Olive 1982-2003 雑誌『オリーブ』のクリエイティビティ
レポート
2012.06.28
カルチャー|CULTURE

Olive 1982-2003 雑誌『オリーブ』のクリエイティビティ

会場となった金沢21世紀美術館
展示会場には『オリーブ』のバックナンバー442号中の434冊を一堂に展示。その魅力について分析を試みている
本展のトータル・アート・ディレクションは、創刊時から「オリーブ」のアートディレクターを務めた新谷雅弘さんが担当。さながら当時の誌面を見るかのようなデザインだ
創刊は1982年。当初は『ポパイ』のガールズ版としてスタートし、ターゲットも女子大生だった
白人少女をモデルに起用。パリの女学生“リセエンヌ”をファッションイメージとして、東京山の手の私立大付属高校に通う女子生徒を中心に読者を獲得していった
当時の読者を対象にアンケートを実施。会場に展示されていた回答を丁寧に見て回る来場者が多かった
ティーンズ向けのファッション誌ながらライフスタイル誌としての側面も持っていた同誌。結婚特集にもオリーブ風の味つけが施されている
金沢21世紀美術館デザインギャラリーで開催された「雑誌『オリーブ』のクリエイティビティ」。休刊からすでに9年が経過したが、日本のカワイイカルチャーに国内外から関心が集まる現在、同誌が果たした役割や影響について分析を試みる展覧会だ。

音楽や映画、文学、アートなどのカルチャーの紹介に力を入れた『オリーブ』は、従来の女性向けファッション雑誌の枠に収まらない、カルチャー誌でもライフスタイル誌でもあるというポジションの雑誌だった。ひとつの雑誌として、同時代の少女の美意識にこれほどまでに大きな影響力を持った雑誌は他に類を見ないといっていいだろう。

展示会場には1982年の創刊から2003年6月の最終号までバックナンバー全442号中434冊を一堂に展示。来場者が再び手に取って誌面を見ることで、『オリーブ』から現在のカワイイ・カルチャーに至る流れについて考える機会を提供するというものだ。会場では、かつて80年代から90年代にかけて少女時代を過ごした、元オリーブ少女とおぼしき30〜40代の女性たちがページをめくる姿に混じって、誌面をめくりながら会話を交わす母娘の姿も見られた。

本展では20年強という同誌の歴史を年代別の詳細な年表で紹介するとともに、制作に関わった人たちと読者たちの声を展示し、当時『オリーブ』の周辺に漂っていた独特の空気感を伝えている。会場構成は至ってシンプルだが、オリーブという思い入れの強い読者を持つ雑誌の魅力を伝えるには、雑誌そのものを手に取って見せることが何よりも有効だといえそうだ。

「私はもともと竹久夢二を中心に、大正時代の女の子がどのように雑誌を読んでいたのかをテーマにしていました。自分の人生を振り返ってみた時に、女の子文化全体に大きな影響力を持っていた雑誌として浮かんだのがオリーブでした。かつての読者世代が30〜40代になり、今はファッションやデザイン、編集などの仕事に就いて、自分の感性を形にできるようになっている。それを一度立ち止まって振り返ってみたいと考えたのが企画のきっかけです」

と語るのは、金沢21世紀美術館学芸員で本展キュレーターの高橋律子さんだ。

会期中は遠山こずえさん岡戸絹枝さん淀川美代子さんら歴代編集長、スタイリストの大森よう子さん、創刊号から同誌のアートディレクターを務めていた新谷雅弘さんなどオリーブに携わった関係者を招いたトークイベントやワークショップを開催。ポスターやチラシなどの宣伝物、会場構成など展覧会のアート・ディレクションも新谷さんが担当している。

イベントには金沢などの近隣からだけでなく、東京や名古屋、関西など広範囲から参加者が集まった。今もオリーブへの思い入れが強い元読者たちが数多くいることを物語っている。

新谷雅弘さんの雑誌作りワークショップ風景。地元だけでなく東京や名古屋からも参加者が集まった
2012年3月24日に開催された関連プログラム、嶽本野ばらトーク「『ひまわり』から『オリーブ』まで」の実施風景
ファッションスナップ特集。男性目線ではないファッションを読者と編集者が共同作業で作り上げるというイメージがあった
「〜はどう?」「〜だったよ」といった語尾が当時新鮮だった“オリーブ文体”
1994〜1997年に連載された小沢健二さんの「DOOWUTHYALIKE」は人気コーナー
小沢健二、栗尾美恵子(初の日本人専属モデル)、しまおまほ、酒井順子などの名前が挙げられていた
右が2003年のラストイシュー。2000年に休刊後、月刊誌として再スタートした
『オリーブ』が画期的だったのは、“心地良いライフスタイルの提案とクリエイティブな視点”をティーンエイジャーの少女たちに向けて提案した点にあり、以降の少女向けファッション誌に大きな影響をもたらした。そうしたコンセプト以外に、本展では、『オリーブ』の独自性として以下の6点を挙げている。

1.ファッションはクリエイション
2.「チープ・シック」は工夫すること
3.クリエイティブな職業紹介
4.中高生に向けた刺激的な特集
5.「わたしらしさ」がキーワード
6.部活みたいなオリーブ編集部


夢のような世界が展開されていても、最終的には読者が自分自身で工夫する、というところに落とし込まれていたのがファッション雑誌として新鮮でした。自分を見つめて、工夫して、自分らしく表現する、ということを提案していた。そこが読者の中からクリエイションに係わる方を多く生み出した理由なのだろうと思います」(高橋さん)

白人の少女モデルを起用して、“リセエンヌ”というファンタジックな世界を誌面上に作り出していたのがビジュアル面での特徴だった。アイドルやタレントが誌面を飾ることもあったが、あくまでもオリーブモデルとフラットに扱われていた点が新鮮だった。80年代後半からは栗尾美恵子さんなどの日本人モデルが起用されるようになったが、このあたりの感覚は後の読者モデルにへと繋がっている。

カルチャー記事でも同様で、現役高校生エッセイスト・マーガレット酒井としてデビューした酒井順子さんなど、同誌は独自のクリエイターを発掘・起用し、それがさらに読者との親密感を作り出し、クリエイターへの憧れを醸成した。オリーブ文体と呼ばれる独特のコピーワークは、嶽本野ばらさんの文体などに現在も受け継がれている。

売れ筋の商品や情報を、編集者が一方的に広めるのではなく、読者と編集者が美意識を共有し、一緒になって作り出す仮想のコミュニティ感がオリーブにはあった。80〜90年代という時代は、お仕着せの流行では物足りないという差異化への欲求が強かったという側面もあるが、やはり少女たちの感性から生み出されたクリエイションを、世間での流行よりも尊いものとして扱う姿勢がマスのファッション雑誌を舞台として実現されていたことがオリーブの魅力であった。

それはつまり、『オリーブ』という雑誌そのものが、男性目線で作られていた旧い女性雑誌への批評ともなっていたのである。本展が単なる「雑誌の時代」のノスタルジーで終わっていないのは、同誌のこうした姿勢が今もカワイイ・カルチャーの中に形を変えて受け継がれているからなのだろう。

雑誌『オリーブ』のクリエイティビティ

Olive1982-2003 雑誌『オリーブ』のクリエイティビティ

期間:2012年2月25日(土)〜7月1日(日)
10:00〜18:00 (金・土曜日は20:00まで)
会場:金沢21世紀美術館 デザインギャラリー
休場日:月曜日
料金:入場無料
問い合わせ先:TEL 076-220-2800


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