LOFT9 Shibuya「CINEMA9」
レポート
2019.11.07
カルチャー|CULTURE

LOFT9 Shibuya「CINEMA9」

トークライブハウス「LOFT9 Shibuya」にて、インディーズ映画を上映!
平日の午後、まだ見ぬディープな作品と出会う「CINEMA9」


近年、映画業界では100席前後、もしくは100席にも満たない小型の映画館が増えている。2018年10月、「アップリンク吉祥寺パルコ」のオープンを控える浅井隆さんにインタビューをさせていただいた際にも(
2018年10月の記事)、イギリスやアメリカで新しいスタイルの小型の映画館が人気だというお話を伺った。このような、カフェを併設したりトークイベントを実施するなど複合的な業態での運営は、2005年にオープンした「アップリンク渋谷が定着している。実は今の時流である“ミニシアター”のブームに先駆けて、1981年の「PARCO SPACE PART3(現シネクイント)」、1982年のユーロスペースなど、1980年代の渋谷では小型の映画館のオープンが続いていた。

2016年8月に渋谷パルコの一時閉館に合わせてクローズしたシネクイントも、2018年7月にスクリーンを2つに拡大し宇田川町にオープン。また、2019年11月22日にオープン日が迫る新生渋谷パルコにも「WHITE CINE QUINTO」として開業し、渋谷で2館体制となる。新規オープンやリニューアルも相次ぎ、渋谷はすっかりインディペンデント系の小型映画館と縁の深い場所となっている

そんななか、渋谷でまた新しい動きがあった。多くの人で賑わう駅前のスクランブル交差点や道玄坂から、少し離れた場所に位置する渋谷円山町。ラブホテル街をイメージする人もいるかもしれないが、90年代はクラブやライブハウスのオープンが相次ぎ、「ランブリング・ストリート」という名称で若者たちに賑わったカルチャーエリアである。その後00年代は、こだわりのバーやカフェ、映画館がオープン。“隠れ家”的な雰囲気もあり、ツウ好みのエリアとして人気になっている。

そんな円山町の一角にたたずむトークライブハウス「LOFT9 Shibuya」にて、2019年1月より、平日午後にインディーズ映画を上映する「CINEMA9」という企画がスタートした。

連日アイドルや芸人などカルチャー系のトークライブを開催している同店が、なぜインディーズ映画の上映を始めたのか。「CINEMA9」をスタートした経緯やその魅力、インディーズ映画の楽しみ方について、LOFT9 Shibuya店長の齋藤航さんと、「CINEMA9」の企画でプロデューサーを務める映画活動家の松崎まことさんに話を伺った。

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LOFT9 Shibuya店長の齋藤航さん(左)と映画活動家の松崎まことさん(右)

映画カルチャーが根付く、円山町・KINOHAUS(キノハウス)

そもそも「LOFT9 Shibuya」がオープンしたのは、2016年の夏。カフェ併設のトークライブハウスとして、KINOHAUS(キノハウス)ビルの1階で営業を開始した。このビルは、偶然にも映画との親和性が高い場所だったという。

「LOFT9 Shibuyaが入居しているKINOHAUS(キノハウス)はかなり特殊で、映画に特化しているんです。2階には映画上映のほかトークライブや落語会をおこなう『ユーロライブ』、3階には映画館『ユーロスペース』、4階には名画座『シネマヴェーラ渋谷』、地下には『映画美学校』があります。せっかく映画と結びつきのあるビルに入っているからこそ、映画関連のイベントはオープン時から積極的に開催していました」(松崎まことさん)。

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LOFT9 ShibuyaがあるKINOHAUS(キノハウス)。同ビルには、映画館や映画美学校が入っている。
そして2019年1月、「CINEMA9」がスタートした。イベントで使っているカフェスペースを活用し、週替わりでインディーズ映画1本を上映している。

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カフェスペースのカウンター。カフェ営業中は、アルコールやソフトドリンクのほか、タコライスやカレー、B.L.Tサンドなどの軽食も楽しめる。
映画の上映時間は、月曜日から金曜日の平日14時。上映時間をあえて平日14時に選んだのには理由がある。

「より多くのお客さんにカフェを利用してもらいたいという思いで、平日14時に上映することを決めました。というのも、LOFT9 Shibuyaはトークイベントの場所というイメージが強いせいか、昼間にカフェ営業をしていることがあまり知られてないんです。イベントがない平日14時の時間は、どうしてもお客さんが少なくなってしまうんですよね」(齋藤航さん)。

「インディーズ映画を上映するにしても、平日の14時だとお客さんはあまり来ないだろう、という話もありました。でも、もし多くのお客さんを動員できなくても、映画との関わりが深いこのビルに入っているからこそ、インディーズ映画を発信していけたらいいよねと。そんな気持ちで、僕もこの企画をお手伝いすることにしました」(松崎まことさん)。

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CINEMA9の企画『インディーズ・シアター“ワンコイン”』のプロデューサーを務める映画活動家の松崎まことさん。企画第1弾では、自身が29年ぶりに監督作品として撮り上げた短編映画『ヒロイン』が上映された。
松崎さんは、CINEMA9の魅力について、気が向いたときに映画を見に立ち寄れる“気軽さ”だと話す。

「『インディーズ・シアター“ワンコイン”』をはじめ、CINEMA9の料金は、基本的に鑑賞料500円に加えてワンドリンクをオーダーする料金体系。ドリンク代込みでも、1,000円以内で映画を見ることができます。また、上映作品は30分前後の短編が多いので、時間ができたときにふらっと寄れるのはいいと思いますね」(松崎まことさん)。

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ドリンクを片手に映画を楽しめる。写真はウーロン茶(300円)。そのほかコーラ(300円)、アイスコーヒー(330円)、生ビール(500円)といったメニューも。
『インディーズ・シアター“ワンコイン”』での上映作品を選んでいるのは、松崎さんを筆頭に映画プロデューサー、映画の宣伝担当者、映画祭の主催者だ。映画に知見の深い4人が、それぞれ選りすぐりの作品をピックアップしている。作品選びのポイントについて、松崎さんは次のように語る。

『お客さんにこれを見せたい!』という強い思いを大事にしています。そもそもインディーズ映画は、利益目当てというより、監督が作りたいものを自由に作る作品。CINEMA9の上映で『お金になるかどうか?』を意識してしまうと本末転倒な感じがするんですよね。とはいえ、キュレーター(企画者)の熱意だけでは、お客さんは来てくれませんから、“フック”は考えます。例えば、最近話題になった監督の過去作品など、ちょっとした見所は意識しています」(松崎まことさん)。

なかでも松崎さんが意識しているのは「成長している若手監督の作品」だという。

「僕は、映画祭などで出会った駆け出し監督の作品を積極的に推していきたいと思っています。作品はもちろん、人間的に好きな監督の作品です。監督と付き合いが続いていくと、その人の成長がわかるんですよね。成長過程にある監督の作品を埋もれたままにせず、人に見てもらいたいという気持ちで選んでいます」(松崎まことさん)。

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CINEMA9の座席は、全30席ほど。パーテーションの奥はカフェスペースとなっている。
インディーズ映画の魅力について、LOFT9 Shibuya店長の齋藤さんは、監督の熱意が露骨に伝わるところだと語る。商業映画と比べて興行収入のプレッシャーや原作に縛られることなく、やりたいことにこだわった作品づくりができるのは、インディーズ映画ならではだ。

その一方で、インディーズ映画を見る機会は非常に限られている。実際、上映される劇場が限られているうえ、DVD化されることも少ないため、インディーズ映画に馴染みがない人も多いだろう。CINEMA9では、そんなお客さんと作品を繋ぐ存在として、一期一会の作品との出会いを提供している。

また、上映費用が自己負担になりがちな映画製作者側にも配慮した運営を行っているという。

「インディーズ映画の監督にとって、映画を上映できる場所は少ないうえ、上映するための費用は持ち出しになってしまうことが多いんです。だからこそ、CINEMA9では映画担当者から費用をいただくことはありません。鑑賞料の500円は、その映画を選んで企画したキュレーターと、監督またはプロデューサーに還元しています」(齋藤航さん)。

上映作品について監督が語るトークコーナーも


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取材日の上映前後には、映画プログラムを選んでいる松崎さんが挨拶に立った。日によって上映後には、監督や出演者による舞台挨拶もある。

上映後に監督や出演者による舞台挨拶とトークを楽しめるのも、CINEMA9ならではの魅力だという。

「CINEMA9では、ほとんどの映画で上映後に監督さんや俳優さんによる舞台挨拶とトークコーナーを設けています。監督から直接、作品の背景や撮影時のエピソードといった解説を聞ける機会になっています。僕自身、監督の話を聞けたことで作品への思い入れが深くなりましたね」(齋藤航さん)。

トークは監督を囲んでのお茶会なども含めて毎回約1時間ほど、しっかり時間をとることが多いですね。もちろん、上映後にすぐ帰っても問題はありません。でも、これって、一般の映画だとなかなかないことじゃないですか。監督自身も、自分の作品を見てくれた人の顔を見て話せるのは嬉しいことだと思います」(松崎まことさん)。

映画やトークコーナーを楽しみにするお客さんのなかには、映画監督を目指す学生もいるという。舞台挨拶では質疑応答の時間もあり、自分が見た映画について監督に直接質問できるという、なんとも貴重な機会となっている。

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LOFT9 Shibuya前の看板では、その週の上映プログラムが紹介されていた。取材日の上映映画は、今泉力哉監督の『赤青緑』。『愛がなんだ』が大ヒットした注目監督の作品だ。
齋藤さんはCINEMA9について、インディーズ映画に詳しくない初心者にもぜひ来てほしいと語る。

もちろん映画祭などに行くのも悪くないと思いますが、それだと短編映画を10本とか見ることになるんです。いきなり見るのにはハードルが高いかなと。CINEMA9なら、上映作品1本で時間も30分前後なので、初心者でも楽しめると思います。作品も映画のプロが選んでいるので、『ハズレだった』と思うことも少ないです」(齋藤航さん)。

松崎さんによれば、CINEMA9に限らず、どのインディーズ映画を見るか迷った際には、SNSの口コミを見るのも一つの手だという。

「SNSで評判を見てみるのもいいと思います。商業映画と一緒で、面白いインディーズ映画は SNS で話題になっていることも多いんですよね。実際、最近ではアップリンクで公開した『メランコリック』というインディーズ映画が口コミで広まっています。この映画は、銭湯を舞台にしたサスペンス・コメディ。第31回東京国際映画祭『日本映画スプラッシュ』部門で監督賞を受賞した注目作品です」(松崎まことさん)。

一昔前のインディーズ映画は、商業映画と比較して画質や音質が落ちたり、ストーリーがわかりにくいなど、初心者が観るにはハードルが高かった。

しかしここ数年、そんな商業映画とインディーズ映画の差はなくなりつつあるという。一眼レフでの撮影やPCソフトでの編集が可能になったことで、かつてのプロアマの垣根がなくなってきたのだ。

「工夫次第では、インディーズ映画も商業映画に負けないものを撮れると思っています。インディーズ映画は、知恵と勇気と情熱。たとえ予算がなくとも、この3つがあれば面白い作品になるんです」(松崎まことさん)。

松崎さんらがキュレーターを務める『インディーズ・シアター“ワンコイン”』の次回企画は、来年2020年の1〜2月ごろになる予定。それまでは、CINEMA9の運営スタッフがセレクトした作品の上映がおこなわれる。上映作品のなかには、公募から選ばれたものあるとのことだ。

知恵と勇気と情熱が詰まったインディーズ映画との貴重な出会いを提供し続けているCINEMA9。ここでは商業映画とは一味違う、一期一会の作品との出会いが待っている。


【取材/文:市川茜+「ACROSS」編集部】


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