■都市のコード論:NYC編  vol.04 
レポート
2015.07.24
カルチャー|CULTURE

■都市のコード論:NYC編 vol.04 "Coffee Shop"の分布からみる都市の構造とライフスタイル

在NYC10年以上のビジネスコンサルタント、Yoshiさんによるまち・ひと・ものとビジネスの考察を「都市のコード論:NYC編」と題し、不定期連載しています。

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凡例:オレンジがマンハッタン、ライトブルーがブルックリン、イエローがクィーンズ

ここ数年、コーヒーの話をよく耳にする。ニューヨークではコーヒーハウスがあちこちでオープンしており、そのなかのいくつかは日本にも出店し、話題となっている。書店でコーヒーが飲めるのは当たり前になり、コーヒーを出すアパレルの店舗も少なくない。

フード・ジャーナリズムとでもいうべきGrub Street(www.grubstreet.com/)は、いつもコーヒーの情報が紹介されている。厳選したコーヒーハウスを集めたアプリもある。だがコーヒーハウス全体のロケーション分布についてはほとんど目にすることがない。そこでマップをつくってみた。

ニューヨーク市保健精神衛生局による市内の全飲食店を対象とした例年の衛生検査の結果が、オープン・データ (https://nycopendata.socrata.com/) として公開されている。

49万行から成るデータセットから「コーヒーハウス」と考えられる店舗を抽出した結果、2015年時点で市内には1,804件の「コーヒーハウス (一部お茶を含む)」 があることがわかった。

市の人口は8.5百万人だ。住民約4,700人あたりに1件のコーヒーハウスがあることになる。ニューヨーク市は5つのボロウ (区) から成り立っている。ボロウ別にみると、コーヒーハウスの半数近くがマンハッタンに集中していることがわかる。 

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https://fafsp.cartodb.com/viz/f282ca08-1c7d-11e5-8c3a-0e8dde98a187/public_map


<表1. コーヒーハウスの店舗数>
マンハッタン  865件
ブルックリン  429件
クイーンズ   344件
ブロンクス 116件
スタテン島    50件    
------------------------------         
ニューヨーク市 1,804件

人口あたりでみると、最も簡単にコーヒーにありつけるのはマンハッタンで、最も苦労するのはブロンクスだ。人口あたりのマンハッタンのコーヒーハウスの数はブロンクスの6.5倍になる。

マンハッタンは市の中心だ。そこに住んでいなくても、仕事や学校で毎日マンハッタンに通う人は多い。コーヒーハウスの密度が高いのも当然かもしれない。
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ニューヨーク・ミッドタウンは“歩き飲み族“が多い。
 
独立系のコーヒーハウスが増える理由

近年増えているのはインディペンデント (独立系) のコーヒーハウスだ。大規模な展開を行うチェーンとは違い、「クラフト・コーヒー」を標榜し、メニューから店舗のつくりまで、新しい試みに取り組むところが多い。

コーヒーといえばスターバックスを連想する人もいるかもしれないが、ずいぶん前からスタバはコモディティ化しており、“スタバに行かない人”という消費行動グループのマーケティング分析も盛んになっている。その結果、ニューヨーク市ではコーヒーハウスの過半数 (56%) を独立系が占めるようになったともいえる。

イスを置かないイースト・ビレッジのアブラソ (http://www.abraconyc.com/) 」や、缶入りのラテを始めるラ・コロンビ (http://www.lacolombe.com/) 」などは人気のコーヒーハウスだ。

ボロウ別にみると、マンハッタンでの独立系の比率は59%ブルックリンは66%と高い。一方ブロンクスは32%スタテン島は28%と独立系が減り、チェーン比率が一気に高まる。

<表2. 独立系コーヒーハウスの比率>
マンハッタン 59%
ブルックリン 66%
クイーンズ 50%
ブロンクス 32%
スタテン島 28%
---------------------------
ニューヨーク市 56%

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https://fafsp.cartodb.com/viz/53477c06-1c8f-11e5-bea1-0e5e07bb5d8a/public_map


ニューヨーク市内のコーヒーのチェーン店の98%はスタバとダンキンドーナツが占めている。そこで、今度はスタバダンキンに限定してその分布をみてみよう。

すると、マンハッタンではスタバがチェーン店の60%ダンキンは38%を占めていることがわかった。ところがブルックリンではダンキンの比率が79%に逆転し、クイーンズでは82%、ブロンクスではさらに92%まで高まる。マンハッタン以外のチェーンはほぼダンキンといっていいだろう。同じチェーンとはいっても、ダンキンと比べるとスタバは依然高価なブランドだ。マンハッタン以外で「ダンキン比率」が一気に高まる理由のひとつには、当たり前だが、住民の所得が関係しているのだろう。

<表3. チェーン店舗に占めるダンキンの比率>
マンハッタン 38%
ブルックリン 79%
クイーンズ 82%
ブロンクス 92%
スタテン島 81%
----------------------------
ニューヨーク市 62%
 
map
https://fafsp.cartodb.com/viz/dd14d58a-1c91-11e5-8d6f-0e6e1df11cbf/public_map

 
 

コーヒーハウスが語る街のボーダー

次にそれぞれのボロウ内での分布をみてみよう。同じボロウの中でもそのロケーションや分布は大きく異なる。

マンハッタンは全域でコーヒーハウスが多いが、ダウンタウンはそれぞれ個性のある独立系の店が多く、ミッドタウンはチェーンの比率が高いことがわかる。

高層のオフィスタワーが林立するミッドタウンと、低層中心でスタートアップやデザイン・ビジネスが増えているダウンタウンの性格を反映しているといえるだろう。タイムズ・スクエアやグラウンド・ゼロ近辺のロウワー・マンハッタンなど、観光客が多い場所にはスタバが密集している。なにしろニューヨークには世界中から1年に54百万人が訪れる。いまやグローバル企業であるスタバにとっても大きな商機のはずだ。

ブルックリンはイースト・リバーの東のウォーターフロントで密度が高く、その多くは独立系の店だ。近年さかんに伝えられるブルックリンのイメージと合致するだろう。

ブルックリンの後を追うかのようににわかに注目されるクイーンズも、ロング・アイランド・シティやアストリアなどのイースト・リバー近くに独立系のコーヒーハウスがみられる。

だがブルックリンやクイーンズでは、ウォーターフロントからさらに東へ行くにつれてコーヒーハウスの数は少なくなり、代わりにチェーン店が増えてくる。

趣向をこらした独立系のコーヒーには個性があるが価格は高い。ジェントリフィケーションが加速する一方で、ブルックリンの東部は依然貧しく、生活水準はむしろ悪化しているのが現状だ。独立系店舗とダンキンへの二極化が、ふたつに引き裂かれる今日のブルックリンを示している。

独立系の店舗は互いにひきよせ合うようにクラスターを形成していることが多い。だがブルックリンやクイーンズの東部では、大きな道路沿いにダンキンが一定の間隔をおいて点在する。

ニューヨークは米国で最も自動車に依存しない都市だ。マンハッタンでは世帯の23%しか自動車を保有していない。だがマンハッタンから離れるにつれて自動車の保有率は高くなる。

<表4. 自動車保有率>
マンハッタン 23%
ブルックリン 44%
クイーンズ 64%
ブロンクス 46%
スタテン島 84%
----------------------------------
ニューヨーク市 44%


そして、同じブルックリンやクイーンズの中でも、東に行くほど自動車の保有率が高くなることが統計でわかっている。マンハッタンから離れるほど、自動車中心の「アメリカ」に近づく

チェーン店と自動車には密接な関係があるようだ。「ウォーカブル」なマンハッタンやブルックリンのウォーターフロントに独立系が多いこともそれを示唆している。

「ニューヨーク市内の郊外」といわれるスタテン島にチェーンのコーヒーハウスが多いのも不思議ではない。
 
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<NYCのコーヒーハウスの分布:店舗数とブランド(資本)の関係>凡例:キミドリが1店舗のみ、イエローが2〜5店舗展開、ホワイトが6~9店舗、ブルーが10〜199店舗、赤が200店舗。詳しくは本文にあるmapのリンク先へ。
“88%が独立系“というNYCのコーヒーハウスビジネス

コーヒーハウスの分布が教えてくれることはロケーションだけではない。

市内の1,804件のコーヒーハウスは、818種類のブランド/ビジネスが経営している。平均すると、1ブランドあたり2.2件の店舗を展開していることになる。

ところが実際には、1,804件のうち723件は1店舗のみ運営するコーヒーハウスだ。市内に存在する818種類のコーヒー・ブランドのうち、88%は1店舗経営ということになる。

その一方で、スタバとダンキンの2社だけで775店舗を展開し、市内のコーヒーハウスの43%を占める。

市内に展開する店舗数別にブランドの数をみてみると、店舗数が減るにつれて、それを運営するブランドの数が急速に増えていくことがわかる。

<表5. 展開店舗数別のブランドの数>
491店舗    1 (ダンキン)
284店舗    1 (スタバ)
14店舗    1 (バーンズ・アンド・ノーブル)
12店舗    2
 9店舗   1
 7店舗   2
 5店舗   6
 4店舗   9
 3店舗   15
 2店舗   53
 1店舗   723

 
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ソーホーとブルックリンに計3店舗運営している“Gimme! coffee”は、毎朝〜夕方まで地元の人で賑わっている。

「多様性と偏り」 が示す、都市生活者(メトロポリタン)像


圧倒的多数のスモール・ビジネスがひしめく一方で、一握りの巨大なプレーヤーが市場の大多数を支配する。

ウェブサイトのアクセス数や投資のリターンなど、およそ社会とよばれるあらゆる局面でこのことは観察されている。ニューヨークのコーヒーハウスにもよく似たことが起きている。

ニューヨークには平均が存在しないとよくいう。「平均的なニューヨーカー」ほど想像しづらいものはない。

もちろん多くの都市で同様の傾向はみられるだろう。だが多くの点で、ニューヨークはその偏りがとりわけ大きい。「多様性と偏り」。これほどニューヨークを適切に表す言葉はないだろう。

個人の富から住民の人種、土地のロットのサイズまで、平均値が意味をなさないのがニューヨークだ。コーヒーハウスの分布も同様の「ニューヨークのふるまい」をみせている。

東京にも同じ傾向がみられるのだろうか。パリはどうだろう。ほかの都市も気になってくる。分布や偏りの特徴に、それぞれの都市の個性をみることができるのかもしれない。
 


 
  
●NYCのCOFFEE SHOPシーンを知るためのガイド
 
The New York Coffee Guide 
(NYCにあるコンサルティング会社Allegra STRATEGIESによるコーヒーガイド。16.99ドルでコーヒーハンドブック2016年版も販売している)

NEW YORK EATER: “25 Outstanding Coffee Shops in New York City”
(NYの食文化関係の情報サイトの特集ページ:NYCは独立系のコーヒーショッップがたくさんあるので、どこがいいのかを探すのが難しい人のためのベスト25ガイド)


 
THRILLIST:”Best 30 Coffee Shops in NYC”
(THEILLISTメディアグループが世界各国約15百万人に対して配信しているニューズレター・メディア(ECも行っている)で、NYCのベスト30のコーヒーショップを紹介している)


“ZAGAT”:“10 Hottest Coffee Shops in NYC”
(ガイドブック“ZAGAT”でも今イケてるコーヒーショップベスト10を紹介)している

 

 

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ニューヨーク新市長のほぼ100日
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ニューヨーク新市長のほぼ100日

ニューヨークのゾーラン・マムダニ市長が一月に就任して四ヶ月近くになる。大統領であれ市長であれ、新リーダーの就任後100日をひとつの区切りとしてふりかえるのが米国メディアの慣しであり、「米国内のみならず世界中から注目されている市長」 ならなおさらである。 巷にあふれる新市長の100日評を見ていると、そのガヴァナンスを「ポットホール政治」と特徴づけるところが多いようだ。路上の陥没箇所を指す「ポットホール」は就任100日目のスピーチで市長自身が何度も繰り返した言葉だが、その射程は意外と広いようにみえる。ほぼ100日時点で目についたことを記しておこうと思う。 注目したいのは、多大な期待と疑心を背負ったこの新市長が、大きな一歩を踏み出したわけではなく、数々の小さな歩みを多方向に踏み出したことである。 選挙期間中の公約には、高額所得者や大企業への課税、バスの無料化、住民全員を対象とした無料のチャイルドケア、市営食料品店のオープンなどの難題が並んでいた。壁に等しい急坂をかけあがるような課題群なら、100日を過ぎた時点で実現に向けた道標が立ちつつあるのが、チャイルドケア、市営食料品店、非居住者を対象とする不動産税 (ピエ・ア・テール税) などのごく一部だけなのはやむを得ないというべきかもしれない。むしろ面白いと思うのは大ニュースにはならない細々とした一連の取り組みである。 そのごく一部をみてみると… 市長は4百万ドルを投じて市内に20-30ヶ所の公共トイレを新たに設置することを発表した。ニューヨークを訪れたことがある人ならわかるだろうが、市内には公共トイレが少なく、「世界の最も優れた都市では用を足すために店に入りコーヒー一杯に9ドルを使うべきではない」との市長の言である。 市内全域で学校周辺の自動車の制限速度を時速15マイル (24km) に落とすことも発表した。生徒の安全を確保するためだ。 歩道の車道に接する部分の「カーブサイド」を専門に担当する「カーブ管理室」なる部署が新たに設けられた。そんなニッチな部署が必要なのかとも思うけれど、爆発的なオンラインでの買い物の増加により市内で毎日2.4百万件もの荷物が配達されていることを考えれば、配達トラックのカーブサイド利用だけでも相当なものになり、そこに加えて並列駐車、ゴミ収集車 (収集ゴミはカーブサイドに出すのが決まり) による利用、レストランによる食事席としての歩道利用、そして歩道を歩く人たちと、その狭小な場所は著しく混雑している。なにより住民の誰もが毎日必ず利用する場所であるため管理が必要なのだという。 一方では、就任早々に、企業に責任を負うことを求め、労働者の保護を強化した。市の最低賃金の法律を守らず、「デリバリスタ」(自転車などでフードを配達する人たち) に本来支払われるべき賃金の一部を社内にとりこんでいたUberEatsなどのアプリ企業に対して、正当な支払と罰金を含む4.6百万ドルの支払いを求めた。市内では8万人がデリバリスタとして働いている。市の消費者および労働者保護局長によると、「大企業に小企業と同じように法律に従わせる」ものだという。 また各種サブスクリプション・ビジネスのキャンセル手続きが迷宮じみた複雑なものになっていることから、ワン・クリックでキャンセルできるよう各社に求めるルールを国内で初めて導入した。「ワン・クリックで購読させるなら、ワン・クリックでキャンセルできなければいけない」。ホテルの予約などに課金されていた種々のフィーやデポジットなどのいわゆる「ジャンク・フィー」の禁止も発表した。 ほかにもまだまだたくさんあるけれど、ひとまずこのくらいで。 これがいかにもまとまりのない雑多な詰め合わせにみえるとしたら、実際に雑多で全方位的だからである。新市長のほぼ100日は、その「ラディカル」な前評判とはほど遠い、些細にもみえる細々とした諸課題の対処が中心だった。とはいえいずれも住民の暮らしに直接影響するものであり、また消費者の保護という点では共通している。特に市長自身が就任後100日間の達成例として好んでとりあげるのは、100日で市内10万ヶ所のポットホール (路上の陥没箇所) を修繕したことである。市の歴史上かつてない速いペースだという。 20世紀半ばのミルウォーキーで社会主義者を自称する市長たちがインフラ建設を急いだ「下水管社会主義」に重ねて、その21世紀版としての「ポットホール政治」をマムダニ市長は主張する。市長の周りでは「ストリート社会主義」ともいうらしい。普通の人たちの目線でのインフラ改善のことだ。暮らしの支援とは必ずしも小切手を配ることではなく、優れた公共事業と公共政策によって課題のひとつひとつに対処することだというわけだ。課題に大小の区別はない。それこそすべての穴を埋めていく必要がある。 それは広義のメンテナンスともいえる。20世紀が建設だったとすれば、21世紀はメンテナンスである。実のところ、ずいぶん前から今日の都市には、飽和しきった膨張主義からメンテナンスやケアへとパラダイム変更が必要だと言われていた。言うのは簡単である。あるいは知ってはいても、やめられないとまらない。そうした言葉を用いることなく、具体的な形でそれを全面的に実行しようとしているのは、米国ではこの市長が初めてのはずだ。 公共トイレの設置計画を発表したときには、トイレは「ガヴァナンスの最も華やかな部分というわけではないが」と冗談めかした市長だが、市井の人たちの生活に直結する、断固として派手でもセクシーでもないありきたりな日常に傾注しているようにみえるのは偶然ではないだろう。なにしろポットホールである。そこには黒子としての政府を強調し、住民の信頼をとり戻そうとする意図がある。市場信仰の宿酔いが醒めきらぬ頭に「政府には人びとの暮らしを良くすることができる」と訴えかける市長に、死語に近い「公僕」という言葉を思い出した。 「マムダニが最近ニュースに出てこないけれどどうなっているんだ」と市外に住む友人から聞かれたある人が「ニュースにならないのは彼が仕事をしているということじゃないか」と答えたという。実際、市長の仕事とは実に退屈なものというべきかもしれない。妄言に等しい「イノベーション」や、不動産産業以外の誰も望んでいない再開発、住民にはもっぱら災難として降りかかる大イヴェント誘致よりも、目の前の些細にもみえる課題に具体的に取り組み改善し、住民が必要とすることを支援する、それが市長でありガヴァナンスではないか。たしかにそれはラディカルである。 なるほど「ニュースがないのはいい市長」とはひとつの考え方である。ところがこの市長は話題に事欠かない。聖パトリックの祝日にはアイルランドの歴史から植民地主義を解説し、パレスチナの状況にまで話しは及んだ。ラマダン期間中は断食明けの食事イフタールの写真を毎晩ポストし、その一夜は、2024年にコロンビア大学でのパレスチナ支援デモを率いたとして拘留されたパレスチナ人マフムード・カリルを招いた食事だったことも一部から反応を招いた。カリルの釈放を求めてマムダニ市長がトランプ大統領に働きかけて以来の縁がある。 トランプ大統領といえば、市長就任前の昨年11月にマムダニがホワイト・ハウスを初めて訪れたときには、密室での一時間の会談が終わってみると、猛獣に首輪がついてすっかり手なずけられていた様子に、マムダニの手腕に感心した向きが多かったが、ボストン市長のミシェル・ウーだけは名指しこそしなかったものの、おだては得策ではないと冷ややかだったことは覚えておきたい。いずれこのことは蒸し返すことになり、クイーンズ出身の二人の男の「ブロマンス」も必ずしも順風とはいかないだろう。 歴代市長の通例に背いて、5月にメトロポリタン美術館で開催される「メット・ガラ」に参加しないことも憶測を呼んでいる。今年のイヴェントのスポンサーはジェフ・ベゾスである。 昨年のマムダニの世帯所得は州の議員としての給与を中心に15万ドル足らずと市内の二人世帯所得の中央値に近い。アーチストである妻の所得は1万ドルに満たないというから、ある意味では市内の典型的な夫婦世帯である。公僕を務める若い夫婦にとって、セレブリティやビリオネアが富と名声を誇示する催しが場違いだと判断したとしてもおかしくはない。 この市長が与えるもうひとつの印象は、そのガヴァナンスが身体性と不可分に結びついているように感じられることである。どんなことにも自分で現場に出向き、ひとつひとつ自分で確認する。自分の身体を使い、手を汚して対処しようとしてみる。 「ミュニシパル・マッドネス」が顕著な例である。壊れた街灯やバスケットボールのコートの修復舗装など、市の対処を待つ16件の様々な案件のなかから、市の職員ではなく、市長自らが赴き、文字通り市長の手で直接解決して欲しいと願うものを、市民が投票して決めるものである。2万件を超える投票の結果、ブロンクスのサウンドヴューでのゴミの不法投棄案件が選ばれて、市長自らが作業手袋をはめて投棄物の回収撤去を行った。 もちろんそれはデモンストレーションである。ほかの数々の諸問題は市の職員が対処している。それでもメッセージは明らかだ。思想・イデオロギーよりも実行・実働であり、この市長は常に市内どこかの現場にいる印象を与える。就任式で「外にいる市長」であることを誓ったマムダニは、先日はロウワー・マンハッタンの市庁舎からアッパー・イースト・サイドの居住地まで6マイル (約10km) を歩き、すれ違う人たちに声をかけながら帰宅した。選挙期間最終日の夜にマンハッタン島の北端から南端まで歩き通して、その途上でバーなどの深夜に働く人たちと話しをしていたことを思い出す。 歩く市長であり、ヘルメットをかぶって自らマンホールの中に入り、モスクで祈る市長には、常に歩いていて体を動かしている姿が目に浮かぶ。オフィスに座りスクリーンの数字を相手にする市長とは対照的である。 2002年から2013年までニューヨーク市長を務めたマイケル・ブルームバーグには、テクノクラート、起業家、情報端末ビジネスと、2000-10年代的なアイコンが見事にそろっていることにあらためて気づく。市政のプレイブックを書き換えたと言われたりもしたブルームバーグだが、ふり返ってみると、彼が新たな時代を切り開いたというよりは、立ち上がりつつあった特有の時代に—ピーク新自由主義に—ふさわしい人がよび寄せられたといった方がいいのかもしれない。そうだとすると、マムダニ市長にはどんな時代の兆候をみるべきだろう。 選挙期間中には富裕税の導入を主張して注目を集めたが、いまとなっては大都市を内包するワシントン州やカリフォルニア州だけでなく、メイン州などの経済規模が小さな州も富裕税の導入を検討している。ウォール・ストリート・ジャーナルのようなビジネス紙でさえ税金を逃れるビリオネアたちが経済に悪影響を与えていることを指摘し始めた。「マムダニ効果」というよりも、潮目が変わりつつある時期に彼のような人がどこからともなく現れると考えた方がしっくりくる。もう忘れているかもしれないが、この市長はいまから一年前には全くの無名といっていい人物だった。 ブルームバーグ市長は、2002年に市長就任100日目の催しをゴールドマン・サックスで行い、集まったビジネスのリーダーたちに向かってスピーチを行った。2001年のテロ事件の約半年後にあたり、市の復興が喫緊の課題だった時期である。ブルームバーグ市長にとって、市の回復とはなにより企業の回復のことだったようだ。企業が回復成長すれば、市も住民も豊かになるのだと。マムダニ市長は住民を直接支援するやり方を選んだようにみえる。 住民の間では新市長の評判は概ね良好で、世論調査が伝える支持率はそこそこ高く、まずは及第点というところか。ある調査によると、支持率が最も高いのは18歳から29歳の大卒者だという。とはいえ市長を支持する人たちの間にもいろいろな意見がある。 選挙期間中にマムダニは市の予算の0.5%を公共図書館に充てることを公約したが、発表された暫定予算では0.39%相当しかなく、同様に予算の1%を公園局に充当する公約に対して、暫定予算ではその約半分しかないことに対する反発が大きい。パブリックの美徳を何より強調する市長の約束と違うではないかというわけだが、これは決着のついていない予算の行方次第かもしれない。 大企業の上層部では経済開発に熱心ではない市長との見方が広がりつつある。経済開発公社のトップがいまだ任命されていないこともある。傍目にみても資本のファシリテーターというべき公社だが、経済をめぐる公正さを実現する組織へと改編するのが市長の考えだと伝えられている。任命された都市計画局の局長が、従来のように経済開発の背景をもってはおらず、人種上の平等性に働きかけてきた人であることも注目されている。 マムダニ市長の就任によって、ビジネスは市を離れ、富裕層が大挙して税金の少ないフロリダに引越すことになるだろうと言われたものの、少なくともこれまでのところその気配はない。ウォール街は依然調子よく、マンハッタンでのオフィス建設計画は後を絶たない。むしろニューヨークを離れているのは労働者階級の人たちであり、それこそ心配すべきだというのが市長の考えのようだ。看護師などの「ニューヨークを動かし続けている」ニューヨーカーの多くが市内に住む余裕がなく、近隣のニュージャージー州やコネチカット州から通勤している状況を、ニューヨークの博物館化だと市長は懸念する。自宅から15分以内にコーヒーショップがあり、そこで働く人が自動車を一時間運転して通勤しているとしたら、それは「15分都市」ではなくテーマパークなのだとこの市長は言ったこともある。 個人的に関心をもってみているのは、市が利用するテクノロジーに関して、外注をやめてインハウスへと移行しようとしていることである。経費削減とともに有能な職員を有効活用する意図があるという。組織に欠かせない知識を外注し、タコ糸を操るような管理型テクノクラシーがいよいよ曲がり角に差しかかっているというべきか。あちこちでタコ糸が切れているわけだから当然といえるのかもしれないが。 わからないところもある。治安の問題に関して「コミュニティ安全室」を設置したが、具体的にどのように機能するのか現時点では正直よくわからない。なにしろまだほぼ100日である。 (おわり)

yoshiさん


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