trefle(トレフル)
レポート
2010.02.19
ライフスタイル|LIFESTYLE

trefle(トレフル)

渋谷のはずれにたたずむ“当たり前”で特別な花屋

花屋らしからぬ立地だけに“発見”した
ときの喜びはひとしお。わざわざ行く
楽しみを与えてくれる店。
渋谷センター街のはずれ、代々木八幡方面へゆるやかに続く宇田川遊歩道の裏手に花屋「trefle(トレフル)」http://www.trefle-tokyo.jp/)はある。もともと車庫として使われていた約18平米のロフトつき倉庫を店舗に改装して2008年11月にオープンした花屋だ。店名はフランス語で白詰草(クローバー)を意味するという。

渋谷の喧騒を離れた宇田川遊歩道には、「Cafe Mame-Hico(カフェマメヒコ)」など人気飲食店も点在しているが、「trefle」があるのは遊歩道からさらに細い路地を入った場所。1階の路面店ではあるが、店の前を通る人はほとんどおらず、周辺の住人や近隣で働く人さえも「こんな場所に花屋があったの?」と驚くほど。立地を重要視する花屋ビジネスの常識からは考えられないかもしれないが、最初から立地は「裏通りなイメージ」で探したという。しかし、地図を読みながらでもわかりにくいこの場所が逆に、来店するだけで宝物を探しあてたような特別な気分を与えてくれる。

オーナーの木之下渉さん(37歳)は、九州生まれの東京育ち。子どもの頃からクリスマスや誕生日に空間の飾り付けなどのデコレーションをするのが好きで、花屋は「大人になったらなりたいもののひとつ」だったという。「飲食が好きで花と関わる機会が多いから」と、学生時代から20代後半までは、知る人ぞ知る吉祥寺の有名料理店や、地元に根付く下北沢の人気カフェなどの飲食店で働いていた。それらの経験が子どもの頃からイメージしていた理想の花屋を具現化するうえで大きな影響を与えたようだ。

「仲間は独立してレストランやカフェをはじめた人も多く、飲食店なら居心地がよくてさりげないサービスに感動できるお気に入りの店はたくさんありました。だけどなぜか本当に気に入った花屋はなかったんです。人にあげるための花を買いたくなる花屋って、意外と少ないのではないかと気づいて。もちろんいい花屋さんはたくさんありますが、そこには『自分だったらこうする』という余地があると思った」(木之下さん)

花屋として独立することを決意し、都内の花屋に転職。数年間経験を積んだ後、土地勘があり、近くに公園があるという条件の渋谷〜北参道周辺で店舗探しをはじめたところ1件目で現在の物件に出会い、オープンに至った。

内装では、花屋にありがちな過剰なかわいさを排除しているのが同店のこだわり。シンプルだがクールすぎないインテリアで、ノーブルな花の香りが漂う親密な空間を作り出した。

「内装でイメージしたのは、花そのものの造形美を際立たせること。朝、水揚げしたばかりの花は本当に美しく、生命力に溢れています。早くみなさんに見てもらいたい!と、オープン前に花を並べているときが一番楽しい」(木之下さん)

手前を店舗スペース、その奥は事務所兼作業場として使用。広いスペースとはいえないが、アレンジのみを手掛けるアトリエではなく「ちゃんと花がある、花屋としての空間が欲しかった」のだという。

オープンは12時。仕入れから水揚げ、販売、配達(渋谷区近辺/応相談)まですべてひとりで行い、配達中は店を閉める。店頭に並ぶ商品は、常時約15種類。季節の花を中心に、シェドゥーブル、スウィートオールドなどのバラや、あじさいなどを定番として用意し、店頭では1本から購入できる。そのテイストは、曰く「グリーン多めの“花らしい”感じ」。

オープン後は、スタイリストなどファッション関係者の口コミやブログを通して人気が広がり、リピーターも多い。桐島かれんさんが不定期にオープンする麻布十番のショップ「Haouse Of Lotus(ハウスオブロータス)」に誘われ同店で移動花屋を行ったことも、認知度を高めるきっかけになったそうだ。客層は20代〜30代の女性が中心だが、一般的な花屋に比べかわいらし過ぎないためか、男性客も多いという。アレンジは3,000円程度からで、個人向け、法人向け、楽屋花、オープン祝い、ウェディングなど用途はさまざま。注文は全国からあり、来店せずに、ホームページで作品を見ておまかせでオーダーされることも多いため、常に「人にあげたくなる花」であることを意識している。

「もともと自分が『大切な贈り物の花を任せられる花屋さんがない』と感じたことが独立の理由でもあるし、イメージはあってもアレンジの内容を具体的にオーダーするのは難しいはず。だからこそ、花が贈り物であることを大切にして、任せてもらえる存在になりたい」(木之下さん)

同店と一般的な花屋との一番の違いは、競りで安く大量の花を仕入れるのではなく、中卸しの業者からこまめに少量づつ仕入れを行うこと。だから、花が新鮮で長持ちするという。それが、贈る人、贈られる人の思いを一番に大切にする木之下さんにとっての「“当たり前”の花屋のあり方」だ。贈り先にホームページがあれば事前に店の雰囲気や花が置かれる環境を確認したり、オーダーに応じてわざわざイメージに合った花を仕入れるなど、きめ細やかに対応している。

さらに、「花が贈られた時にきれいなのは当たり前ですが、そのあとみっともない姿で枯れてしまわないように、そのままきれいに枯れていくような美しさも意識しています」(木之下さん)との言葉に、花の多様な美しさ引き出そうとする木之下さんの姿勢が表れている。

ちなみに木之下さんは、花屋以外の「子どもの頃からなりたかったもの」にもなっている。それはミュージシャン。土信田有宏さんとツイン・ギターデュオ「The Young Group(ザ・ヤンググループ)」として音楽レーベル「RONDADE(ロンダード)」より作品を発表し、ライブ活動も行っている。こうした彼の経歴は、インディペンデントでユニークなアイデアの花屋が生まれるきっかけになっているはずだ。将来的には、「trefle」とは異なるコンセプトの花屋や飲食店なども出店してみたいとも語る。

「花という有機物が都会の渋谷にあることが大事だと思うんです。“東京”と“今”はずっと考えているテーマ。花屋には今の東京という都市での快適さ、心地よさに敏感になることが必要だと思っています。花に対する姿勢を変えずに、その時々で何かを探している人のニーズをきちんと満たしていく。特別なことは何もしていませんが、何よりも心地いい空間を提供できる花屋でありたい」(木之下さん)

長引く不況で個人消費は低迷し、嗜好品である花の売上は不景気の影響を直に受けていると聞く。そんな状況のなかで花屋としての“これまでの普通”ではなく、特別な花との関わりを求める人にとっての“当たり前”を実践する店=ビジネスのあり方には、どんな環境にも順応して可憐な花をつける白詰草のような力強さを感じ取ることができる。不況に左右されない新しいビジネスの芽は、こんな“当たり前”のところに潜んでいるのかも知れない。



〔取材・文:佐久間成美/エコライター〕

trefle(トレフル)

〒150-0042
東京都渋谷区宇田川町 42-10 高橋ビル102
TEL/FAX■03-6416-1300
URL■http://www.trefle-tokyo.jp
MAIL■info@trefle-tokyo.jp

営業時間■12:00-20:00
定休日■第1第3日曜日
(通常営業はお休みですが、配達やウエディングのお花のご予約はご相談下さい)


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