Across the Book Review Vol.11
2008.07.25
その他|OTHERS

Across the Book Review Vol.11

『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか—アウトサイダーの時代』 (ちくま新書)

芽生え始めた新たな価値観

 ベストセラー『若者はなぜ3年で辞めるのか?』の続編である。辞めた後の若者が、どんな生き方を選んでいるかを追っている、と思ったのだが、少々予想と違った。

 「3年で辞めた若者」とは象徴であって、著者のいうところの「昭和的価値観」に従わずに生きている若者、である。だから最初から就職していないフリーター、企業に勤め続けている正社員、海外からの留学生、ともはや国内にとどまらず、さまざまなモデルケースが登場している。よくよく表紙を見ると、「昭和的価値観に従わず生きる人たちの仕事や人生観を紹介することで、若者が平成的価値観をはぐくむ手助けとしたい」とあるのだけれど。いくらなんでも看板に無理が・・・・・・と思わなくもないが、これこそ前作同様タイトルの勝利といえよう。このネーミングも平成的価値観? 煽ってナンボのカーニヴァル化?と、昭和人はちょっと思ったりもする。

 さて内容の方は、昭和的価値観、つまり「若者は、ただ上に従うこと」「学歴に頼ること」「公私混同しないこと」などといった価値観を20項目上げ、それに反した働き方を、具体的に紹介している。

 たとえば、「公私混同しないこと」の項に登場するのが、『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』などの著者、山田真哉氏。予備校職員を「わくわく感の無さ」から二ヶ月で辞め、公認会計士を目指して一年後に合格、大手会計事務所に勤めながら会計に関する本を書き、三年後に独立、という道を歩んでいる。

 「学歴に頼ること」に登場する、地方の公立大出身者は、一部上場企業のグループ会社、中堅販社、大手メーカーの系列会社を経て、ヘッドハンティングで米国メーカー日本法人の人事マネージャーに収まった。最初の転職で、将来スペシャリストになることを目指して人事職につき経験を重ね、学歴に関係なくその後順調にキャリアアップしている。

 これらのように、件の昭和的価値観を覆して成功した好例を紹介している。そしてどのケースでも、また別の、「自分の将来を見据える」「会社に安住しない」「変化に潔い」などといった新しい価値観で行動している。それを実践するのが「3年で辞めた若者」なのである。もしくは、そうあってほしいということだろう。他にも、フリーター文芸雑誌、公務員からの転職支援、ニート支援組織が立ち上げた派遣会社、など興味深い仕事をしている人も多いのだが、いかんせん要約されすぎて、当人たちの詳細な活動がいまひとつ鮮明でない。著者の命題、「反・昭和的価値観」が強すぎて、取材対象が結論を導くための素材にみえてしまうのが、残念な印象である。

 しかし、本書で城氏が最も訴えたかったのは、個々のケース、あるいは個人の価値観の変化への期待ではなく、もっと大局的な、社会の構造の変化なのだ、ということが終盤に近づくにつれ立ち上がってくる。企業の年功序列制度への批判はもちろん、社員の給与という既得権は絶対確保し、既存社員雇用維持のため派遣やパートを黙認し、改革を反対する労働組合や左派勢力にも容赦ない。「労働者の味方=左翼」という構造の崩壊が、たいへんわかりやすい。新聞社や大手出版社も俎上に上げ、

 おぼえておくといい。「改革反対!」「規制緩和阻止!」という論説を書いている人間は、四〇代にして二〇〇〇万円ものサラリーを、規制によって保証された特権階級であるということを。

 と、怒りをあらわにしている。「本来時給三〇〇〇円の人間を一〇〇〇円でこき使うのは悪だが、時給一〇〇〇円分の仕事しかしない人間が三〇〇〇円もらう事もやはり悪なのだ」とも。確かに、これは既得権を手放さない労組も大手メディアも口にしにくい事実である。

こういった主張が出てくるのも、既存の媒体を通さずとも、また特定の学閥や論壇に根ざさずとも、ウェブやインディペンデントのメディアなど発表の機会がいくらでもあるからであろう。そういう意味で、平成的価値観は確実に、また自然と浸透していくだろうし、アウトサイダーも生きやすい世の中なのではないかと思う。


[神谷巻尾(フリーエディター)]

「思い出した本」と「読みたくなった本」




●読みたくなった本
『さおだけ屋はなぜ潰れないのか? 身近な疑問からはじめる会計学』山田真哉 (光文社新書)
『仕事のなかの曖昧な不安—揺れる若年の現在 』玄田有史 (中公文庫)
『若者を見殺しにする国』赤木智弘(双風舎)
『はたらきたい。』ほぼ日刊イトイ新聞(東京糸井重里事務所)

●思い出した本
『若者はなぜ3年で辞めるのか? 年功序列が奪う日本の未来』 城繁幸(光文社新書)
『魂の労働—ネオリベラリズムの権力論 』渋谷望(青土社)
『女子大生会計士の事件簿』山田真哉 (角川文庫)


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