はらドーナッツ
レポート
2009.01.20
フード|FOOD

はらドーナッツ

おからと豆乳の素朴なドーナツが人気
〜神戸発の「はらドーナッツ」〜

もっともプレーンな「はらドーナッツ」120円。
控えめな甘さ、おから入りのもちっとした
食感にリピーターも多い。
買い物ついでに立ち寄るご近所さんがいる
のは商店街ならでは。
こちらの黒板のような看板が目印。
ドーナツではなく“ドーナッツ”とした
表記にこだわりが感じられる。
お客様に安心感を与えたいという思いから
あえて売り場から厨房が見える設計に。
制服は帽子とエプロンのみで他はスタッフ
の私服だそうだ。
ドーナツが見えるパッケージがかわいい。
手土産にも好評だ。
こちらは週末の様子。行列に誘われて
さらに人だかりができていた。
客層もいろいろだ。
下北沢北口に08年11月17日、神戸の老舗「原とうふ店」の豆乳とおからを使ったヘルシーなドーナツで話題の「はらドーナッツ 下北沢店」がオープンした。場所は下北沢駅北口から徒歩約10分、繁華街を抜けた一番街商店街沿いにある。

「はらドーナッツ」は昨年5月に神戸に本店をオープン後、8月に吉祥寺店阿佐ヶ谷店を出店し東京に進出。ここ下北沢店は、東京では国立店に続く4店舗目となる。さらに、08年12月には二子玉川店横浜青葉台店を出店、09年1月21日には茅ヶ崎店、25日には中野店も出店予定という。

8坪の店舗は、シンプルながらも白を基調とした温かみのある内装。壁や看板、紙袋やチラシには手描きのドーナツや小鳥のイラストが使用されており、どこか懐かしさを感じるおしゃれなビジュアル展開も特徴だ。店頭で販売されるのは、口中でほろりと崩れる懐かしい味わいのケーキドーナツ。毎日、店頭で100%手作りされるドーナツは約10種類で、価格は120〜160円。サイズが小ぶりなだけに大手チェーン店と比べるとやや高めにも感じるが、オープン当初から行列ができる店として話題になり、1日で約2,500個も売れているそうだ。プレーンタイプの「はらドーナッツ」(120円)、チョコのグレーズをかけた「チョコ」(130円)のほか、ほうれん草やにんじん(それぞれ150円)など有機野菜を使ったものもある。

「コンセプトは、誰もが美味しく、安全に、安心して食べられるドーナツ。流行の“スイーツ”ではなくて、あくまでもお母さんが手作りしたような“おやつ”を作りたかったんです」。と話すのは、同店の代表・岡井健さん(34)。

大阪府出身の岡井さんは、以前は神戸や東京のカフェなど飲食店で働いていた。彼が独立して店を作りたいと考えた時、最初に浮かんだのは、子どもの頃にコロッケ屋を営んでいたおばあちゃんが手作りしてくれた、美味しいドーナツの記憶だったという。

「小麦粉と卵、砂糖を混ぜて作った、シンプルで家庭的な“おやつ”は、僕の大好物でした。起業を考えたとき、身近な素材で作れるドーナツなら調理のプロではない自分でも作りやすい点も魅力でした」と岡井さん。

家庭でもできるおやつだからこそ素材にはこだわった。子どもやお年寄りまで誰もが安心して食べられるように健康や安全面を考え、防腐剤や保存料は一切使用せず、材料にはできる限り国産を使用。さらに良質な国産の豆乳・おからを求めて、いろいろな豆腐店を探し歩いた結果、彼のイメージにぴったりだったのが「原とうふ店」だったそうだ。

「原とうふ店」は、神戸の下町・湊川の商店街で1968年より運営する、地元では評判の老舗店。北海道産の「大粒鶴の子大豆」、高知県室戸の海洋深層水、赤穂産の天然にがりなど、国内の良質な素材にこだわって手作りされた味わい深い豆腐を販売している。そこから生まれた粒が大きくどっしりとしたおからに、「これだ!」と確信を持ったという。商品のレシピは、岡井さん自身が試作を繰り返して考案。「原とうふ店」のご主人にもその味を認められ、素材を提供してもらえることになった。そして、同じ湊川の商店街に1号店となる「はらドーナッツ 神戸本店」をオープンしたところたちまち話題となり、遠方からも商店街に人が集まるようになったのだそうだ。

「実は95年の阪神淡路大震災以降、湊川の商店街では若者が減ってお年寄りが増えていましたが、出店がきっかけで幅広い層のお客さんが来るようになったんです。地元の人達も、“若い人が戻ってきて、新しいことをやってくれるのがうれしい”と応援してくれるのがとてもうれしかった」(岡井さん)。

神戸本店の成功で手応えを得た岡井さんは、前職の関係で東京に居を構えていたこともあり、かねてから考えていた東京進出に着手。海外出店の夢があるため、首都の東京を経由したほうが情報が発信しやすいとの考えもあったという。東京での出店は10店舗を目指しているが、素材の確保や品質管理のためにも直営店のみで展開予定。

「はらドーナッツ」の特徴のひとつがその立地条件だ。物件は、駅や繁華街から少し離れた昔ながらの商店街やアットホームな住宅街を選んでいる。イメージするのは、地元の人たちが散歩途中に寄れるような場所。その理由を、「比較的家賃が安く出店しやすいというのもあるが、全ての店が、地元の人達と交流しながら10年20年と地域に定着して、地域活性や地域貢献ができるようにしたいから」と岡井さんは語る。

なんと、すでにショッピングセンターや駅ビルなどからの出店依頼も多いそうだが、同店のコンセプトと異なるために断っているとのこと。

下北沢店の客層は小学生、子連れのお母さん、お年寄りなど幅広く、土日にはショッピング目的で来訪する若者も増える。また同店はドアを設置しないオープン型の店舗のため、ふらっと立ち寄りやすいというのも幅広い客層を獲得した理由だろう。

「神戸店をオープンしたとき、小学生がお小遣いを握りしめて買いに来て、“この店のドーナツがいちばんおいしい”と言ってくれたことがとても励みになりました。昨今は食べものへの意識も高まり、大人はもちろん、子どもたちの味覚が昔のように正しく戻ってきているのでは、と将来性を感じたことも後押しになっています」(岡井さん)。

将来的には、包装を簡易化してごみを削減したり、売り上げの一部を環境へ還元するなど、環境保全にも積極的に取り組んでいく予定だ。材料に豆乳だけでなくおからを使うことにこだわったのは、実は、そのほとんどが産業廃棄物としてゴミになるというおからを活用したいという発想があったという。現在「原とうふ店」のおからと豆乳は、毎日宅配便で東京の各店に届けられ、美味しいドーナツへと生まれ変わっている。

今後は、ドーナツと相性の良いドリンクの提供やイートインスペースの設置も視野に入れる他、海外出店もしてみたいとのことで、「皆がやさしい気持ちになれるものを提案していきたい」と岡井さん。

「はらドーナッツ」成功の要因には、昨今のドーナツブームという追い風もある。しかし、話題の「クリスピークリームドーナツ」(150円〜)や「ドーナッツプラント」(250円〜)は、 リッチな甘さで価格も高めの “よそ行き”的な都心型ショップ。一方、幅広くチェーン展開する「ミスタードーナツ」は、105円〜という値ごろ感もあり気軽に利用できるが、イマイチおしゃれ感には欠ける、というように二極化していた感がある。そこに登場した「はらドーナッツ」が、ちょうどそれらの中間のポジションを獲得。飽きのこない素朴な味わいで、価格も手頃。近所のパン屋さんのような地元感に加え、かわいくおしゃれなビジュアル展開が功を奏し、『InRed』や『ku:nel』などの雑誌を読むような、いわゆる元“オリーブ少女”(※注)の母子から中高生、地元のおじいちゃんおばあちゃんにまで、幅広く支持を得ることができたといえるだろう。


[取材・文/渡辺満樹子(フリーライター/エディター)+『ACROSS』編集部]



(※注)「オリーブ少女」
1982年にマガジンハウスから創刊された『Olive(オリーブ)』が牽引した、少女の永遠の憧れである「かわいらしさ」を追求するファッション・トライブ。第一次ブームは80年代半ばだが、その後90’s、00’sと依然として生き残っている。(文責:『ACROSS』編集部)

はらドーナッツ

住所 : 〒155-0031 東京都世田谷区北沢3-27-2
Tel : 03-6416-8280


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