「アップリンク吉祥寺パルコ」/UPLINK Kichijoji PARCO
レポート
2018.10.08
カルチャー|CULTURE

「アップリンク吉祥寺パルコ」/UPLINK Kichijoji PARCO

12月14日(金)オープン!いろいろあって選べる、多様な時代の映画との出会いの場に。
Culture Gathering at Kichijoji.


「一番怖いのは守りの姿勢に入る事。今のアップリンクは大きくなり、事務所もきれいになりスペース的には恵まれているけど、スタッフに変革する力が衰えてきたように思う。なにより、トップである僕がとにかく変革するエネルギーを持続しないとダメだと強く思う」と、ビンビン瞳の奥からエネルギーを放っていた浅井隆さんにインタビューさせてもらったのは2005年の7月のことだった。
当時、シアターとギャラリーとレストランがいっしょになっている空間「UPLINK(アップリンク)」を宇田川町にオープンしたということで、(個人的にもファンだった!)一部で絶大な人気を誇っていた紙媒体『骰子』の立体版だ!と、超多忙中の浅井さんにインタビューを依頼。快く引き受けてくださったのは北京から帰国した翌日の夜だった。
「ミニミニ文化村を目指します、うちのはエッジーだけどね」と、近隣にある文化村に対してのリスペクトを浅井さん流にヒネって表現しつつ、これからは必ずデジタル・ムービーの時代になるから、原点に戻す必要があって、だからこそカルチャーが育っていくように、リアルな場所を設ける必要があったと熱く語ってくださったのを、昨日のことのように思い出す。
あれから13年。2018年冬、新たに吉祥寺にカルチャーの育つリアルな場所として「アップリンク」が、ご縁あって吉祥寺パルコにオープンすることになった。ということで、改めてお話を伺った。
 
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「床の色はグレーでいいかな」「ちょっとここの壁ずらして見て、、」とスタッフと模型を囲む浅井さん(左)。

「実は10年ぐらい前からもうひとつ映画館をつくりたいと思って、物件を探していたんです」と浅井さん。

「日本の人口推移表とか見てると、じきに1億人は割る。それでも人口が増加するといわれているのが東京と横浜市なんです。もちろん、ミニシアターしかやるつもりはないので、東京〜横浜に繋がるところで探していました。自由が丘とか下北沢とかね。でも渋谷に近いからマーケットがバッティングするし、カルチャー的に川崎はちょっと違うしな、とかいろいろ調べましたよ。


吉祥寺も前から検討していて、バウスシアターが閉館する前から手伝ってくれないかっていう話もあったので何度も通ってリサーチしましたが、なんか縁がなくて。吉祥寺はカルチャー的にはとってもアップリンクともマッチしていて、平日もけっこう人がいるし、学生さんも多いし、いいなって思ってたんです。館を運営するっていうことは、平日のこの昼間の時間帯にどうやってお客さんを呼ぶかっていうことじゃないですか。吉祥寺はそれができそう、って思ったのは確かです」(浅井さん)。


その後、たまたま大きくリニューアルをしようと考えていた吉祥寺パルコのタイミングと合致し、今回2社の共同事業というかたちに発展した。


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2018年冬にオープンする予定のアップリンク吉祥寺パルコのパース。

「2018年冬、吉祥寺に5スクリーンのミニシアター『アップリンク吉祥寺パルコ』がオープン!」。

2017年末に新聞の東京版やネットメディアを中心に、そんな見出しが飛び交った。場所は吉祥寺パルコの地下2階。5スクリーン、合計300席というミニシアターのコンプレックスのような形態は日本でも珍しい。

「世間はいいニュースって思ったんじゃないですかね。発表になった時、パルコの株価がちょっと上がりましたから(笑)」と浅井さん。実は、浅井さん、リアルなまちのリサーチだけでなく、ネットリサーチも半端ない。インタビュー中も広報担当の高野さんに「あ、日比谷のTOHOシネマズのサイト出して」とびゅんびゅん指示が飛ぶ。

「今度のアップリンク吉祥寺もね、フロアの面積からいくと3スクリーンという選択肢もあったのですが、初めから5スクリーンにで考えていました。従来の映画館の客席数を考えると3スクリーンにして100席以上のスクリーンにすると思うんですよね。でもね、このあいだオープンした日比谷ミッドタウンのTOHOシネマズ日比谷が98席を5スクリーン設けていて、もちろん456席の大きいのもあるんだけど、あの場所で98席5スクリーンは上映1回あたりの座席占有率をエンタメ作品でさえそうなんだという映画館作りを見てアート系の映画を上映するなら、しかも都心ではなく吉祥寺でならこの小ささでいいのだと改めて思いましたね」(浅井さん)。


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「ブティックシネマ」が急増しているNYブルックリン。こちらは人気で近年地価も高騰しているウィリアムズバーグの「ウィリアムズシネマ」。(撮影:浅井隆)

「まず、映画館で映画を観る人と観ない人に別れてて、映画を観る人はいろんなのが観たいんですよ、ニーズは多様になっているから、『オーシャンズ8』とかハリウッドメジャー系も観るけど、インディーズやドキュメンタリーも観る」。
渋谷のアップリンクの特徴は、1日にたくさんやってるっていうことなんです。多い時では13作品とかやっています。あるときはアカデミーでオスカーを受賞した作品やカンヌで賞を獲った作品も上映してれば、インディーズの邦画まで上映している。すごく幅が広いけど、映画ファンはそれらを横断して観てくれる。映画を観ない人に映画を観てもらうのはすごく難しいけど、映画を観る人に別の映画を観る機会提供するのが今のアップリンクの上映方針です」。

そんなミニシアターのコンプレックスが可能になったのは、デジタル化が進んだからだという。13年前に浅井さんが予想していた通りに時代は変化した。
アップリンク吉祥寺パルコはいわゆる人がいる映写室がないんです。全部デジタルで1カ所で自動で上映できるシステムを導入しました。映像の規格とそれを映し出すプロジェクターは厳密に決められているので、DCI(Digital Cinema Initiatives)というハリウッドスタジオが作った企画に沿って、DCPプロジェクターで上映します」(浅井さん)。
 
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椅子に関しても徹底的にリサーチ。こちらは、キネット社の劇場用のもの。(撮影:浅井隆)

アップリンク吉祥寺パルコのプランニングに関してもとにかくネットリサーチ。すると、NYにいくつも新しくミニシアターがオープンしていることがわかり、ちょうど9月にトロント国際映画祭に行く機会があったので、足を延ばし、現地視察を行なったのだそうだ。詳細はこちらの記事(http://www.webdice.jp/dice/detail/5489/
「全部で10館くらい観たかな。アポとったとかじゃなくて、ふつうに客として行って映画を観ました。NYに日本でいうミニシアターのような100席以下のミニシアターが本当にたくさんできてて驚きましたね。特にブルックリン。また、古い建物が多くて、椅子がバラバラだったり、部屋によってイメージが違ってたりして、あれ、これアップリンクといっしょじゃん!これでいいんだ、って思いましたね(笑)」(浅井さん)。
カフェだけでなく、本格的なレストランが併設されているところや、席にテーブルがあってバーのような感覚で利用できるところ、ボランティアスタッフで運営しているところなど、日本の映画館、ミニシアターというイメージとは大きく異なり、ほんとうにそれぞれのスタイルがあることを実感したと浅井さんは語ってくれた。
こういう映画館の新しいスタイルは世界で広がっているようで、イギリスでは4、5年くらい前から「ブティックシネマ」と呼ばれており、アメリカでは「ユニークシネマ」と呼ばれ、最近では観客席がベッドになっていたり、座席の代わりに子ども用のような小さなプールに入りながら映画を鑑賞するなど、“映え”目当てのお客さんをもターゲットにした新規ビジネスとして盛り上がっているようだ。

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ブルックリンのホットスポット、ウィリアムズバーグのNitehawk。3スクリーンで座席にテーブルがあって上映中に飲食できる。シネマは2階、1階にはバーがあるそう。(撮影・キャプション:浅井隆)

アップリンク吉祥寺パルコは、地下2階の約285坪の空間をひとつのまちに見立て、「POP」、「RAINBOW」、「RED」、「WOOD」、「STRIPE」とそれぞれデザイン・コンセプトが異なる5つの空間を「ハウス イン ハウス」という設計思想で繋げた独特の空間に仕上がる予定だ。設計を担当しているのは、アビエルタ建築・都市の北嶋祥浩さんアップリンクが配給したガウディのドキュメンタリー『創造と神秘のサグラダ・ファミリア』の上映時に開催したトークイベントに登壇した田中裕也さんからの紹介だという。照明デザインは、ニューヨークに事務所があるLOOP LIGHTNGの中村亮子さん。俳優のナオミ・ワッツ邸の仕事の経験もある方だそうだ。
 
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「守りに入るのがいちばん危険だと思う」と浅井さんが率いるアップリンクは常に変革がポリシー。そのこだわりは、今回も自社でクラウドファンディング事業も立ち上げ、館だけでなく作品の企画や運営、プロモーションなどトータルでアート系の分野に取り組んでいく予定だそう。

映像に比べると音はそこまで規格が厳しくないそうだが、あえて音響設計にはこだわり、アップリンク渋谷でも導入しているPAスピーカーを作った田口音響研究所の田口和典さんが開発した平面スピーカーを全スクリーンに導入する予定だという。
そういえば、渋谷のアップリンクも、あんなふうな空間(失礼!)ながらも、違和感なく映画が気持ちよく鑑賞できるのは実は音響設計にあったのかも!と改めて関心させられた。
某メーカーが実施した調査によると、日本人には敏感かつ繊細に音を感じ取り、音からさまざまなイメージを描く能力があり、それを「日本耳」という、と精神科医の先生がコメントしていた。「日本(人)すごいぜ。」などと言うつもりはさらさらないが、“音へのこだわり”は、場づくりにおいては案外重要なポイントだと思う。

ブルックリンで見た映画館のいくつかもそうだったんだけど、自転車で来る近所のお客さんが多いという点は、吉祥寺も同じだなあって思いましたね。そういう意味では毎日来ても飽きない映画館、いや、映画館っていうんじゃなくて、お店かな。ほら、本屋さんとかビデオ屋さんとかで棚を見ていての偶然の出会いっていうのがあるじゃない。そういう機会を提供したいなと思ってます。だって、ネットフリックスとかアマゾンプライムビデオとかでAIがレコメンドしてくれるのとかって、アルコリズムの範疇でしかなく、偶然の出会いがない。まあ、これからもっと精度がアップして偶然さえアルゴリズムに組み込まれるのかもしれないけど。
そもそも、マーケティングでターゲットは“30代半ばの女子”とかっていうけど、それは誰なの?って思うんですよ。だって、人間それぞれ違うじゃない。好みだってぜんぜん違うのに無理矢理セグメントするのって無理がある。だけど、趣味で括るっていうのはあると思うから、雑誌のブルータスみたいに特集号によって違って、エイジレス、ジェンダーレスという括りの方が、マーケッティングしやすいと思う」(浅井さん)。
選択肢は多い方がいい。少なくとも映画に関してはそう断言する浅井さん。
「近々吉祥寺に引っ越します」。
13年前も「変革は自分自身から」とまずは住まいをが引っ越すところから実行したと話してくれていたが、今回もまずはここから(!)のようだ。
[インタビュー/文:高野公三子(本誌編集長)]
今回も自社でクラウドファンディング事業も立ち上げ、館だけでなく作品の企画や運営、プロモーションなどトータルでアート系の分野に取り組んでいく予定だそう。

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