすすめコメントだけではなく、もっとスタッフの個人的な視点で書かれているものがあるなど、多岐に渡る紹介方法を取っている。例えば、Mary J Bligeのレビューは、「オリジナル夏ナンパ失敗またナンパ BGM をデッドストックの7インチで入荷。コレを自分の部屋の意外と目に付くところに置くなり、貼るなりしてください」と、曲そのものというよりは、その取り巻くスチュエーションを想像させるものや、「極上ラップだけに、様々なジャンルのアーティスト/プロデューサーから勝手に引用されまくりです。『ちょっとラップ的な的なネタをカブせたいなぁ』なんてわがままに対して、彼以上のキャラクターは存在しません」など、同店のショップスタッフなどが楽曲の魅力や楽しみ方についてコメントを寄せていて、読者はそういった自分の嗜好に合うレビューから、曲を選ぶこともできるのだ。

「既存のCD/レコードショップとは、違う提案方法を心がけています。生活のシーンの中で“こんなシチュエーションの中で聴いてみてはいかがですか?”や、個人の正直な意見もきちんと紹介し、お客様が共感できるスタッフの意見を参考にしていなと、リスナーには自分が好きか嫌いか、という基準を一番大切にしてほしいですね」(ROGERさん)

宇田川町を中心とするレコードショップの集積は、今なお世界のトップレベルだ。レアな音源になると、本国よりもどこよりも手に入りやすいのが東京である。たとえばアメリカで手に入りづらいレアな音源があったとすると日本:イギリス:アメリカは7:2:1くらいの配分で日本に入ってくるという。高く売れるから、商品が集まるのだ。

93〜94年頃のDJ高校生〜大学生くらいの頃に迎えたブームを機にDJを始めた70年代終盤以降生まれの音楽好きの世代には、就職と同時に機材やレコードを売ってしまったり、実家に置きっぱなしにしている人が多いそうだ。経済的な問題というよりも、忙しさから新しい音楽をフォローすることをやめているのが現状だ。

「当店は、60年代以降のポップスから様々なジャンルを、いろいろとセレクトしているショップです。若い頃に音楽が好きで、クラブに行っていた人や、DJをしていたような人たちが、懐かしさを感じて“久しぶりにやってみようかな”と思えるようなきっかけづくりにもなればと思います」(ROGERさん)。

今後、同店ではクラブイベントや、ショップ内でのワークショップ、上映会など、さまざまな試みを計画しているそうだ。

音楽に限らず、いま、都内のライブハウスや小ホールではワークショップやトークイベントに熱を感じるし、面白そうな企画も多い。SNSなどで疑似的な体験は簡単にできるようになったが、やはりライブの空気を楽しみつつ、楽しさプラスアルファの何かがほしい、というような意識の広がりが感じられる。今の流行を教えてくれるのではなく、直感的な音楽のテイストの仕方を提案する同店。このカフェとクラブの中間のような空気を持つショップから、どんな音楽の楽しみ方が生まれてくるのか楽しみである。

[取材・文:本橋康治+『ACROSS』編集部]
TURNTABLE LAB TOKYO(ターンテーブル・ラボ・トーキョー)

〒150-0011 東京都渋谷区東1-13-14 渋谷松永ビル1F
TEL: 03-5778-2870
FAX: 03-5778-2971
営業時間:pm1:00〜pm9:00(月〜木)、pm3:00〜pm11:00
定休日:日曜日





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