シーナと一平
レポート
2017.02.02
ライフスタイル|LIFESTYLE

シーナと一平

豊島区のリノベーションスクールから誕生した、まちづくり事業。椎名町の旅館&ミシンカフェ

池袋から西武池袋線で1駅の椎名町。その商店街に、旅館&ミシンコミュニティカフェ「シーナと一平」がある。

これは、2015年3月に開催された「第1回リノベーションスクール@豊島区」(主催:豊島区、企画:株式会社リノベリング)から生まれたプロジェクトで、もともとはとんかつ屋だった空き物件を再生したものだ。

椎名町は、駅から長い商店街が続く下町風情あふれるまち。かつて「トキワ荘」「池袋モンパルナス」が生まれた文化的なエリアだが、近年は商店街のシャッター化や地域の高齢化が進んでいた。2014年には、23区唯一の人口減少による“消滅可能性都市”に指定された事をうけ、その対策の一環として豊島区は「リノベーションスクール@豊島区」を開催。リノベーション事業者を講師とし、民間の受講生が事業計画を練り、オーナーから提供された空き家をリノベーションして新たなビジネスを創出し、街の価値も高めていくことを目的としたものである。

第1回(2015年3月6日~8日)では、「シーナと一平」を含む2つの案件が事業化された。
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運営するのは株式会社シーナタウン。「リノベーションスクール@豊島区」で出会ったメンバーによって設立された会社で、区からの補助金は一切受けず、それぞれ本業を持ちながら「シーナと一平」の運営に携わっている。

代表取締役を務める日神山晃一さん(41歳)は、本業は内装のデザイン・設計・施工業の会社を経営しながら、手作りカーテンのワークショップも主宰。出身は岡山県だが、4年前から商店街の残るまちの雰囲気に惹かれて椎名町周辺に事務所と自宅を構えており、このまちで自分が楽しく暮らすために何ができるかを考え、リノベーションスクールに参加したのだそうだ。
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「椎名町の宝は、池袋まで歩ける距離にあるのに、下町の雰囲気が残っていること。一方で世代間のつながりがないことが課題です。街の宝を生かして課題を解決するにはと考えた末、手作りの良さを伝えることにつながりました。シニアは色々なものを作ってきた、手作りが得意な世代。子育て世代は子供のバッグ等を作る必要がある。そこで、世代の接着剤となる場所として、ミシンコミュニティカフェを開きたいと思いました」(株式会社シーナタウン/日神山晃一さん)。

このまちに住みたいと思われるように、コミュニティづくりの場所を目指すほか、訪日外国人に向けて「タウンステイ」をテーマに旅館も開設。まち全体を「宿」として捉えているのが独特で、街の銭湯に入ってもらったり、飲食店で食事をしてもらったりしてほしいという。

カフェとミシンの組み合わせは珍しいが、ファブリックは世界の共通言語であるというのが「シーナと一平」の考え。ファブリックで世界とつながり、ミシン(手作り)で街とつながれるのが醍醐味であり、日神山さんもここを世代も国籍も交われる場所にしたいという。
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物件は、20年前までとんかつ屋として営業しており、3年前までは住居として使われていたもの。1階を和の趣があるカフェに改装し、ミシンを配置。ドリンク1杯を注文すると、2時間無料でミシンを使用できる。また、2階はもともとの和室をほぼそのまま活かした、全5部屋の小さな旅館になっている。

週1〜2回ほどのペースでイベントを開催しているのも、コミュニティカフェならではの取り組み。これまでに「外国人の料理教室」や店舗の腰窓を開けて市場のように食品などを販売する「こしまど市」の他、地域のお年寄りに地元の昔話を話してもらう「茶話会」、子どもに商店街の商売を体験してもらう2泊3日の「キッズリノベーションスクール」などが開催された。さらに建物の工事中にも「空き家バー」「餅つき大会」、地元の人に座布団カバーやコースターを縫ってもらうなどをして、場所に愛着を持ってもらう取り組みを展開。解体現場に知人らを集めて事業計画の説明会を行い、350万円の出資金を集めたということからは、事業への共感の大きさを理解できる。
 
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2名用の和室「藍」(上)と、男女混合ドミトリールーム「山吹」(下)。オリジナルのカーテンがポップな印象。
客層は、カフェは子連れママがとても多いそうだ。

「思った以上に主婦の方がよくいらっしゃってミシンも使ってくれていますね。子供連れで入りやすいお店って意外と少なくて、こういう場所を求めている人が多かったんだなと実感しています」(日神山さん)。

一方、旅館はアジアや欧米からの外国人客が中心だが、出張のサラリーマンがビジネスホテルではなく街の宿泊体験や宿泊客とのコミュニケーションを求めて宿泊することも多いという。
単なる宿泊ではなく“宿泊の価値”も変化してきているといえる。

「意外にも椎名町の人は、このまちの良さに気づいていないんです。シーナタウンのメンバーにも地元が椎名町で40年以上住んでいる人がいますが、彼も知らなかった魅力に気づいたと言ってます。ずっとここにいる人とっては当たり前になっていることが、外から入ってきた僕にとっては面白い発見がいっぱいある。外から入ってきた人と、商店街で商売している人がくっつくことで、なんか面白いことができるのではないかと感じています」(日神山さん)。
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柱にはお客さんのお子さんの身長が刻まれている。
総務省統計局の「住宅・土地統計調査」によると、2013年10月1日現在の空き家数は820万戸。2008年の調査より63万戸増加しており、社会問題となっている。世田谷区では空き家等を活用して地域コミュニティの活性化・再生につなげるためのオーナー向け相談窓口「世田谷区空き家等地域貢献活用相談窓口」を設置。台東区は「民間住宅活用モデル事業(空き家活用モデル事業)」として、空き家(戸建)を改修費用を一部補助し子育て世帯向け住宅として貸し出すことを推奨するなど、各自治体が様々な対策を講じている。リノベーションスクールはそういった課題解決に向け、都電、北九州、鳥取、和歌山、鶴岡など日本全国で開催されている。
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トイレのサインもお客さんによる手作り。
「シーナと一平」の実績が信頼され、シーナタウンは豊島区の別のリノベーション物件にも関わり始めている。自治体が移住者・定住者を入りやすくするために「空き家バンク」を運営していることもあるが、さらなる魅力発信には、そのまちに住みたいと思いたくなるシーンやモデルを見せることが不可欠である。

「シーナと一平」のように、空き家情報を持つ自治体と、多種多様なバックボーンとアイデアを持つ民間が協力していくことが、空き家解消と地域再生、まちづくりを盛り上げていく1つのカギになりそうだ。

今後は椎名町により多くの人が住んでもらえるように、「シーナと一平」を、女性が結婚や育児があっても新しい働き方にチャレンジできる場所、自分の才能を発揮できる場所にしていきたいそうだ。

取材・文 緒方麻希子+ACROSS編集部】
 

シーナと一平

東京都豊島区長崎2-12-4


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