東京を川からフィールドワークする
2014.07.30
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東京を川からフィールドワークする

ACROSS編集部主催フィールドワークレポート
水辺エリアの歴史と先端事例を巡るリバークルーズ

 

東京ではいま、水辺エリアのリノベーションが注目を集めている。浅草や日本橋など古くからの川の文化を持つ東東京だけでなく、渋谷川、目黒川といった西側エリアでも、水辺空間づくりへの機運が高まっている。ACROSSでは今回、東京湾や神田川・隅田川の都市河川で進行している水辺利用の先端事例を小型船で巡りながら“これからのまちづくり”や“都市生活者の新しい商業&公共空間づくり”について考えるフィールドワークを開催した 

多様性のある水辺利用を提案するNPO法人「ボートピープル・アソシエーション」理事の岩本唯史さんによる船上レクチャー
スタート地点の天王洲にあるT.Y.ハーバー。平日ながらテラス席は近隣のオフィスワーカーで満席だ
レインボーブリッジのループ部分を真下から眺めることができるビューポイント。港湾設備や工場など他にも見どころは多い
東京の超高層マンション建設の先駆となった大川端リバーシティ21。スーパー堤防が隅田川と調和した眺望をもたらしている
運河に面した月島から豊洲周辺には倉庫にリノベーションを施したスタジオやカフェが生まれている。高層マンションの建設もまだあちこちで進んでいる
日本橋川には、関東大震災後の復興事業として架け替えられた橋がまだ多く残っている。石詰みの橋を復旧する工事も行なわれている

今回のコースは、天王洲を起点に東京湾に出てお台場から豊洲、晴海へ。さらに越中島を通り日本橋川から神田川へと遡上し、隅田川で最終目的地の浅草へと向かう全長約23kmのコースである。細い運河にも入り込むことができる40人乗りの小型船で、所要時間は約3時間である。


ツアーのモデレーターは、水辺利用の多様性を提案する「ボート・ピープル・アソシエーション(以下BPA)」理事の岩本唯史さんにお願いした。BPAは先日レポートした「ミズベリング・プロジェクト」でも重要な役割を担っているNP法人。岩本さんはその中でも、水辺活用のワークショップやリバークルーズなどの企画運営に取り組み、横浜では「水辺荘(横浜市中区日ノ出町)」という水辺遊びの拠点を運営している、水辺活用のエキスパートである。


都市河川の再生といえば、水質改善や人口ビオトープの整備など、環境保全に向けた試みは70年代以降継続して行なわれており、東京の河川の水はずいぶん綺麗になった。また、堤防の整備による治水、さらにスーパー堤防の整備など、川辺や運河を親水空間として整備する事業も行われてきた。


とはいえ東京の川は未だ都市の裏側に追いやられたままで、水辺へのアクセスは限定されて、都市の賑わいとは隔たりがあるのが現状だ。しかし、お台場や豊洲などの湾岸エリアでは高層マンションの建設が今も進み人口が増加、ウォーターフロントで水辺空間に触れたことがきっかけで、その魅力に注目する人も近年は増えている。


東京の街を陸上と違った角度から眺めることができることから、ここ数年では神田川や東東京の運河を巡るリバークルーズ、さらにSUP(スタンドアップパドル)やカヌーで川に出る愛好者も増えている
。今回のツアーで利用したようなチャーター船も、新しいスタイルの船遊びとして注目を集めている。


天王洲を出航すると、品川から豊洲、お台場に至る東京湾岸エリアの大規模開発から、スーパー堤防や水門、運河など、変わりゆく今の東京を鑑賞できる。東京湾の大工場や巨大なガントリークレーンなどの工場萌え物件や勝どき/月島から越中島周辺にかけて進行中のリバーフロント再開発の風景など、見どころは実に多い。


日本橋川から神田川、さらに隅田川へと東京の川をたどっていくと、かつて川が生活文化と密接であった江戸から戦前の昭和にかけての歴史の痕跡を感じることができる。さらに高速道路という巨大な建造物の下に広がる空間やお茶の水近辺のダイナミックな高低差、江戸情緒を今に伝える柳橋へと次々に変化していく風景は、東京の河川でこそ味わえる醍醐味だと言えるだろう。東京の水辺空間が持つ多彩な魅力については、改めて「The ACROSS」で詳しくご紹介したい。

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見慣れているはずの日本橋も船上から見ると違った趣がある。高速道路の下には大きな水辺空間が広がっている
運河では河川と生活空間の距離が近く、亀島川には水辺テラスもあるがアクセスできないのが現状だ。イタリアンレストラン「De ICHIBA」(写真右)の隣に「カワイイ ブレッド & コーヒー 」が新しくオープンするなど注目度も高い
水道橋にある東京都の不燃ごみ中継所。神田川を経由して水路でお台場の最終処分場へと運ばれる
mAAchエキュート 神田万世橋は旧万世橋駅を商業施設にコンバージョンを施した人気スポット。川に面してテラス席やウォーキングデッキが設けられている
柳橋には神田川の両岸に屋形船が係留されている。船を使った水辺の活用法にも、まだまだ可能性がありそうだ
神田川最下流から隅田川に合流する柳橋は、江戸時代にも浮世絵に描かれていた水上交通の要所
蔵前橋近くの複合施設「mirror」で開催したレクチャーの模様。左から岩本さん、株式会社松竹・経営企画部の石毛宏明さん、東京都公園協会・水辺事業部の大川原雄一郎さん

船に乗って川から東京の街を見た後は、隅田川の浅草周辺に次々と生まれている新しい水辺スポットを陸上から巡るツアーに。浅草はスカイツリーの開業などで注目度が高まっているが、そこに官民連携のもと隅田川の水辺空間を見直す動きが加わることで、新しいうねりが生まれているエリアである


台東区側では、東京都が管理する隅田公園で水辺空間のオープン化が進められてきた。2013年に国土交通省が「河川敷地占用許可準則」を改訂したことで、民間企業によるカフェ出店など従来にない動きが生まれている。
2014年に東京都の指定管理業者として松竹とタリーズコーヒーがそれぞれ「カフェWE」と「タリーズコーヒー隅田公園店」をオープンし、水辺の活性化に貢献している。



「カフェWE」を運営する株式会社松竹の経営企画部・石毛宏明さんに店内を案内してもらった。営業時間は夜21時まで、さらに貸し切りなどにも対応するなど、都の公園内の店舗としては一歩踏み込んだ柔軟なオペレーションに取り組んでいる。さらに東京水辺ラインのチケット販売を開始するなど、都との連携も進められている。



東京都側の窓口となるのは公益財団法人 東京都公園協会の水辺事業部で、公園管理とともに水上バス「東京水辺ライン」の運営なども行なっている。同調整課の大川原雄一郎さんによれば、東京都では水上バス待合施設の有効活用など、民間企業との協力で新しい試みに取り組んでいるという。


民間でも、河川に面したビルのオーナーなどの間に、新しいタイプのスポットを運営する動きが見られるようになってきた。浅草から一駅離れた蔵前では、2012年に複合施設「mirror(ミラー)」がオープン。かつてヤマハの倉庫であった地上5階建のビルを、カフェ「シエロイリオ」やスタジオ、ラウンジなど、リバービューを活かした形でリノベーションし、注目を集めている。


フィールドワーク後、このmirrorにて石毛さん、大河原さんと岩本さんの3人によるレクチャーが行なわれた。水辺空間の再生には、改修や整備による「居心地のよい場所づくり」だけではなく、人を集める「水辺と街をつなぐ新しい街づくり」、さらにそれを持続・発展させることで新たな投資や事業者を呼び込む「賑わいの仕組みづくり」という循環を、多様なプレイヤーの参加で作ることが必要だ



海と河川、運河では権利者、管理者の境界や権限などが曖昧で、調整には手間がかかるのが水辺の現状だ。さらに地域住民の合意も必要で、騒音や風紀悪化などへの心配から水辺のオープン化に二の足を踏む地元住民もいる。



一方、水上から東京を巡ってみると、観光資源となりそうなランドスケープや、遊びに使えそうなリソースがまだまだ沢山あることが分かる。使い方次第では、水上だからこそ体験できる、自由な空間が広がっている。東京の新しい水辺カルチャーを創り出すムーブメントは、まだこれからが本番である。




【取材・文: 本橋康治(コントリビューティングエディター/フリーライター) 】 
 

 

東京を川からフィールドワークする

開催概要
■開催日 2014年7月16日
■タイムテーブル
14:30 集合/受付開始「天王洲ヤマツピア」
15:00 出港  
天王洲アイル〜お台場〜豊洲〜晴海〜月島〜日本橋〜神田橋〜九段下〜飯田橋〜水道橋〜お茶の水〜秋葉原〜柳橋〜浅草 
18:00 墨田区役所前防災桟橋 着
18:30 隅田公園「カフェWE」
19:00 レクチャーと懇親会

 



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