2003.02.01
その他|OTHERS

橋本徹/HASHIMOTO TORU インタビュー

サバービア主宰/アプレミディ代表/編集者/選曲家

PROFILE:1966年4月3日東京生まれ。血液型B型。90年慶応義塾大学経済学部を卒業後、講談社に就職。雑誌『ホットドッグ・プレス』の編集に従事しつつ、学生の頃から行っていたDJ活動も継続する。90年末には『サバービア・スイート』というフリーペーパーを創刊し、91年には同名のクラブ・イベントを開始。翌92年には東京FMで「サバービアズ・パーティー」という番組も手がけ、さらに92年秋には今では伝説となっている『サバービア・レコード・ガイドブック』を発売する。
93年に独立。『フリー・ソウル』というコンピレ−ション・シリーズをプロデュースする他、96年4月から99年4月まではタワーレコードのフリーマガジン『bounce』の編集長に従事。25万部以上刷りながら毎号発行後10日ほどで店頭からなくなるという大ヒットを記録する。
その後、99年11月に渋谷・公園通りに「カフェ・アプレミディ」をオープン。02年3月にはひとつ下のフロアにフレンチ〜イタリアンのダイニングサロン「アプレミディ・グラン・クリュ」をオープンする傍ら、多数のCDをプロデュース。有線放送で『USEN for Cafe Apres-midi』というチャンネルも手掛ける。02年10月、音楽ソフトやインテリア雑貨、家具、服飾小物、生活雑貨、フードなどを扱う複合型セレクトショップ「アプレミディ・セレソン」を渋谷パルコパート1のB1Fにオープンした。

「継続」のなかでの出会いがすべてです。

いきなり本音トークで言いますと、すべて「なりゆき」なんですよね。もう何度も話してきましたが、「カフェ・アプレミディ」をオープンしたときも仕事としてはじめたつもりはぜんぜんなかったんです。自分の生活のなかに必要な場所だと思ったからつくった、ほんとうにそれだけだったんです。それが、たまたまフードビジネス業界においてはある種のカウンター的な役割を果たしていった。結果的な話なんですけどね。

「アプレミディ・グラン・クリュ」をオープンしたのも同じです。一見ゆとりのある空間や贅沢な食材、料理とかを大切にしながらやっていく、そんなスローフード的なスタンスのレストランが渋谷にあったっていいじゃないか、純粋にそう思ったからつくったわけで。別に「女性」や「団塊ジュニア世代」を狙ったわけではないんです。

もっというと、「シブヤ系」といわれたときもそうだったんですけど、自分たちがいいな、と思った音楽がきちんと評価される場がなかったから、じゃあ僕らがつくろう、というピュアな気持ちではじめただけだったんです。すべては、僕たちが脱却したいと思っていた経済合理主義、経済至上主義的な論理に対するアンチテーゼの意味があったんですが、ああいうふうに話題になり、ブームのようなものになることで、結果的にはいつも企業の側にまで絡め取られることになっていった。そういう現象に対しては、ある時期本気で憤りを感じていたこともありますよ(苦笑)。

DJ にしても編集にしても、カフェやレストランにしても、これまで気軽に「いいな」と思ってはじめてきたわけですが、はじめたからには続けたいじゃないですか。「いいな」という思いをより多くの人に伝えたいし共有したい。そして継続しているうちに、いろんな人とのつながりができてくる。たとえば、今でもDJとして全国各地に行くんですけど、そのパーティのオーガナイザーやクラブやショップのオーナーとかに、「20代の頃『サバービア』読んでました!」とか言われたりするんです。ああ、こういう人たちに読まれていたんだ、伝わっていたんだな、と単純に嬉しいですね(笑)。

飲食店をやったことで、インテリアや雑貨とか、音楽の世界じゃないところで、ジャンルは違うけど僕と同じようなことを考えたり、同じようなことを実践している人たちが全国各地にいるんだ、ということがわかり、とてもシンパシーを感じました。僕自身の中でもいろんな好奇心が湧き、交流が深まっていく人たちと、さらにいろんなコラボレートをしていきたい、もっと伝えたい、という気持ちが強まっていったんです。

だったら僕としては、企業の持つ資本主義の論理のようなところさえもできるだけ超越して、少しでも多くの人に僕たちの考えていることやモノを見てもらったり、知ってもらったりする方が、絶対数としてのサポーターが増えるかもしれない。そんないろんな人たちの同じような思いをひとつの空間に持ち込めたらいいな、というのが、今回の「アプレミディ・セレソン」の構想のきっかけになったように思いますね。

「自分たちのスタンス」versus「経済」

「アプレミディ・セレソン」をオープンしてちょうど3ヵ月。改めて物販の難しさが分かってきたような気がします。何の専門でもないので、セレクトショップといえども、あるジャンルには片寄りたくない、という気持ちは当初からありました。

なぜならCDショップはいっぱいあるわけだし、洋服のセレクトショップやケーキ屋さんも雑貨屋さんもどこにでもあるわけです。僕としては、音楽だったらこんな感じ、インテリアだったらこんな感じ、フードだったらこんな感じ、というように、それらを組み合わせて「ひとつの世界観」を表現したかった。

でも、切実な問題としてお金がなかったりすると、取り合えずすぐ売れる価格帯の低いものとかにどうしても頼りたくなってくる(笑)。実際オープン直後から年末に向けてはバタバタで、売り上げがリク−プ・ラインに達しなくて(苦笑)。だからといって本来このお店が持っている個性のようなものを失ってしまうようなことだけは避けなければ、お店を始めた意味がないんですよね。

そもそも、物販のプロの人たちの論理に、僕の考え方が資本主義社会で抵抗できるわけはない。逆に、僕たちが今までみんなに支持されてきた部分というのを、この物販の形態の中でも伝えていく、というスタンスに立ち戻ろうというふうに意識するようになりました。

僕らは僕らなりの付加価値を売るしかないんです。同じCDを買うとしても、ここで買うからこそ、そこに情報がプラスされたり、スタッフとのコミュニケーションにちょっと心がハッピーになったりとか。そういう人との距離感や心地よい雰囲気であったりとか。売り物は決して目に見えるモノだけじゃないんです。

一般的な物販といわれるものとはちょっと違うもの、物販という形態を借りてはいるんだけど、右上がりの進化思想的な考え方からは独立していて、経済合理主義的には無駄なようなものであるけど心地いいもの、とでもいうんでしょうか。これまでの物販の世界は、それぞれの専門家やその道のプロがいて、狭く深くという美学でもって成り立っていたと思うんですが、それをできるだけ生活者の視点で、横断的に結び付けてみたいと思っています。

まあ、まだ自分のなかでも整理されていないところがあって、お店にもうまく表現しきれていないジレンマはあるんですが(苦笑)。そこは地道なんだけど、妥協のない勝負とでもいうのでしょうか。はじめて自分たちよりも大きな世界、パルコというある種のパブリックスペースに近いような場所を与えてもらったんですから、「自分たちのスタンス」を経済社会に対して試していかないといけないな、と今は思っています。

そして、同じようなことをいつかやりたいな、と思ってくれる人たちが集まってくれる場になればいいなと思っています。売り上げ云々だけじゃなくて。逆にそのためにも、そういうものが、ちゃんと資本主義的な社会の中でもやっていけるんだ、ということを証明したい。物販をやる以上、単なるミュージアムになってもしょうがないわけですからね。

「アンビバレント」というバランス感。

今の世の中でウケるのって、「おしゃれなコンビニ」のような店ですよね。わかりやすく、ひとつのテイストで統一されている、たとえばフレンチカジュアルというように分類しやすい店とか。でも、僕にはできないんです。僕自身の中に、相反するものがいっぱい詰まっていて、ひとつの理解されやすいトーンでまとめることができないんです。

たとえば、その昔、僕の中の女性的なセンスを集積した、と思っているんですが、『サバービア・スイート』っていうレコードのガイドブックをつくったんですが、それはものすごく話題になったんです。でも本音を言うと、その後に手がけたタワーレコードのフリーマガジンの『bounce』くらいいろんなモノがごっちゃに入っている方が現実の自分らしいんですよ。今回の「セレソン」に関しては、そんな自分のアンバランス感やアンビバレントな思いと、どこかで折り合いをつけないといけないんだろうな、というような気がしています。

カフェをやったことで知り合ったクリエイターやショップのオーナーさんたちと話していると、自分たちってものすごくお金という意味じゃなくてハイリスク・ハイリターンの生き方をしてるよなあ、って思うんですよ。みんなだいたい僕と同じ世代でインディペンデントで頑張ってる。でも、やらずにはいられない、という感じ。今回扱うことになったバッグやアクセサリーの制作をしている神戸のデフ・カンパニーという会社の金子さんなんか、本当にリスペクトです。「グラフ」や「トラック」や「ハイク」も、「ナナ」や「グルビ」でも同じ。みんな自分だけで完結できるんですけど、閉塞的にならずに、アンバランスでアンビバレントながらも「自分たちのスタンス」で結びついているんです。
アプレミディ・セレソンに置いて
あるものの99%は商品として購入
が可能だそう。

「時代」的存在理由。

今振り返ると、2002年は自分が動いても時代はあまり変わらなかったな、と思いますね。打ってもあまり響かない1年だった。それよりも個人的にはどんどん時代に逆行していくな、というのがありましたね(苦笑)。「グラン・クリュ」なんて、「上質」を掲げながらも、実は渋谷の街においてはいちばんパンクな存在の店なんですよ。僕は自分が動くことで風向きが変わったり、新しい風が吹くことが好きだから、そこは少し残念でしたね(笑)。

それでも、やっぱり自分の好きなこととか、こうありたいというスタンスにどれだけ忠実にいられるか、ということに尽きると思いますね。ある種のわがままみたいなものを、時代や社会に問うていくような存在。一見穏やかでピースフルだけど、存在はカウンター的。そうありたいと思っています。







■Cafe Apres- midi/カフェ・アプレミディ
東京都渋谷区神南1-15-7 5F
TEL: 03-5428-0510

■Apres-midi Grand Cru/アプレミディ・グラン・クリュ
東京都渋谷区神南1-15-7 4F
TEL: 03-5428-5121

■Apres-midi Selecao/アプレミディ・セレソン
東京都渋谷区宇田川町15-1
渋谷パルコパート1 B1F
TEL: 03-5428-5711

HP http://www.apres-midi.biz


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