鉄道博物館
レポート
2008.02.29
カルチャー|CULTURE

鉄道博物館

鉄道博物館でテツ趣味について考えた。

連日大賑わいの「鉄道博物館」に、ミュージシャンであり「マン盆栽家」や「餃子の王様」、アジアで唯一の国際サンタクロース協会公認のサンタクロースとしても有名なパラダイス山元さん(実はかなりのテツ!)といっしょに行って来た。レポート:本橋康治

 2007年10月14日のオープン以来、連日行列が耐えない鉄道博物館。国鉄民営化/JR創業20年の記念事業として、 “鉄道の日”にオープンした通称“てっぱく”は、オープン1ヶ月で来場者数は24万人。1月18日にはなんと60万人を突破したというから驚く。

 地上3階建、延べ床面積約2万8000?uの館内には「貴婦人」C57をはじめとする歴代の人気車両を中心とした計36両が大きな吹き抜けの展示スペースに展示されている。ドライビングシミュレーターやミニ運転列車といった参加型のアトラクション、や映像ホール、駅弁を食べることができる日本食堂のレストランなど、鉄道に関しては一通りのものが揃っているといえる。

 2006年5月に惜しまれつつ閉館した神田万世橋の交通博物館の一部を引きついでいるもののスケール、展示の内容ともにまったく新しい施設だといえる。交通博物館時代には飛行機や自動車などの展示要素があったのだが、この施設は100%鉄道。より鉄道好きにアピールできる内容に特化されている。きちんと見せるための設計が行われているというのは大きな進歩。乗り物好きな子供から大人の鉄道好き(テツ)まで楽しめそうな施設であるのは確かだ。

 ACROSS読者にお薦めしたいのは2Fの“鉄道歴史年表”。日本の鉄道の歴史を全長75mという長さの年表で紹介しているのだが、基本的に当時の写真と資料を用いて紹介されているところが面白いところ。60〜70年代の昭和レトロなデザインを楽しむことができる。1F“ヒストリー・ゾーン”の車両展示にも所々で車両に絡めた展示が行われていて、昔の不自由ながらのんびりしていた列車の旅とその周辺を追体験できる。

 鉄道趣味にも最近光が当たっているので以前よりも知られるようになってきたのだが、鉄道好きにも活動内容にさまざまな流儀がある。大別すると鉄道に乗ること、鉄道の車両やその周辺を写真に収めることの2つを乗りテツ/撮りテツと言ったりするが、さらに切符、行き先表示板などのコレクタブルなモノたちの収集、鉄道模型趣味などバリエーションは多種多様。1964年生まれの筆者は、国鉄の全線乗車キャンペーン「いい旅チャレンジ2万キロ」や宮脇俊三さんの名著「時刻表2万km」の直撃を食らった世代であり、一時は乗りテツとしてローカル線の乗りつぶしに没頭していた時期がある。国内の鉄道全線全駅を完乗・完全下車したトラベルライター、横見浩彦も60年代生まれだから、やはり世代感のようなものがあるのかもしれない。

1962年生まれのパラダイス山元さんも芸能界では屈指の鉄道好きとして知られている存在だ。北欧各国を旅して、現地の鉄道や博物館などを訪れている。かつては富士重工(現スバル)でカーデザイナーとして活躍、数々の鉄道車両のデザインも手がけられた経験もある山元さんに、鉄道博物館で日本の鉄道とデザインについて伺ってみた。

「撮り鉄、そして記念切符のNo.00001集めに没頭していた、今思えば我ながら相当陰気だった少年時代。高校に入学して、鉄道研究部の部長までなってしまった本当に暗い過去。ダサいものの中にこそ価値を見いだすなにかがあるという、テツならではの屈折した審美眼こそオタク文化のルーツだったかも。90年以降のアニメ同人誌の即売会場ではなく、車両基地の部品即売会や、駅のホーム先端からオタクは既に自然発生していた。横ストライプ一辺倒のイケてない外装デザインの車両であっても、連結幌部分のからくりや、狭い空間に何もかも詰め込んだ日本人的発想の寝台車など、そういう小技やアイデアが凝縮されたメカニックに惚れたテツ仲間も多かった。

 大人になって欧州の鉄道博物館を訪れて感じるのは、なによりも鉄道オタクの少なさだ。童話作家アンデルセンの生まれ故郷、デンマークのオーデンセの駅裏に、機関庫を改築した鉄道博物館がある。模型から実物まで、デンマーク国鉄の歴史が一堂にまとまっているのは、大宮のてっぱくの元祖といっていいのだが、展示物、インテリアや調度品に至るまで、すべてが北欧デザイン(笑)。

 鉄道だからダサくてあたりまえという概念がこの国にはない。バリアフリー施設や、ヒューマンデザインを、日本でSLが走っていた頃、既に実現してしまっている国に、妙なオタク文化が根付かないのもうなずける。未完成なるが故に、突っ込みどころ満載で"趣味"になってしまう日本とは根本的に状況が異なるというわけだ。」

  “全線・全駅乗車”や収集癖だけでは単純なマニア趣味だが、これに山元さんの言う“屈折した審美眼”による愛憎相半ばするツッコミ主体のコミュニケーションが加わるとオタク文化になるのかも。

 一方で、こういうテツ的な縛りから外れてみても案外「鉄道って楽しいかも」というのが世の流れではないかと感じている。例えば鉄道は職業としても趣味としても、クルマ以上に女性の進出が果たされていないジャンルだが、この数年、女性の鉄道ファンの登場する作品がジャンルを問わず現れてきている。エッセイスト・酒井順子は著書『女子と鉄道』のあとがきで「男だろうと女だろうと、用事もないのにただ鉄道に乗るという旅に、「正しいやり方」など、本当はきっと存在しないのです」と書いている。女子には女子の鉄道の楽しみ方があっていいように、時刻表の読み方や列車の名前は分からない“非テツ男性層”でも鉄道旅行の快感は味わえるはず。

 まあ、日本の鉄道会社のヒューマンデザインがデンマーク国鉄のレベルに達するには果てしない時間がかかるかもしれないけれど。



[取材・文]本橋康治(フリーライター)+パラダイス山元(ミュージシャン)

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