SPOONFUL(スプーンフル)

SPOONFUL(スプーンフル)

レポート
2007.04.06
ライフスタイル|LIFESTYLE

北欧の伝統工芸品にこだわった
週末のみの北欧雑貨店が代官山にオープン。

白樺の木のカッティングボード(3,990円〜)
はスウェーデン製。木の自然な形を生かして
いるためひとつひとつの形状が異なる。
もちろんハンドメイド。
本来カラフルなペイントが施される
ダーラナホース(2,100円〜)を、同店では
あえてペイントをしていない白木の状態で
販売。
リアルショップの特典として、オンライン
では紹介していないアンティーク品も
用意している。
スウェーデンでは伝統工芸を学ぶことが
できるサマースクールが開催されている。
こちらはおさださんが山での
材料集めから完成させたバスケット。
白樺の皮を使ったテーブルバスケット
(7,140円〜)。ちょっとしたディスプレイ
にもセンスが伺える。
おさださんの著書
『北欧雑貨をめぐる旅』
写真や文、そしてなんとブックデザインまで
全ておさださんの手によるもの(!)。
出版:産業編集センター
今ではすっかりブームを超えた北欧文化。雑貨に始まり照明や家具、ファブリック、さらに先日auが“北欧のおもちゃ”をデザインコンセプトにしたジュニアケータイ「A5525SA」を発表するなど、私たちの生活にすっかり定着した感がある。そんななか、代官山のマンションの一室に登場したのが北欧雑貨店「SPOONFUL(スプーンフル)」だ。同店は、同名のオンラインショップ(05年3月より運営)のリアル店舗として、金・土・日の週末のみ営業を行っている。オープンは07年1月。オーナーは、全国展開する大手雑貨店の元バイヤーとして13年の経験を持つおさだゆかりさんだ。

99年、初めて訪れた北欧に「ロンドンやパリとは違う新鮮さを感じた」というおさださん。その後訪れる度に、北欧の伝統工芸品はもちろん、文化や広大な自然、温かい人柄に魅了されていったという。

「コンセプトは、北欧のライフスタイルが感じ取れる品物を届けること。企業にいた頃は、どうしても売れ筋の商品を考えた買い付けをしなければなりませんでしたが、今は自分が実際に使っていて愛着があるものや手仕事の温かみが感じられるものなどにこだわっています」(おさださん)。

北欧雑貨といえば一般的に、テキスタイルブランド「マリメッコ」に代表されるようなグラフィカルでポップな色使いのデザインイメージが先行しているが、同店で扱うのは北欧の伝統工芸品を中心とした素朴な日用品。おさださんが北欧の伝統工芸品を“潔くて男性的”と表現するように、飾り気はないながらも手作りの温もりが感じられる品々だ。白樺のカッティングボード(3,990円〜)やクッキーモールド(315円〜)などのクッキングツール、白樺の皮のキャ二スター(3,990円〜)やティーポット、ウッドトレイ(14,700円〜)などのティータイム雑貨、スウェーデン・ダーラナ地方の伝統的な木馬(2,100円〜)、家具職人の手による柳のスパイラルバスケットといったリビング雑貨、などが揃う。また、少量だが50〜60年代の食器やケトルなど、直接現地のフリーマーケットで買い付けた一点モノのアンティーク品も用意。こちらは、サイトアップと同時に売れてしまうほどの人気だという。

「40代を見据えたときに、もっと情熱を持って打ち込める仕事がしたいと思って独立を決意。04年に13年間勤務した会社を退職し、“心の洗濯”も兼ねて101日間の北欧の旅をしながらショップの構想を練りました。店舗を借りて大きなリスクを負うよりは、ネット上で自分のセレクトがどれだけ受け入れられるのか試そうと、まずオンラインショップをスタート。そして今回、実物を見たいというお客様の要望に応えたり、反応を直接感じるためのショールーム的な目的でリアルショップをオープンしたんです」(おさださん)。

オンラインショップとしての同店の特徴は、単に商品説明のみにとどまらず、手仕事の品々が作られる工程や北欧での旅の様子を自らの写真と文章で紹介し、丁寧に北欧の魅力を伝えていること。これには純粋におさださんの北欧に対する想いもあるが、同時にモノの背景やストーリー性を感じることができることで、他のショップとの差別化が図られている。客層はオンラインでは30代の女性が大半を占めるが、リアルショップには代官山という土地を反映してか、20代やカップルの来客も目立つ。リアルショップのオープン以前は、「キャトルセゾン」や青山の「アイスタイラーズ」などで年2〜4回、旅の間に撮りためた写真と商品などの展示・販売をするイベントを開き、オンラインへの集客に繋げるなど、販促戦略にも励んだ。

おさださんは、買い付けから運営、販売に至るまで、全てひとりで手掛けている。特に、オンラインショップに関しては、それまで全くWEB制作の経験がなかったにも関わらずデザインから立ち上げに至るまでほぼ独学で行ったというから驚く。サイトのデザインコンセプトや写真での“見せ方”は、おさださんの世界観と感性を感じるハイクオリティな仕上がりだ。

「オンラインとリアル、どちらのショップもひとりで続けていくことを考えると、リアルショップの営業は週末のみというスタンスになりました。高い売り上げ目標をつくって忙殺されるのは本末転倒。スロウなスタンスで続けていければと思います」(おさださん)。

おさださんが個人でできる規模でショップを続けることを最優先にする姿勢は、生活を大切にする北欧文化を扱うというショップコンセプトにも共通した考えだといえる。そして、このようなきめ細やかでパーソナルな店舗が成立するようになったのは、ウェブ制作ソフトの向上、レンタルサーバーの低価格化、決済システムのレンタルサービス等の充実という、スモールビジネスに関するインフラが整備されるようになったことが大きいのは言うまでもない。

伝統や生活を大事にするスロウな姿勢と、進化し続けるウェブという最先端技術。一見、真逆に位置すると思われる両者の組み合わせから、同店のような魅力的なスモールビジネスが生まれる可能性はまだまだ高いといえるだろう。


[取材・文/伊藤洋志(フリーライター)+『WEBアクロス』編集室]

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