July Books/七月書房
レポート
2012.08.20
カルチャー|CULTURE

July Books/七月書房

コンセプトは、入りやすくて分かりやすくてきれいなこと
ガーリーな世界観が広がる女性店主の古書店

広さは28平米。店名は「July Books」「七月書房」どちらで呼んでもいいそうだ。「あえて意味のない名前にしたかったんです。私が冬生まれなので、夏への憧れということで、“七月”。爽やかですしね」(宮重さん)
少女マンガも充実。渡辺ペコ等最近の人気作家から、山岸涼子や萩尾望都、陸奥A子といった大御所、さらには水沢めぐみなど80年代のりぼんコミックスも。
“オリーブ少女”を生み出した元祖カルチャー系女子のカリスマ雑誌、マガジンハウス『Olive』1991年8月18日号も!「母から聞いていたけど、これが『Olive』なんですね!」と手に取るティーンズもいるとか。
宮重さんがわかりやすく解説した手書きのPOPも必見。
絵本は売れ筋のひとつ。インテリア感覚で買っていく女子も多いとか。
店内商品の2割を占めるのが、雑貨類。マスキングテープやカード類など、同店のセレクトする古本と相性が良さそうな文具や雑貨に加えて、イラストレーター等の作家ものも扱う。
東京・下北沢の一番街商店街のはずれにある、「July Books/七月書房(以下:七月書房)」は、女性店主 宮重倫子さん(32歳)が運営する古書店だ(11年11月オープン)7月には、書店について考えるオールナイトイベント「朝まで本屋さん!」を開催したことでも話題になった。

 コンセプトは、分かりやすくて入りやすい、綺麗な古書店。白い壁と木材の温かみを活かした店内は、本だけでなく雑貨や文房具、スヌーピーのフィギュアなどが並ぶ雑貨店のような空間。馴染みのない人にとっては入りにくいイメージもあるであろう従来の古書店の雰囲気は、まるでない。

 同店の特徴は、「本がそこまで好きじゃない人」までターゲットに入れているということである

「本には興味があるし好きだけど、どんな本を選んだらいいか分からない、何から読んだらいいか分からない、という人も多いんですね。そんな、読書に慣れていない若い世代のために、間口を広げることが必要だと思ったんです」と宮重さん。つまり、「読書好きの芽を育てる」古書店というわけだ。

 宮重さんは、学生時代からトータルで10年以上にわたる複数書店での勤務経験を活かし、今回の開業に至った。そのキャリアのスタートは、18歳の頃に始めた「アイブックス成城店」でのアルバイトだという。本だけでなく雑貨やCDの販売、店内での映画上映など従来の本屋の業態にとらわれない自由な演出を行っていたことに感銘を受けた。その後、BACHの幅允孝氏プロデュースによる「TSUTAYA TOKYO ROPPONGI(以下:TSUTAYA)」「SHIBUYA PUBLISHING & BOOKSELLERS(シブヤパブリッシングアンドブックセラーズ/以下:SPBS)」にそれぞれ数年ずつ勤務し、新刊書店で書棚づくりのノウハウを身につけた。TSUTAYAでは主に「トラベル」のジャンルを担当し、ひとつの国のガイド本や文芸書、写真集などをジャンル分けせず、ひと棚に集結させるいわゆる文脈棚で展開した。

「文庫の隣に写真集が来る、こういう本の並べ方をしてもいいんだと新たな発見で、この時の経験は今に繋がっていますね」(宮重さん)

 自分の店持つことを視野に入れるようになったのは、3年前、SBPSに勤務していた頃だという。

「若者の活字離れが叫ばれていますが、SPBSでもTSUTAYAでも、私は本ってまだ結構売れていると思っていたんです。私自身が黄金期を知らない世代だということを差し引いても、潜在的な本好きはまだ根強くいるんだな、と。特にSPBSでは新刊本をメインにしつつ、絶版本でどうしても手に入らない良書を古書で対応するということもしていたのですが、予想以上に若い世代が古書に反応してくれたんです。古書ってもうちょっと掘り下げてみたら面白いかも、と思いました」(宮重さん)
 
 とはいえ近い業界でありながらも、その実、まったく畑違いなのが新刊書店と古書店。かつ、古書の世界に新規参入するのはハードルが高いとも言われる。基本的に古書店を新規開業する際は、一度ほかの古書店で修業をするケースが多いが、同じ下北沢にある「赤いドリル」の那須太一さんのように、元出版社社員から転身し、独学で古書店を始める人も増えている。宮重さんも同様だ。なおかつ古書組合にも入っていない

「もともと会社勤めに固執はなく…、自由人気質と言いますか(笑)。自分が1人でできることは何だろうと考えた時に、本屋しかないな、と。それに、どこにも属さず古書店で修業をしなかったからこそ、怖いもの知らずでいきなり始められたのかもしれません」と話す。
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それぞれの棚は、ファッション、食、アート、文学、少女マンガという風に、テーマ毎にわかりやすく編集されている。
雑貨をミックスしたディスプレイも楽しい。
下北沢の一番街のはずれに位置する同店。入口は少し奥まっているが、逆に直射日光が入らなくて本屋向きだそう。駅から離れていたり、近くにコーヒー屋さんがあるなど、すべてが理想的だったという。
店主の宮重倫子さん。今後の課題は、もっと勉強して『分かりやすさ』の中に『深み』を持たせることだそう。
 開店時の在庫は、3年かけて買い集めた本と、一般のお客さんから買い取った本、計1500タイトルほど。ジャンルは国内外文学、絵本、コミック、デザインや建築、アート系。店内には買取リストが掲示されている。買取の基準は、「良書」で「美本」であること。ジャンルや作家、本の状態などの条件を厳しく絞る代わりに、買取価格は販売価格の2〜3割と高めに設定されている。これは売る側にとってもうれしい。

「欲しい本が手に入らないことが多いので、ある在庫でいかに棚を作るかを日々考えています。次の日には違うテーマの棚に移動させることもよくありますね。本以外にも、棚を読むことも楽しんでもらえれば」(宮重さん)

 古書で文脈棚を作ることは難しいとされるが、こうした自由自在な棚作りは個人店ならではだ。書棚は、面陳を多くし中身が見えるようにするなど、分かりやすさ、手に取りやすさを意識。「女子」「リビング」「マンガ」「旅行」など比較的身近なジャンルで、ひと棚ひとテーマで書棚を構成。その時々でテーマを変えながら展開している。
 
 物件は下北沢か三軒茶屋で検討し、土地勘のある下北沢に決定した。
「特に去年の震災以降、周囲から『移住』というキーワードが聞こえ出した際、改めて自分の生まれ育った場所から離れたくないと思ったんです。思い入れが深まったと言いますか」と話す通り、宮重さんは世田谷生まれ、子どもの頃から下北沢で遊んで育ったという。

 もともと下北沢には、前述した「赤いドリル」や、「古書ビビビ」、同じく女性店主の「ほん吉」など個性的な古書店が多く存在する。そこで、店内のそこかしこに“ガーリーカルチャー”を感じる「七月書房」の世界観をひと言で表すなら、まさにマガジンハウスから出版されていた雑誌『Olive』の世界観が広がる文化系女子の店といえるだろう。

「よく言われます。最近は、店主が女性だったり、ガーリーセレクトの古書店に対して『女子の古本屋』というカテゴリーが確立されつつあるようです。うちはガーリーを目指しているわけではなかったのですが、自然とそちら側に寄せられているようですね(笑)。でも、『Olive』は男性が女性誌を読むきっかけになったとも言われるカルチャー色の強い雑誌ですし、ガーリーとボーイッシュが入り交じった感じは狙い通り。若い女の子たちが、ファッションや雑貨と同じ感覚で、本も『可愛いもの』として捉えることもあるということを、お店を始めてから実感しました」(宮重さん)

 実際の客層は、20〜30代の女性を中心に、10代〜年配層までと幅広い。

「30代とはある種の“懐かしさ”や同時代性を共有する感じ。50代のお客様は海外文学をよく手に取られますし、さらにご年配の方からは海外の絵本が人気です。10代や20代前半の女の子が古い『Olive』を見て“可愛い!”と言ってくれるのも新鮮でした。年代ごとに反応するものも違って、本好きに世代は関係ないんですね」(宮重さん)

また、慣れ親しんだ下北沢について、「一時期ゴチャゴチャしすぎたように感じていましたが、最近はちゃんとしたバーやビストロなどの飲食店も増えて、大人が遊べる雰囲気に戻ってきていると思います」と、話す。かつてシャッター商店街のようだった一番商店街だが、近年、老舗パン屋をリニューアルし開店したパン屋兼カフェの「ミクスチャー」や、コーヒーショップ「ベアポンド エスプレッソ」など若い個人店が地域活性化に一役買っている。さらにこの夏、南口には新刊書店「B&B」もオープンした。大資本系チェーン店の増加が目立つ下北沢ではあるが、その影でこの街を盛り上げている、個人店の発展に期待したい
 

【取材・文: 皆川夕美(フリーライター) 

July Books/七月書房

●July Books/七月書房
〒155-0031世田谷区北沢2-39-14 ルックアップマンション1F
電話: 03-6407-0889
営業時間: 平日14:00-20:00ごろ、土日祝12:00-20:00ごろ
定休日: 月・火
blog: http://julybooks.jugem.jp/
店長日記: http://mbooks.jugem.jp/
mail: 7gatsubooks@gmail.com


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