「オトキノコ」期間限定ショップ
レポート
2008.07.23
カルチャー|CULTURE

「オトキノコ」期間限定ショップ

「音には匂いも味もある!!」“音”に出会える“音の専門店”期間限定オープン

これがポータブル・ハンドフォンプレーヤー
「dayon(ダヨン)」(3万9,900円)。
「モネラ」や「オトルーペ」などの周辺機器
もある。ちなみにデザインは以前から親交が
あるというデザイナーの祖父江慎さんに
よるもの。
ケータイ用の音は各150円。
藤原さんが世の中に“散らばっている”音
を採集し販売している。
画像とともに“音”を視聴できる
「ケンサクくん」。不思議な音の世界に
おとなも思わず聞き入ってしまう。
耳型のポータブルバイノーラルマイク、
「耳マイク」(25万8,000円)。
現在予約受付中。
“音”のほかにも、藤原さんが世界各地で
見つけた鳴種や飛行種も販売している。
こちらも必見!
オリジナルの“前掛け”と帽子を装着した
藤原和通さん。
アーティスト・藤原和通さんがプロデュースする“音の専門店”「オトキノコ」表参道ヒルズ本館B3Fのイベントスペース「PE43」に7月31日までの期間限定でオープンしている。「オトキノコ」のショップは2003年にも期間限定で京都二年坂にオープンしているが、東京には初登場となる。

このショップで扱う商品は、なんと「音」そのもの。
「“音”には触ったり味わったり匂ったりするおもしろさがあるんです。おやつを買うように、『あっ、おいしい〜!』くらいの気持ちで、“音”を買って味わってもらえればと思っています」と藤原さんは話す。もともと、東京でもリアル店舗をやりたいと思っていたところ、知人からの紹介で今回のショップの実現となった。

「もともと“音”は、“音楽”のように誰かが作った作品ではなく、いろんなところに散らばっていて“出会う”もの。だからこそ、出会いかたが大切。ネット上で、音楽をダウンロードするのとはちがった買いかた(出会いかた)が必要です。長い間、音をモノのように売ったり、買ったりしたいと思っていたので、今回のお店での直接販売は新鮮な手ごたえを感じましたし、初めて売れたときはうれしくてみんなで拍手してしまいました(笑)」(藤原さん)。

同店では、店内に設置された「ケンサクくん」というオリジナル検索装置で、動物のおなら、魚が餌を食べる音、昆虫の交尾の音、街頭のざわめきや草原を通る風の音といったさまざまな音を視聴し、気に入れば映像付き(音のみバージョンもあり)のCD を購入することができる。また、これらの音はケータイ電話用に“ひとオト150円”で購入することができる。仕組みは、注文のオトが入ったSDカードを受け取り、手持ちのケータイ本体に入れるというもの。

また同店では、藤原さんが開発し07年8月に発売した音のコミュニケーター「dayon(ダヨン)」(3万9,900円)の体験コーナーが設置され、実際に触れて、購入することもできる。この「dayon(ダヨン)」は、音を振動に変換して伝えてくれるポータブル・ハンドフォンプレーヤー。「dayon(ダヨン)」を使って接続したハンドフォンから伝わってくる音に“触わる”ことができるし、例えばポータブルオーディオやPCに接続すれば触感を感じながら格段にリアルな音を楽しむことも可能。

同店を出店した藤原さんは、92年スタートの子ども番組『ウゴウゴ・ルーガ』(フジテレビ系)の「おとのはくぶつかん」を担当したことで、広く知られるようになった人物。これは現在「オトキノコ」でも展示販売しているような、ふだん聞き過ごしている意外な音を聞かせてくれるコーナーだった。また、藤原さんはコーネリアス『FANTASMA(ファンタズマ)』(1997年)に収録の楽曲で使用されたバイノーラルマイク(立体録音マイク)の開発者としても知られている。この“バイノーラル録音”は、ふだん耳で聴いているような、全方位的な音を録音することができるという録音技術。「オトキノコ」で売られている音は、このバイノーラルなどの技術を駆使して録音されたもので、聴いているうちに立体的な空間の中にいるかのような感覚になるのが特徴だ。同店ではこのバイノーラルマイクのポータブル版である「耳マイク」(25万8,000円)も扱っており、その名のとおり“耳型”をしたマイクに藤原さんの遊び心を感じる。また、藤原さんが40年の間に世界中で集めてきた音は、まだまだ膨大な未公開のストックがあるそうだ。

実は、藤原さんは1960年代から一貫して「音」を表現手段としてきたアーティストである。「FLUXUS(フルクサス)」など、世界中のパフォーマンスやイベントに参加してきた。

「ヨーロッパには約14年いましたが、ほとんどは、イタリア北部のアルプスの山の上で過ごしたんです。というのも、僕は小さい頃からどういうわけかキノコが好きで、若い頃には日本菌学界の会員にもなっていたくらい。ヨーロッパは日本と違ってキノコのシーズンが長くて、種類も量も豊富。半年くらい楽しもうと思っていたのがそのまま住みついてしまったんです。

イタリアには僕の作品を買ってくれるコレクターがいたりして、きのこ三昧の傍ら、音の出るオモチャみたいなものもいっぱい作っていました。こすったり、指で押したりすると音が出るようなものもたくさん作りましたし、そう考えると今やっていることとあまり変わっていないですね」(藤原さん)。

藤原さんはパリ市内でのイベントのためフランス政府から招待を受け渡欧した際、イタリアの建築雑誌『DOMUS(ドムス)』などに大きく取り上げられたこともある。イタリアではローマ、ミラノなどでの活動に加えてヴェニス・ビエンナーレなどにも参加している。当時のイタリアは面白いテレビやラジオ番組も多く、とても楽しい時代だったと藤原さんは語る。

「レンツォ・アルボレ(歌手、演奏家、司会者などのマルチタレント)やマリオ・マレンコ(1933年〜 建築家。アルフレックス“マレンコ・ソファ”が有名)、ボン・コンパーニ(テレビプロデューサー)などがおもしろいテレビやラジオの番組をやっていたりして…。僕はデザイナーのブルーノ・ムナーリともすごく親しかったんですが、彼も音に興味を持って、いろいろやってみようとしたけれどうまくいかなかったようです。どうも西洋音楽の文脈を経由して理解させないといけないところが出てきて、リズムとか音量などの回り道が多く、かえって分かりにくくなってしまうんですね。その点、日本は文化的に音を発信する絶好の土壌があるといっていいでしょうね」(藤原さん)。

日本には89年に帰国し、アップル社との共同プロジェクトをスタート。リアルな音と映像の通信システムを開発し、91年には幕張メッセで行われた「マックワールド」で発表した。その際に現在「オトキノコ」でも発売している「ダヨン」のプロトタイプを出展したのだそうだ。さらにKDD(当時)やNTTインターコミュニケーション・センター(ICC)との企画など、 音と映像を電話回線で結びつけるような大がかりな展示を制作している。

これと並行して92年に『ウゴウゴ・ルーガ』の放送がスタートしている。藤原さんが大規模な展示装置やテレビなど、多様なメディアを舞台に音を操るアーティストとして活動してきたベースには、タレントやアーティストが型破りの番組をつくるような明るくて笑いたっぷりのイタリアのテレビ文化の自由さ/楽しさがどこかで影響しているのかもしれない。
そして、藤原さんの活動はよりオープンな環境を求めて“音を売るお店”へと発展していったというわけだ。

「イベントでの展示も面白いけれど、閉ざされた空間での活動は、僕のやりたいこととは違うな、と感じました。美術館や博物館、展示ブースのような場所ではなく、街の中で、音と出会ったり、買ったりできる“音のお店”を作りたいと思うようになったんです。『すいません、シロサイのおならと雲の音とメキシコの雨の音をください』と、お客さんが気軽に入ってこられるような…そんなお店が作りたかったんです」(藤原さん)。

現在は、渋谷や原宿といった街中で“音の店”をやるために準備中。ケータイ電話のようなふつうの道具でも手軽に楽しめる音を売るには、静かで余計なものがないホワイトキューブの美術館ではなく、雑多な音や匂いに溢れた街の中のような環境の方が面白い、と藤原さんは考えている。

「今は東京もどんどん整備されて“音はアップアップして”いまにも死にそうですですよね。アジアや中南米が好きでよく行くんですが、東京と違って、まだまだ様々な音で溢れている。手入れしないで放ったらかしにしてると、音は自然に生えてくるんですね。これは音の鉄則ななんですかね。でも、これから、音のメディアはどんどん面白くなってくると信じています」(藤原さん)。

情報のインフラが整い、音を聞くツールとしての機能を持つケータイを誰もが当たり前のようにもつ現在だからこそ、聞き流しているさまざまな音を触ったり、匂ったり、味わったりできる藤原さんの音をめぐる商品は楽しめるし、価値がある。高価なデバイスを購入しなくても楽しめる“聴く娯楽”は、今はじまったばかり。これから大きく展開していく可能性があるのは確かだ。
藤原さんには未公開の膨大な素材やアイデアがまだまだたくさんあるとのこと。まずは“音に触れてみる”ところから体験してみていただきたい。


[取材・文/本橋 康治(フリーライター)+『ACROSS』編集部]


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