「STRANGE MESSENGER & CROSS SECTION : THE WORK OF PATTI SMITH」

「STRANGE MESSENGER & CROSS SECTION : THE WORK OF PATTI SMITH」

レポート
2003.07.29
カルチャー|CULTURE

「SOUTH TOWER」シリーズ。黄色い
テープは9月12日に街で拾い上げたもの。
追突した飛行機をイメージした紙飛行機。
テロリスト含め、犠牲となった人々の
名前が記されている。
部屋の片隅で、光りが良い具合に
なるのを待ち写すという写真作品。
初期の貴重な詩集など、
30年以上の形跡となる本の展示も。
少女のように、無邪気にはしゃいでいた
パティ。
「昔、自分になぜこんな才能があるのかわからなかった。でも、いつもやらなければならないという気持ちに駆られているの」。終始充実した笑顔で答えるのは、“ロックの女王”としてカリスマ的な支持を得る、パティ・スミス、その人である。その中性的な風貌と、ステージでのパワフル且つ、情熱的なパフォーマンスの印象が強いパティ。だが目の前の彼女は、やわらかくピースフルで、少女のように無邪気な笑顔を見せる女性だった。

先日4度目となる来日公演を行ったばかりのパティ・スミスによる回顧展「STRANGE MESSENGER & CROSS SECTION」が、渋谷・パルコミュージアムで開催されている。写真はその共同会見とレセプションの様子。これは昨年、アメリカのアンディ・ウォーホル・ミュージアムで行われた初の回顧展「STRANGE MESSENGER」に加え、「CROSS SECTION」と題した彼女の写真作品を展示するもの。写真作品の展示は世界初。ミュージシャンや詩人としてのイメージが先行し、30年以上に渡るアート制作における葛藤が、よりクリエイティブな次元へと彼女を導びいたということは、実はあまり知られていない。

同展覧会では、長年描き貯めたドローイングを中心に、写真作品を加えた計110点を展示。彼女の新たな側面を見ることができる。初期の人物画や自己啓示的なセルフポートレート、ロバート・メイプルソープから譲り受けたという大理石の十字架をモチーフにした連作、そして皮肉にも今回の展覧会のきっかけになったともいえる、9.11のテロ事件をテーマにした最新作など、「瞑想しながらまるで僧侶のようなアプローチで行っている」というドローイングは、宗教的で精神的、そして詩的でもある。

なかでも特に圧巻なのは、9.11を体感し、その直後から制作された「SOUTH TOWER」シリーズだ。世界貿易センタービル、南タワーの残骸を写した新聞記事がベースイメージとなっている。
「9.11 最期の時を謳う旅客機の音で目覚めた。魂の感覚で目覚めた。立ち昇る噴煙と、灰を昇っていく魂の煉獄。この通りの先に見える、空を埋め尽くして」という一節から始まる、アメリカ人アーティストとしての罪悪感を背景とした心情や祈りが生々しく綴られる、「TWIN DEATH」が添えられている。また作品では、コーランや古代ユダヤの文献から引用された言葉が南タワーのイメージを這い昇り、埋め尽くしている。手の動きだけに集中して何百回も書き込まれた、という言葉自体がエネルギーの根源となって形を形成し、まるで呪文のように見る者を惹き付けていた。

常にライブでも反戦、世界平和のメッセージを唱え続けている彼女は、「どの宗教も人々をひとつにするためにあるのです。戦争を生み出すために存在するのではありません」と述べている。また、多岐に渡る表現方法について、「政治的なメッセージ性の強いものはロックを用い、心理的で内静的なものを表現する時はアート的な手段、というふうにその時々に適した方法を選んでいます」と答えた。

自ら“わたしはただの捨て駒かもしれない”といいつつ、それでも尚、時代と共に歩み、情熱的にメッセージを訴え続けるパティ。そんな彼女の少女のように美しい手と、記者会見の途中で、自ら胸元に白い小さな花を差した姿が、忘れられない。

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