WADLL(ワドル)@神保町
レポート
2011.11.21
ファッション|FASHION

WADLL(ワドル)@神保町

90sの古着カルチャーの原点を伝えたい。
〜自分の目と脚を使って、お店で“自分に合う一品”と出会ってほしい。

L.L.Beanに別注された、これは新品のトートバッグ。アメリカ買付けの古着に混じって、他ショップのストック品や、知人のブランドなども置かれている。
バッグやシューズなどの洋服以外のアイテムも充実している。右にかかっているパッカブルのバッグは主婦のお客様に人気、と中島さん。
買付けの傍ら集めた、ジャンクな品々をアレンジした中島さん自作のオーナメント。実は椅子など店内のさまざまなものが中島さんの手でつくられている。自作の習慣は父親譲りとのこと。
小物やアメリカントイなども、数は少ないが扱われている。店内のアイテムはメンズが主だが、一部レディスやキッズアイテムも扱われている。
店内のトルソーには、中島さんによるコーディネート提案が。フーデッドアイテムをインナーに活用したり、アウターのアイテムをインナーに使ったり、意外な組み合わせで着崩し感を出すのが中島流。
アメリカの納屋を思わせるフィッティングルーム。これももちろん中島さんの自作。試着を楽しんでもらいたいと語る中島さんの気持ちが表れているようだ。
この秋冬はアウトドアやミリタリー感のあるブーツを提案。床に敷かれた絨毯は、あえてクラシックなものを選んで、「何々風」ではない、とらえどころのない雰囲気を生んでいる。
レジ奥のグラフィティ風のペイントは、友人のアーティストによるもの。
アップルボックス(リンゴの木箱)に、工事現場用のライトを組み合わせた自作の照明。まわりに配した模造のツタは、実は電気のコードをカモフラージュしている。効果的なアイデアだ。
中島達矢さん。そのフランクな語り口に、来店客は思わず話し込んでしまう。アイテムの知識や着こなしのアドバイスはもちろん、中島さんの旅の経験談など、話題は実に幅広い。
世界にも類を見ない古書店街として、国内外にその名が知られる千代田区神保町。もっとも近年では、古書店以上にスポーツ用品やアウトドアウェアのショップが目立ち、それらの店を目指す若者層と古書店巡りの壮年層が混在する、独特な情景を生み出している。その中心部、白山通りと靖国通りの交差点から北東に2ブロックほど入った西神田エリアに、古い4階建てビルの1階部分をリノベーションした、古着を中心とした洋服店「WADLL(ワドル)」がある。オープンは2010年9月26日、先日ちょうど一周年を迎えたところという。

10坪ほどのこぢんまりとした店内は、ほぼオーナーである中島達矢さん自身によって、内装が手がけられている。海外で入手したリンゴの木箱を使い、そこに工事現場用ライトを組み合わせた手作りの照明。服のラックは水道管用のパイプを組んだもの。しめて30〜40万円程度とのことで、そのD.I.Y.感は、扱われている商品(古着)の雰囲気ともよく合っている。

販売されているのは、主として中島さんが3ヶ月ごとにアメリカで買い付けてくる古着や、現地で入手したRRL(ダブルアールエル)J.CREW(ジェイ・クルー)などアメリカンブランドの洋服など。この秋冬ならばネルシャツアウトドアウェアなどを中心として、そこにミリタリー系の古着などがミックスされている。原宿や下北沢の古着店が、種類やモデル、柄や素材などで整理して陳列しているのに対して、この「WADLL」ではそのスペースゆえもあるが、さまざまなアイテムがほどよく混在して展開されている。また、店内の中央部にはトルソーが2体置かれ、中島さんがおすすめするコーディネートが提案されている。アイテム単体売りが多い古着店には珍しいスタイルだが、さらに中島さんは積極的に来店客に声をかけ、着こなしのアドバイスなども行っていく。

「以前、古着ではない、新品の服を販売する店で働いていたことが大きいかもしれません。古着店によっては、そこまでお客様に踏み込まなくていいというところも多いでしょうけど、お客様はいま自分に何か足りないと感じているから、買い物にきているわけですよね。だったらこういう風に着たらカッコいいですよ、とお薦めしてもいいのかなと思って。古着店では基本的には古いか新しいかの話になりますが、うちはそこじゃないんです。古いからいい、じゃなくて、これを着たらどういう風にかっこよくなるかということが大事。ヴィンテージの古着も、お好きなお客様もいらっしゃるのである程度は置いていますが、基本的には愛着が持てて、普通に着られるものを提案するよう心がけています」(中島さん)

1977年に東京・月島に生まれた中島さんが、本格的にファッションに開眼したのは高校生の時。友人の姉に影響を受けて毎週原宿や代官山に行き、古着店からセレクトショップまで、あらゆる洋服店を見て回っていたという。そして「100万円貯めたらやめていい」という親との約束を果たし、高校卒業後勤めていたディスカウントストアを1年で退社して、念願のビームスにアルバイトとして勤め始める。

勤務地のビームス・トーキョーでは多くの洋服好きの先輩たちと出会い、洋服への情熱は一気に加速していった。セールススタッフとして2年半程度働いた後、知り合った原宿の古着店「BerBerJin(ベルベルジン)」のオーナーに誘われ、アメリカの古着ディーラーのもとで働く機会を得る。当初3ヶ月の滞在だったが、BerBerJinがアメリカに駐在員をおく話が持ち上がって、中島さんはそれに志願する。2年ほどのアメリカ駐在生活の後、1年間築地の市場でアルバイトし、自分の店を始めようと資金を貯めた。ところが、友人を訪ねてイタリアに遊びに行ったことから一転、ヨーロッパ中を旅することになる。この旅人としての生活は中島さんを魅了したようで、ヨーロッパから帰国後、築地でのアルバイトを経て、こんどは南米の国々を巡る旅に出ている。そして南米からの戻った後は、ユナイテッドアローズでアルバイトとして働き、またお金を貯めようと築地へ。旅に出ることも考えていたというが、こんどこそお店をやらないとまずい、と本格的に物件を探し、現在の場所に巡り会ったという。

「ゆっくりとやりたかったんです。じっくりお話ししながら接客するのが僕のスタイルかなと思って。原宿や渋谷でも良かったのですが、お客様の数をこなすようなお店ではなくて、人が集まってわいわいやれる場所をつくりたかった。神保町に土地勘があったわけではないです。ただ、『さかいや』さんなどのアウトドアショップの存在は知っていたので、商売を考えたとき、お金を使う人が来るエリアだとは思っていました」(中島さん)

古着には温もりと歴史があると その魅力を語る一方で、自分は「新品目線」で古着を見ていると中島さんは言う。

「先日、先輩格の古着店の人と、『安心して買える古着店をつくろうよ』と話していたんです。それはダメージなどが少ない、程度のいい、きれいめな洋服を扱う、ということなんですが」(中島さん)

そして、古着の魅力をもっと味わうためにも、ショップを楽しんでもらいたいと言葉を継ぐ。

「かつて僕らは『足で稼いで探してこい』とよく言われていました。アメリカでの買い付けも、文字通り足で稼いで、クルマで5〜8時間ドライブしてフリーマーケットをまわったりしています。だからお客様にも、ぜひうちだけじゃなくて、東京のお店を動き回って、宝探し感覚で買い物してもらいたいですね。古着って、それぞれにコンディションが違うから、ちょうどいいものを見つけた時って、すごいうれしいじゃないですか。そのためにも、まずは試着して、お店の人とお話ししてもらいたい。いまはネットで買ってもいいんでしょうけど、僕としてはそういうお店での出会いを大切にしていきたいと思っています」(中島さん)。


[取材/文:高橋洋一(ライター)]
WADLL
東京千代田区神保町2ー28
加瀬ビル1F
営業時間
13時〜21時
TEL 03-6312-9717
不定休(買付期間や年末年始は休業)


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