2002.11.2
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波頭亮/HATO RYO インタビュー

経営コンサルタント/ぴあ総合研究所所長

PROFILE:1957年12月8日愛媛県今治市生まれ。血液型O型。東京大学経済学部を卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社に初の新卒新入社員として入社。主任研究員として、国家政策づくり、金融、食品メーカー、消費材など、幅広い業界のコンサルティングを手掛ける。
88年に経営士事務所の(株)エクシードを設立。TVや新聞、雑誌などでの経済評論家やソシオエコノミストとしても活躍。02年10月、ぴあ総合研究所の設立と同時に所長に就任。主な著書は『新幸福論』『経済透視論』『戦略策定概論』『ポスト終身雇用』など。

頑張らない今どきの若者たち

団塊ジュニア世代以降の若者って、頑張るのが嫌いですよね。仕事はもちろんのこと、映画とか音楽などのカルチャーですら、批評感とか評価能力とかが薄い。みんな多少ピンポイントではつついてるけど、オタクみたいに没頭する子、言い換えるなら、社会的に見て価値のあるレベルまで上がろうとする子ってずいぶんと少なくなってるように感じますね。

社会的な存在意義、そういう意識をもって仕事をする人も減った。何ひとつ頑張らない存在で、生きてて何が嬉しいんだろうって思いますね。僕は、人間とは自分の生きている意味とか幸福感、といった存在意義を本来は持ちたいんじゃないかと思うんです。プライベートでダレているのは構わない、個人の自由だから。でも、世の中の経済状況や自分の生活レベルが低下するのが嫌なんだったら、仕事では頑張らなくちゃ。

今の若者に対して何を不満に思ってるかっていったら、働かないのに食ってるから。まんじゅう10個しかつくってないのに、20個食ってる。それが日本の社会を消耗させているわけです。今年10個のまんじゅうができました。でも腹いっぱい20個食いたい。そのツケが国債です。でも、今の中国は、みんな20個つくってて5個しか食べない。15個が国際競争力になっているんです。

今の日本は、経済が暗いとか不況だとか混迷状態にありますが、根本はここにある。若い子が頑張らないのに給料を払う、小遣いを与える社会が悪い、親が悪い。まあ、あえて若い子の中に如実に出てるので若者と言うわけですが、働いている量と食ってる量のギャップの問題は本当は中高年を含めて今の日本の全体の問題だと思いますね。

80年代のドイツは、生産性がどんどん上がっていった時に、他の国の組合が賃上げを要求したのにも関わらず、賃金は下げ、代わりに休みを一ヵ月増やして欲しいと要求した。組合側から賃下げを要求した唯一の国なんです。

つまり、仕事はそこそこでいい。頑張りたくない、家帰ってさっさと寝たい、家で子どもといっしょに飯を食いたい、映画観たり飲みに行ったりしたいというのは個人の好みだから構わない。しかし、その場合、給料のカットは甘んじないといけないでしょ、ということです。日本は金はもっと欲しい、でも頑張りたくない。それでは破たんです。

プロフェッショナリズムという意識とジェネラリストという視点

学生の頃からこういう仕事を成し遂げたいとか、世の中をこう変えたいというような大望はなかったです。それに、お金儲けをしたいとか、偉くなりたい、というような欲もなかったですしね。世の中ってけっこうズルくて、ゆがんでいて、自分としては肯定的に受容しようとはとうてい思えない対象だった。だから仕事なんてどうでもいいやって感じだった。強いて言えば、ズルくてゆがんだ社会からコヅキ回されたり、卑怯な思いをさせられたりだけはしたくないと思っていたくらいかな。そう思ったところに、たまたま以前アルバイトをしたこともあったマッキンゼーから「来ないか」と誘われた。それでマッキンゼーに入った。まだ、日本ではコンサルティング会社って何ぞや、ということが浸透していなかった時代のことです。

入社してまず徹底的に叩き込まれたのは「プロフェッショナリズム」、プロとしての責任意識や卓越した技量レベルです。そして、「クライアント・インタレスト・ファースト」。クライアントに対して、実直に誠実に問題提起し、それらの解決策をありとあらゆる方法から導き出し、満足してもらえるまで徹底的にフォローする。

実は、僕はマッキンゼーで最後のジェネラルコンサルタントだったんです。今は金融専門とかマーケティング専門とか、製造業専門とか、業界の「専門」を持つのがコンサルティング業界の常識になっていますが、もともと大前研一さんとか堀紘一さんなど、コンサルタントの第一世代はジェネラルコンサルタント。それが70年代から80年代半ばまではそれで良かったけれども、80年代後半になると、専門分野に特化して知識や技術を磨かないとクライアントを満足させるためのサービスを提供するのが難しくなって来た。丁度僕がマッキンゼーに入った頃が転換期だった。

僕は国家政策づくりをはじめ、金融から食品までまさに多種多様な業界を手がけた。テーマ別に見てもR&D、製造、営業、マーケティング、組織・人事、全てやった。業界や部門を越えて携わるからこそ、それぞれに生かせる戦略策定が立案できることもあると思いますね。

たとえば、ある会社の業績が上がらないという問題提起がされたとする。営業の専門の人だったら営業の中でしか問題を発見できない。営業もやり、R&Dもやり、生産もやり、マーケティング、広告もやり、というふうな全体のことが分かってはじめて、ああ、これは営業に問題があるんだな、商品開発に問題があるんだな、っていうのがわかるわけです。業界側からみた場合、金融バカになっちゃうと、金融の先にあるビジネスが分からない。化粧品業界だったり、鉄鋼業界だったり、農薬業界だったりと、わかるんなら分かるのに越したことはないと思うんです。

しつこく考える、という思考のスタンス

コンピュータのようになんでも瞬時に答えが出ると思っている人が増えてますよね。人間は、ある程度自信がついてきて便利な道具を持つと、考えるのを途中で止めちゃう。こんな感じかな、って、ガッツフィーリングで結論を出してしまう。僕は違います。一刀彫りの職人のように、コツコツ、コツコツ考える。しつこく考える。こっちの尾根から登ってみたらどうなんだろうとか、あっちの崖よじ登ってみたらどうなんだろうか、って考えて、正しいものを探そうと努力をする。

すべてのロジックの分かれ目、エラー、代替案を潰しながら、正しいことを探っていって、やっと辿り着く。辿り着けないこともありますが、まあ、辿り着いたとする。で今度は、辿りついたのと同じくらい労力でそれを否定しようとしてみる。自分でディベートするんです。自分でやってることの揚げ足を世の中で他の人に取られる前に自分で全部取ってみる。それを繰り返していくうちに、ロジックが完成するわけです。ただ最近は、完璧な論理構築の末の結論が正しいかっていうと、必ずしもそうではない、現実の壁の厚さも少しは分かるようになって来ましたが。

日本が誇る新しい産業、「エンタテインメント産業」

「ソシオエコノミスト」として、世の中の経済動向などを分析したり評論してきましたが、日本の既成緩和や構造変換が約10年遅れてしまった中で、日本の新しい産業として構築化の可能性があるものはエンタテインメントだと思っていました。

20世紀の産業は、効率性や利便性を柱に豊かさを追求してきた。しかし、80年代後半以降になると、利便を提供にしてくれる物財がこれ以上増えても、もう豊かにはならない、幸せにはならない、ということがわかってきた。じゃあ、この先どうすれば人間はもっと幸せになるのか。

新しい豊かさを紡ぎ出す羽根車は何処にあるのか、というと、まずはコミュニケーションにまつわるもの。いわゆるIT産業から始まりましたが、更に先にあるのはエンタテインメントと健康だと思うんです。利便性とはまったく別の軸です。

しかし、ものすごく将来性があるのにも関わらず、エンタテインメント分野は産業としてはまだまだ未熟。たとえば、昨年何人の人が映画館に足を運んだのか、コンサートは何回開催され、また売り上げはどのくらいだったのか、といった基本的なデータすら正確にとらえられていないんです。市場規模がわからない! 実際にぴあ総研のプロジェクトが始まり、いろんなデータを調べはじめたところ、たとえば映画の市場規模は公的なものですらデータの出典により3倍〜5倍も異なった数値が記されているんです。こりゃダメだわ、と思いましたね。

ぴあ総研ではまず、いいかげんではない情報を出そうと思ってるんです。そういった堅いデータをきちんと調べて整理し、信頼するに足るエンタテイメント分野の土台を作るのが第一の使命だと思ってます。

3カ年計画と呼んでいますが、来年の3月までは助走期間。世の中にどんなデータがあり、どれくらい使えるのかをじっくりと探る。その後最初の1年でエンタメマーケットのベーシックなデータを出す。マーケットの規模を算出する。2年めは、それらをデータベース化したデータベース集を発表する。そうすると、なんらかのメッセージが出せるようになる。産業政策が立てられるし、こういうタイプの劇場が流行るとか流行らないとか、ヒットのパターンとか、いろいろと分析できるようになる。それこそ雑誌ネタになりそうな情報を出していく。そして、3年目には、ぴあ総研が発表するデータに社会的な意義をもたらそうと思ってます。それが、日本の産業政策や他の企業の戦略策定の参考になるほどの信頼性を得られるようにまで成長させたい。エンタメ産業に貢献することは、ぴあ(株)としての「社会的存在意義」なんだと思いますね。


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