東京ローカルレストラン
レポート
2008.10.20
フード|FOOD

東京ローカルレストラン

青森県弘前市の生で食べられる
「嶽きみ」を使ったアミューズ。
全ての料理はシェアで供され、初めて
顔を合わせる人とも自然と会話がはずむ。
貴重な「銀の鴨」を使ったコンフィー。
外苑前のフレンチグリルダイニング
「katsina(カチナ)」のシェフ
山崎龍司さん。
食事終了後には、今回の素材元である
青森県の流通観光課の方が登場し、地
元をアピールする姿も。
世界各地から様々な食材が集い、美味しいレストランがひしめく東京。しかし私たちは、目の前の料理を構成する食材が、どこで誰に作られているかを考えたことはあるだろうか——?食の安全性や環境問題がニュースとなり、食への意識が高まるなか、東京にユニークなレストランがオープンした。その名は「東京ローカルレストラン」。特定の店舗は持たず、営業日も月に1日だけというシステムで、料理は国内の旬の食材を使った、有名シェフによる「新郷土料理」である。

早速、第1回目にあたる、10月5日(日)の昼のコースに参加した。今回は外苑前のフレンチグリルダイニング「katsina(カチナ)」を舞台に、青森県の食材を使った料理が供された。

「日本各地には美味しい食材がたくさんあり、本当に美味しいものを食べるなら直接、産地に行くのがベスト。しかし、そう簡単にできることではありません。だからこそ、生産者と食べる人の橋渡しになるレストランを作ろうと考えました」とは、同プロジェクトの企画・運営・プロデュースを行う浅雄一さん(31)。

浅さんはまちづくりや空間のデザインを行う(株)ナノ・アソシエイツの代表取締役。視覚的なデザインだけでなく、社会のデザイン、環境のデザインを視野に入れた”ソーシャルデザイン”を行いながら、日本の地域と都心とをつなぐ活動を行っている人物だ。

「構想は1年くらい前から。日本各地で本当に美味しい食べ物に出会って、感動したことがきっかけです。まちづくりと食は関係が深く、日本の未来のためにも食は欠かせない要素。生きていくためにも、食の情報を選んでいくことが大切なんです。今の日本の食料自給率は39%と低いなか、地方では過疎化が進んでいて、農家の平均年齢は65歳に達しようとしています。彼らが定年を迎えると日本の食が持たなくなってしまう可能性もあるのが現状なんです」(浅さん)。

同プロジェクトのほかに、茨城や栃木など、地方の空き家・空き地再利用などを行うNPO法人にも携わり、日本各地を行き来している浅さん。その経験を生かし同プロジェクトでも、食材の時期やタイミングを図りながらテーマの地域を選び、自ら仕入れと取材に出向くそうで、現地の産品広報担当などから情報を集めたり、生産者と直接話しもするという。

「時期や数量が限られたもの、希少価値の高いものも多いので、食材を見つけてから開催日までの1ヶ月間、全ての食材の安定した仕入れに注力しました。特に食材の旬は短いため、開催日と旬のタイミングを合わせた仕入れが大変でした」(浅さん)。

今回のコースの最初に登場したのは、青森県弘前市のトウモロコシ「嶽きみ」の粒。生食ができる品種で、甘みが強いのが特徴。まずは、素材そのものを味わってから、「嶽きみ」とズワイガニを、グリューエルチーズのシュー生地に仕立てたアミューズが供された。このように全編を通して、まず素材を試食してから料理という順番で進行していった。

前菜は、甘い活ホタテのペルー風のセビーチェ(マリネ)。次に、身の締まったやわらかい食感が特徴の大変貴重な「銀の鴨」を使ったコンフィーやパエリア、特産のりんごをオーク木樽で発酵させたりんご酢「バルサミィアップル」を使ったデザートなど全6品と充実した内容。今回のシェフ、山崎龍司さんが「素材のしっかりとした味を引き出す料理を心がけた」と語るように、食材と作り手のアイディアが生きた魅力的なコースに仕上がっていた。

また、食事が出てくるタイミングで、浅さんらが取材をした生産者のコメントや作業風景が映像で流れ、作り手の想いや、温かい人柄を感じられるようになっていた。

同プロジェクトのディレクションは、フードプランナーの斉藤優さんと、クリエイティブディレクターで、以前弊サイトにも登場した内沼晋太郎さん(弊誌:インタビュー記事)が手がけるクリエイティブオフィス「EAT TOKYO」。「食を通じた地域活性を実現するためのクリエイティブが不足している」という意識から07年にできたこのチーム。内沼さんと浅さんが知り合いだったことから参加することになったそうだ。また、イベントの中心となるのはプロジェクトチーム「東京ローカル隊」で、現在は食の専門家など「EAT TOKYO」2名を含む総勢15名が参加している。

当日は第1回目ということもあり、知人や友人、協賛の日本フードアナリスト協会からの来客が多かったそうで、さまざまな分野の人が集い、交流ができる点も楽しみのひとつといえる。開催は第一日曜の昼と夜を予定しており、価格は昼夜ともに1万円前後。定員は店舗によって異なるが、今回は30名。ウェブサイトからの申込みとなる。

「この店は”いつかなくなるレストラン”。僕たちのメッセージが浸透して、日本の方達の意識に変わりはじめたら、つまり必要がなくなった時に閉店する予定です。その後は、地方で続けていきたいと考えています」 そう浅さんが語るように、このプロジェクトは、地域の空き家をレストランに活用する”ナーサリーオーベルジュ”というプロジェクトの一環。現在は4年間を目安に、全国47都道府県の食材を紹介する予定だという。

「食の意識があまり高くない人でも、気軽に来てもらえるようにしたいです」(浅さん)。

あらゆる分野で活躍する若い世代のクリエイターたちが、日本の地方とそれにつながる食に目を向け始め、そこから始まった同プロジェクト。皆が普段気づかない場所で少しずつ重ねられる彼らの試みが、私たちの意識を変える日も近いのかもしれない。

[取材・文/渡辺満樹子(フリーライター)+『ACROSS』編集部]
[写真/宮崎 純一+『ACROSS』編集部]


*次回は08年11月2日(日)に開催予定で、重県の「海の幸」と、山梨県の「山の幸」がテーマだそう。申し込みは全て「東京ローカルレストラン」のHPからのみ。
ストリートファッション マーケティング across
三宅藤九郎さん(-歳/女性狂言師)
■Interview_1
三宅藤九郎さん(女性狂言師)

今日は浅さんにお知らせを頂いて参加しましたが、特にとうもろこしの甘さ、バルサミィアップルとアイスクリームの意外な組み合わせが気に入りました! 日本の美味しいもの、ここでしか知る事がなかった貴重な食べ物を、現地に行かなくても体験できるというのが素晴らしいですね。言葉で聞くよりも、実際に食べて体験しないと分からないこともあるので、皆がいろんなことを考えるきっかけとして、東京でこれをやっていく意味は大きいと思います。人間が食や文化を自分の中にどうやって落とし込んでいくか(つなげていくか)、それを浅さんたちが街づくりを通してやっていこうとしている姿にとても共感しました。
■Interview_2 女性(37歳/会社員) 今回は定期購読している、日本フードアナリスト協会のメールマガジンで知り申し込みました。抽選で当たるとは思っていなかったので、参加することができて大変嬉しいです。一緒に行く予定だった友だちが来られなくなったので、急遽、母を誘って来ました。母も美味しかったと大変喜んでいます。 飲食関係の仕事に携わっているので日頃から様々なレストランに伺うことが多いのですが、今回のイベントのように地方の食材に注目したお店は大変珍しく、興味がありまして参加させて頂きました。東京にいては地方の美味しい食材を手に入れることは困難ですし、自分から赴くのもなかなかできませんよね。なので、こういった機会に巡り会えて良かったです。すべてのお料理も大変美味しかったです。


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