Across the Art Review Vol.02
2008.07.15
その他|OTHERS

Across the Art Review Vol.02

GEISAI#11

村上隆が目指すアートのレボリューションとは?

本書より転載

“アートの祭典”GEISAIシリーズの復活

 アーティスト村上隆がクリエイトする、絵画、立体、写真など、あらゆるジャンルのアーティストが参加するアートイベント「GEISAI(げいさい)#11」が、2008年9月14日、東京ビッグサイトで開催される。2006年9月の開催から2年ぶりのナンバーシリーズ開催となる。会場をこれまでの倍にスケールアップ、1000名近アーティストが一堂に会する史上最大規模での開催となる。

 GEISAIはアートフェアのようなギャラリーではなく、あくまでアーティストにフォーカスされたイベントだ。参加者はアーティスト個人やプロのギャラリーで、それぞれ出展料を支払い、購入したブースで作品の展示、販売やパフォーマンスなどを行う。入場者は会場のブースを巡ってアート作品を鑑賞するだけでなく、アーティストと交流したり作品を購入したり、といった楽しみ方ができる。

 参加者の作品は各界から招請された豪華審査によって審査され、賞を競う。GEISAI#11の審査員は村上のほかにマーク・オリヴィエ・ウォラー(パリのパレ・ド・トーキョー Palais de Tokyo, site de création contemporaine館長)、ジャック・バンカウスキー(アートフォーラム誌にて総合編集を担当)、アリソン・M・ジンジェラス(フランソワ・ピノー・コレクションの主任キュレーター/作家)、フィリップ・セガロ(アートアドバイザー/元クリスティーズの国際現代美術部門部長)といった世界のアート・シーンから集められた面々だ。

 出展、あるいはゲストとして来場するギャラリーやメディア、プロダクションなどによってスカウトされるチャンスもある。自分が作品を買ったアーティストが世界からオファーを受けるような人気アーティストに成長する可能性もあるわけだ。

 美術大学の学園祭(=芸祭=GEISAI)にヒントを得てスタートしたイベントだけあって、巨大なステージでのライブ・パフォ−マンスも恒例となっている。5月11日に開催された“GEISAI MUSEUM#2”では、AKB48やヴァネス・ウーのライブが行われた。アートのイベントながらアートへの予備知識がない一般層でもオーディエンスとして楽しめる、という空気はGEISAI初期から貫かれてきたコンセプトだ。

 「GEISAIは、“プロデビューを想定した アーティスト発掘の場”。同時に、“アートの展示販売を気軽に行える フリーマーケット”であり、“開かれた美術界をつくっていくための 新しいスタートライン”でもあります。すべてのアーティストと、 アートにかかわる人々、そして一般のアートファンの出会いの場として 機能する、複合的な“芸術の祭典”」(カイカイキキのウェブサイトより)なのだ。

GEISAI第2章と日本のアートの未来

 GEISAIは、日本の美術教育に対する違和感を表明していた村上が、次代のアートシーンを担う人材発掘/育成をテーマに開催した「芸術道場」(2000年)が原点となっている。観客とのコミュニケーション、審査員やギャラリーへのプレゼンテーションを大きな規模で実地体験できる場を提供する、という狙いがGEISAIの根底には絶えずあった。

 「日本に新たなアートのマーケットを!」のスローガンをかかげ、2002年に537ブース/来場者42686人という規模でスタートしたGEISAIは、その後1万人規模を集めるイベントとなり、2006年9月のGEISAI#10まで10回のナンバーシリーズと、GEISAIミュージアムを開催。その間、海外に連動する形で日本にもアートバブルが到来。村上隆自身も世界的評価を獲得するアーティストとなった。
村上はかつて、格闘技興行のPRIDEが従来のプロレスファンのマーケットを上手に利用し、それを取り込みながらより大きなマーケットを形成した過程を観客席から体験し、観察していた。GEISAIの興行論にはその経験が生かされていて、旧来のアートシーンの外にいた層を動かすことに成功した。

 しかしGEISAIはナンバーシリーズ#10を最後にひとまず休止する事になる。その理由を村上は

1. 出展者たちの恒常化。プチ公募展化してきた実態への危機感
2. GEISAIのえせ権威化。青田買いの大量発生への危惧。
3. 日本アートバブルがスタートし、GEISAI当初の目的「日本に新しいアートマーケットを!」が無意味化したように思えたため(“GEISAIミュージアム2”パンフレットより)
 と冷静に分析している。

 GEISAIシリーズ再開の背景には、日本のアートバブルにも先が見えてきた現在、GEISAIの目指す“新たなアート・マーケット”というテーマが今もって有効である、という確信があるようだ。

 「あと1年半くらいでアート・バブルはクラッシュします。そうなった時が僕らアジアのアーティストが、自分たちの手でアート・マーケットを作るチャンスだと思うんです。そのために現在一生懸命準備をしているんです。

 僕のフォーカスはアーティストへのメッセージにあるんです。(GEISAIミュージアム2で)アーティストに揺さぶりをかける技を発見したので、やってみようと思ってます。

 本当に楽しみにしてもらっていいですよ。ものすごいレボリューションが起こります。世界のアートマーケットが一気にひっくり返る、日本の大学受験美術大学の精度がひっくりかえる瞬間を作ります。みんなサプライズしますよ!」

 GEISAIは個人がアーティストとして作品を世にアピールするためのハードルを劇的に下げた(特に出展手続きを含めた参加者向けのユーザー・インターフェースの判りやすさは画期的だった)。それを世界的なアートの目利きたちと接続することで、これまで多くの人材や作品を発掘してきた功績は大きい。

 アートバブルの終焉を見据えた村上チアマンが仕掛けるGEISAI#11がいかなるものになるのか、楽しみに待ちたい。



[取材・文/本橋康治(フリーライター)]


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