「NADiff a/p/a/r/t(ナディフ・アパート)」
レポート
2008.10.18
カルチャー|CULTURE

「NADiff a/p/a/r/t(ナディフ・アパート)」

新しい商業施設のかたち「アート・コンプレックスビル」の誕生

 地上4階・地下1階の建物すべてがアート関連の施設で構成される複合ビル「NADiff a/p/a/r/t(ナディフ・アパート)」が2008年7月7日、恵比寿にオープンした。2007年にクローズした表参道の「NADiff(ナディフ)」を引き継いだアートショップ&ギャラリーに加えて、ビル内に複数のギャラリーと飲食店舗が入居した<アート・コンプレックス・ビル>としてリスタートした。

 地下1階と1階は「NADiff」を継承するアートショップ+ギャラリー。現代美術や写真などの作品集や展覧会図録、書籍、CD/DVD、アートグッズ、エディション/マルチプルを取り扱う。地下1階のギャラリーでは年間で約10本の展覧会を行うほか、店内でもアート作品の展示と販売。ニュー・アート・ディフュージョンが全国展開する全7店舗を代表する中核店舗となる。

 ロケーションは恵比寿駅東口から徒歩で約5分。周囲にはオフィスと古くからの住宅が混在するエリアにある。外壁は窓を大きく取って自然光を多く取り入れ、内装も白が基調の明るい印象の建物だ。

 「移転後も客層には大きな変化はないのですが、表参道よりもビジネスマン層が多いですね。売場のスペースは小さくなったので、見せ方については試行錯誤しています。CDやDVDソフトのタイトル数は減りましたが、最近では若い写真家の作品集を中心に、写真集の動きがよくなってきました。『a/p/a/r/t』というネーミングには、アパートメントという意味と、フランス語の<apart=別々の/離れて>という意味から、裏通りにちょっと離れて建っている、という意味が込められています。スラッシュが入っているのは、ひと部屋づつが独立しているというニュアンスを表すものです。各ギャラリーはそれぞれ独自の企画で運営をしていますが、合同での企画も年に数回は開催していきたいと考えています」と店長の城川春湖さんは話してくれた。

 1997年のオープン以来、「NADiff」はアートのライトユーザー層を中心として、独自のマーケットを開拓してきた。表参道というロケーションもさることながら、ショップというオープンさと同時に、店内にギャラリースペースを持つことでリアルな作品と出会うことができる、というユニークな拠点だった。同じような性格を持つ施設に青山の「ワタリウム」があるが、「NADiff」はよりギャラリーとしての敷居が低く、また軽めのアートグッズやCDを品揃えすることで、よりライトなアートファンに訴えるものがあった。

 そんな「NADiff a/p/a/r/t」が、今年、表参道の「NADiff」が持っていた機能をもう一段階広げたアート・コンプレックス・ビルとなったのである。上層階にはテナントとしてギャラリーとカフェ/バーが入居し、個別に運営されている。2階には「Art Jam Contemporary(アートジャムコンテンポラリー)」「magical, ARTROOM(マジカル・アートルーム)」、3Fに「G/P gallery(ジーピーギャラリー)」4Fが喫茶&スナック「MAGIC ROOM??(マジックルーム)」。それぞれの特徴を簡単に紹介しよう。

 2Fの「Art Jam Contemporary (アートジャムコンテンポラリー)」は、(株)アミューズが新たにオープンしたコンテンポラリーアートのコマーシャルギャラリー。「アート」「ビジネス」「メディア」の3つをコントロールして、各メディアを巻き込んだ横断的な活動を展開する。新しいアート・プロダクション/マネージメントのモデルを作り上げ、世界に通用するアーティストを発掘・育成・マネージメントすることを目標としたアートコンペ「アートジャム」と連動した企画展も行っていくという。
 
 同じく2Fの「G/P gallery(ジー・ピー・ギャラリー)」は、G/P(Graphic / Photographyの意)が新たに開設したコンテンポラリー・フォトとグラフィックアートのギャラリー。新人写真家の発掘・育成、を第一の使命として、ディレクター後藤繁雄(編集者)のもと写真展、ポートフォリオレビュー、アワードなどの企画や海外アートフェアへの出展など複合的な活動を展開していくという。上田義彦中島秀樹といったコマーシャルな分野で活躍する作家が名前を連ねている。
 
3F「magical, ARTROOM(マジカル、アートルーム)」は、日本・アジアの若手作家を引き出し、日本のアート環境を育て、動きを誘発・支援するシステム作りを目指す新しいタイプの“アートルーム”。こちらもギャラリーとしての作品展示にとどまらず出版、イベント企画、展示企画、国内外のアートフェアへの出展などの複合的な活動を行っている。

4Fには清澄白河のギャラリー「MAGIC ROOM??(マジック・ルーム)」が移転、新たに飲食店としてオープン。昼はカフェ、夜はバーとして運営されている。3Fの「magical, ARTROOM(マジカル、アートルーム)」と同オーナーで、現代美術コレクターの岡田聡さん。運営は、トーキョーワンダーサイト内のアートカフェ「kurage(クラゲ)」(渋谷区神南1)などの飲食事業を展開する「Jellyfish.(ジェリーフィッシュドット)」(広島県)が受託する。

 黒を基調にした店内には、壁一面にウォールペインティングが施される。大野智史と鈴木シゲルという2人のアーティストが内外装やショップロゴなどを手がけている。 屋上テラスに設置された園芸作品はデザインユニット「生意気」によるものだ。
パーティーやアートイベント、音楽ライブなども行われ、トランスカルチュラルなアーティストの交流の場を目指している。

 いずれのギャラリーも、次世代のアーティストを発掘し、伝えて行くための活動に取り組んでいるという点では共通した志を持っている。作家の発掘とマネジメント、展覧会といったギャラリー単体の運営にとどまらず、より広いレンジでアートマーケット全体を視野に入れた活動に取り組むギャラリーが集まったことになる。

 「NADiff」は東京都現代美術館などの美術館や、横浜トリエンナーレといった大型アートイベントでミュージアムショップを運営し、普通の人が日常に近いところで楽しむためのビジネスを展開してきた。テナントとなるギャラリーをパートナーに、彼らが恵比寿という立地からどんなアートを発信してゆくのか、今後の動きに注目していきたい。


[取材/文:本橋康治(フリーライター)]

NADiff a/p/a/r/t(ナディフ・アパート)

〒150-0013
東京都渋谷区恵比寿1丁目18-4
Tel:03-3446-4977 Fax : 03-3446-4978
営業時間 12:00-20:00/無休


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